スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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木曾と訓練

 

 球磨型軽巡洋艦5番艦 木曾。

 

 艦娘の中では珍しい眼帯俺っ娘であり、指折りの勇ましさと男前な性格から全艦娘の中でも一、二を争う程のイケメンっぷりを誇る艦娘である。

 

 そんな彼女は現在、鎮守府の演習場でただ一人、演習の的めがけて砲撃を繰り返していた。

 

(・・・球磨姉ちゃん達は、俺なんかよりずっと強い。

 正直、まだまだ追いつけないだろうな。俺よりも早く着任してたってのは相当デカいだろうが…だからって追い越すのを諦めたりしない。それを言い訳にしたくない!

 俺は球磨姉ちゃん達にだって負けねえ…!!誰よりも強くなって、ヤツら(深海棲艦)を根絶やしにしてやる!!)

 

 次の的に狙いをつけ、放つ。

 演習用のゴム製の砲弾は僅かに的を逸れ、水飛沫をあげて海面に着弾した。

 

「クッソ…思うようにいかねぇな」

 

 自分の未熟さに腹が立つ。

 悔し紛れに歯を食いしばっていると、演習場の戸が開かれて二人の艦娘が入って来た。

 

「お〜う木曾〜。頑張ってるクマな〜」

 

 球磨姉ちゃんだった。

 後ろには球磨姉に腕を引っ張られる多摩姉ちゃんもいた。どことなく退屈そうにあくびをしていて無理やり連れてこさせられた感が凄い。

 

「姉ちゃん達か…。

 なんだよ、今の失敗を笑いに来たのか?」

 

「笑ってほしいんだったら最高にデカい声で笑ってやるにゃ」

「ブゥワギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」

 

「笑うな球磨姉!!!!あとうるせえ!!!!」

 

 人の事をおちょくり倒す姉達に心底腹が立つ!

 

「いやすまんすまん!悪気はないクマ!!」

 

「…ッチ!んで?なんの用だよ」

 

 人が真面目に練習してたのにそれを邪魔されたばかりか、おちょくられた挙句、爆笑までされてしまってはいくら姉が相手といえども、機嫌の一つも悪くなる。

 

 だが、肝心の姉達は舌打ちにも動じた様子を見せず、さっきまで訓練を行っていた海上へと視線を送る。その先には、俺が撃ち込んで穴だらけになったたくさんの的があった。

 

「木曾。おめー、危険な海域に出られなくって正直退屈してんじゃねえかクマ?」

 

「……まぁな」

 

 舞鶴(ここ)の提督は優秀であり、しっかりと練度を積ませた艦娘だけを高難度海域に向かわせる意外と慎重な男だった。

 その為、ドロップしたばかりでまだ練度が低くて実践経験も乏しい俺は低難度の遠征、もしくは近海の巡航がメインだった。

 

 はっきり言おう。ヌルい。

 

 出てくる敵、出てくる敵が今の自分の練度でも問題なく対処出来るような雑魚ばかりなのだ。

 俺が求めているような、その…なんというか、自分の持ってる全てを出し尽くすような、敵と命を削り合うギリギリの熱いやり取りみたいなのがこの鎮守府では皆無と言ってもいい。

 

 いや、もちろんそれ自体は褒めるべき事だ。

 

 味方陣営と敵の力量を考慮し、無理のない編成で日々の任務をこなしているという証拠だし、俺達艦娘が危険な目に合わないよう気を使っている何よりの証拠でもある。

 それにそんなスケジュールでもしっかりと深海棲艦には巡り会うし、しっかりと経験だって積める。練度も日に日に上がっているし、自分の実力が上達してるのも実感できる。

 

 ただ、誰よりも強くなりたいと願う俺にとっては、命の危険を感じることも無くただひたすら同じように雑魚狩りを繰り返すだけの日々は苦痛であった。

 

 

 

「多摩が木曾の退屈しのぎ手伝ってやるにゃ」

 

「はぁ?どうやって…ってウオ!!?」

 

 

 いきなり多摩姉ちゃんがゴム弾を発射してきた。

 間一髪で躱したゴム弾は俺の真後ろに着弾する。

 

 反射的に多摩姉ちゃんの事を睨みつけるが、姉ちゃんは動じない。

 それどころか、まるで猫のように細くて鋭い目つきで睨み返し、無表情で海面に立っていた。

 

「………もしかして、姉ちゃんが戦ってくれんのかよ?」

 

「そうにゃ。

 多摩も木曾とおんなじドロップ艦だし、練度だって他の子達に比べりゃ低いにゃ」

 

「おめーの演習相手にはちょーどいいクマ。

 勝敗は姉ちゃんが決めるクマ。存分にやり合えクマー」

 

 

 ……願ってもねえ!!!

 

 

 

「姉ちゃんが相手でも手加減はしねえぞ」

 

「多摩もうっかり手を抜かないよう気をつけるニャ」

 

「面白え!!!!」ドォン!!‼︎

 

 初発は木曾。

 

 最速で撃ち込んだ副砲に多摩は即座に反応し、難なく躱す。

 避けた多摩の姿を目で見て追い、続けて木曾は二発の魚雷を発射する。

 だが多摩はそれも足早に躱し、更にはお返しとばかりに避け様に数発の砲弾を撃つ。

 

 撃たれた砲弾は木曾の周囲に着弾し、ド派手に水飛沫を上げて木曾を濡らす。

 

「どこ狙ってんだよ姉ちゃん。俺は海の底にはいないぜ」

 

 水も滴るいい女…とはならない男前な艦娘 木曾は、ずぶ濡れの姿で再び魚雷を発射する。

 

