神通です。
ある日の夕方。
私は鳳翔さんに呼ばれ、誰もいない工廠裏へとやってきていました。
「鳳翔さん。お話とは?」
「ウフフ…突然呼び出してごめんなさい。
単刀直入にお聞きしますね。
神通さん、あなたは提督とお近づきになりたいとは思わないのですか?」
「ッ!!!」
いきなりすぎたので、思わず言葉に詰まってしまう。
ですが、そこはすぐに持ち直し…隠す事なく肯定しました。
「そ、それは…、その…………、ハ、ハイ」
もはや隠す気も私にはありません。
いつぞやに赤城さんは、私が提督をお慕いしている事は佐世保鎮守府ではもはや常識とまで言いました。
それが事実ならば、どうして佐世保鎮守府を実質取り纏めている鳳翔さんが知る訳がないなどと考えましょうか?
「提督から、アナタにのみ指輪を渡してると聞き及んでおりますが、それは事実ですか?」
「ハ、ハイ…」
(ネックレスも頂いたのですけれど…こ、これは黙っておきましょうか)
「ちなみに、あなた自身はいずれカッコカリではなく、カッコガチを頂きたいと?」
「もしも、叶うならばですが…」
すると、何故か鳳翔さんは呆れたように深い溜め息を吐いた。
「………………私が微力ながらお手伝いしますよ。
今日の晩、間宮さんにお願いして間宮食堂をお借りします。
提督さんと必ず二人だけで訪れて下さい」
鳳翔さんは腰に手を当て、二人だけの部分を特に強調して吐き捨てるように喋ると少しうんざりしたようにジト目で見つめる。
普段の優しい目つきしか知らない私は思わずたじろいでしまった。
わ、私は何かしてしまったんでしょうか…?
むしろ何もしていないから鳳翔は怒っていたのだった。
(まさかここまで何も進展していなかったとは…。
叶うならばカッコガチの指輪も頂きたい?
あなたが少しでも勇気を振り絞ったらそのままゴールまでの華道だって開きますよ!!
せっかく大淀さんと長月ちゃんと結託してまで、わざわざあなたを提督さんのお側に異動させたというのに無駄骨に終わらせるつもりですか!)
「いいですね?必ず二人だけですよ?」
〜〜〜
「おっす鳳翔!!今日はわざわざありがとな!!」
「お、お邪魔します…」
「いらっしゃい」
約束通りに二人だけで間宮食堂へとやってきた。
鳳翔さんが間宮食堂を貸し切り、一晩だけ『居酒屋 鳳翔』を開いてくれるらしいので二人で行きましょうと誘ったら提督は喜んで来てくれた。
普段は何も置かれていない注文所に二つの椅子が置かれてあり、その前には箸と受け皿が並べられてご丁寧にお冷まで置かれている。
「一夜限りの居酒屋か。たまらないねぇ」
「ウフフ…私も、久しぶりに提督をおもてなしできて嬉しいです。
ご注文はどうしますか?」
「とりあえず日本酒を!!」
提督は日本酒が好きなのだけれど、意外にもお酒はあまり得意でないそう。
〜〜〜
次第に夜も更け、酒が進むにつれて提督のお顔が少し赤くなってきた。
提督もそれを分かっているのか、酒を飲むペースを落として代わりにチェイサー(口直しに飲む水や軽い酒の事)を飲む事が増えた。
酔いが回ってきている証拠だ。
そ、そろそろ攻めてみましょうか…?
チラリと鳳翔さんに視線を送る。
この後どうすればよいのかを目線で鳳翔さんに聞いたつもりですが、伝わったでしょうか?
伝わったのかどうかは不明ですが、目が合った鳳翔さんは少しだけ微笑み、提督にバレないように一つの紙を私に手渡した。
その紙にはただ一言。
部屋に誘いなさい
・・・・・・
・・・・・・・・・え?
鳳翔さんを見る。
変わらず優しく微笑んでるだけ。
でも、なんとなくその笑顔が怖いです…!!
「……て、提督。その、よければ私の部屋で飲み直しませんか?」
初めて感じる鳳翔さんへの恐怖に流されるまま部屋に誘いました。
あぁ、はしたない女だと思われませんように…!!
「あぁ、それもいいかもな。鳳翔さんお会計!!」
「お会計は取りませんよ。おやすみなさい、提督」
……ただの挨拶のはずなのに、妙にいかがわしく聞こえてしまうのは私の考えすぎでしょうか…?
