「ここが食堂だよ。暁達も食べに来るといい」
響の案内で第六駆逐隊は舞鶴鎮守府を見て回る。
司令室、工廠、食堂と見て回り、道中で舞鶴の艦娘達とすれ違うたびに彼女達はそれぞれ元気よく挨拶を返す。
駆逐艦の中でも一際幼い見た目の彼女達が行儀よく整列して鎮守府中を歩き回る姿はさながら幼児の行進だ。
見慣れない子達の行進を横目に、元気の良い挨拶を受けた艦娘達は思わず顔が綻ぶ。
幼い子供を見守る保護者のような気持ちで鎮守府全体が第六駆逐隊を見守っていた。
「響はしっかりご飯食べてるの?ちょっと細いんじゃない?」
雷は自分達に比べて少し痩せている響を心配する。
自分の身体を見てみるが、確かに雷達に比べると少しばかり自分は細いような気がする。
「今の司令官になる前は、ろくにご飯も食べられなかったからね。
でも平気さ。今の司令官には随分と甘やかされて生きているから」
響は逆に太ってしまいそうな程にご飯を食べさせようとしてくる司令官の事が脳裏に浮かんだ。
かつての過酷な環境に身を置いていた私達の事を心配しているのか、司令官が食卓に立つと唐揚げやカレーなど、たまに出てくるインスタント食品を除けば高カロリーのお腹に溜まりそうなものばかりが食卓に並ぶ。
最近なんてそろそろダイエットしようか、と本気で頭を悩ませるくらいなのだから。
なので、少し細いと心配されたのはむしろちょっと安心した。
「ひ、響ちゃんは司令官にエ、エッチな事はされないのです?///」
電は一人だけ別の心配をしていた。
響はその質問に答えづらそうに言い淀んだが、やがて自身のトレンドマークである帽子で目元を隠すと、小さな声で言った。
「たまに下着を見られてるよ」
「はわわ!!やっぱり司令官はエッチなのです!」
「全く、司令官は相変わらずね」
恥ずかしがる電とは反対に雷は慣れた事のように余裕気に笑っていた。
「私なんかまだマシな方さ。
誰とは言わないが、着替えを覗かれた艦娘もいるんだからね」
「その話!青葉にもお聞かせ下さい!!」
元気のよい声に振り返ると案の定、青葉さんがメモ帳片手に気持ちの良い笑顔を浮かべていた。
内心、面倒くさい事になりそうだと悪態をつきながらも、興味津々な青葉をスパッと切り捨てる訳にも行かず、不自然にならないように微笑みを返した。
「あぁ、青葉さん。
悪いけど、この話は記事にしない事をすすめるよ」
「フッフッフ!!!尚更引けませんね!
そこに面白そうな情報があると分かれば、例え火の中水の中!!メモ帳とカメラ片手に突撃するのが記者という生き物なんですよ!!」
実際に火の中水の中に突撃しようものなら、先にメモ帳もカメラも壊れてしまいそうなものだけれど言わぬが吉か。
「ハァ…、私が知ってる事なら全部話すさ」
響は食堂の椅子の一つに座ると、続けて暁・雷・電も響の隣に座った。
そして青葉は響の正面に座る。ネタを見つけた青葉の淡いブルーの瞳が喜びで無邪気に輝いている。
響の瞳は灰色に濁っている。
響は一度興味を持った青葉さんは、そう簡単に解放してくれない事を分かっている。
なので、あえて青葉の取材を受けて、さっさと終わらせる事を選んだ。
「では最初の質問いきますね!
早速ですけど、青葉達の司令官が着替えを覗いたという艦娘さんは一体どなたなのでしょーか!!」
「青葉さんだよ」
青葉は止まった。
「……はえ?ヤ、ヤダなぁー!!
響さんの冗談は分かりづらいですねぇ!!」
「イヤ、本当だよ。これが証拠」
そういって響はスカートから携帯電話を取り出すと、カチカチと両手で弄って一つの写真を見せてくれた。
そこには、修繕ドックに入る為に服を脱ぎ、白の下着姿になっている青葉の後ろで、天井裏から逆さまに顔だけ出してカメラを構える提督の姿がバッチリ写っていた。
「……………………………………はえ?」
青葉の頬がみるみるうちに赤く染まっていき、やがてプルプルと震えながら、目元に涙が溜まり始めた。
「どど、ど、どうして響さんはこんな写真を持ってるのですか……?」
当然の疑問だ。
鎮守府一のパパラッチである青葉でさえもこんな写真は手に入れられないのだから。
「神通さんがデータをくれたんだ。
提督から回収した隠しカメラに残っていた映像…だって」
「流石神通さんね!!司令官がどこにカメラ仕掛けるのか理解しきっているわ!」
「全く司令官はスケベで困っちゃうわ〜」
「つ!次の質問に参りましょォォーー!!!」
青葉さんは恥じらいを紛らわせようとしたのか、不自然に空元気を取り繕って無理矢理空気を変える。
「えぇっと!えぇっと!!えぇ〜〜っとぉ〜〜!!!
