スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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北上と大井

 

 

 

 大井と言います。

 

 

 私は横須賀鎮守府の出身でしたが、色々あって今は舞鶴鎮守府にて新しい提督の下で働いています。

 まぁ働いてるといっても、別に何か任務に駆り出される訳でもないので、最近はただ練度上げの演習に北上さんと一緒にのめり込んでいるだけなのだけど。

 

 それにしても、ここの提督はなんて指揮をするのかしら…。あ、悪い意味じゃなくて。

 まるで敵の砲撃が来る位置が分かってるような、相手の動きを読み切ってるかのような的確で迷いのない指揮を取るあの提督。

 少々人間性に難はあるけれど……まぁ、それは黒狼さん改め、憲兵の方にも言える事だし、私は特別気にならない。

 北上さんのシャワーを覗こうとして天井裏に忍び込んでいた時には流石に魚雷撃ちましたけど。

 

 ただ、あの提督のおかげで私も北上さんものびのびと演習に取り組めていて、最効率……とまでは流石に行かないが、中々早いペースで練度を上げられているので、それ自体は感謝しなくちゃね。

 

 さて、どうして私と北上さんはそんなに急いで練度上げに勤しんでいるのか?

 

 

 それは、私達には夢があるから。

 

 

 【雷巡】になること。

 

 

 私と北上さんの、昔からの大きな夢。

 

 妹の木曾も雷巡になる事は可能だけれど、木曾本人が“今は練度を上げることよりも技を磨く事を優先したい“と、断った。

 まぁ、木曾の戦闘センスは私達よりも格段に優れているし、相手を見て覚える観察眼も持っている。放っておいたらいつの間にか雷巡になってるんじゃないかと思わせる程の才能が木曾にはある。

 私と北上さんと違って、ドロップ艦である木曾の練度は私達よりも低いのだけれど、正直練度上げの最中にあっさり追い抜かれてしまうんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたので、木曾が今回の話を断ってくれた時にちょっとホッとしてしまった。情けない。

 

 さて、それはそうとして…私と北上さんは、今日も今日とて雷装を中心にした演習に没頭していた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…っ!」

 

「大井っち〜…今日はここまでにしとこうよ。これ以上は流石に…」

 

「ご、ごめんなさい北上さん。あとちょっと…!」

 

 思わず口に出た一言。

 まだ自分が納得できるまで演習が出来ていなかった故の言葉だが、こちらに目を向ける北上さんの表情は、あまりにも疲れ切った表情をしていた。

 

 北上さんの表情を見て、すぐに考えを改めた。

 

「そ、そうですね…。今日はこのくらいにしときましょうか」

 

「ハァ、ハァ……そうだよ、あんましやりすぎても逆効果だよ」

 

 北上さんの手を取って、私達二人は演習場を後にした。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 演習場から立ち去ってゆく二人。

 

 その憔悴しきった後ろ姿を心配そうに見つめる、二人の艦娘がいた。

 

「…大井も北上も頑張るニャ〜」

 

「あぁ、努力家な妹で、姉ちゃんも誇らしいクマ」

 

 球磨と多摩。

 二人は鎮守府の二階の窓から、入渠ドックへと向かう二人の背中を食い入るような目で見守っている。

 姉妹艦として、教導艦として、艦隊の先輩として。

 彼女達二人は北上と大井の事が心配でたまらなかったのだ。

 なんだかんだいい姉である。

 

「多摩にはあんなに必死になって頑張る気持ち全然分かんないニャ〜」

 

(よく言うクマ、姉ちゃんよりも先に改ニに到達した癖に)

 

 球磨もかなり早い段階で改ニに到達したが、多摩はそれを軽々と追い抜かして歴代最速の到達スピードで改ニに変化した正真正銘の天才である。

 とはいえ……肝心の多摩は戦場に出る事(というか働く事)が大嫌いなので完全に宝の持ち腐れなのだが。

 

「北上と大井はなれるかニャ?改ニ」

 

「球磨の妹だぞ。なれるに決まってるクマ」

 

「多摩にとっても妹だニャ。うん、きっと大丈夫だニャ」

 

 球磨も多摩も二人が必ず改ニに到達し、雷巡となる事が出来ると信じている。

 ただ───

 

(ただ少し、時間はかかるクマな……)

 

 今の地道なやり方では時間がかかる。

 となると、何か効率的な道を示してやりたい所だが……生憎、球磨にはその方法は思いつかなかった。

 

(せめて、二人が改ニになる為の指導を誰か出来ないもんかクマ……)

 

