過去一かもしれない。こんなにバカ全開な回は…。
ついにきた予防接種の日。
流石に鎮守府の活動を停止させる訳にはいかないので、ローテーション順に休みを取らせ、予防接種は二日に分けて行う事にした。
そして、今日はその第一日目。
本日は駆逐艦がメインだった。
そしてその記念すべき一人目は、注射が苦手なはずの夕立だった。
「よ〜し夕立!!来い!!!」
「ぽ〜い!!」
全力ダッシュで突撃してくる夕立を抱き止めて、医務室の椅子へと座る。抱きしめられた夕立は俺の首の匂いを嗅ぎながらその肢体を無遠慮に押し付ける。
おぉ、なんと素晴らしい感触だ!
伸び代のありそうな成熟途中のおっぱいとお尻。
精神はまだまだ未熟なお子様でありながら、出るとこはしっかり出ている夕立の肢体は着実に女性の身体へと成長していた。
お日様のように爽やかな匂いをさせながら突撃してくる天真爛漫な夕立の笑顔を見るたびに実家で飼ってた犬っころを思い出す。
全身で嬉しさを爆発させながら突撃してきたワンコはちょうどこんな感じだったな。
だが突撃してくるのは犬ではない。女の子らしい柔らかな肉感である。彼女を遠慮なく抱きしめて、その柔らかな質量を思う存分堪能できるこの経験を俺は生涯忘れない。
もちろん、夕立のケツをさりげなーく揉む事は忘れない。
「はい、少しチクッとするわよ」
「は〜い!」
このままだと二人の空気に入ってしまいそうだと察したのか、さっさと予防接種用の注射が夕立の二の腕に注入される。
意外にも予防接種を行うのは雲龍だった。
以前勤めていた佐世保鎮守府では明石がやってくれていたので、今回もてっきりそうだとばかり思っていたから少し意外だ。
というか、雲龍の注射を打つ手が中々手馴れていて上手い。
先程から抱きしめている夕立も痛みに顔をしかめる様子はないし、消毒液を塗り、針を刺し、絆創膏を貼るまでの一連の流れに一切の隙がない。
良くも悪くもただの開発者でしかない明石が打った時には中々こうはいかなかったのに、大したもんだ。
「はい、提督。もう終わったわよ」
「お、もうか。さすが、雲龍は上手だな」
「そうですか?まぁちゃんと医師免許は持ってますから、少しは慣れてますよ」
……そういえば、明石はちゃんと免許持ってたのかな?
「提督さん提督さん!夕立、泣かなかったよ!!褒めて褒めて〜!!」
ぎゅ〜!!と胸板に抱きつく夕立が気持ちのいい笑顔を向ける。
はぁぁん!!マジ天使!!
「おぉしおし!!偉いぞ夕立〜!!」
「キャ〜〜〜♪」
椅子の上でギシギシ音を立てながらわしゃわしゃしまくる最中、雲龍が冷めた目でコホン、と一つ咳払い。
「駆逐艦一人一人にやられてはたまらないわ、用が済んだら退散してくれない?」
「おっとと、そうだな。バイバイ、夕立」
膝の上から下ろしてやると、夕立は今にも泣き出しそうな不貞腐れ顔で雲龍を睨み始めた。
が、雲龍はその視線を意にも介さずに淡々と次の注射の準備に入っている。
そのこちらの事など目にも入ってないかのような態度に夕立は更に腹を立てる。
「ヴヴゥ〜…!!雲龍さんのバカ〜〜!!!」
「? どうして?」
バタン!と勢いよく扉を閉める夕立に雲龍は不思議そうに首を傾げた。
……ほんとに掴みどころのない奴だな、お前。
「そりゃあんな冷たい言い方したら、夕立だって怒るよ」
「え?そんな言い方してました?」
「うん、ちょっと感じ悪かったかも」
「ウソ……。夕立には後で謝っておくわ。提督もごめんなさい」
ただ、こうやってしっかりと反省しつつ、仲間達との距離を縮めようとしてる辺りいい子なのは間違いないんだよな。
「あ、そういえばさっき、夕立の予防接種をしてから気付いたのだけれど、夕立の練度もかなり高いのね」
「おう!なんてったって、俺が勤めてた前の鎮守府の頃からの付き合いだからな!最近全然測ってないけど……前測った時は87だったな。今は?」
「測ったら、彼女の練度は94よ」
ウェッ!?そんなに!?
