皆が集まる食堂にて、俺と神通はケッコンカッコカリの指輪を片手に、皆の前に現れた。
「ゴホン‼︎皆注目!まずはこの二日間の予防接種お疲れ様!初めての注射は痛かっただろうけど、無事に終えられて何より! で、だ。 皆に一つ、重大な報告があるのでどうか聞いて欲しい」
俺は神通の手を引く。控えめな彼女らしく、神通はひどく赤面していた。カワイイ。
「我等舞鶴鎮守府の最高戦力の神通たんがこのたび!!ついに練度99に達しました〜!!はい皆拍手〜!!」
率先して俺が手を叩くと、間髪入れずに一斉に拍手の嵐が巻き起こる。
「え〜ウソ!スゴーイ!!神通さんおめでと〜!!」
「最高練度の艦娘って日本中探しても数えるくらいしかいないんじゃなかった!?ヤバすぎでしょ!!」
「ワーオ!!!コングラッチュレィショーン!!!」
照れ臭そうに頬を掻く神通もニヤける口角を隠しきれておらず、なんだかんだ嬉しそうに皆の視線を浴びている。
……ただ、気のせいだろうか?金剛の目元に涙の跡が残ってる気がする。
「あ、あの!それってつまり、神通さんと司令官が!?」
そう言うのは吹雪。吹雪は俺が隠し持つ指輪に気付いているみたいだ。
「そうだ!ケッコンカッコカリが出来るようになった!それを見届けてほしい!」
「あぁ〜!そういやそんなのあったね!!」
「ケッコン?何それ?」
「よく分かんないけど、ニムもやりたーい!!」
意外と艦隊の皆はケッコンカッコカリの事を知らないらしい。まぁそもそも最高練度に到達する艦自体が数える程度しかいないこの世界。
皆が目指す強さの境地でもあるが、いざ到達した際に与えられる褒章なんかは案外皆分かってなかったりするものかな?
現実で言うならば、歴史上の偉人とかスポーツの世界王者みたいな?とんでもない偉業を成し遂げたのは間違いないけど、それでどんな褒章を得たかとか知らないっしょ?それと一緒だよ(適当)
「よし…それでは、神通。手を出せ」
「は、はい!」
おずおず…と恥ずかしそうに神通は左手を出す。
それを見て、神通は左手の薬指に嵌めて欲しいんだろうと察した。
う、うぅむ…。あくまで軍務上のやり取りといえどやはり気恥ずかしい。
…というか、神通めちゃくちゃ嬉しそうだな。珍しく口元がニヤけちゃってるし、全体的に落ち着きがない。
ちくしょー、カワイイ!
少しだけ微笑んだ俺は、箱を開いて中から銀色の指輪を取り出す。
そして、彼女の手を取る。
「神通、俺とケッコンして下さい」
「は、はい…どうか、よろしくお願いします」
神通の薬指へと指輪を嵌めてゆく。
銀に輝くその指輪は、神通の細くて柔らかい指先へと繋がり、ピッタリのサイズに作っておいた指輪はスルスルと入っていく。
指の根元にまで指輪を差し込む。
そして彼女の指にキラリと輝くものが映ったその時、外野の艦娘達が一斉に手を叩き、祝福の声を上げる。
「提督さんも神通さんもおめでとうっぽい!!」
「神通さんどんな感じどんな感じ!?」
「поздравляю(おめでとう)神通さん」
「神通さんがついにケッコン艦だとは!!これは青葉新聞が盛り上がります!」
「すごい神通!!これでもっと夜戦が出来るね!!」
「それはダメ、神通さん今妊娠してるから」
「うわ〜!!指輪、神通さんにピッタリ!!」
「クマァ…実際に見れるの結構レアクマ」
皆が口々に喜んでくれる中、神通は照れ臭そうに指輪を隠す。
まだ少し恥ずかしいんだろうな。
……-というか、なんだ?
俺は今…というか、俺達は今、なにかとんでもない一言を聞き流さなかったか?
