スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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提督と無人島 大

 

 

 

 俺達の仲違いのきっかけとなった忌まわしき『リアルスコープ事件』の解決に至り、俺と黒狼は固い握手を交わした。その横で腕を組みながらこちらを見る武蔵の視線が妙に冷たいのが気になる。

 

「改めてこれからよろしくな、黒狼」

 

「あぁ、こちらこそ。影n…いや提督。

 それで、いきなりの相談なんだがな…。俺が連れてきた無人島にいた艦娘達を…あの子達を、どうかこの鎮守府に置いてくれ」

 

 !!!

 この発言には武蔵も表情を変えた。

 

「それは…」

「分かってる。いきなり十人以上も増員されては対応が難しいだろうとは思う。それでもあの子達にはここしかねえんだ」

 

 黒狼はその場に土下座までした。

 さっきまで憎んでいた俺に…自分よりも体格の劣る俺に…黒狼は一瞬の迷いもなく、頭を地面につけたのだ。

 

 親友の土下座を見て慌てて俺も駆け寄った。

 

「おいおい待て待て!!頭を上げろ!」

 

「頼む!あの子達を助けてくれ。親友のお前にしか託せねぇんだ」

 

 黒狼は決して頭を上げようとしなかった。多分、俺がイエスと言うまでずっとこの姿勢でいるつもりだ。

 随分力任せな交渉だ。

 

「黒狼…悪いけど、その役目は守れないよ」

 

 その言葉に黒狼は反射的に頭を上げた。ひどくショックを受けて、絶望したような表情で俺を見る。

 

「今の俺は鎮守府の運営で手一杯なんだ。艦娘一人一人に目を向ける余裕なんてない」

 

「そ、そこをなんとか頼む…!!」

 

「俺には無理だ」

 

「・・・ッ!!!!」

 

 黒狼は諦めたように項垂れる。その苦しそうな肩に俺は手を置いた。

 

「………だからよ、お前がやれ」

 

「……は?」

 

「お前、今無職だよな。どうだ?

 俺の鎮守府で憲兵として働いてみないか?」

 

「んなっ!!?」

 

 黒狼は驚いたように目を見開いたが、それもすぐに鳴りを潜めた。何かを思い出したように段々と元気がなくなっていったのだ。

 

「……そりゃありがたい提案だが、やめとけ。

 俺は横須賀の提督と憲兵をぶち殺して、日本中で指名手配されてんだぜ?

 ま、あれから三年以上も経ってるんだし、そこそこ顔も忘れられてると思うが…」

 

「だからこそだよ。

 艦娘のために自分の人生を捨てるような男が警護してくれるなんて安心感半端ねぇよ」

 

 黒狼は困ったように苦笑した。

 

「おいおい、俺は人殺しだぞ?人殺しに守ってもらいたがる奴がどこにいるよ」

 

「いや、お前はもうしないだろ?」

 

「そ、そりゃそうだが……」

 

「黒狼、俺はお前にここで働いて欲しいんだよ。

 過去は過去。今は今。

 過去のお前がどれほどやらかしていようが、俺にとっては今のお前が全てだ。

 遠い未来、またお前がやらかすっていうんなら今のうちに対応しなくちゃだけど…、もうしないんだろ?」

 

「…あぁ、お前があの時のクズ共みたいにならなければな」

 

「よし、それなら問題ないな」

 

 とは言うものの…実際は問題だらけだ。

 前科というものは、その人の人間性を知る上での重要な指標となる。

 それに目を瞑り、増してや書面上の契約ですらない…ついさっき交わした単なる口約束だけで相手を信用して雇用するなど責任ある立場がしてよい行動ではない事は誰の目にも明らかだ。

 だからこの場で黒狼を雇用するのは…はっきりと言えば私情だ。

 同期であり、仲間であり、親友である黒狼が不当な理由で捕まるのを黙って見送れるほど、情がない訳ではない。

 

 黒狼は照れ臭そうに頬を掻く。

 

 

「……それに、お前が鎮守府を去って行ったら()()()()何人かがお前についていっちまいそうなんでね」

 

 俺は司令室の扉を指差す。

 その時、司令室の外で大きな音が聞こえた。その音に反応して黒狼も司令室の外を見る。

 

「・・・」

 

 数瞬間の沈黙が流れる。

 

 

