「提督さーん♪お片付け終わったっぽーい♪」
「お!もう終わったのか!次は食事処の掃除を頼めるか?」
「その前にご褒美が欲しいっぽい!」
「〜〜〜ッ!!特別だゾォ!!」
夕立の柔らかい頭を思いっきり掴んでワシャワシャとこねくり回してやった。
「ンンッフフ〜♪エヘヘへ〜!!気持ちいいっぽい〜♪」
「提督〜!僕もやって〜!!」
「皐月もか!?ちゃんと掃除してきたんだろうな?」
「し、してくれたら頑張るから!!」
「こンの悪ガキが!」
と、言いつつ皐月も同様にワシャワシャしまくる。
「夕立もうひと頑張りしてくるっぽーい!」
「僕も〜!!」
日が経過するのも早いもので、鎮守府総出の大掃除が始まってから早三日が経った。最も懸念していた工廠の修理は明石と速吸の宣言通り、まさかの一日半で作業が終了。
後は食事処に食材を運び入れ、鎮守府外の外観整備を残すだけとなった。
うぅむ。かなり大規模な鎮守府なのであと一日位はかかると思っていたが、みなさん仕事人なんだねぇ…。
「俺も自分の仕事を終わらせとかないとな」
仕事道具を手さげカバンに詰め込んで、風呂場へと向かった。
〜〜〜
女子風呂
「……ッヨシ。カメラセット完了」
そのまま海を見渡せる大窓に、四十人は一気に浸かれるであろうだだっ広い大浴場。
疲れを癒すジェットバスに、二十人は入れるサウナと水風呂まで完備。
当初は外にベランダでも作って露天風呂も作ろうかと考えていたが、『提督が覗くのでダメ』と大淀と神通に中止にさせられた。
まぁそのために露天風呂を作ろうとしていたのだから二人の予想は当たっていると言える。
おかげでこんな手間をかけなくてはならなくなってしまった。
天井の壁に小さく穴を開け、小型のカメラをセット。さらにそれを誤魔化すようにダミーの換気扇を設置。
バッテリーは外付けの太陽光パネルから得ているので充電切れの心配ご無用!
どうしても換気扇の羽根がカメラに被る時が出るが、多少の犠牲はやむを得ない。
「さて、これであとはパソコンと連携させるだけだ」
上からダミーの換気扇を被せ、外れることがないか念入りに確認してから足場を一歩ずつ降りてまだ水を入れてない浴場に足をつける。
この作業をする為だけに足場を購入したのは内緒だ。
「よっしゃ!今日から風呂場を解放しよう」
作業を終え、浴場の戸を開く。
「作業お疲れ様です」
神通がいた。
一旦戸を閉めた。
「…フゥ。ッヨシ!」
戸を開いた。
「何故閉めたのですか」
大淀がいた。
一旦戸を閉めた。
「…フゥ。ッヨシ!」
戸を開いた。
「そこに直りなさい」
鳳翔がいた。
一旦戸を閉めた。
「いやいつまでやる気なんですか!?」
神通が戸を蹴破る!
その瞳には殺意さえ感じられる。
「ウォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
声の限り叫び、その場から逃走をはかる!
「逃げるが勝ちってんだ!」
大声に一瞬怯んだ三人の間を走り抜け、入り口に向かって猛ダッシュ!
あと少しだ!あと数メートルで脱衣場から抜け出せる!
脱衣所の引き戸まであと少し…!
「逃しませんよ」ズドォ!!
戸の持ち手に一本の矢が深々と刺さった。
もしあと数瞬触れるのが早ければ深々と矢が刺さったのは俺の右手だったかもしれない…。
「お見事です鳳翔さん」
「鳳翔さん完全に殺しに来てますね」
「次は目を射ちます」
多分嘘ではない。
さっきからビシビシとぶつけられる怒りの視線とギリギリ音を立てる弓の弦がそれを証明している。
「落ち着いてくれ!!ほ、ほら!人間には本能ってもんが!!」
「そ の 前 に あ な た は 軍 人 で す」
あ、三人とも相当プッツン来てるなこれ。
しからば!
