舞台は現在なので、お間違えなく。
「……なんて事もありましたね〜」
「昔話はやめてくれ…。
あの頃の俺は真面目一筋のいい子ちゃんだったんだよ」
真夜中の司令室。
消灯時刻を過ぎた舞鶴鎮守府にて唯一起きている二人の提督と神通は思い出話に華を咲かせていた。
二人の座る机の上には既に処理された書類の山。
二人仲良く残業をしたその対価がただの思い出話とは、全く割に合わないものだ。
「今だからこそお話しますが、あなたに初めてお会いした時は頼りにならなさそうな方だと思ってたんですよ」
「ハハハ!!だろうな!!
今の俺は少しは頼りがいのある男になれたかな?」
えぇ、もちろん。
あなたに恋をしてしまった位ですから。
私はチラリと彼の横顔を覗く。
整った顔立ちにキレイな瞳。以前の火傷の跡はすっかり完治しており、彼らしい優しそうな外見に戻っている。
この人の身体の中には今も私の血液がちょっとだけ流れているのが、少し変な感じだ。
「そういえば、提督は何故わざわざ私の血液を指名したのですか?
別に誰のものでもよかったのでしょう?」
「あぁ、それか…。
あの頃も今も、俺にとってはお前が初期艦だからな」
彼は少し照れ臭そうに笑い、目を閉じると顔を隠すように横を向いてしまった。
「もちろん…大淀達に恩を感じてない訳じゃないさ。
でもあの日、俺に闘いの事を教えてくれて、文字通り一から俺に付き合ってくれたお前は他の艦娘達よりも………その、少しだけ、特別な位置にいるからな。
命を預ける、って訳じゃないけど、どうしてもお前じゃないと嫌だったんだよ」
提督の言葉に顔が熱くなっていってるのが自分でも分かる。
あの日、偶然にも提督がお一人で努力してる姿を見かけて、それからなんだか放っておけなくて定期的にお付き合いをしていただけなんですが、ここまで大切に思って頂けるとは考えもしませんでした。
やはり、善行とは普段から積み重ねておくべきですね。
「ワ、私なんてそんな…。
なんだか恥ずかしいですよ…」
「お前が言わせたんだろうが。
それと…神通。コレをお前にやる」
提督は机の中から一つの小包みを取り出すと、私の目の前にソレを置いた。
手のひらに乗るような小さな箱。中には一つの指輪が入っていた。
「これって…」
「戦力増強用の指輪だ。
つけた艦娘はより練度を高められる。
………巷じゃ、『ケッコンカッコカリ』…なんて呼ばれてるらしい」
銀色に輝く指輪。
うっかり落としてしまわないよう、慎重に持ち上げてみると指輪の内側には『神通』と名前が彫られてあり、思わず口元がニヤけてしまった…。
「あ、ありがとうございます…。
で、でもこれって、練度が99にならないと装備しても効果がないのですよね?
ワ、私は、まだ99には至っておりません」(練度94)
「知ってるさ。だから本当はお前が練度99になった時に渡すつもりだったんだけどな…。
今、お前に渡したくなった」
そ、それって…私に、なんの効果もないただの指輪をつけて欲しいと言ってるんですよね…?
そそ、そ、それってつまり…プ、プロポ…
「ゆくゆくは艦娘全員に配りたいと思ってるよ。
流石にまだ全員分は揃えられないけれど、とりあえず佐世保鎮守府組の分は揃えてあるからな」
「・・・」
提督が引き出しを開けると、中には更に二つの指輪ケースがあった。
それぞれ箱の頭に『赤城』『夕立』と刺繍されている。
「次に渡すとなると赤城だろうな」(練度91)
「・・・」
………まぁ、そうですよね。
私だけにこの指輪を渡したいとか、この提督に限ってそんな甘い展開ある訳ないですものね。
「……えっと、早速つけてみてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいぞ」
私は提督から受け取った指輪を左手の薬指へと付けました。せめてこの位のいい想いはさせてください…。
「付けてみた感じ、どうだ?」
「あまり…何か変わった感じはありませんね」
「あぁー、やっぱり練度が最高にならないとダメなのか」
提督は少し残念そうに笑う。
笑いたいのはこっちですよ…。せっかく提督が私に特別な想いでプレゼントしてくれたのかと思ったのに…実際はただの戦力増強の為だなんて…。
あぁ、一瞬でもぬか喜びしてしまった自分を殴りたい。
「そんでもって…、も一つお前にプレゼント」
「え?」
提督は椅子から立ち上がると、戸棚の奥の方から小さなネックレスを持ってきた。
「……キレイ」
提督の持ってきたそのネックレスには淡い紫色をした花が埋め込まれており、部屋の灯りに照らされて幻想的に輝いていた。
「これも受け取ってくれますか?お嬢さん」
提督は少し恥ずかしいらしく、恥ずかしさを誤魔化すようにわざとらしく歯の浮くようなセリフを並べた。
「はい、ありがとうございます♪」
いただいたネックレスを早速首にかけてみた。
自分では似合っているのかは分からないけれど、とにかくこのネックレスは気に入った。
埋め込まれたこの花はなんと言うのだろう?
「どうでしょう…?似合い、ますか?」
「あぁ、似合ってる。
やっぱり神通には大人しいアイテムが一番似合うな」
こ、この人は…!!
どうしてそう顔が熱くなるような事ばっかり言うんですか!!
「そ、そういえば!この花はなんというんですか?」
「リナリアっていう花だよ。春に咲く事が多いらしい」
ま、まさか提督から二つも贈り物を頂けるなんて思いもしなかった。練度が最高に高いというだけでこんなにも得をするとは…。
「このネックレスには、どんな効果があるのですか?
私の知る限りではこんな装備は無かったと思いますけど」
「そりゃそうだ。
それはなんの効果もないからな」
え?ではこれは一体何のために?
「指輪は提督としての俺からのプレゼント。
ネックレスは俺個人からのプレゼントだ。
ちなみに、これはお前にしかしないつもりだよ。
感謝の気持ち…っていうか、特別扱いの表明…かな」
……………え?
で、ではこれは提督からのごく個人的な贈り物…?
「へへ、俺もセンスあるプレゼント選べるだろ?」
「イ!一生大切にします!!」
「お、おう?
喜んでもらえて良かった」
私にだけ!!私にだけの贈り物だなんて…!!
感無量です!!生きてて良かったです!!
「…っと、もうこんな時間か。
今日はここまでだ。また明日からもよろしくな。神通」
「はい!
提督もお疲れ様でした!」
私は提督に頂いた指輪とネックレスを大切に、大切に、大ッ切にしながら自分の部屋にソッと飾っておくのだった。
〜〜〜
司令室に一人残された提督。
司令室の奥にある自分の部屋に入ると、ふと部屋の隅に置かれた花図鑑を手に取る。
読み尽くされた後のあるくたびれた本だったが、その中でも開き癖のついたページを開くと、そこには神通に贈ったネックレスに埋め込まれたリナリアの特集が組まれていた。
神通の練度が最高に達した時に渡すつもりの贈り物だったのだが、今日は過去話に華を咲かせるうちに段々と気持ちが高まっていき、ついお披露目してしまった。
だがまぁ、それでも別に構わない。
彼女が本当に最高練度に達したときには、また別の何かを贈るとしよう。
ただ、それよりも…だ。
「神通は、気づいてくれるかな…」
あのネックレスに込めた想いを。
開いた本の一ページに描かれた一文には『花言葉』。
提督は少しだけの不安を胸に、小さく息を吐いた。
提督の贈った花はリナリア。
その意味は…調べてみて下さい。