スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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提督と無人島 中

 

 

 

「保護した艦娘達は全員入渠ドックに入ってもらっている。身体はどこも異常なしだ」

 

「ッフゥ、よかった」

 

 武蔵の報告を聞いて一安心だ。一気に肩の荷が下りて溜めた息をホゥッと吐く。

 

「相棒。質問、いいだろうか?」

 

「…黒狼との事だろ?」

 

 肯定を示すように武蔵は頷く。

 ・・・提督は語り始めた。空風 黒狼との因縁を。

 

 

 

 

 

 あれは、俺がまだ海軍の新兵だった頃の話だ。

 だからもう、十年以上昔になる。

 俺と黒狼は海軍学校の同期仲間だったんだ。

 黒狼とは妙にウマが合ってな。

 

 

 俺たちは、親友だった。

 

 

「……それが、何故あんな事に…?」

 

 ・・・提督の脳裏に自然と思い浮かぶ。

 かつて肩を組み合い、下らない世間話に花を咲かせていた頃の俺と黒狼の姿が。

 

 

 黒狼が海軍に入隊してからずっと常日頃言っていた事がある。

『提督になりたい』

 だが知っての通り、提督になるためには妖精の視認が出来ることが条件だった。

 でも、黒狼にはどうしても妖精を視認する事が出来なかった。

 そのため、黒狼が提督に選ばれて鎮守府に配属される可能性は限りなく0に近かった。

 それでも、それでも黒狼は諦めきれなかったんだろうな。

 

 あいつは海兵として結果を残し、その実績を踏み台にして提督の座を手に入れようと考えたんだ。それからのあいつは凄かった。

 座学、護身術、指揮能力…どれをとっても、黒狼の右に出る奴はいなかった。

 教官に聞いたところ、黒狼ほどの好成績を収めた海兵は過去を振り返っても数えるほどしかいないそうだ。

 

 皆が認めていた。あいつは海軍一のエリートだ。

 だが、それでも…それでも、黒狼は提督になれなかった。

 

 

 そして……俺が、提督に選ばれた。

 

 

 その言葉に武蔵はハッとしたように目を見開き、やがて理解したように力無く数回頷いた。

 

「……なるほど、それで、彼は相棒の事を恨んで…」

 

 あぁ、多少なり黒狼は俺に思うところがあったんだろうな。

 俺が鎮守府に配属される事が決定してからも、黒狼は変わらず接してくれたんだが……そのうち、あいつは段々と俺と距離を取るようになっていった。

 そしてとうとう…ある事件が起きた事で、俺と黒狼の関係に決定的な亀裂が起こった。

 

 

「ある事件…?」

 

 

 あぁ、あの事件は……

 

 

 

「もういいだろ、影波」

 

 

 

 低い男の声が聞こえて反射的に声の方角を見る。

 やがて司令室の扉が開かれ、そこには黒狼と救助された艦娘の一人である秋月が並んで立っていた。

 

「昔の話をするな。てめえと俺はもうダチじゃねぇ」

 

 まだ疲弊が残っている秋月の事を気にしているのか、秋月の肩を支える黒狼。

 その姿だけで、黒狼が艦娘の事をぞんざいに扱うような非道な男ではないというのは明らかであった。

 なれど、俺の事を見る黒狼の目つきは憎悪で満たされている。

 その視線に俺も少しイラッときて、同じように睨み返した。

 

「随分嫌ってるな」

 

「……ッハ!好かれてると思ってんのか?」

 

「少なくとも、まだお前のことを信じてる俺がいる。お前とはきっと分かり合えると思ってる」

 

「そりゃ無理だ。俺にも譲れないもんってのはあんだよ」

 

「……残念だよ、それでお前は何の用だ?」

 

「世話になった事だし、一言挨拶でもと思ってな。

 正直、割とヤバいとこがあった。偶然なんだろうが、助かったぜ。ありがとう」

 

 …こうやって、わざわざ足を運んできて素直にお礼を言いにくるあたり、屈強な肉体とは裏腹に意外と義理堅い所が黒狼の憎めない所だ。

 

「なぁ、そういえば黒狼。

 武蔵から聞いたんだが、お前達無人島にいたんだよな?しかも、付近の海域の深海棲艦がほぼ壊滅していたらしい。

 武蔵にはバカンスとか言ってたらしいが、本当はどうしてあそこにいたんだ?」

 

 その時、黒狼は数瞬間押し黙る。

 僅かな沈黙の後、彼は隣に立つ秋月の事を見る。

 秋月が無言で頷く。

 そして、黒狼は意を決したように向き直した。

 

 

