僕は、白露型駆逐艦2番艦の時雨。
生まれて初めて食べるご飯とお味噌汁がとても美味しくて…本当に胸がいっぱいになった。新しい提督にはどれだけ感謝してもし足りない。
だから、出されたご飯を食べ終わったらすぐに提督の元へ行って、一言ありがとうと伝えようと思っていたのだけれど…。
「よし、飯食い終わったら各自食器洗っとく事!」
提督はそれだけ言い残すと、スタスタと食事処を出ていってしまったんだ。
正直提督という存在自体は嫌いだが、初対面の人を一方的に嫌うのはよくないと思い、一度話してみたかったんだけどな…。
「新しい提督は優しい人なのかな…」
コップに入ったお水を飲みながら、ポツリと呟いた。すると、僕の独り言を聞いていた向かいに座る天龍さんがお味噌汁の入った容器を手にする。
「さぁな…。俺もまだ信頼は出来ねぇが……まぁ、前のクズ野郎よりはマシに見えるな」
天龍さんは鋭い視線を提督の出ていった入口へと向け、味噌汁を飲む。
私達駆逐艦の子を庇って、代わりに罰を受ける事が多かった天龍さんは人一倍『提督』に恨みを抱いている。
それでも、こうして新しい提督さんに心を開こうとしているのは本当に凄い。
それを言うと分かりやすく調子にノるので絶対口にしないが、やっぱりカッコいい。
「時雨はあの提督の事を優しい奴って思ってんのか?」
「えぇっ!?い、いや僕だってそこまで信用した訳じゃ…」
「ハハっ!そうだな、そう簡単に人を信頼しちゃダメだ。 でもこいつはいい奴だって思ったんなら、深く考えずに着いていってみてもいいかもしんねぇぞ? そいつが本当にいい奴か悪い奴かってのは、そいつの残した足跡が教えてくれるもんだからな」
「……足跡が」
「おう。試しに早速追いかけてみな。あの提督が外に何をしに行ったのかをよ」
味噌汁をすっかり飲み干し、空になった茶碗を机に乗せた天龍さんは得意のドヤ顔を決めた。
「…カッコつけてるとこ悪いけど、口元にご飯粒付いてるよ」
「は!!?え!?ちょっ!!どっ!どこだよ!!」
「ウソだよ」
僕は可愛らしく舌を出し、天龍さんをからかった。
悔しそうに顔を赤らめる天龍さんがちょっと可愛い。
「でもありがとう。ちょっと勇気を出してみる」
僕は提督の後を追って、一足早くに食事処を後にした。
………あれ、提督どこに向かったんだろう。
天龍さんに背中を押してもらい、そのまま飛び出したはいいものの提督がどこに行ったのかが分からない。
あぁ、自分の無計画さを恨む。こういう所まで天龍さんに影響されちゃったなぁ…。
まずは、司令室・・・いない。
じゃあ、工廠?・・・いない。
まさかの艦娘寮・・・いない。というかいたらヤバい。
建物の中は全て探したのに影も形もない。
まさか、僕達を捨てて…?いや、流石にないよね。
「…あれ?」
ふと窓から見える中庭の隅っこの方で、灰色のタンクトップに身を包み、花壇の側に座り込む男性が見えた。
もしや…と思い、中庭に降りてみると、予感的中。
それは軍服を脱いだ提督だった。
(な、何してるんだろ?)
食事を早々に切り上げてまで何してるのか気になり、なんとなく柱の影に隠れる。
彼は一人無言で座り込み、ブチブチと何か引き抜くような音を立てている。
何をしてるのかすぐにわかった。草むしりだ。
わざわざ提督がそんな事しなくても艦娘の誰かにやらせればいいのに…。
キレイ好きなのかな?
