今回は少し短め。
「はい、終わったわ」
「雲龍さん、ありがとうございました」
神通の予防接種は一瞬で終わった。
流石は雲龍というべきか、慣れた手つきで行われる事務的な作業は本当に秒で終わってしまった。
そして俺は、少し気になる事を聞いてみる。
「なぁ雲龍、神通の練度が今いくつになってるのか、測れるか?」
「えぇ、測れますよ」
そう、いつの間にか夕立の練度が94にまで跳ね上がっていたのだから、暫定一位だった神通はカンストしてるんじゃないかと思ったのだ。
「えぇっと、神通さんの練度は…… あ……フフ、すごいわ」
雲龍は意味深な微笑みを浮かべる。
「練度は99になっていたわ、あとオメデタね」
「マジで!!?」
「え!ほ、本当ですか!?」
思った通り!!こうしちゃいられん!!!
今するべき事を為すのだ!!
「神通!アレ!アレ持ってきて!!ケッコンカッコカリの指輪!!ついに効果が出るときが来た!!!」
「は、はい!!すぐに!!」
神通は大慌てで自室へと走る。
その後ろ姿を見届けた雲龍は、嬉しそうに手を叩く。
「これで、本当にケッコンカッコカリされるんですね。鳳翔さんにも報告しなくては」
「いやぁ〜ハッハッハ!とうとう俺にケッコン艦が出来たか!」
俺はケッコンカッコカリのことはあくまでただの戦力増強用の道具としか捉えていない。なので、別に神通の練度が99になる事に関して特別な意味は考えていない。
が、やっぱりお祝いの気持ちは湧いてくる。なにせ一番長い付き合いの艦娘が、最高練度へと到達したのだから。
「提督!持ってきました!!」
「よし!!では早速嵌めてみるか…」
神通から受け取ったケッコンカッコカリ指輪を神通の薬指へ持っていく。
「待って、提督」
が、そこで雲龍からストップがかかった。
「せっかくの記念だもの、皆にも見届けてもらったら?」
あぁ〜、それもそうだな。
特に川内と那珂なんかはぜひその瞬間を見届けたいだろうしな。
「そうだな、そうすっか!」
「え?み、皆の前で嵌めるのですか?」
「おうとも!!記念すべき【最初の】ケッコン艦だしな!!」
「……はい」
俺は見逃してしまっていた。
仮とはいえ、せっかくのケッコン指輪なのだから誰もいないところでロマンチックに渡して欲しかった神通が、ほんの数瞬でその望みを絶たれた事に軽く怒っていた事を。
口を尖らせ、頬を膨らませて可愛らしく拗ねる神通を。
そして、さらにとんでもなく重大な意味を持つ、雲龍の一言を。
〜〜〜
「……ブッキー、really?本当にテートクと神通がケッコンするんデス?」
「は、はい…確かに、聞きました」
「……Oh」
待合室で順番待ちをしてる最中、偶然にも吹雪は一部始終を聞いてしまった。
そして、誰よりも先に金剛へと報告した。
お二人がケッコンされるというのは、金剛には辛い事だろうと思ったから。
「ワーーオ!!イエーース!!コングラッチュレェショーン!!!早く皆でお祝いしなきゃネー!!」
「へ?」
だがしかし、吹雪の予想とは裏腹に、金剛は両手をあげて二人のケッコンを祝福したのだ。
二人が交際をした時、二人が初夜を迎えた時の今までで二回の心臓停止と数百回の灰になった事のある金剛の見せた予想外な反応に、吹雪は大いに困惑する。
「え?え?え?こ、金剛さん、平気…なんですか?」
「whatデース? 私はテートクの事がバーニングラブだけど、それと同じくらい神通の事もバーニングラブなんだから♡大好きな二人がケッコンをする。何も問題ナッシーング!!」
金剛さんは嬉しそうな笑顔を浮かべ、吹雪の頭を撫でる。
「教えてくれてthank youネ!ブッキー!!ただし、この事はもう他の誰にも言っちゃノーなんだからね⭐︎」