「職権濫用させてもらうぜ。神通、大淀、鳳翔。これは提督命令だ。道を開けろ」
『拒否します』
「では提督としてではなく俺個人からのお願いだ。助けて下さい」
ここで神通は俺の顔面に主砲を撃った。
〜〜〜
「…フッ、俺じゃなきゃ死んでたぜ」
「えぇ、多分あなた以外なら死にます」
水雷戦隊最強を謳われる神通の主砲を顔面で受け止めて笑いにできる人間は後にも先にもこの提督ぐらいだろう。
放っておけばいいのに神通も神通で自分が撃ったのに自分で傷の手当てをしているのだから可愛いものだ。
案外この手当てする時間が気に入ってるのかもしれない。
「とりあえず、提督が隠した監視カメラは全て回収させてもらいましたので」
「仕事の早い事で。それと、俺はもうお前の提督ではないんだぞ?」
「!!……そうでした。えっと…ではなんとお呼びすれば?」
「ご主人様…とか?」
「漣ちゃんじゃないですか」
クスクスと神通は微笑む。『やっぱり提督と呼ばせて下さい』とお淑やかに微笑む彼女の姿に思わずドキッとしてしまう。
鬼教官だの武神だの大人しい容姿には似つかわしくない散々な言われようの彼女だが、こうして物静かに笑う姿は年相応の女の子だ。
「そろそろ食事処に食材が運ばれてる頃かな。見に行ってみるか」
「お供しますよ。どさくさに紛れてカメラをどこかに仕掛けたりしないように」
……チッ!!バレてーら。
潔く軍服に忍ばせていた小型カメラを神通に渡した。
「お前ら今日までの三日間お疲れ様!今日は俺じゃなくて鳳翔が飯を作ってくれた!お残しは許しまへんで!」
『いただきまーす!』
食事処には既にたくさんの食材や調理器具が運び込まれており、外観の整備作業もほぼ終了。
よって鎮守府の復旧はほぼ完璧に完了していた。
食事処が完成して色々キリがいいという事もあり、少し早めの昼食にする事になった。
メニューは鳳翔さんお手製の唐揚げである。
少し濃いめの味付けが日々の海戦で疲れた艦娘達に非常に好評であり、以前の鎮守府では一・二を争う人気メニューだった。
「いくら加賀さんといえども唐揚げだけは譲れません!」
「時雨〜!一緒に食べようっぽい!」
「Shit!!こんなオイシイものを比叡はいつも食べてたんですカー!?」
「ヒエエェ!!ごめんなさい金剛お姉様!!」
食事処として本来あるべきの賑やかさを取り戻している。
そして、食堂のちょうど真ん中。
提督は一人の凛々しい艦娘と机を挟み、唐揚げをほおばっていた。
「な、なぁ神通。いい加減機嫌直してくれよ…」
「・・・」
こりゃプッツンだなぁ…。
まさかここまで不機嫌になられるとは思わなかった。
いや、確かに監視カメラ仕掛けて覗こうとした俺が悪いのはそうなんだけどさ…。
「司令官!しっかり野菜も食べてる!?」
「Спасибо(ありがとう)雷に会える日が来るなんて夢のようだよ」
「大丈夫だぞ響!!なんなら雷だけじゃなくて、いつかはお前ら第六駆逐隊メンバー全員揃えてやっからな!」
「本当かい!?」
「そうよ!司令官の前の鎮守府には暁と電だっているんだから!」
響と雷のちびっ子二名がトテトテと寄ってきて一つ唐揚げをくれた。はいカワイイ!
「…やっぱり提督の事は許してあげません」
「え!?なんで!?」
ふと前を向くと神通が口を尖らせてむくれてしまっている。
正直可愛いけれども何故そんな態度をとる!?