スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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艦娘達の予防接種 三

 

 

 

 

「憲兵さん、秋月姉ェに何したの?」

 

「いや、別に何も…」

 

「だって秋月姉ェがあんな事になってるんだよ!?」

 

「きゅう」

 

 照月の指差す先にはのぼせ上がり、ショートした秋月の遺体。

 頭から湯気を出して目を回す自らの姉の情けない姿に、溜め息が漏れる。

 

「幸せそうな顔しちゃってもう…」

 

「ハハハ、介抱してやってくれ」

 

 照月は秋月を肩に背負って部屋を出ていこうとする。

 

「あ、いや、待て」

 

「? なに?憲兵さん」

 

 呼び止めた憲兵は口切れ悪く、それでも静かに照月に言葉を紡ぐ。

 

「秋月に伝言頼む。………えと、その……し、尻の感触が素晴らしかったと」

 

「イヤですよ!!」

 

 照月は呆れたように扉を勢いよく閉めた。

 

「…あなたいきなり何言いだすのよ、セクハラにも程があるわ」

 

 雲龍もまた呆れたように憲兵の背中を見る。筋肉の詰まったガタイのいい背中は、なんだか少しだけ小さく見えた。

 

「いや……ちょっと土壇場で恥ずかしくなってな。情けない」

 

「?」

 

 気のせいなのだろうか。

 雲龍の目に映る憲兵の横顔が茜色に染まってるように見えたのは…。

 

 

「ま、いいわ。次はえっと……あぁ、球磨型ね」

 

 雲龍は次の準備に取り掛かる。雲龍のテキパキとした手つきに感心しながらも、秋月の付き添いを終えた憲兵はそのまま部屋を出ていった。

 

「来たクマー!!注射だか発射だかなんだか知んねーが、さっさと終わらせるクマ!!」

 

 憲兵と入れ替わるように蹴破る勢いで入室してきた球磨。

 医務室が騒がしくなると予感した雲龍は、バレないよう静かに溜息を吐いた。

 

 

 〜〜〜

 

 

 

「司令官〜!!うえぇ〜…!注射怖いぴょん〜!!」

 

「ハハハ!よしよし大丈夫だからな〜」

 

「・・・」(いいなぁ…)

 

 

 神通です。

 

 医務室外の待合室にて、予防接種の順番待ちをする最中にも提督に抱っこしてもらう卯月さんを、私は他の駆逐艦の子達(睦月・文月・響)と一緒に心底羨ましい気持ちで見つめていた。

 卯月さんは本当に甘え上手だ。

 私も恥も外聞も顧みずにああやって素直に甘えられたらどれだけいいか…。

 

 そうやって内心ちょっとだけ嫉妬しながら卯月さんを見つめていると、一瞬だけ卯月さんと目が合った。

 すると、卯月さんはイタズラが成功した時のあの小悪魔のような悪い笑顔になって、提督にもっと深く抱きついて白い軍服にシワを作る。

 

『羨ましいでしょ〜??』なんて心の声が聞こえてきそう…。

 

 えぇ、確かに羨ましいです。死ぬほど。

 

 

 でも、羨ましいのは私だけではなかった。

 卯月さんの挑発に腹を立てた私と同じ、もしくはそれ以上に提督に抱っこしてもらいたがっている駆逐艦の睦月さん・文月さん・響さんの三名が卯月さんに掴み掛かった。

 

「卯月ちゃん交代〜!!睦月と代わってにゃし〜!!!」

「次はあたしだから〜!!睦月ちゃんはまた今度!!」

「えぇ〜!やだぴょん!!うーちゃん全然満足してないぴょん!!」

 

 瞬く間に膝の上の取り合い合戦が始まった。

 私もあの中に混ざりたい…なんて、流石に気持ち悪すぎですね。

 

 と、その時だった。

 

「ねぇ司令官。抱っこして?」

 

 一人だけ合戦に参加しなかった響さんが、提督の袖を引っ張って上目遣いでそう言った。

 普段から自己主張の少ない響さんの子供のように素直に甘える姿は、関係ない私まで思わず手を広げて抱きしめたくなるような愛らしさがあった。

 これほど母性を刺激される一言があるだろうか?