「神通、分かってるとは思うけど、練度上げはしばらくお休みよ」
雲龍の言葉に、神通は首を傾げた。
「え?せっかく練度上限が解放されたのですから、むしろ今まで以上に励むべきでは?」
(え、今まで以上に…?)
神通の常識外れな鍛錬量を知っている艦娘の皆さんは戦慄する。
「何を言ってるのよ。赤ちゃんを殺す気?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………雲龍さん、今なんと?」
「? 赤ちゃんよ」
「はへええ? ぅえ、あのそれってつまり、私って、今身籠ってるんですか…?」
「ええ」
『エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!』
『エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!』
『エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!』
舞鶴鎮守府全体が揺れた!
提督を含む舞鶴鎮守府全体の艦娘達に走った衝撃の激震は大地のプレートを突き動かして震度7の地震を7秒だけ引き起こす。
付近の渡り鳥たちが一斉に羽ばたいて遥か彼方の水平線に向かって飛んでゆく。
雲龍一人によって引き起こされた天変地異は、時間にしておよそ数十秒というとてつもなく長い時間、大日本帝国に響き渡った。
「ママママジか!!?おい!!雲龍お前、ほんとに神通はほんとに妊娠してんのか!!?ほんとのほんとか!!?」
「え、えぇ。間違いありませんよ」
(ビックリしたわ…)
「ウッホホオオオオオ!!!神通ウウウウウウ!!!!!」
「キャア!!!!いきなり抱っこしないでぇ!!!」
辛抱堪らず、勢いに任せて俺は神通の腰に手を回し、歓喜のあまりに宙に持ち上げてその場で数回全力で回転する。
「ついに神通と夫婦になれんのかァ!!!キィィィYEAHHHHHH!!!!!」
「提督がフリーザ様みたいな奇声を上げてるクマ!!」
「でも気持ちはすっごく分かります!おめでとうございます!司令官!神通さん!!」
「愛してるぜ神通ウウウ!!!!!」
「も、もう下ろしてえぇ!!!」
神通の叫びが俺の耳に入る事はない。
いやもちろん耳には入ってるのだが、それを聞き入れることはない。溢れ出る喜びを全身で表現しながら全力で叫ぶ!
あぁなんと素晴らしきかな神通たん!!
ついにお前を孕ませる事が出来た!いついかなる時であれ、注ぐ時には必ず孕めェ!!と心の中で叫びまくっていた甲斐があったというもの!!
「というか、艦娘って子供を作れるのね。私はまずそこに驚いたわ」
「あぁ〜確かに。聞いたことありませんでした」
加賀と赤城の言葉に、俺自身も少し思うものがあった。確かに艦娘と人間の間に子を成せるなんて聞いた事がない。
実際、俺も神通との間に子供は出来ないもんだと思ってたからそれをいいことに毎日毎晩ヤリまくってたんだよ。
だがいざ子供が出来てしまったら、それはそれでめちゃくちゃ嬉しい。望まない妊娠のリスクを考えずにヤリまくれるのも至福なものだったが、やはり子供が出来ないことに対する悲哀の情はどうしても否めなかったからな。
「一応艦娘と人間の間で子を成す事は可能よ。まぁ、毎日毎晩相当ヤリまくって毎日毎晩相当
「へ、あ、それってつまり……」
赤城がチラリと神通を見る。
続けて加賀も神通に視線を向ける。
それに続くように、瑞鶴・翔鶴。
金剛、武蔵、川内・那珂に憲兵、秋月型、球磨型姉妹、重巡に続いて軽巡、駆逐艦達…。嬉しさを爆発させるように抱っこされたままの神通と、それを抱き上げる提督の二人に次々に注目が集まる…。
二人の表情が羞恥に染まる。
そんな二人にも艦娘達の視線は容赦なく突き刺さる。
〈つまり、お二人の間に子を授かれたという事は……〉
そこから先は言えないと判断した艦娘達は、押し黙るしかなかった。
「い、いやぁ〜ハッハッハ!!スケベなのが皆にバレちゃったなぁガッハッハ!!」
