翌週
時雨と約束した応援組が鎮守府にやってくる日だ。
向こうから届いた連絡だと、俺の後を引き継いだ提督が推薦した艦娘が来てくれるとの事。そしてその中には夕立の名前も…。
「時雨!今日は待ちに待った夕立との再会記念日だ!」
「うん!本当に楽しみだな…」
時雨は笑顔を見せてくれたが、なんだか少し元気がない。
不安なのだろう。
現れた夕立が記憶を持ってるのか、否か。
もしかしたら自分の知ってる夕立ではないのかもしれない。自分の知ってる夕立に『はじめまして』と言われるかもしれない。
この一週間見てきて分かったが、やはり時雨はとても優しくて強い子だ。だからこそ、時雨には笑っていてほしいと思う。
「さて、と。全員注目! 本日より一週間をかけてこの小汚い鎮守府改め、舞鶴鎮守府の大掃除を行う。その間の遠征や巡回は、俺が以前勤めていた鎮守府より応援に駆けつけてくれる
『了解!』
元気のいい返事をした皆は一斉に持ち場へと走り出した。
やはり長年この鎮守府で過ごしてきた皆もこの鎮守府の傷み具合には思うところがあったのだろう。
汚れた窓を拭き、ヒビ割れた壁を修繕し、壊れた電球を取り替えていく。
予想以上に働き者な皆さんのおかげで、正直ちょっと気持ち悪いぐらいのスピードで鎮守府が元の姿を取り戻していく。
おかげさまで俺の仕事もまた次から次へと増えていくこと増えていくこと…。
「提督、あそこの天井のヒビの修理をしたいのですが、どうしましょうか?」
「あぁ、あれは妖精さん達に頼むよ」
「提督。ちびっ子共のおかげで使ってる部屋の掃除はあらかた終わったんだが、使ってない部屋の掃除をしても構わないか?」
「え、もう終わった?そ、そうだな。部屋全部掃除しといてくれ。新規の子が誰か来るかもしんないし」
「提督。演習場の的を補充してもらう事は可能かしら?」
「すぐに大本営に連絡します!」
普通といえば普通なのかもしれないが、最高責任者である俺のところに皆ちゃんと一回話を持ってきてくれるのは嬉しいな。
内心提督という存在を忌み嫌っているだろうに、それでも俺のことを恐れたりもせずにただの上官として接してくれるのが本当に嬉しい。
この子達は本当に強い子達だなと、改めて思う。
「Hey!テイトクー!!お客さんが来たみたいダヨー!!」
掃除もある程度進んできた矢先、金剛が来客を知らせてくれた。
「Hey!待ってました!!よしゃ行くぞ時雨!」
「う、うん!」
すべては夕立に会う為……。
掃除道具を一旦置いた二人は入口まで走り、そのお客さんを向かえに行くのだった。
〜〜〜
正門前に到着した僕と提督は、すぐに門のすぐ側に立つ人影に気がついた。
茶色の髪に一輪の花のような独特な服に身を包み、特徴的なデカリボンを頭につける艦娘。
彼女の姿を見つけた提督は、喜びを隠しきれずに大きく手を振って笑顔を作る。
「神通!!来てくれたんだな!!!」
「はい。お久しぶりです、提督」
「あぁ本当久しぶりだな神通!元気にしてたか?」
「は、はい…提督こそ、お元気にしてましたか…?」
神通さんは提督と面識があるみたいで、提督と面向かって話をする彼女はとても嬉しそうに微笑んでいた。
あんなに嬉しそうに提督とお話をしている艦娘なんて、僕は初めて見たよ…。
「そりゃもちろん!俺はいつもどんな時でも…「提督サーン!!」
正門前に到着したその瞬間…先に話していた神通の事などお構いなしに提督のお腹に向かって突撃してきた駆逐艦がいた。
太陽のような黄金の髪に、真っ赤な目の色をした彼女の名は、夕立。
僕が、一番会いたかった艦娘だ…。
「お、キタキタ!久しぶりだな!!」
「うへへへ〜♪提督さんの匂い〜♡いっぱい撫でて撫でて〜!!」
ご機嫌な夕立の横顔に……僕は精一杯の勇気を振り絞って話しかけた。
「ゆ、夕立、だよ…ね? ぼ、僕の事…覚えてる?」
「…っぽい?」
僕は恐る恐る尋ねた。そして、夕立は首を捻った。
脳裏によくない考えが浮かび上がった。
「あっ……えと、じ、実は…この鎮守府にも夕立がいたんだ。
もう随分昔なんだけどね。
そ、それでもしかしたら、なんて…思っちゃって…」
お願い。知らないなんて、言わないで…。
覚えてないなんて、言わないで……。
「ぽいぃ〜…。夕立、
………………うん。いいんだ。
「気にしないで!また夕立に会えただけで僕は満足だからさ!」
「ぽいぃ…。本当にごめんなさいっぽい。時雨の楽しみにしてたお饅頭一人で食べちゃった事とか、時雨の帆装に落書きした時の事とか、な〜んにも覚えてなくて〜…」
………………………ん?
「前の提督さんに時雨と二人だけで出撃させられちゃって、そのまま集中砲火受けちゃった事とかも忘れちゃったっぽいぃ…」
………………………え?