 球磨、もしくは多摩が教導艦として指導をする案ももちろんあるが、球磨も多摩もどちらかと言えば感覚で出来てしまう天才肌なので、はっきり言って教えるのには向いていない。

 

 砲撃や航行なんかの基礎的な事ならまだしも、自分達とは全く違う雷巡になる為の指導なんか出来たものじゃない。

 いやそもそも雷巡になれる艦娘自体がウチの下三名くらいしかいないのだからもう詰んでる。

 

 

 うぅむ…、せめて改ニにまで到達していて、鍛錬のやり方を心得ていて、人に物事を教えるのに向いていて、砲撃、雷撃共に隙のない夜戦が得意な軽巡がいれば適任なのだが…。

 

 

「あっ」

 

 

 いた。

 適任がいた。

 改ニに到達していて、ケッコンカッコカリ寸前まで練度が上がるほどに鍛錬に励んでて、駆逐艦達から鬼教官と呼ばれるくらい物事を教える適性があって、砲撃・雷撃共に敵無しの舞鶴鎮守府最強の艦娘にも数えられている軽巡が一人いた。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「え、えと…球磨さんの推薦を受け、お二人の指導に参りました。川内型軽巡洋艦二番艦の神通です。以後、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いしま〜す」

「よ、よろしくお願いします!」

 

 一体何故自分が指導者として推薦されたのか全く心当たりがない為、少し戸惑っている様子の神通とは反対に、北上と大井は緊張していた。

 

 北上も大井の夢である雷巡洋艦。

 二人がその姿を求めるのはそれ即ち、強さを渇望している証拠に他ならない。

 であれば、同じ軽巡洋艦でありながら舞鶴鎮守府はおろか日本全国の艦娘全員を含めても間違いなく五本の指には入るであろう化け物級の強さを誇る神通の事を心より尊敬し、憧れる事は当然であった。

 そんな人知れず羨望の対象になっている神通から直々に稽古をつけてくれるなんて、あまりにも光栄であった。

 

 まぁ、実際の神通は一年中提督の事で頭がいっぱいの割と残念な女の子なのだが。

 

「さて、お二人は雷巡になる為に改ニを目指している、とのことでしたね?」

 

「はい!」

「はい!」

 

 「・・・ふむ」

 

 神通は少し黙考する。

 神通の目に映るのは、北上と大井の展開した艤装、砲口、そして、身体の筋肉量と発達した部位。

 神通は一つ一つを吟味するように、北上と大井の身体をよく観察していく。

 

 やがて、静かに口を開いた。

 

「今のお二人の力量を見てみたいので、試しに一人ずつあそこの的を撃ってみてもらえませんか?」

 

『はい!』

 

 北上と大井は、神通の指差す方向を見てみて───困惑した。

 

 

「………え?あ、あの……どの的に、当てるんですか?」

 

「へ?あ、すみません。あの奥にある的にですよ。分かりづらい言い方をしてしまいましたね」

 

「…………………はい?」

 

 神通の指差す先には確かに二つの的があった。

 二つの的それぞれが横一列に並んでおり、確かに私達一人ずつが試し撃ちをするのにはちょうどいいだろう。

 

 

 その、キチガイのような距離を無視すればだが……。

 

 

 北上達の目に映る的は豆のごとく小さかった。的の大きさは大体工事用バルーンの二倍ちょいというかなり大型のサイズなのに……。

 的から北上達への距離は……一体いくつだろうか。目測だと、三十kmは超えてるんじゃないか?

 軽巡洋艦の砲撃の射程距離は一般的に十キロから十八キロ程度だ。

 どう考えても軽巡洋艦の射程を大幅に上回っている…。

 

 目で見つけるのも困難なのに、ましてや当てろと?

 人間技…いや艦娘技ではない。

 流石の大井と北上も抗議の声を上げる。

 

「いやいやぁ〜…神通さん冗談キツいですって。あれに当てるなんてそれこそ戦艦じゃなきゃ無理っすよ〜」

 

「キ、北上さんに同意します。軽巡洋艦に当てられる飛距離を大幅に上回っているように見受けられます」

 

「え?……あ!そ、そうですよね。お二人はまだ修練の途中なのですものね。ごめんなさい。つい、いつもの感覚でやってしまいました…」

 

 ……え?てことは、神通さんならあれに当てられるの?