 多摩はそれを再び躱す。

 が、避けた多摩を追いかけるように木曾は即座に主砲を放った。

 

 

 回避行動をしたその先に迫る砲弾。

 

 

 相手の回避行動を読み、その先に攻撃を置いておく先読みの一手。

 改めて説明するが、木曾はまだドロップしたばかりの新兵なのだ。

 それなのにこのような高度な技を仕掛けてくるあたり、木曾の戦闘センスが高い事に疑いようはない。

 

 木曾は多摩への直撃を確信し、ニヤリと笑う。

 

 

 

 だが多摩は………それさえも避けた。

 

 

 

「んなっ!!?い!今のは絶対当たるコースだっただろ!?」

 

「惜しかったにゃー、木曾」

 

 多摩姉ちゃんは挑発するようにニヤニヤと笑っている。

 まるで、さっきの勝利を確信した俺のように…。

 

「クッッソ!!まだまだぁ!!」

 

「にゃー♪木曾が怖いにゃー♪」

 

 何をどう撃ち込んでも涼しい顔で避ける多摩姉ちゃんの姿に、自分の中で決して小さくない焦燥感が芽生えてきているのが分かった。

 

 砲撃をする。───避けられる。

 魚雷を発射。───避けられる。

 同時に攻撃。───避けられる。

 

 足元に主砲を撃ち込んでみても…

 フェイクとして明後日の方向に撃ってみても…

 砲塔に残る全ての弾を出し尽くしても…

 

 

 多摩姉ちゃんに一発たりとも当てられなかった。

 

 

 

 やがて弾切れを意味する甲高い金属音が審判である球磨の耳に届き、球磨は終了のブザーを鳴らした。

 

「多摩の勝利クマ!二人とも戻ってこいクマ!」

 

 球磨姉ちゃんの声に気付き、多摩姉ちゃんは静かに艤装を仕舞う。

 多摩の砲塔にはまだほとんどの弾が残っている。全ての弾薬を撃ち尽くした木曾ではどうやったって勝てなかった。

 

 いくら多摩姉の方が練度が高いとはいえ、ただの一発も当てられない無様な結果に終わってしまった事が、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 

 

「木曾。何か、聞きたい事とかはあるにゃ?」

 

「・・・教えてくれよ。どうやって姉ちゃんは俺の攻撃を全部避けたんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれたにゃそれは「おめーの攻撃が分かりやすすぎるだけクマ」

 

 途中まで言いかけていた多摩姉ちゃんを遮って球磨姉ちゃんが割り込んできた。多摩姉ちゃんは不満そうにジト目で球磨姉ちゃんを睨む。

 

「俺の攻撃が分かりやすい?」

 

 球磨姉ちゃんはピストルのように親指と人差し指を立てると、その銃口を俺に向けた。人差し指の先は、俺の脳天に向けられている。

 

「木曾。姉ちゃんは今どこを狙ってるか分かるかクマ?」

 

「…俺の、顔だろ?」

 

「じゃあこれは?」

 

 指先を下げ、今度は足元を狙った。

 

「つま先…か?」

 

「そうだクマ。

 じゃあ木曾。姉ちゃんはここからお前のケツの穴に砲弾ぶち込めるクマ?」

 

 ケツの穴なんて単語を使うなよ…と思いつつ、質問に答えた。

 

「無理だろ。姉ちゃんの位置からじゃ背中に砲撃は当てられない」

 

「そうだクマ。それはどうしてか分かるクマ?

 答えは、砲口の向きにしか砲弾は出ていかないからだクマ。

 そして、木曾。お前は自覚してるかクマ?

 さっきの多摩との演習で、ただの一歩たりともその場から動かなかった事を」

 

「!!!

 じ、自覚はしていた…。だけど…、その場から動かなくても、多摩姉ちゃんに砲弾は届いたから」

 

「だからあんな簡単に読まれたんだクマ。

 演習中の木曾は、はっきり言って固定砲台だったクマ。

 目の前のごく一点しか攻撃出来ない上に、移動する事が出来ないような巡洋艦の砲撃に当たる敵がいると思うクマ?

 その場の砲撃が当たらなかった時点で、おめーはその場から移動して航行しながらの自由砲撃に切り替えるべきだったんだクマ」

 

「・・・」

 

 ……て事は、この無様な結果は俺と多摩姉ちゃんの練度の差じゃなくて、自分の怠惰が原因だったのか…。

 

 

「以上の事を踏まえて…もう一戦やってみるクマ?」

 

「多摩姉ちゃん。もう一戦頼む!」

 

「しょ〜がないにゃ〜♪」

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 多摩姉と球磨姉の指導のおかげで、俺は少しずつ練度とは無関係の新しい強さを手に入れていった。砲撃の威力である火力や、航行速度に繋がる走力とは違う。

 練度を力だとすると、俺が習ったのは技だ。

 

 相手に当てる為の、技。

 

 センスや能力ではない。

 学校や座学では教えてくれない、実戦で役に立つ戦闘の知識を、俺は球磨姉ちゃん達から受け取ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……多摩。おめーの目から見て、どうクマ?」

 

「……木曾は強くなるにゃ。うかうかしてたら、あっという間に追い抜かされちゃうにゃ」

 

「……負けらんねークマな。

 一体いつになるか分かんねークマが…いつか大井と北上に出会った時、球磨達よりも妹の木曾が強くて姉ちゃん達がタジタジだったなんて事態にならねーようにな」

 

 

 

 艦娘一の武闘派 球磨型姉妹は、未来に向けてより一層執念を燃やした。

 

 





 え?
 なんで大井と北上より先に木曾が出てきたのかって?

 二人は今頃、どっかの鎮守府でランデブーしてるからです(適当)
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