〜佐世保鎮守府〜
金曜の夜にだけ開かれる大人達の憩いの場。
居酒屋 鳳翔。
その店主である鳳翔は今日も今日とて、普段の疲労や鬱憤のはけ口にと訪れた大勢の艦娘達や、店常連の飲兵衛達が残していった残骸の後片付けをしていた。
(あらあら明石さんったら、また忘れ物していってる。
明日届けてあげましょうか)
数える気もなくす程にたくさんの艦娘達で賑わう店を一人で切り盛りしている鳳翔。
とても多忙でしんどそうに思うかもしれないが、週末に一度しか開かれない上に、当の鳳翔本人は現役時代から鍛えられてきた無尽蔵の体力を活かし、多忙なスケジュールを苦もなくこなす。
机の上に散らばる皿を一枚一枚片付けている時、鳳翔はふと思い出した。
前々任の提督に推薦され、意味もわからずに着任したものの当初は頼りなく思われていた、前任の提督の事を。
(随分前にお会いして以来ですけれど、お元気にされているでしょうか。
まぁきっと、神通さんに尻を叩かれながら奮闘していると思いますが)
事実、定期的に神通の主砲が顔面にぶち込まれている。
何かセクハラをやらかしたであろう提督が神通に追いかけられる姿を想像してしまった鳳翔は誰もいない居酒屋でクスリと笑った。
(そういえば、神通さん……
もしくは
縁が結ばれているとよいのですけど)
実は、鳳翔だけが提督の神通に秘めている想いを知っているのだ。
神通の隠し方が下手くそすぎるせいで【神通→提督】の想いを知るものは佐世保鎮守府全域+舞鶴鎮守府内部数名にまで及ぶのだが、隠し方が上手い【提督→神通】の想いを知るものは鳳翔だけだ。
何故、鳳翔だけが知っているのか?
非常に単純である。
提督がまだあまり艦娘達と仲良くなかった時代、彼が頑張っている事を知っていた鳳翔はたまには提督にご褒美でも、と母性ある心で特別に土曜日に居酒屋を貸切にしてあげたあの夜。
愚痴の一つでも聞くつもりで店を開けたのだが、まだ若くて飲み慣れていない提督はあまり酒が強くなかったらしく、すぐに潰れてしまった。
流石に店で寝られると困るので揺り起こしていた所、寝ぼけた提督が鳳翔に向かって衝撃的な発言をしたのだ。
『鳳翔さん…俺、神通の事が気になってしょうがないんだ。どうすればいいんだ』
……酔っ払いの戯言と言われればそうかもしれない。
だがしかし、鳳翔にはその言葉が本心から出た言葉だと分かる。
何故かは上手く説明出来ない。けれど確信している。
だからこそ、鳳翔は二人の恋模様を見守るのが密かな楽しみだったのだ。経験豊富で大人びているとはいえ、鳳翔だって一人の女。
たまにはこういう恋慕の話題に胸をときめかしたくなるのが、鳳翔に残った少女の心だ。
(
お二人の両片想いを見守るのは中々至福でしたけど、流石にそろそろ進展していないと可笑しいですものね)
鳳翔の予想は外れていた。
二人の関係は一歩たりとも進展していない。
提督が絡むと途端にポンコツになる神通に、提督も提督でアピールの仕方が遠回しすぎたり、普段の行いが足を引っ張ってむしろ逆効果になっている事が多々あり、とてもじゃないが一歩先への関係へなど進みそうになかった。
(そうだわ!確か第六駆逐隊の子達が舞鶴鎮守府の響ちゃんに会いたいと言っていたわ!!
それに同伴する形で私も舞鶴へお邪魔して、さりげなく提督に聞いてみましょうか!)
今後の予定を決めた鳳翔は、居酒屋鳳翔の片付けを本格的に取り掛かり、ものの一時間で終えてしまうと明日に向けて布団の中へと入った。
〜〜〜
二日後
〜舞鶴鎮守府〜
「お久しぶりですね、提督」
「久しぶりね!!」「司令官!!」「なのです♪」
「おう皆久しぶりだなぁ!!」
久しぶりにお会いした提督は変わらない笑顔で私達を出迎えてくれた。
私の隣には第六駆逐隊である暁ちゃん、雷ちゃん、電ちゃん。
そして、彼の隣には
「あぁ…、皆に、こうして会える日が来るなんて…」
「響ー!!」「響ー!!」「響ちゃーん♪」
響ちゃんが揃った事で、第六駆逐隊がついに集結した。
姉妹艦奇跡の集結を目の当たりにし、思わず私まで目頭が熱くなってしまう。
「いつだったかに、第六駆逐隊全員揃えてやっからなって響と約束してたしな…。
遅くなったが、喜んでくれてるみたいで何よりだよ」
四人で抱き合う駆逐艦の子達を見ながら、提督は満足そうな溜息一つに微笑ましい目をしていた。
時折現れる彼の優しさ溢れる目を見るたびに私は嬉しくなってしまう。スケベである前に、彼がとても優しい人間だという事を証明しているみたいで。
さて、こちらも本題に入りましょうか。
「そういえば、提督の方は何か進展はありましたか?」
「え?進展って…?」
……実は、提督が私に酔った勢いでとんでもない告白をした事は提督本人も覚えていません。本当に酔っ払っていたからこそ、ポロッとこぼした本音だったのでしょう。
それも加味して、私はあえて誰にも話さず漏らさずに自分一人だけで抱えてきました。
まぁだからこそこんな風に遠回しに聞く事でしか、お二人の恋模様を探ることが出来ないのですけど。
「………そうですね、戦力の増強とか」
「あぁ、ケッコンカッコカリのことか。
大丈夫だ。まだ付けられないから先回しだけど、練度も大分伸びてるしとりあえず神通には持っててもらってるよ」
提督はサラリと言った。ケッコンカッコカリに特別な意味など全く考えていないらしい彼は指輪の事をただの戦力増強用の道具としか捉えていない。
………この様子だと、特に進展はないと見て間違いないですね。
「そ、そうですか…。
つかぬ事を伺いますが、その…提督は身持ちを固めたいといった願望はないのですか?」
あまりに進展の遅い二人がもどかしくてつい踏み込んだ質問をしてしまった。
提督は腕を組み、少し考え込むように空を見た。
「しょーーじき、ちょっと考えてるな…。
でもよ、鳳翔。
俺からガチプロポーズ受けて喜んでくれる子がいると思うか?」
はい思います。
最低でも間違いなく喜ぶ軽巡が一人います。
あぁ…提督は意外と自己評価が低いのでしょうか…。
このまま何もせずに傍観をするだけでは、お二人が結ばれるのは一体何十年先の話になる事やら…。
「提督のご意志は分かりました。
これはご提案なのですが、私達は七日間、舞鶴鎮守府に滞在する予定です。
その間、提督の伴侶を希望する方を私の方で探してみても構いませんか?」
「そんな子がいるとは思えないが……よろしく頼むよ」
この七日間で、必ずや提督と神通さんのご関係を進展させてみせます!!
読み返してみて感じたのですが、これ完全に鳳翔の方が提督の事を気になってて探りを入れてる感じになっちゃってますね。
鳳翔本人は提督に毛ほども興味を持ってないのでご安心を(泣