あ!そうですそうです!!
司令官はスケベな事が有名ですけど、何かスケベな書物を隠し持っていないのでしょーか!!」
「そんなものいっぱい隠し持ってるよ。
昨日なんかは青葉さんが主役の18禁の同人誌を読んでいたね」
「……………………………………はえ?」
青葉は固まった。
「ね、ねぇ響。
ど、どーじんし?ってなんの事?も!もちろん知ってるわよ!?
い、一応聞くだけよ!!一応!!」
「青葉さんが主役の薄い絵本の事だよ」
「そうなのです?電も読んでみたいのです!!」
「つ!次の質問に参りましょォォーー!!!」
青葉は再び空気を変える。
「青葉さん、そろそろやめておきなよ」
「ジャ、ジャーナリストを舐めないで下さい……!!
この程度のダメージで、記者の魂は燃やし尽くせません!!」
青葉は頬を叩き、完全に心を一新して今度こそ覚悟を決めてメモ帳を開いた。
「じ、実は先日!青葉!見ちゃいました!!
深夜一時頃に司令官が神通さんに指輪を渡してる姿を!!
この事から司令官と神通さんは既にデキちゃってるのではないかと思うのですけれど、実際に響さんの目から見た場合、お二人はどんな関係に見えていますか!?」
「え?そうなのかい?
う〜〜ん。神通さんから司令官にというのはまぁ確実として…私は正直、司令官から神通さんに何かを考えてる………という、の……は、、、、」
突然響の口切れが悪くなり、青葉は首を傾げた。
ふと広い視野で見てみると、同席している暁・雷・電の三人もまるでさっきの青葉と見紛うレベルで固まってしまっている。
彼女達の視線は、青葉に向けられて………と、いうよりは青葉の後ろへ向けられている。
「ん?皆さんどうしたんですか?」
「あら青葉さん。
神通と提督が既にデキちゃってるなんて噂は誰から聞いたのですか?」
底冷えするような冷たい声に、青葉の背中から冷や汗が全て流れ落ちたような気がした。
「……………………………………………存じ上げません」
青葉の背中からとてつもなく聞き覚えのある声がする。
しかし青葉は後ろを振り返る事が出来なかった。
振り返ったその瞬間、首を何十回もねじ回されて息の根を止められた挙げ句、そのまま海の底へと沈められてしまいそうな気がしたから。
「知らないという事はありませんよね?
あなたがでっち上げたのでしょう?」
「ゴ!ゴメンナサイイィィィ!!!!」
すぐさま土下座をする青葉だったが、声の主 神通は更に青葉の首根っこを掴むと力任せに引きずってゆく。
「痛タタタタタタ!!!!
ごめんなさい!ごめんなさい!許してください神様仏様神通様!!後生ですから解体だけは勘弁して下さいィィ!!!」
「今回ばかりは許しません。
あなたは他にも余罪がありますからね。
懲りもせずにまたパパラッチをしたり、艦娘達の盗撮写真を提督に有料で配って自分の懐を潤わせたり、着替えてる所を提督に覗かれたり、果てには自分が主役の18禁作品を読んでいただけるだなんて…。
あなたの余罪は重いですからね!!」
「最後の二つは私が被害者じゃないですかぁ!!!」
神通さんに引っ張られながら、食堂から姿を消した青葉さんに第六駆逐隊は静かに手を合わせた。
「ところで響。
司令官が着替えを覗いた艦娘って青葉さんだけなの?」
「私が知る限り、神通さん一人を除いた全員が一度は覗かれてるはずだよ」
「えぇっ!?し!司令官さんは神通さんの事が嫌いになっちゃったのです!?」
「それは無いと思うけど…神通さんだけが覗かれない理由は、暁達にも分からないなら私にも分からないよ。
まぁ多分…神通さんの砲弾が飛んでくるのが恐いだけだと思うけど」
Q:何故神通だけが覗かれないのか?
A:提督が神通の裸を見るのは想いを伝えてからだと決めているから