 そして、とうとう観念したのか扉が開かれてゾロゾロと艦娘が入ってくる。

 秋月、照月、初月、冬月、最上、三隈、鈴谷、熊野、北上、大井、大鳳、伊401

 

 全員、黒狼と共に無人島に隠れ住んでいた艦娘だった。

 

「そんな大人数で来てたらバレバレだって」

「…お前ら」

 

「あう…ご、ごめんなさい提督…」

 

 そう言って頭を下げるのは照月。照月が提督と呼んだのは俺ではない。

 照月は、黒狼の事を提督と呼んだのだ。

 

「ん?なんでお前のことを提督って呼ぶんだ」

 

「さぁな、無人島で暮らしてるうちにいつの間にか定着してた」

 

 あ、そう。お前の人望って事かしら…?それなら仕方ないが、俺とごっちゃになるから出来ればやめてほしい。

 

「さて、黒狼。どうする?

 大本営へは俺の方から話しておく。各方面への根回しは任せてくれ。あとはお前次第だ」

 

「・・・」

 

 黒狼は長考する。

 そして、観念したように深い溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「似合ってるぜ、黒狼」

 

「……ったく、お前の下につく日が来るとはな」

 

 大本営から支給される憲兵装衣を見に纏い、正式に舞鶴鎮守府所属の憲兵となった空風 黒狼。

 元々体格に恵まれているのも相まって、屈強なオーラに凄みが増す。

 提督志願者に掛ける言葉としては申し訳ないのだが、やはり黒狼は提督として上に立つよりも現場で前に出てる方が似合っている。

 

「ていとッ…じゃなくって…」

 

 秋月が黒狼をつい提督と呼ぼうとしてしまい、思わず言い淀む。

 

「おいおい秋月。俺を提督って呼ぶのは禁止っつったろ?」

 

「うぅ〜…」

 

 提督になる夢をすっぱりと諦め、憲兵として生きる事を決めた黒狼。

 俺の鎮守府所属の憲兵として働く事を決めた黒狼が一番最初に言った事が、自分を提督と呼ぶことの一切の禁止だ。

 もう自分を提督と呼んではならない。それを決めたのは他ならぬ黒狼なのだ。

 そのため、黒狼の事を七年近く提督と呼び慕ってきていた無人島組の艦娘達は大いに呼び方に難儀する事となったのだ。

 

「そうだな…憲兵さんか、黒狼でいいさ。

 それよりも提督。俺はどんな事をすればいいんだ?」

 

「そうだな…。とりあえず鎮守府の門番をメインに、陸で艦娘達に稽古をつけてやってくれないか?」

 

 それを聞いた黒狼は鼻で笑う。

 

「っは!!海上で撃ち合ってる娘っ子に陸での殴り合いを教えろって?どんな冗談だよ」

 

 それはその通りかもしれない。

 艦娘達の戦場は主に海の上であり、使用する武器も己の拳などでは無く、その身体に装着した艤装なのだ。

 俺達人間の海兵が習う格闘術など、艦娘達にはなんの役にも立たないだろう。それは俺だってよく分かっている。

 だから、お前が艦娘達に教えてやってほしいのは格闘術ではない。

 

「護身術だ。対人を想定したものをな」

 

「あぁー、なるほどな。『過激派』への対抗手段か」

 

 

 ─過激派─

 

 それは、艦娘達の使役に異議を唱える『反対派』の中でも特にその思想が強い集団の事である。

 かつて沈んだ船が人の姿を成して現れた人間とは異なる存在。それが艦娘なのだ。それ以外は普通の人と変わりないとしても、それだけは動かない事実。

 そんな『人とは異なる存在』に命を守ってもらっている状況が気に入らないのかは分からないが、特に理由や根拠も持たずに艦娘の存在は不要であるとただ騒ぎ立てるだけの頭の悪い集団だ。

 もしも本当に艦娘達が一人残らずいなくなってしまったら残った深海棲艦の事はどうするつもりなのだろうか?