「えぇ?ど、どうしてですか?」
「発表しないという事は、私達へのサプライズするつもりなんですヨ?それを台無しにしちゃダメでショ?」
金剛は、吹雪に大人の余裕たっぷりなウィンクをしてみせた。
「OK?それじゃあ、晩御飯の時間までグッドラックネ!!」
「は、はい!お疲れ様です!金剛さん!!」
金剛の事を心配していた吹雪はホッと胸を撫で下ろすと、すぐさま自室へと足を早めた。
ふと、チラリと金剛を振り返る。
吹雪の目に映るのは、いつもと変わらない相変わらず元気いっぱいに手を振る金剛の姿。
今度こそ安堵の溜息を漏らす吹雪は、誰にも話さないという金剛との約束を守り、静かに自室へと戻るのだった。
(……ブッキーは、行きました…ヨネ)
金剛もまた、一人自室へと戻る。
そして自室の扉を閉めると、そのまま扉に背中からもたれかかり、滑るように足を折って、倒れていく。
そして彼女は困ったように微笑みを浮かべ、空に浮かぶ太陽を窓の隙間から眺める。
(…………ノーよ、泣いてはノー。ブッキーだって言ってたじゃない。あくまでただのカッコカリだって。別にもう二度とテートクに会えなくなるわけじゃない。そもそも二人はもう交際してるのヨ。 なのに、何をそんなに悲しむのデスカ?)
金剛の瞳に、雨が溜まる。
(……テートクがラブなのは、神通。とっくに分かってたことヨ?)
彼女の服に、雨が落ちる。
(………shit!泣いてはノー!泣くな泣くな!!私は皆のお姉様なんだから!!こんなの問題ナッシング!!!)
金剛の目から、雫が零れた。
(No!!絶対Noなんだから!!泣くな!!!)
我慢ならなかった。
金剛はたまらずに、両手で自らの顔を覆った。
「ウッ、ヒクッ!グスッ…!」
その日、金剛の部屋からは鼻を啜るような音が聞こえた。
(……金剛お姉様)
その声は、部屋の外で聞き耳を立てていた榛名の耳に届いていた。
でも、榛名は金剛の声が聞こえたその瞬間に、部屋の前から立ち去った。
榛名の知ってる金剛お姉様は、涙を流さぬ強い艦娘なのだから。
〜〜〜
「……はい、あのお二人がついに、カリケッコンをしましたよ、
佐世保鎮守府の鳳翔とのみ繋がる自身専用の通信機に語りかけるのは、鳳翔の指示によって舞鶴鎮守府に努めることとなった雲龍。
電話越しではあるものの、神通と提督がケッコンカッコカリを結んだ事を、おそらく一番長く二人の恋路を見守り続けていたであろう鳳翔にイキイキと報告するのだった。
『あらあら……とうとうですか』
電話口の向こうにいる鳳翔さんは電話口でも分かる位に嬉しそう。
『私もお祝いに参加したいのですけれど…諦めるしかありませんね、ウフフ♡私達は私達で勝手にお祝いの宴会をしています。ですから雲龍さん、私達の分まで提督におめでとうと伝えて下さい』
「はい、もちろんです」
雲龍は受話器に微笑み、電話を切ろうと受話器を離す。
だがその前に、もう一つ鳳翔さんに報告しなくてはならない事があったのを思い出した。
「あ、いけない。待ってください、鳳翔さん」
『? はい?』
「一つ抜かってました。それが────」
『………そうですか、報告ありがとうございます…。 なんだか、今日はゆっくり眠れなさそうですね』
「えぇ、私もそう思います。それではまた」
『はい、また』
雲龍は今度こそ受話器を置き、通信を切った。
そして、今日という一日を締め括るに相応しいメインイベントが開催される食堂へと向かう事にし、雲龍は一つ大きく身体を伸ばした。
「そういえば、提督達はちゃんと
雲龍は大きな乳房をプルン♡と揺らしながら、早速部屋へと戻るのだ。
次回、予防接種編ラスト。