あれ!?神通に迫る勢いじゃん!!
「シ、司令官…?もう入っていいですか?」
雑談に夢中になっていたら、外から弥生の不機嫌そうなボイスが聞こえてくる。
……本人はそんなつもりはないんだろうけどね。本当に不器用な女の子だ。
さて、おしゃべりはこの辺にしてそろそろ予防接種に戻るとしようか。
「あぁごめんごめん弥生!俺の膝に乗るか?」
「や、弥生は…………い、いい…です」
「ん〜〜?いいのか〜?本当にそれでいいのか〜?」
「う…、や、やっぱり、抱っこして」
あぁんもう〜!!可愛いなぁ!弥生たん!!!
今すぐくんずほぐれつしてチュッチュチュッチュしてやりたいよオォォォーー!!!!
〜〜〜
「秋月姉ェ!!!いい加減勇気出してよ!!」(小声
「や、やっぱり無理だってェ…!!」(小声
「秋月姉さんが言えないんだったら僕から言ってきてあげようか?」(小声
「ダメよ、初月。秋月姉さんのペースがあるんだから」(小声
「こういうのを青春っていうのかしら」(小声
場所は変わって、ここは鎮守府の正門前……から少し離れた木陰の中。
真っ赤な顔した秋月が、恥ずかしそうに紅色に染まった頬を隠して、自分の妹達に行けよ行けよと捲し立てられていた…。
「いい加減に行きなって!!誰かに取られちゃうよ!いいの!?」
「そ、それはイヤ!!」
「だったら勇気出して!!あの鈍感さんはこのくらい攻めないと響かないって!!」
照月の指差す先にいるのは黒狼改め、憲兵さん。相変わらず退屈そうに煙草を吹かしている。
「うぅぅ〜…!!わ、分かった。行ってくるね!!」
妹達に背中を押された秋月は、憲兵の元へと小走りで向かっていく。
距離は段々と縮まる。黒狼にまでおよそ5メートル。
秋月は胸に手を押し当てる。心臓が破裂してしまいそうなほどに騒いでいる。
一歩一歩近づくたびに私の脳がどんどん真っ白になっていく。
や、やっぱり怖い…!!助け舟を求めて妹達を振り向く。
愛する妹達は“早よ行け!“ばりに首元に親指で線を引く。
“やっぱり無理!“と自分の気持ちを必死に手振りで伝えようとするが、照月達は完全無視。
終いには親指まで立てられる始末。幸運を祈るとでも言ってるのだろうか?
諦めて観念するしかない秋月は、今度こそ憲兵さんの元へと一歩一歩近づく。
そして開口一番に、いつもの一言を腹の底から吐き出すのだった。
「憲兵さん!煙草はメッ!!」
「ゲッ…秋月か」
途端にバツの悪そうな顔で煙草を消す憲兵さん。
吸ってるのを見られたくないならそもそも吸わなければいいじゃないですか…。
「なんだよ、今日は予防接種じゃなかったか?」
「そ、そうなんですよ。それにしてもイイ天気ですねー今日は」
「…は?」
(秋月姉ェ会話不自然すぎるよぉぉー!!)
思いの外乙女全開な長女に、照月は心配になる。なんだか覗き見てるこっちの方が恥ずかしくなってきてしまいそうだ。
「そそそそれでですね、憲兵さん。あのあの、その…私、注射が怖くて…」
「……フハハ!やっぱガキだな、お前」
…小馬鹿にしたように笑う憲兵さんに、秋月は少しだけイラッとした。
「よよよよかったら……よかったら、えとその………ソノ……」
(秋月姉ェ頑張れー!!)
トーテムポールのように直列重なりで木陰から顔を出す秋月型。
かつての私達を助けてくれた男前な王子様に夢中になっている長女の恋の行方を、彼女達は固唾を飲んで見守る。
今の関係から2歩も3歩も飛び越えたとんでも一言を、姉が言うのを心待ちにして。
「ソノ……い、一緒にいてもらえませんか!?」
(秋月姉ェよく言ったァーー!!!!!)