 適当に核爆弾でも落とすか?姫級とか鬼級にはあまり効果なさそうだし、深海棲艦の前に地球に限界がきてしまいそうだがな。

 

 そして、そんな頭の悪い集団の中でも特に暴力的で艦娘達に嫌がらせをする連中がこの過激派と呼ばれる集団だ。

 石を投げられたり脅迫文を送られる位ならまだいい。

 束の間の休日に街へと出ていた艦娘に人知れず暴力を振るったなんて事件もあるくらいだ。

 下手な深海棲艦よりもよっぽど警戒しなくてはならない敵である。

 

 そして、黒狼にはその危険極まりない集団から身を守る術を皆に教えてやってほしいのだ。

 

「そういう事なら任せときな。こいつらにもみっちり教えこんでやる」

 

 黒狼は秋月の頭に手を置いた。

 髪がボサボサになる事も気にしていないような雑な手つきで頭を撫でる。

 

「キャッ!な、何するんですか!!?」

 

「ハハハッ!やっぱ秋月はちょうど撫でやすい位置に頭があるな」

 

 頬を真っ赤にして怒る秋月を気にもせず、気持ちのいい笑顔を浮かべながらわしゃわしゃと頭を撫でまくる黒狼。

 なんだろう、年頃の娘っ子を扱う近所の兄貴感すごい。

 

「改めて感謝するぜ。

 こいつらと一緒にまた鎮守府にいられるなんてよ」

 

「あぁ、お前が探してるっていう艦娘もいつか見つけてやるよ」

 

「あぁ、頼む」

 

 新兵時代、たわいも無い話をする流れで自分が提督を目指す理由を教えてくれた事があったのだ。

 突然襲ってきた深海棲艦から幼い自分の命を救ってくれた名前も知らない一人の艦娘。

 黒狼は、あの時助けてくれた艦娘に一言お礼を言う為…差し引いては助けてくれた艦娘達への恩返しの為に提督を目指していたのだ。

 

「……そろそろ、無人島組の皆の入渠も終わる頃だろう…。舞鶴の皆にもお前達を紹介しなくちゃな」

 

「分かった。ただ、ちょっと先に行っててくれ」

 

 黒狼含む無人島組の艦娘達を連れて大広間に集まろうとしたその時だった。

 黒狼が急ぎ足で司令室の扉を開く。

 

「ちょっとトイレ」

 

 あぁ、なるほど。

 と、黒狼の動きを疑問に思う事もなく先に大広間へ向かおうとしたその時…秋月が黒狼の動きを見て首を傾げた。

 

 すると、何かを思い出したように秋月の表情が段々と険しくなってゆく。

 その時の秋月はまさに般若のお面。

 憤怒の表情であった。

 

「ちょっとテイト…いえ、憲兵さん!!!

 あなたまさかとは思いますけど!!!」

「ゲッ…もうバレたか」

 

 逃げ出そうとする黒狼の服を間一髪で掴んだ秋月は慌てて引き戻す。黒狼は秋月に見えないよう、手に持った何かをポケットの中に放り込んだ。

 だが、それを見逃す秋月ではない。

 

「今隠したもの!見せなさい!!」

 

「……へいへい」

 

 黒狼がポケットに隠したもの、それは…

 

「タ、タバコ…?」

 

 タバコの入った箱だった。

 黒狼は、イタズラのバレた子供のように苦しそうに笑う。

 

「……ヘヘッ、無人島生活で三年以上も吸ってなかったんだ。いい加減ニコチン摂取させてくれ」

 

「ダメですよ!!もう〜横須賀の時から言ってるじゃないですか!!

 タバコは身体に悪いからメッ!!ですよ!!」

 

「い、いやぁ〜…だがな」

 

「言い訳は聞きません!他に隠してるものも出しなさい!!」

 

 叱られた黒狼は潔くポケットからもう二つタバコの箱を取り出すと秋月に手渡した。

 秋月の頭上に赤い怒りマークが見えた気がする。多分幻覚ではない。

 

「さてはここに来る道中の売店で購入してましたね!?

 門番の最中隠れて吸ってたりしたら絶対許しませんから!!」

 

「おいおい、せめて一日一箱くらいは…」

 

「メッ!!!」

 

 秋月に叱られる黒狼。

 筋肉隆々とした恵まれた体格と男前な顔面をした黒狼が自分よりも一回り小さい秋月に叱られて、一発で萎縮してる姿はなんとも微笑ましい光景である。

 

 

 

 舞鶴鎮守府の憲兵さんは、愛煙家でした。

 

 




 これにて無人島編は終了となります。
 次回からはまた日常回に戻していきます。
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