過去一最低なタイトルですね。
皆が寝静まった深い夜。
今宵の月は雲に隠れていた。
僅かばかりに土を照らすお星様達でさえも今夜ばかりはその顔を隠し、ただ静寂に支配されるばかり。
人とは光の中で動き、闇の中で眠るもの。
ゆえに、凛々しく気高い艦娘達も深い闇の中ではその瞳を閉ざし、か弱い一人の女へと戻るのだ。
夜とは恐れるものではない。ソレは神が愚かな人類に与え給うた安らぎの時間なのだ。
だからこそ………神よ、問おう。
月のない夜に動くこの男は阿呆だというのか?
闇に紛れた黒い影を、貴様は愚かと笑うのか?
暗闇に支配されたこの舞鶴鎮守府にただ一人。
闇に紛れて蠢く一人の男がいた。
男は異様な姿であった。
闇に紛れる黒い装束。顔半分を覆った黒いマスクは決して表情を映さない。
…もしも今の男を目撃する者がいたならば、間違いなく侵入者を指し示す警報が鎮守府中に鳴り響いていた事だろう。
今の彼ほど太陽が似合わない男もそうはいまい。
鎮守府のすぐそばを流れる波の音が男の耳に届く。静かだ。普段は心地よく感じる波の音さえもやかましいと思ってしまうほどに。
男の足取りからは一つの足音さえも出なかった。
衣擦れによる音の一つも立てる事なく、男は暗い暗い闇の中を壁沿いに伝う事でなんとか歩を進めていた。
男は迷いない足取りで大浴場へと侵入した。
そのまま海を見渡せる大窓に、四十人は一気に浸かれるであろうだだっ広い大浴場。
疲れを癒すジェットバスに、二十人は入れるサウナと水風呂まで完備された浴場に、男は一人で立っていた。
男の目的は分からない。だが、男は決して迷いなく業務を始めた。
(………さぁ、お仕事の時間だ)
男は大浴場の真ん中に脚立を置いた。
天井の壁に小さく穴を開け、小型のカメラをセット。さらにそれを誤魔化すようにダミーの換気扇を設置。
外付けの太陽光パネルから引っ張ってきたケーブルとカメラのバッテリーを繋げてしまえば、男の業務は全て完了する。
あとはカメラの映像と執務室のパソコンをリンクさせてしまえば男の勝利だ。
「……ッヨシ、カメラセット完了」
仕事を終えた男は、満足気に浴場の扉を開く。
「こんな遅くまでご苦労様です」
神通がいた。
一旦戸を閉めた。
「……ッフゥ。ッヨシ!」
戸を開いた。
「何故閉めたんだ」
武蔵がいた。
一旦戸を閉めた。
「……ッフゥ。ッヨシ!」
戸を開いた。
「そこに正座」
加賀がいた。
一旦戸を閉めて………全速力で逃げた!
「この流れもういいですから!!!!」
神通が扉を砲撃で吹き飛ばし、武蔵と加賀の超火力が提督を襲う。
その後はまぁ、その……うん。
…………神よ、問おう。
月のない夜に動くこの男は阿呆だというのか?
闇に紛れた黒い影を、貴様は愚かと笑うのか?