 

「そ、そうですね……。そ、それでは、軽くストレッチから始めてみましょうか!お二人の基礎体力を知るにも丁度いいですし!」

 

『は、はい!』

 

 北上と大井は神通の提案に少し安心した。

 何故ならば、常日頃から自主的な鍛錬に励んで己を追い込んている二人は、基礎体力には自信があったからだ。

 

「手始めに【ロープ登り5m×20往復】【プッシュアップ1000回×3セット】【ヒンズースクワット10000回】。あくまで準備体操ですし、お二人で競争してみましょうか!」

 

『はいぃぃっ!!?!?」』

 

「? どうしました?」

 

 神通の瞳は優しさに満ち溢れていた。

 故に、北上と大井は戦慄した──

 

 そう、北上と大井は察したのだ。察してしまったのだ。

 

 神通の言葉に嘘はない事を。

 神通はこの練習メニューを、本気の本気で軽い準備体操程度だと思ってる事を……。

 

「あ、ごめんなさい!【レスラーブリッジ1時間】を忘れてました!さっきのメニューが終わった人から始めて下さい」

 

「無理!!無理無理!!無理だって!!絶対無理!!」

「死にます!もう少し控えめな訓練をしたいです!」

 

「えぇ〜〜!!?そ、そんなぁ…どうして…?」

 

 

 

 

 その後、更に何度かの一悶着を経て、ようやく常人が可能なレベルにまで引き落とされた神通の稽古が開始された。

 

 【腕立て・腹筋・背筋・スクワット各100回×3セット】【鎮守府外周(一周約7キロ)10周】【砲撃100回×3セット】【雷撃10000回×3セット】そしてその後に、実戦想定で神通とのタイマンである。

 

 

 ………地獄と言わざるを得なかった。

 だが、この稽古内容を組んだのは、神通ではない。大井と北上の二人だった。

 二人はあえて地獄の訓練を求めた。

 ……流石に神通の鬼訓練にはついていけなかったが。

 

「北上さん、砲撃から雷巡に切り替えるのが遅すぎます。もう一度」

「はい!」

「大井さん、航行速度が落ちてきてますよ。もう一度」

「は、はい!」

 

 神通教官は、鬼教官の異名を裏切らない超スパルタであった。

 甘さはない。慈悲もない。妥協もない。

 ただ戦場で生き残る事のみを考えた神通の鬼指導は、他の艦娘達よりもずっとタフで丈夫なハズの北上と大井ですら地獄と感じるほどだった。

 

 本来は気の休まる心地いい時間であるはずの食事でさえも、神通にかかれば訓練の一環だった。

 

 身体を作るために一日3食の定食に加えて、必ず何か大量の炭水化物と肉がつけられた。

 当然、疲労困憊な二人には食事を腹に入れる事自体が苦痛。どうしてもダメな時はミキサーにかけて無理やり胃の中に入れた事さえあった。

 疲労に打ち勝てず、胃から食事を吐き出した事さえ何度もあった。

 

 だが、大井と北上が壊れてしまう事なく神通についてくることが出来たのは、間違いなく神通本人の優しさ故であった。

 

 

 〜〜〜

 

 

「あれ、神通。なんでお前が北上と大井の分まで日誌書いてるクマ?」

 

「二人は今頃、ゆっくり眠ってる事でしょうから。起こしてあげたくないな…って。 あ、日誌を書いたのは私じゃなくて、球磨さんという事にしてくださいね?白紙の日誌を私が見たなんて知ったら、北上さんも大井さんも怖がっちゃうでしょうから」

 

「……別に怖がったりなんてしねークマよ」

 

 

 〜〜〜

 

 

「本日の訓練はここまで。お疲れ様でした。……今晩は少し冷え込むそうです。後で部屋に毛布を支給しておきますので、普段より身体を暖かくして寝るように」

「ゼェッ…!ハァ!ゼェ…!!ゼェ…!!は、はい…!」

「あ、ありがと…!!ゲホッ!!ご、ございますッ!!」

 

 

 〜〜〜

 

 

「て、提督、その……しばらくは、えと…控えませんか?」

「うぇっ!!?ななな!なんで!?」

「あぅ…え、えと…しばらく、朝早い日が続くので、その…あんまり、夜遅くまで夢中になってたら、あの子達に顔向け出来ません……」

「あ、あぁ、そういうこと。えと……ちなみに、本当は俺との◯◯◯(放送禁止用語)が嫌いになったとかじゃ「それはありません。安心してください」

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 北上と大井はただ夢を求めて強くなる。

 

 

 彼女らは、球磨型軽巡洋艦3番艦・北上。同じく4番艦・大井。

 

 闘神の弟子となった二人は、雷となりて敵を穿つ。

 

 

 

 雷巡になる日は、まだ遠い。

 

 

 




 どうして球磨型姉妹にスポットライトを当てたら、おふざけ要素少なめになりがちなのか…。
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