 黒狼は過去を語り始めた。

 自分と彼女達が無人島にいた、本当の理由を。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「なんで俺を提督にしてくれないんですか!!?」

「いい加減に理解しろ!妖精を視認できる者にしか、艦娘の力を引き出す事は出来んのだ!!」

 

 

 

 俺は、提督になりたかった。

 

 

 

「影波、お前は佐世保鎮守府に配属が決定した。

 お前はおそらく、提督として鎮守府に着任する事になるだろうな」

「きょ!恐縮です!!精一杯努めさせていただきます!!」

 

 

 

 でも、なれなかった。

 

 

 

「教官!!どこでもいいです!!!俺を艦娘のいる大型鎮守府に配属して下さい!!」

「よ、妖精の視認が出来ない君が行って一体なんになるんだ!!」

「憲兵として勤めます!!それなら妖精がどうとか関係ありませんよね!?」

 

 

 

 だから、憲兵になる事を選んだ。

 

 

 

「本日より、横須賀鎮守府に配属されました。

 空風 黒狼です。以後、よろしくお願いします!」

「よろしく頼むぞ、若い憲兵」

「はっ!!」

 

 

 

 俺は、日本最大規模の鎮守府である横須賀鎮守府に新入りの憲兵として配属された。

 横須賀鎮守府の提督は俺を快く迎え入れてくれた。

 そして、艦娘達に出会った。

 

「へぇー、君が新しく配属された憲兵さんかー」

「分からない事があったらいつでも聞いてね!!」

 

 横須賀鎮守府は居心地がよかった。

 俺の憧れだった艦娘達に会うことも出来た。

 俺より先に勤めていた先輩の憲兵達と行動を共にしながら、俺は一人の憲兵として横須賀鎮守府に尽くすようになっていった。

 

 ただ、艦娘と触れ合う機会の少ない憲兵という立場上仕方ないとはいえ、やはり艦娘と一対一で話すような機会はほとんどなかった。

 精々廊下ですれ違ったり、門の見張り番の時に通りがかった子が挨拶をしてくれる程度だった。

 

 

 そんな生活が何年続いた時だろう…。

 多分六年…いや七年だろうか。

 

 突然、横須賀提督からお呼び出しがかかった。

 

 

 

「黒狼。お前にひとつ、見てもらいたいモノがあるんだ。ついてこい」

「はっ!!」

 

 

 そこで案内されたのは司令室。

 提督は司令室に備えられている本棚に近づくと、その中からいくつもの分厚い本を取り出した。

 空洞になった棚の奥に、何か取っ手のようなものが見えたのが気になる。

 提督がそれを掴んで引くと本棚が回転ドアのように回った。そこは隠し扉だったんだ。長年勤めていながらそんな事ちっとも知らなかった。

 

「ついて来い」

 

 提督の指示に従い、俺は本棚の奥へと進む。

 扉の奥はそのまま薄暗い下り階段へと繋がっていた。

 湿り気のある冷たい風が吹いて身を包む。行き先はおそらく地下室だろう。

 

 ……暗い道中、歩き慣れてるような軽い足取りで進む提督の背中に、妙な警戒心が芽生えた。

 怪しいと肌で感じつつも、俺は転ばないよう足元に注意しながら提督の背中を追いかけることしかできなかった。

 

 長い階段を進む道中で、提督は振り返る事なく俺に問いかける。

 

 

「黒狼……お前、夜の経験はあるか?」

 

 

 夜の経験……。

 それが、海戦の夜戦を指す言葉ではない事は俺にも分かる。

 

「………学生時代に数回程…。それ以来は、一度も」

 

 沈黙に耐えられなくなっただけの何の意味もない世間話だと思った俺は、その質問に正直に答えた。

 だが、その答えを聞いた提督は意味深そうに笑った。

 

「そうか…それは楽しみだ」

 

 やがて、階段を下りたところで一つの鉄製の分厚そうな扉が行く手を塞ぐ。

 提督はその扉に鍵を刺すと、すぐさま錠を取り外して扉を開けた。

 

 

 

 俺はそこで、地獄を見た。

 

 

 

 

 

 そこは牢獄だった。

 地下道を挟み、いくつもの檻が並んでいた。

 檻は総じて血で汚れ、地面には得体の知れない液体や糞尿が散乱しており、お世辞にも清潔な環境とは言えない。

 

 いくつも並んだ檻の中の一つに、全裸のままで両手両足を鎖で繋がれた艦娘がいた。

 

 

 

「ヒィッ…!!!ッヤ、ヤダ…来ないでッ…!!」

 

 

 

 秋月だった。

 

 

 

 先に身体が動いていた。

 反射的に秋月の鎖を解こうとした俺は、すぐに檻を破壊しようと駆け寄ろうとした。

 だが、その肩を提督が掴んだと思うといきなり引き寄せられたのだ。

 

「提督殿!!何故止めるのですか!!?」

「黒狼。まずは落ち着け、落ち着くんだ」

 

 

 この状況で落ち着けというのか?一体何を言ってるんだ?