「ね、ねぇ提督?」
「ウォッ!?時雨居たの!?ビックリした!!」
「あ、ごめんね…って、え?僕の名前知ってるの?」
「ん?あぁいや、ここに着任するまで時間あったからさ。覚えた」
……提督に名前で呼ばれるなんて、初めてだよ。
「そっか…。えと、提督はなんで草むしりなんてしてるの?命令してくれたら、僕達がその位するのに」
むしろ、その命令を出して欲しいとさえ思う。
大破寸前の友達を連れて危険な海域に突撃したり、弾除け前提の作戦に抜擢されたり、目の前で姉妹を殺されるような思いをする事に比べれば何十倍も何百倍もマシだから。
「命令なんて…単に俺がしたくてしてるだけだよ。ここって皆が使う所だし、綺麗にしときたいじゃん?」
「………提督は、優しいんだね」
ポロッと、口から飛び出した。
自然に、口がそう動いた。
「お?時雨に褒められたら気分がいいな!」
「褒めても何も出ないよ」
草むしりをやめない提督の隣にしゃがみ、同じように雑草を根っこから引き抜いた。
「僕も手伝うよ。提督一人だけじゃ日が暮れちゃう」
「お?いいのか」
「うん、僕も綺麗にしておきたかったんだ」
「時雨は真面目だなぁ、同じ姉妹艦でも
「夕立!?」
提督の口から出た夕立という言葉に過剰に反応する。
提督も思わず尻もちをつくほどに驚いているが、今は提督の軍服が土に汚れた事を気にする余裕もない。
「ビッ…ビックリしたっ…!!」
「ああ!ご、ごめんね提督!そ、それよりも今夕立って言わなかったかい!?」
「あ、あぁ。言った」
「どうして夕立の事を知ってるの!?」
「俺が勤めてた前の鎮守府にいたんだよ」
え?ゆ、夕立が…?
〜〜〜
この世界では、艦娘は世界でたった一人しか存在できない。
艦娘が沈むと、そこでその艦娘は一旦は海の底へと沈み、やがて記憶をなくしてどこかの鎮守府で再び同じ艦娘として誕生する。
この流れを『建造』と呼ぶ。
しかし、あまり高い確率ではないがその艦娘が沈んだ時、そことは違う別の鎮守府で一番最初に開発作業が行われた鎮守府に記憶を無くす事なく、着任する事があるのだ。
この流れを『浮上』と呼ぶ。
〜〜〜
話を戻そう。
実はこの鎮守府にもいたのだ。夕立が。
もう…何年も昔の話だけれど…。
僕と夕立は白露型と呼ばれる駆逐艦の姉妹艦にあたる存在だ。
だから僕と夕立の繋がりは他の艦娘達よりも深い。
でも、ある時危険な戦場に私と夕立のたった二人だけで駆り出される事となった。
駆逐艦の中では比較的練度が高かった私達をぶつけ、敵主力部隊の消耗を狙ったのだそう。
前任提督お得意の無茶苦茶な作戦だ。
当然上手くいくはずもなく、私達は敵を満足に消耗させる事も叶わずに総叩きにあっていた。
そしてその砲弾をたった一人で全て受け止めたのが、夕立だった。
『エヘヘ…。時雨だけでも、守れたから、満足…ぽい』
幸か不幸か、僕はその戦場を生き延びた。
そして今日に至るまで、死んだ方がマシだとさえ思える地獄のような日々が続いた。
それでも私が最後まで沈まずに今日まで生きてるのは、間違いなく夕立のおかげだ。
私が辛くて挫けてしまいそうだった時、いつも夕立が励ましてくれたのだ。
『時雨〜!昨日の演習カッコよかったっぽい〜!!』
『あの提督さんの言う事なんか無視っぽい!!』
『時雨は自慢のお姉ちゃんっぽい!』
夕立は、私の中で、太陽のようだった。
もし叶うのなら、もう一度だけ会いたい。
……分かっている。
向こうにいる夕立が記憶を持って建造された浮上艦である可能性は低いという事くらい。
それでも、私は夕立に会いたかった。
もう一度だけでいいんだ。
あの人懐っこい笑顔が見たい。
「夕立は、今もそこにいるのかい…?」
「あ、あぁ。えっと…実は来週辺り、前の鎮守府から鎮守府復興の助っ人で何人かに一週間だけ来てもらおうと思っててさ…。そん時、夕立にも
「お願い!!夕立を連れてきてよ!!」