思わず照月達はガッツポーズを決める。
言った!ついに言った!!
相手によっては普通に憲兵事案な恐ろしい一言を、ついに秋月が言った!
そして秋月のお願いをされた憲兵さんは……
「あぁ、いいぞ」
あっさりと二つ返事で了承した。
「え!ほ、本当ですか!?」
「別にいいさ、そのくらい」
思いの外あっさりと了承した憲兵さんに若干拍子抜けしながらも、秋月達は狂喜した。
(秋月姉ェーー!!やったぁーー!!!)
(今日はお赤飯だね…!僕も奮発してちょっと高い海苔塩買ってくるよ!)
別にまだ結ばれた訳でもないのに歓喜する秋月型姉妹。
感激のあまりに涙さえ溢れる照月達は、憲兵さんと秋月が並ぶ目の前の雰囲気をぶち壊さない程度にラブロマンスっぽい背景音楽を無性にかけたい衝動に駆られていた。
もちろん本当にそんな事したら憲兵さんと秋月に何言われるか分かったものじゃないので絶対にしないが。
「じゃ、またあとでな。お前の番になったら呼んでくれ」
「は、はい!ありがとうございます!」
勢い余って頭90度に何度も何度も折り畳んでは大袈裟な一礼を繰り返す秋月は、今度は猛ダッシュで木陰に隠れる妹達の所に転がり込んだ。
そして、背中を押してくれた妹達に半泣きの表情で鼻水垂らしながら抱きついた。
「ウワアァーやったぁぁぁ!!!てるちゃんすずちゃんはつちゃんふゆちゃん私やったよぉぉーー!!!」
『間宮さん今日はお赤飯でェェーーー!!!!』
もちろん、その雄叫びは間宮の耳に届かない。
〜〜〜
(ウワワワ…!!どうしよう緊張してきちゃったぁ…!!こ、黒狼さんは……良かった、まだ来てないみたい…。だってまだ心の準備があぁぁ〜〜!)
(秋月姉ェ、挙動不審すぎだよ…)
そして迎えた秋月の順番。
憲兵さんも現場へと現れて、怖がっている(と憲兵は思ってる)秋月を励ますように頭に手を置いた。
「あ、ありがとうございます」
(ハワワワ!!!どどど!どうしよう夢みたい!!頭ポンポンされちゃった!!!?え、私今日死んじゃうの!?予防接種した瞬間に身体中の細胞が爆発しちゃって死んじゃうの!?)
待ち時間の間に一人、また一人と順に呼ばれていき、待合室から人がどんどん減っていく。
つ、次は私の番だ…!!
「次か、フフフ…怖いか?」
「て、天龍さんの真似ですか?」
(え、ヤダ…今のなんかヤダ!そんな事したら黒狼さんのカッコよさに皆気付いてしまいます!というかカッコよすぎます…♡♡♡)
「どうだ?結構上手くなかったか?」
「全然似てませんでした」
「ひどいな」
憲兵さんは私の頭に手を置いて、安心させるような優しい手つきで撫でてくれる。
「別に怖くない、深呼吸しとけ」
「……スキ」ボソッ
(今のさりげない優しさ…critical HIT!!大破です!!!もう本当ォォーーにカッコいいよぉーー!!!♡黒狼さんんんんんん!!!!!♡♡♡」
「秋月姉さん、次だよ」
はつちゃん(初月)が出てきて、ついに私の番となった。
そして、はつちゃんは私にさりげなく近寄ってくると、耳元に近づいて囁く。
(頑張れ、姉さん)
はつちゃん……そ、そうだよね。
頑張ろう…!ここまで応援してくれた
硬い決意を胸に、私は意気揚々と立ち上がる!