 ここぞとばかりの必殺の一言を隠し持っていた響さん、恐るべし。

 

「ゥェヘヘ…♡意外に響は甘えたがりなのかな♡」

 

 提督、その鼻の穴の広がったエッチな顔だけはどうにも拒絶反応が出てしまいます。

 

「ハラショー、悪くない」

 

「あぁ〜!うーちゃんの席だったのに〜!!」

 

 簡単に特等席を奪われた卯月さんが何故か提督の足の脛を蹴る。

 

「アイタッ!!なんで俺!?」

 

「提督が浮気者だからぴょん!」

 

「浮気してないわ!ラブリーマイエンジェル神通たんのいる前でそんな事言うな!!」

 

「提督、その曙さんみたいな呼び方やめて下さい」

 

「エンジェルをエンジェルと呼んで何が悪い!!」

 

 まずネーミングセンスが悪いです。

 

 雑談に華を咲かせるうち、医務室の扉が開かれて夕張さんが腕に絆創膏を貼り付けて部屋を出てきた。

 

「次睦月ちゃんだって。いってらっしゃ〜い!」

 

 名を呼ばれた睦月さんが途端にパァッと太陽のような笑顔となり、提督の袖を引っ張った。

 

「提督!行こっ!!」

 

「はいはい、ったくも〜」

 

 口では仕方なし、と渋々感を出してますが、その割には随分と嬉しそうに手を引かれていく提督…。

 睦月ちゃんの小さな手をしっかりと握り込んでデレデレな表情で医務室へと消えていく提督に、少しだけ胸がチクリとする。

 いえ、もちろん提督が睦月さんや響さんに劣情を抱く事は多分決して絶対にないと信じております。

 

 でも、、、でも、なんだか……イヤです。

 

「神通さん、なんか怒ってない?」

 

 夕張さんが不思議そうに私の顔を覗き込む。

 いけませんね、顔に出ていたんでしょうか?

 

「すみません、怒ってなんかいませんよ」

 

「そう?ならいいけど」

 

「……いえすみません、実はちょっとだけ、怒ってます」

 

 隠す事はやめた。

 なんだかモヤモヤしてるのは事実だし、吐き出せば少しはスッキリするかもしれませんしね。

 

「ハラショー、司令官にだよね?」

 

「……少し」

 

(え、なんか神通さんカワイイ…)

 

 夕張は、真面目な顔でそう思った。

 

「やっぱり睦月ちゃん達とベタベタしてたから?」

 

「それはっ!!い、いえその…その通りです。 ……なんだか、提督と睦月さん達が仲良くしてるとこを見ると、ちょっとだけ胸が痛いんです」

 

「………あぁ〜〜〜」

(えぇ〜!!神通さんヤキモチ焼いてるんだカワイイ〜!!!)

 

「も、もしかして、神通さんは病気なの!?」

 

「いやいや、病気なんかじゃないよ〜♪いやある種、病気かも」

 

 怖がる文月さんを嗜める夕張さんはなんだかとっても楽しそう。

 私だって、この心情に人がどんな名前をつけるのか分からないわけではありません。ただ、それでもモヤモヤするものは仕方ない。誰かに吐き出したくなるのも仕方ないんです。

 仕方ないんですよ、えぇ。

 

「ちゃ、茶化すのはやめてください…。恥ずかしいんですから」

 

 思わず頬を押さえて、顔を隠す。

 それがまずかったのか、夕張さんが乙女全開な表情で私を見る。気のせいか、目の中に♡マークが見える。

 

「もう〜〜神通さんカワイイ〜〜〜!!!」

 

 夕張さんが不意に抱きついてきた。

 夕張さんの体温と、瑞々しい果実のようなイイ匂いが鼻を刺す。

 

