「予防接種……ですか?」
「そ!佐世保鎮守府から便りが届いた。来週に、全艦娘は予防接種を受ける事」
執務室で話し合うのは、提督と日課の筋肉補給に訪れていた浜風。
提督の手に握られているのは予防接種の頼りが記載された一枚の書類。以前勤めていた佐世保鎮守府から続いている事なので、彼にしてみればすっかり慣れた行事。
だが、浜風は予防接種という言葉に首を傾げた。
「私が以前勤めておりました大湊では、そんな事やった覚えがないのですけれど…?」
「そりゃそうだ。病にかからない艦娘は本来受ける必要ないからな」
「あ、確かに。……あれ?でしたら何故今回は私達も?」
「俺が大本営にお願いしたんだよ。艦娘達にも平等に受けさせてほしいって。 俺からしたら皆も普通の女の子なんだから」
ごく普通に艦娘の事を同じ人間として扱ってくれてる事に、浜風は頬を染めた。
「今日の夕飯前に発表する。それまでは黙っててくれ」
〜夕方〜
「お注射っぽい!!?」
「あ、もうそんな時期ですか」
「予防接種…?ナニソレ?」
夕立を中心に騒々しくなる艦娘達。
タイミングを見計らって俺が大きめに咳払いをすると、艦娘達は途端に静まり返った。
うんうん、素晴らしい統率だ。皆ちゃんと俺の事を上官と認識してるみたいで嬉しい。
たまに上官どころかむしろ下に見られてる気もするからな。
聞いてるかね、そこのぽいぬちゃん。
「予防接種ってのは、体内に弱体化させた病原体を摂取させる事で病気に対する免疫力を高める医療行為だ。 詳しいことは赤城・神通・夕立を訪ねてみるといい。同じものを佐世保の頃に経験してる。 連絡は以上だ!解散!」
〜〜〜
「赤城さん!予防接種ってお注射するんですか!?イ、痛いですか!?」
「いえいえ、ちょっとチクッとするだけですよ。 深海棲艦の砲撃に比べればノミムシのようなものです」
「えっへへ〜♪予防接種っぽ〜い!!楽しみぃ〜〜……じゃなくって、すっごく怖いっぽ〜い♪」
「ゆ、夕立?全然怖そうに見えないんだけど…?」
「神通さん達は佐世保鎮守府の頃からずっと受けてたんですか?」
「うーん、というよりはあの提督が着任してから始まりましたね。 それまでは私たちも受けていませんでした」
赤城達、佐世保組の周りに艦娘皆が集まって、生まれて初めて受ける予防接種について必死に情報収集を始めている。
うんうん、まぁいくら医療行為とはいえ、体内に得体の知れない針を入れて得体の知れない病原菌を流し込むなんて経験ないものからしたら狂気の沙汰だものな。
ビビるのも割と当たり前かもしれない。
「提督、質問いいかしら?」
加賀が静かに手を上げる。
相変わらずの無表情だったが、その眼差しは以前に比べて少し柔らかくなったか?
加賀としても一つ大人になったのだろう。
「この注射を受けたとして、私達になにか作用することがあるのですか?艦娘が病気になることなんて聞いた事がないのですが」
「あ、ちゃんとあるぞ。予防接種っていう名目で皆に休みも取らせてあげられる」
「……フフ、そう」
「!!? え、今加賀さん笑った!?」
「失礼ね、五航戦。私だって笑う事くらいあるわ」
加賀の微笑みによほど衝撃を受けたのか、瑞鶴は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でフリーズする。
「え、いやだってそうでしょ…?アイスの実から甘さと香りを取り除いたみたいな人じゃない加賀さんって」
加賀は瑞鶴の鼻を摘んで思い切り引っ張った。
「痛たたタタ!!!!ちょっ、それマジで結構痛いからやめて!!」
「ゆ、夕立ちゃん。注射って痛くないの?どうしてそんなに嬉しそうなの?」
「ウェヘヘ〜♪だってぇ〜、お注射してる間は提督さんがずっと抱っこしてくれるから〜♡」
「えっ!?」
「なんですって!?」
「what did you say!!?」
夕立の発した衝撃的事実は舞鶴鎮守府を震撼させた。
そして、その浮気確定と捉えられてもおかしくない危なすぎる発言は提督の恋人である神通とその姉妹である川内と那珂の耳にも……。
「提督、説明してもらえるかな?」
「え、浮気?那珂ちゃんちょっと怒っちゃったかも」
「違う違う違う違う!!!それには深い訳があってだな!!!」
ゴミムシを見る目で提督を睨みつける川内と那珂。
慌てて逃げ出そうとする提督に主砲を構えたその時…
「待って!二人とも待って下さい!本当に誤解なんです!!」
憤慨する二人の姉妹を収めたのは、その姉妹である神通であった。
「えぇ?」「ほっ?」
間一髪。
神通のおかげで俺は殺されずに済んだ。
「単に夕立ちゃんが注射が怖がるので、提督が抱きしめて安心させているだけですよ」
「うん!夕立お注射嫌いっぽい!」
「あ、あぁ…なるほど」
ギューッと腕に抱きつく夕立を見て、川内達は武器を下ろす。
「でも嫌いっていう割にはなんだか嬉しそうだね」
「え?そんな事ないっぽい!夕立はお注射が怖いっぽーい♪」
……やはり、時雨の目には嬉しそうに見える。
「よく分かんないけど、睦月も注射が怖いのね!!睦月の事も抱っこしてー!!」
「あ、ズルい!!ニムもニムも〜!!」
「ヘイ提督ー!!私も怖いデスからハグしてくださーい!!」
「お姉様ごめんなさい!榛名は今日だけ悪い子になります!」
「提督!私とハグを!!筋肉補給をぜひに!!」
夕立の暴露を受けて続々と手を挙げる。
その中には浜風、金剛、榛名、伊26などなどあんたは絶対補助いらんだろって子の姿もあった。
だがそんな事はお構いなしよ。
艦娘達と密着し合い、合法的におっぱいやお尻の感触をおもうそんふ堪能できるこの一大イベントを、人一倍スケベなこの俺が見逃すはずもなかった。
「おっほ♡しゃあねぇーなぁー!!一人ずつやってやるから順番だぞ順番♡」
ダァン!!「許可するのは駆逐艦のみです。それ以外は許しません」
『申し訳ございませんでした!!』
神通の一喝で途端に辺りは静まり返った。
「あぁ、それと……金剛さんや浜風さんにデレデレしていた提督?ちょっといいですか…?」
「い、いやデレデレなんて「してましたよね?」
「はい」
そして……神通は俺の肩に手を置いた。
「今晩……私の部屋に来て下さい♡」
あっ(察し)
悪ぃ、俺死んだ。
チュンチュンチュン‼︎
何故か翌日の提督は妙に風紀に厳しくなっていた。
そして神通は妙にテカテカと輝いていた。