「・・・」(モウオヨメニイケナイ…‼︎)
その時の提督と神通は、珍しく二人揃ってりんごのように真っ赤な顔をしていたという……。
〜〜〜
〜鎮守府付近の砂浜〜
「…いや、雲龍にはホント敵わないな」
「私、もう恥ずか死んじゃいます…!!」
仮のケッコンを済ませた俺と神通は、夫婦(仮)水入らず、誰にも邪魔されない二人きりの時間で静かに水平線に消える夕陽を眺めていた。
俺達がわざわざ砂浜にいる理由は、単に見晴らしがいいからだ。誰にも邪魔されたり、盗み聞きされる心配がないと思ったので。
「まぁその…なんだ、神通。なんか、ごめんな?色々」
「い、いえ謝られるようなことでも…。それに……」
神通は、自らのお腹に手を沿わせる。
「あなたとの赤ちゃんを授かれるだなんて、私、すごく幸せです。ただ、少しの間は安静にしてなくちゃいけませんね。万が一があってはいけませんもの」
嬉しそうにお腹をさする神通の微笑みに、とてつもない母性を感じる。それでいて、なんて美しい横顔だろうか…。
「まさかこんな俺が父ちゃんになるとはなぁ〜」
「私もです。こんな私なんかが、こんなに幸せになってもいいんでしょうか…?」
「おいおい、別に子供が出来る事がそのまま幸せになるって訳じゃないぞ?」
「確かにそれはそうですけど…あなたとの赤ちゃんなんですもの。心の底から幸せに決まってます」
その時、少し強い潮風が吹き流れる。
咄嗟に揺れる髪を押さえ、誤魔化すように微笑む神通は…あまりにも凛々しくて、美しかった。
一人の人をこんなにキレイだと思った事はない。
「……そいや、神通にはまだお祝いも出来てなかったな」
「? お祝い、ですか?」
「そ。練度99おめでとうのお祝い。……これでどうだ?」
俺は懐から一つの小箱を取り出し、蓋を開けてみせた。
中には銀に輝く指輪を入れている。
「わぁ、ありがとうございます。……? あの…また、ケッコンカッコカリの指輪…ですか?重ね掛けをするとなにか特殊な効果があるのでしようか?」
「いや、なーんも?そもそもその指輪にはなんの効果もないからな」
「え?では、これはなんのために?」
「ケッコン指輪は、提督としてのプレゼント。そして、この指輪は俺個人からのプレゼント」
「え?どういう事でしょう…?」
「さてねぇ?……ゴホン‼︎さて、突然だが神通よ、今から俺は似合わないキザな事をしようと思う。が、どうか最後まで何も言わずに黙って聞いててもらいたい」
「え?な、何をするつもりなんですか…?」
…覚悟を決めた俺は、提督の帽子を脱ぎ捨てた。
神通の目の前で片膝を折り、彼女の手を支えるように持ち上げて、その薬指へと、なんの効果も持っていないもう一つの指輪を嵌めてゆく。
彼女がその想いに気付くように──
その意味を思い出させるように──
「も、もしかしてこれって…!!」
「……シーーッ♪」
口に人差し指を当てて、片目を閉じる。
それだけで彼女は口をつぐむ。
瞳に涙を浮かべる彼女の手を取りながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「……健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、あなたに尽くし、あなたを敬い、あなたを慰め、あなたを助け、この命が尽きるその時まで、あなたを愛する事を、ここに誓います。……あなたも、そう誓ってくれますか?」
「ハイ…ッ……ハイ……誓います…!誓います!」
ありがとう、神通。
「神通、俺と結婚して下さい」
「不束者ですが…よろしく、お願いします…!!」
夕日が消えてく海岸で、俺と神通は静かに抱き合った。
『愛してる』の言葉を伝え合う。抱きしめた心地よさも忘れない。
消えてく夕日に代わるように、波と風の音だけが俺達を祝福してくれてるような気がした。
拝啓
俺達、
敬具
話の流れ的に仕方なかったのですけど、完全にデキ婚ですねこれ。
もちろん提督は神通が授かってようが授かってなかろうが結婚(ガチ)指輪を渡すつもりでした。