「そうですよね〜!胸がチクチクしちゃうんですもんね〜♪」

 

「こ、子供扱いするなら怒りますよ?」

 

 咄嗟に口から出た脅しに、夕張さんは慌てて引っ込んだ。

 

「おっとと、ごめんなさい。ただまぁなんです?その原因不明(笑)なチクチクの解消ですよね? 私の言う通りにしてもらえたらすぐに解消できますよ! 提督に『私のことを食べて♡』と上目遣いでお願いしたら即解決です!」

 

「夕張さん、そろそろ怒りますよ?」

 

「ぴょん!!?神通さん食べられちゃうの!?」

 

「そうそう♪まぁもう数えきれないくらい食べられちゃってるけど」

 

「夕張さん!!」

 

「なるほど、確かに神通さんは毎晩食べられてるのかもしれないね」

「ええええ!?どういう事ぴょん!?」

 

「違います違います!!えええとえと、これはですね〜…!!」

 

「アッハハハ!!他にも色々教えてあげるよ〜?」

 

 なおも愉快そうにしている夕張さんにそろそろ怒りの鉄槌を振り下ろそうかと考えていた時だった。

 

「睦月!出撃〜!次神通さんだって〜!!」

 

 睦月さんが提督と一緒に部屋を出てきた。

 睦月さんの腕には一つの絆創膏。予防接種は無事終わったようだ。

 

「あ、はい!行きます!」

 

 慌てて立ち上がる私に、夕張さんはつまらなさそうに口を尖らせる。ちょうどいいタイミングで提督が来てくれて助かりました。

 もう少し長く続いていたら夕張さんがいよいよ調子にノリ始めて文月さんや卯月さんに何を吹き込むか分かったものじゃない。(響さんだけは食べて♡の意味も理解していそうでしたが)

 

「提督!神通さんも抱っこしてあげてくださいよ!!」

「へぇっ!!?」

 

 ちょっとおぉぉ!!!夕張さん何を言い出すんですか!!?

 

「え?神通?……お、おう分かった!」

 

「違います!私はそんなこと…!!」

 

 ありません………とはどうしても口が動かなかった。

 むしろ反射的に口がそうやって動いてしまうのを全力で理性と本能が食い止めてる感じすらあった。

 さっきまで高まっていた夕張さんへの怒気は一瞬のうちに鳴りを潜めて、今となってはありがとうございます!と頭を地面に叩きつけたい気分だ。

 

「神通もするのか?抱っこ」

 

 提督の問いかけに、私は務めて【冷静に】返事をする。

 

 

「はうっ!?ふえっ!えっ!!あえ、っそ、それは…!!そ、そにょ…!はあ、あうぅ…ででで、です、ね…!!」

 

 

 よ、よし!!なんとか取り乱さずに受け答えが出来ました……よね?

 

 

「ごめん、なんて?」

 

 感情の籠っていない真顔で聞き返されました…。

 まぁですよね…。

 

「あの、提督。 その…私を少しだけでいいので、甘やかしてほしいです…ダメ、ですか?」

 

「ベッド行こか」

 

「そこから先はハーメルンに怒られるのでやめて」

 

 夕張さんの一言で最大仰角に達していた提督の主砲がポキリと折れた。

 ……提督に手を引かれるがままに、私は医務室へと消えていった。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

「……えっと、どうして神通さんに提督が付き添っているのかしら?」

 

「俺達はひと時たりとも離れられない条約を結んでるんだよ」

 

「そんな条約破り捨ててしまいなさい」

 

 雲龍さんは相変わらず淡々とした動作で私の二の腕に注射針を刺し込んだ。

 少しだけチクッとしたけれど、別にどうということはない。

 

 というか、先程から提督が私の二の腕を食い破る勢いでガン見しているのがものすごく気になる。

 

 

 

 最近妙に体重が増えちゃったので、出来ればやめてほしいのですけれど…。

 

 





 次回、神通の予防接種
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