すっかりほろ酔いになっている提督を支えながら、私の部屋へと千鳥足になりながら向かう。
鳳翔さんは私達の飲みの後でいっぱいになった食堂の片付けを後回しにしてまで、私達の背中に手を振っていた。
(全く…まぁでも、流石にこれだけやればあの二人も少しは進展…………しないんでしょうねぇ。あの二人は。
まぁそんなところがもどかしくて、見守り甲斐があるというものでしょうか)
闇夜に消えてゆく二人の背中に手を振りながら、鳳翔は静かに溜息一つ吐き出した。
〜〜〜
ハ、初めて提督を部屋に入れてしまった…。
ど、どうすればいいのでしょうか…?
とりあえず、普段は折り畳まれて部屋の片隅に立てかけられているだけの出番のない丸形のちゃぶ台を広げ、提督がお好きだという日本酒と適当なグラスを二つ置いた。
……二人きりの二次会を準備をする最中、チラリと自分の部屋を見る。
家具は必要最低限のみ。娯楽品はない、私服もない、なんなら生活の跡すらない可愛げのない部屋…。
うぅ…憧れの提督を部屋に招く事になると事前に分かっていれば、川内姉さんと那珂ちゃんに頼んでもう少し可愛らしい部屋にしてもらったのに…!!
「と、とりあえず乾杯と致しましょうか」
「ああ!君の瞳に乾杯!」
ほろ酔いになっているからなのか、普段よりテンションの高い提督と安物のグラスを交わし、二人一気に日本酒を口に含んだ。
「提督はお休みの日は何をされてるんですか?」
「ん〜〜。最近は一日中本を読んでるな」
「・・・品のない言い方をすると、いわゆるエロ本ですね?」
「……たっはは!バレてーら」
「フフ…、伊達に十年以上付き添っていませんよ」
「そういや、お前との付き合いもそんなになるんだな」
「えぇ、あなたに出会ってもう十年経ってるんですよ」
「この十年、お前には助けられてばっかだったな」
「そうでしょうか…?
私が助けられる事の方が多かったと思いますが」
「いやいや、俺が提督になったばかりの時に真夜中に一人で想定戦してるのを手伝ってくれたじゃないか」
「あ、懐かしいですね…」
今思えば、あれが私と提督の始まりだったんでしょう。
「よければ、久しぶりに一局やってみませんか?」
立ち上がって、化粧台の引き出しから数枚の紙を取り出した。
「おっ!懐かしいなその手作りカード!!」
十年前の提督がまだ無能と言われていた時代、二人で夜な夜な行っていた机上演習。
その時に使われていた提督手作りの紙切れです。
ごめんなさい…実はなんだかあの頃が懐かしくって、こっそり取っておいたんですよ。
「いかがでしょうか?
十年ぶりの、想定戦」
「ノッたぜ、今の俺ならきっとお前にだって勝てる!」
想定した海上戦はお互い戦艦一隻・空母一隻・駆逐艦三隻・潜水艦一隻。
日本酒を片手に私達は、十年ぶりとなる机上演習に没頭する事となった。
〜〜〜
「駆逐艦Aで空母を撃破。私のニ連勝ですね」
「クッッソ!!マジかよ!!」
やはり十年前とは比べ物にならないほどに提督は強かった。けど、私に勝てる程ではないようです。
「ですが、提督は本当に強くなっていますよ?」
「負けてるのにそんな事言われても嬉しくないなぁ…」
ごもっとも。
「もう一回だ!今度は罰ゲームありでな!」
「また私が勝っちゃいますよ?
何故そんな自分の首を絞めるような真似を」
「言ったな!?今度は絶対負けないからな!」
はい、私が勝ちました。
「チクショオオォォメエェェェ!!!!」
「私の三連勝ですね」
大袈裟なほどに苦しむ提督。アルコールが入ってることもあると思いますが、少々激しいのでは?
私自身、提督との一夜が楽しくて楽しくて、ついついお酒が進んでしまってかなり酔いが回ってきてしまっているようです。
そのときふと、罰ゲームの事が脳裏に浮かんだ。
そういえば何をするのか決めていない。
……こ、こちらで決めてもいいのでしょうか?
「クッッソ……あぁもう!ほら罰ゲームはなんだ!?
なんでもやってやろうじゃねぇか!!」
…今、なんでもやるっていいましたね?
「で、では、その…私の事を、好きになってください」
鳳翔さん、進展しましたよ。