「いや何をやってんだよ」
「何ってナニだよ」
「……バカかお前は」
いつもの主砲を受け止めて、顔中から煙を吐く提督に冷ややかな目を向ける黒狼。多分神通にぶっ叩かれたのであろう頬に残る紅葉型の跡が痛々しい。
だが、常人ならば間違いなく即死してるはずの主砲を顔面で受け止めておきながら、平然とした様子で欠伸を吐く提督の姿に流石の黒狼といえども呆れの感情が顔を出す。
そして同情の気持ちは一切湧いてこなかった。
「つーか、今日は門番してなくていいのか?」
「……どうせ誰も来やしねーよ」
要するにサボりである。
「あ、そう。……ま、それよりも黒狼さんよ、男同士、ここは一つ情報共有と行こうぜ?」
「情報?なんのだよ」
「そりゃお前、艦娘達のパンツの色とかスリーサイズとか性感帯とか」
……………黒狼の知ってる影波という男は、ここまで大っぴらにクズ発言する男ではなかったと思うのだが…。
「まぁ、別に俺は秋月や大井の
もしこの場に秋月がいたならば『よくない!!』と殴り込みに来てる所だろうが、それをする者はここにはいない。
黒狼は、かつて自分の部下であった無人島組のプライバシーを全く守らずにむしろ暴露する気満々である。
「そりゃもちろん、そうだな……青葉は白を履いてるぞ」
「へぇ…意外と素朴なの履いてんだな。実は北上と大井も白履いてんだぜ?」
「お、マジか意外〜!俺が一番意外だったのは、清楚で純情な翔鶴が紫の紐パン付けてた事だな」
「なにぃ!?マジかよ、あの翔鶴が紐パンか…。意外といえば、やっぱ最上だな…。あいつ普段は一人称僕とかつけてボーイッシュ気取ってるくせに、パンツは黒のレースだったんだぞ。中々色気あるの付けてやがった」
「おぉ!これは今日の妄想もはかどるなぁ…。 あ、五月雨は水色の縞パン履いてるぜ。一回冗談でパンツ見せてって頼んだら本当に見せてくれた事あるからな。良心が傷んだものだが、とりあえず……五月雨ちゃんマジ天使!」
「フハハ!そりゃ笑うわ。あ、そういや熊野はなー「ストオォォォーーーッッップウウ!!!!!」
ゲラゲラ笑いながら乙女達の痴態を次々に暴露していくクズ二名に、ついに神の鉄槌が下された。
偶々近くを通りがかった鈴谷の雄叫びとゲンコツの鈍い音が鎮守府の庭に響き渡る。
「何話してんの何話してんの!?パンツの色とかそんな大っぴらに暴露しないでくんない!?」
「何言ってんだ、別に減るものでもなし」
「どの口で言ってんのさ!!このヘンタイ!スケベ!スカボンタン!」
真っ赤な顔して怒鳴る鈴谷だったが、肝心の黒狼は鈴谷の怒声にも反応せず、右から左へと聞き流している。
馬の耳に念仏とは正にこの事。
鈴谷も段々怒鳴ることに疲れてきたのか、やがて諦めたように項垂れて、最後に俺の方に向かい直ると突然俺の鼻を引っ張った。
「痛テテテ…!!鈴谷鼻がもげる!」
「もげちゃえば?乙女の気持ちが分かんないダメ提督なんてもう知らない!」
鈴谷はわざとらしく口を尖らせてそっぽを向く。
分かりやすく拗ねる鈴谷の姿に提督は妙な既視感があった。そしてすぐに思い出す。
ほっぺを膨らませ、顔を逸らして唇を尖らせる今の鈴谷と同じ顔をすでに夕立、白露、ニム、金剛がしてた事を。
あぁ〜〜、なんか小さな子供が拗ねちゃった時みたいにちょっと焦るけど、微笑ましいような気持ちになる。
あれ?そうなると見てて微笑ましい気持ちになる金剛って実は駆逐艦だった?
「ごめんごめん。パンツの話はもうやめっから、な?」
「パンツ………ま、まぁもういいや。今日のとこは許してあげる。次はないからね?」
鈴谷は最後に一つ溜息を吐くと、すぐに建物に向かって歩き始めた。
やれやれ、年頃の乙女の扱い方は難しいなぁ…。
背を向けて歩く鈴谷の背中を見ながら、男二人は壁にもたれかかる。
「しかし、改めてありがとな影波。鈴谷があんなに軽口叩くようになったのを見てると、つい目元が潤んできちまいそうだ」
黒狼からの素直な感謝の言葉に照れ臭くなり、思わず頬を掻く。
「い、いやぁ〜…ハハ…」
「そんな事で照れるなよ、親友」
「お、おい親友って言うな」
「照れんな、親友」
「だ、だから…!!」
と、その時───
突如、海から運ばれてきた巨大な突風が提督達を襲った。
「うおっ!!なんか今日は風強いな」
「だ、だな。ビックリした」
一瞬目を閉じた二人は、砂が目に入り込まないようにゆっくりと目を開いた。
その時に、二人の男は突如として目の前に広がった、息を呑むほどに美しい風景を前に、思わず呆然と立ちつくした。
一体、何を見たと思う?
「キャアッ!!!か、風!!?!?」バサァッ‼︎
ユリの花を見た。
真っ白な、真っ白なユリの花を見たんだ。
野原に咲いた一輪の花を──
朝日に照らされる純白の花を──
男にくっつく女の花弁を──
男達は見た。
あの日見た花の名前は───
「パンツ!パンツです!!」
「ありがとうございます!!」
「うっっさい!!!!このバーーーカァ!!!!」