 

 

「よく考えろ黒狼。

 お前の目の前にいるのは、あの艦娘なのだぞ?美しく、気高く、男を惑わす麗しい女だ。

 その艦娘が、今お前の目の前で抵抗一つ出来ない姿で霰もない姿を晒している。この状況に、男として何か思うものはないかね?」

 

 

 提督殿……いや、貴様何を言ってるんだ…!?

 

 

「なに、負い目を感じる事はない。君より先に着任している憲兵達も皆この行事に参加している。

 なんなら、定期的に利用しているくらいだ」

 

 

 あぁ……。そうか、分かった。

 どうやら俺には人を見る目がないようだ。

 

 

「週に一度、担当の艦娘を交換する事になっているから、来週訪れてみたまえ。秋月じゃない他の誰かがそこに繋がってるはずだ」

 

 

 こんな男を、提督として敬っていたなんて…。

 

 

 

 

「秋月の具合は中々だ。楽しみたまえ、黒狼」

 

 

 

 

 

 そこからの記憶はあまり残っていない。

 

 

 

 

 ただ、いつの間にか俺は横須賀鎮守府に在籍していた数名の艦娘達を連れて脱走を図っていた。

 

 腐ってた提督と憲兵共は全員ぶち殺した。

 後悔はしていない。

 艦娘達を、救いたかったんだと思う。

 

 

 結論から言うと、確かに俺達は脱走に成功した。

 だが、詰めが甘かった。

 

 

 

 確かに俺は横須賀鎮守府で慰み物となっていた艦娘達を救い出したのかもしれない。

 だが、艦娘達が非人道的な扱いを受けていた事を知らない第三者には俺が『提督と憲兵達を襲って艦娘達を誘拐した犯罪者』にしか映らなかった。

 

 世間の勘違いは、あっという間に日本中の指名手配へと化した。噂というものはあっという間に知れ渡る。

 

 

 俺の居場所は日本になくなってしまったんだ。

 

 その結果、ほとぼりが冷めるまで脱走した艦娘達と共に遠海の無人島に身を潜める事となったのだ。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

「…そんな事が」

 

 黒狼の話は、あまりにも辛く暗いものだった。

 だが、その話を嘘だと切り捨てる事は武蔵には出来なかった。

 なにせ、かくいう自分だって舞鶴鎮守府で非人道的な扱いをされてきたのだから。

 

「……付近の海域には深海棲艦達がいたはずだ。それはどうした?」

 

「全員沈めた。

 今までは目立たないように海に艦娘を出す事もしなかったんだが、偶然索敵の雑魚に見つかったらしく、奴らの艦隊を送りこまれたんだ」

 

 事実、赤城が言った通り、ここ最近になって途端に深海棲艦達は集結し出したのだ。

 

「今になって無人島から表へ出てきたのは何故だ?」

 

「無人島に移動してから三年以上が経過して、俺の顔も世間から忘れられていると踏んだのと、魚や木の実、野菜だけで暮らすその場凌ぎの生活に限界が来ていたからだ。

 あと数日も遅ければヤバかったかもな」

 

「そうか……。これで私の謎は解けた」

 

 黙って聞いていた武蔵が、腕組みを解いて頭を下げた。

 

「すまなかったな…黒狼殿。

 私は、お前のことを非道な男なのではないかと疑っていた」

 

 黒狼は、ハッと鼻で笑う。

 

「俺がそんな男に見えるか?だったら嬉しいねぇ。

 三年以上のサバイバル生活のおかげか、身体が随分と逞しくなったんだ」

 

 だろうな。

 お前のその傷だらけ筋だらけの筋肉質な身体は目に悪い。主に浜風の。

 

「最後の質問をさせてくれ」

 

 武蔵がここで手を挙げる。

 

 

「あなたの正体と無人島にいた理由は理解した。

 次に、何故貴様は提督の事を嫌っている?」

 

 

 その質問は黒狼だけでなく、提督の表情も強張らせた。

 だが武蔵は怯まない。

 

「昔の二人は親友だったのだろう?それがどうしてあれほど険悪な事に?」

 

「・・・」

 

 黒狼は少し悩んだ。

 悩んだが…覚悟を決めて、その口を開いた。

 

 

 

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