「そういえば沈んでく時、時雨のおパンツが見えたっぽい。確か黒色だったっぽい?」
「…夕立、それは覚えてんだな?」
「あぁぁぁ!!ち、違うっぽい!!違うっぽい!!おパンツの色も忘れちゃってるっぽい!」
「夕立ィ!!!!」
「っぽいィ!?」
気が付いたら僕は夕立に抱きついていた。
僕の目の前にいるのはあの時の夕立だったから。
死んだと思っていたあの夕立だったから。
「うっ…!!ウゥわぁァァァッ!!ワアアァァァ!!!」
僕は大声で泣きじゃくった。人目を気にせず、ひたすらに泣いた。
夕立の胸の中で、服をグシャグシャに濡らしながら、泣いた。
「ぽ、ぽいぃ…。時雨が泣くなんて珍しいっぽい。これで、
一回目は、私が沈んだあの日。
「…イジワルしちゃってごめんなさい。それと、ただいまっぽい…時雨」
「うん…!うん…!!おかえり!夕立…!!」
〜〜〜
「まさか、ここが夕立が前に勤めていた鎮守府だったとはな…。
あいつ、そんなこと一度も言わなかったのに」
「時雨さんにドッキリを仕掛けるために内緒にしてたんですよ。ここの鎮守府の名前を出した途端、時雨ちゃんの名前を真っ先に聞いてきて嬉しそうに飛び跳ねてましたから」
白と赤を基調とした道着を華麗に着こなす黒髪ロングの大和撫子が隣に立って静かに微笑む。
「提督もお元気そうで何よりです」
「あぁ、赤城も来てくれてありがとう」
「加賀さんがいると聞いて思わず。私がいない間は飛龍さんが代理を勤めてくれます」
今回助っ人に来てくれたのは
【駆逐艦】
夕立 皐月 長月 曙 雷
【軽巡】
神通 大淀
【補給艦】
速吸
【空母艦】
赤城 鳳翔
【潜水艦】
伊58 伊168
【戦艦】
比叡 大和
【工作艦】
明石
の総勢15名。
まさかこんなにきてくれるとは思わなかった。
正直、四、五人も来てくれれば上等と思ってたくらいだ。
俺ってば思ってたよりも皆に愛されてたんだなぁ…。
「ぼのたんも来てくれるなんて思わなかったよ」
「だからその呼び方やめなさいよ!このクソ提督!!」
ぼのたんと呼ばれた駆逐艦 曙は提督の足を思いっきり蹴飛ばした。
普通に痛い!
でもなんかこれも懐かしいなぁ…。ぼのたんに毎日のようにセクハラを繰り返してそのたびに魚雷か主砲を撃ち込まれたものだ。
「とりあえず、夕立と時雨はもう少しそっとしておいてあげるか。他の子達は早速鎮守府に向かってくれ。…会いたい子もたくさんいるだろうしな」
「了解!」
〜〜〜
「……赤城さん、ですか?」
「初めまして、加賀さん」
〜〜〜
「雷…なのかい?」
「えぇそうよ!一週間だけだけど、よろしくね!響!!」
〜〜〜
「弥生だよね!僕は皐月!!」
「長月だ。初めまして。弥生」
「…は、初めまして!や、弥生です…!」
〜〜〜
それぞれがそれぞれの出会いと挨拶を交わす中、俺は手伝いに来てくれた子のうちの二人に声をかけた。
「明石、速吸。ちょっといいか」
「はい?」
「速吸にですか?」
二人を連れ、少し離れた建物へ向かう。
「工廠…ですか?」
「あぁ、ひどい状態だろ?え〜っと、あ、いたいた。夕張〜!!」
「フェッ!?あ、提督さん…っと、明石さんと速吸さん!?」
「前の鎮守府にいた子達だよ。ちょっと無理言って連れてきた」
大本営の調査によるとここの工廠を纏めていたのは夕張一人だという。
夕張の力不足だと言いたい訳ではないが、補給もままならない、開発もしない、ロクな建造も出来ない劣悪な環境下では満足に稼働していなかっただろう。
事実、建造に使っていたであろう建造ドック以外はほぼ使用された形跡がない。
前任は一体どんな運用をしていたのだ。
「どうだ?お前らの目から見てここは」
「…酷いですね。朝起きた提督の寝ぼけ顔くらいひどい」
「おい傷付くわ」
「よくこれで運用が出来ていたと逆に感心するくらいですよ。
速吸にはとても耐えられません」
二人はおもむろに工廠の至る所をジロジロと見廻し、時には機関に手を触れてその具合を確かめていた。
「入渠ドックは使った形跡が…。六日…いえ七日前でしょうか?
あぁ提督が入渠させたんですね」
「内部も錆びてそうですね…。根本から改修しないと崩れそうです」
二人はブツブツと独り言を呟きながら工廠を見て回る。
時折専門用語や材料の名前が出てくる辺り、二人の頭は完全に仕事モードに入ってしまったようだ。
頼もしい事この上ない。
「必要な資材はすぐに揃える。
どれくらいあったら直せそうだ?」
「二日は欲しいですね」
「そうですね。少なくても一日半は」
「たった二日!?」
夕張が信じられない様子で目を見開いた。
うむ、俺も信じられん!!
「いや、いくらお前らでも二日は流石に…」
「も、申し訳ありません。この調子だとまだまだ修繕箇所も出てきそうですし、多めに見積っているんです…」
多めに見積もってても二日なの…?
「…一週間以内には治るんだな?」
「あぁそれだけあれば」
「充分に元通りに出来ます」
「・・・」
夕張は呆気に取られ、口が半開きのまま固まっている。
カワイイ。あの口に指を突っ込んでみたい。
俺は夕張、明石、速吸の三人を置いて工廠から出た。
直後、工廠から明石の声が背中越しに聞こえてきた。
「目標は明日中!気合入れて行きましょー!!」
「おーーーー!!!」
「お、おーーー!!」
次回から一気に鎮守府は改修されます。
提督のセクハラも増えてくると思われ。