「行くのか、秋月」
「…………ヒャイ」
あ、カッコいい…。
私の硬い決意は、僅か数秒で打ち砕かれていた。
「あら?憲兵さんの順番はまだ先のはずだけど」
「あぁいや、ただの付き添いだ。気にすんな」
部屋の中には雲龍さんが一人だけだった。
司令は抱っこをお願いをされていた他の駆逐艦の子達が終わったので、そのまま執務に戻ったみたい。
よ、よかった…。司令に見られながらでは流石に恥ずかしい。
「そ、それじゃあ…その、憲兵さん。お願い出来ますか?」
(ついに!ついに黒狼さんの抱っこを体験出来るんだ!!!いつか椅子の上じゃなくてベッドの上で抱っこしてもらえる時のための予行練習だと思って!!!頑張れ私!頑張れ背中!!!お尻!!!心臓!!!)
「ん、分かった」
私はギュッと目を瞑る。
お顔が熱い…!心臓の鼓動もやかましいくらいに早い!
もう少しだ、もう少しで黒狼さんが私を抱きしめてくれるんだ。
後ろからお腹に手を回し、私の体温を感じながらギュッとしてくれるんだ。
そしてあわよくば、私の身体に触れてくれる憲兵さんがその……ム、ムラムラしてくれたりしないかな〜……な、なんちゃってなんちゃって!!
う、うわぁ〜…脳内での独り言なのに、自分でも恥ずかしくなっちゃう。
我ながら、自分は憲兵さんの事好きすぎだと思う。
私ってこんなに頭悪い子でしたかね…。
そしてついに、憲兵さんが私に近づいてきて………
特に何も起きなかった。
あ、あれ?恐る恐る目を開くと、憲兵さんが不思議そうに私の顔を覗き込んでいる。
「どうした秋月。座らないのか?」
「ふえ?え、ええ?え、いやその……」
あの……抱っこは?
「ん?そばにいればよかったんだろ?」
「・・・そうです」
あぁ、そうでした……そうでしたねぇゥアハハァ……。
そうだ私、別に抱っこして下さいなんて一言も言ってないですねぇ….。
そうですよねぇ。そりゃその程度の事だと思いますよねぇ…。
あぁ、肥大化した期待という名を持つハリボテの城が憲兵さんの主砲一発でガラガラと崩れ落ちていく。
ごめんなさい、てるちゃん、すずちゃん、はつちゃん、ふゆちゃん。
姉は、結局なんの進歩もしませんでした…。
「………せっかくだし、抱っこしてあげたらいいじゃない。駆逐艦の子達は皆提督に抱っこしてもらってたわよ」
!!?!?
雲龍さん!!ありがとうございます!!!
「ん? まぁ俺は構わないが、秋月がどう言うか…」
「お、お願いします!!私注射怖いですから!!」
「? ま、そういうことなら」
憲兵さんは嫌な顔一つせずに、椅子へ先に腰かけた。
「シシシ失礼しますです!!」
憲兵さんの膝の上に、ゆっっっくりと着地した。
スカート越しに、憲兵さんの筋肉隆々とした硬い膝の感触がお尻に伝わってくる…!!
体温を感じる!!ちょっとだけ煙草が混じった男らしい匂いが私を包み込む!!!息遣いを耳元で感じる!!!
心臓が爆発してしまいそうです!!!というかしてます!!!!!
「手、回すぞ」
「はひゃ!!ひゃ!ひゃい!!」
憲兵さんが、いや黒狼さんが、私の!お腹に!手を、回しっ!!てェ!!!!!
私を抱きしめてくれて…!!!
「じゃ、ちょっとチクッとするけど…ね、ねぇ聞いてる?秋月」
「ん、大丈夫か、おーい」
!!!!!?!?!?!?!?
けけけけ憲兵さんが私の顔を覗き込んでくる!!!!!
やめてェ!!!そんな男らしい顔で私なんかの顔を見ようとするなんてやめてェ!!!
あぁぁぁーー!!!でもでもでもでもでも待って待って待って!!!!!
それだと黒狼さんのお顔を間近で見られない!!!!もっと近くに来て!!!でもやっぱり離れて!!!!!
「あ、秋月?」
フワアアァァァァァァーーーーー!!!!!!
好き!!!♡♡♡黒狼さん大好きいィィィーーー!!!!!♡♡♡
も、もうダメ…!!!秋月大破します!!!
「ハヒャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
その日、秋月は沈んだ──────合掌。