ぽい!私、白露型駆逐艦の夕立!!
夕立は今、消灯時刻を過ぎて真っ暗になった駆逐艦寮の廊下をゆっくりゆっくり進んでるところっぽい。
足音立てちゃって、寝てるお友達の皆を起こしちゃったら悪いからね。
え?どうして夕立は起きてるのかって?
うぅ〜………実は夕立、神通さんのお部屋で一緒にお昼寝いっぱいし過ぎちゃったから今度は夜眠れなくなっちゃって…。
だから退屈だったし、眠くなっちゃうまでお月様を見ながら一人でクッキー食べてたんだけど、その時に夕立ったら、すっごくすっごく素敵なことを思いついちゃったの!!
これは時雨にも教えてあげなきゃと思って、こうして大急ぎで向かってるとこっぽい!!
……足音は立てないようにだけど。
提督さんなら多分絶対に怒らないと思うけど、やっぱり見つからないようにはしないとね…。
それに、武蔵さんに怒られちゃうのはイヤだもん。
そうしてるうちに、時雨の寝てるお部屋に辿り着いたっぽい。
あんまり大きな音を立てないように静かにドアをノック。
「し〜ぐれ〜!起きて起きて〜!!」(小声
「…………どうしたの、夕立」
部屋が開かれると、中から眠たそうに眼をこすりながら、ちょっぴりと小さくあくびをする時雨が出てきた。
やっぱり時雨は寝てたっぽい?
「消灯時間は過ぎてるよ?早く部屋に戻らないと、提督に怒られちゃうよ?」(小声
「ん〜ん、いいの!!それよりも時雨、お部屋に入れて!すっごく素敵な話があるの!!」(小声
「えぇ…僕、もうおやすみしたいんだけどなぁ…」(小声
そういいながらも、すぐにお部屋に入れてくれる時雨が大好き!!
「それで、お話って何?一体どうしたの?」
「ぽい!夕立ね、すっごい事に気がついちゃったっぽい!!」
夕立は両手を広げてみて、時雨にも分かりやすくスゴさをアピールするっぽい!!
それなのに、時雨は控えめに笑ってるだけっぽい…。
「ほ、ほら!このあいだ、神通さんと提督さんが結婚したでしょ!?」
「うん、すごく素敵だったよね。ああいうの、僕も憧れちゃうな」
「うんうん!それでねそれでね!今日神通さんと一緒にお昼寝してたら気がついたんだけどね!!神通さん!お腹がなんだかちょっとだけ大きくなってたっぽい!!」
「え、本当!?」
時雨も驚いてるっぽい!!
ふっふ〜ん!そうでしょそうでしょ〜!!夕立が一番早く気がついたんだから!!
「そっか…神通さん、もうお腹が大きくなってきてるんだね」
「うん!最初は神通さんが太っちゃっただけだと思ってたんだけどね!!考えてみたら、提督さんと神通さんが結婚してからなんだよね!!お腹が大きくなってきたの!!」
「………??? いや夕立、神通さんのお腹に赤ちゃんが居る事が分かったのは結婚してすぐ後だったでしょ?結婚した後にお腹が少しずつ大きくなってくるのはごく普通のことだと思うんだけど…」
「だから夕立ね!?提督さんと神通さんが結婚出来たのって、神通さんがおデブさんになったからだと思うの!!」
「………夕立、今の言葉、絶対に神通さんの前で言ったらダメだよ」
(僕の話ちゃんと聞こえてるのかな…)
「え?どうして?どうして言っちゃダメっぽい?」
「どうしても。まだ轟沈したくないでしょ?」
え!?
神通さんの前で言ったら夕立沈んじゃうの!?
……………お、お口にチャックっぽ〜い。
「………夕立が言ってることを纏めると、夕立はつまり…その………提督と神通さんが結婚出来たのは、二人が愛し合ってるからとかじゃなくて単に神通さんのお腹が大きくなったから…だと言いたいの?」
そう!!その通りっぽい!!
さすが時雨!!夕立が言いたいことを簡単にまとめてくれたっぽい!!
「……夕立。僕それは間違いだと思うんだけど…」
「だからね時雨!夕立、すっごい名案思いついたの!!」
「あ、うん。どんな名案?」
(僕の話、全然聞いてないな…)
「夕立も神通さんとおんなじぐらい大きくなっていっぱいおデブさんになったら、きっと提督さんと結婚出来ると思うの!!」
「えぇ…(困惑)いや夕立、それは流石に…」
「だから夕立!明日からいっぱいご飯食べていっぱいお昼寝していっぱいお腹にお肉つけるっぽい!!時雨も一緒にどう!?提督さんと結婚出来るかもしれないっぽい!!」
「いや、遠慮しておくよ。心の底から」
「え、そうっぽい?ま、いいや。見ててね時雨。夕立、明日からたくさんご飯食べるっぽい!!ご飯の前なのにお菓子だって食べちゃうし、夜遅い時間にカップラーメンだって食べちゃうっぽい!!提督さんと結婚するまで、夕立もっともっと頑張るっぽい!!ぽ〜い!!!」
「………うん!頑張って!」
(なんかもう、それしか言えないや…)
『寝てる所を叩き起こされてちょっと機嫌が悪くなってた』+『寝ぼけて頭がイマイチ働いてなかった』+『夕立のテンションについていけなくなった』+『単純に説得がめんどくさくなった』時雨はそれ以上何も言う事なく、夕立を部屋から追い出してそのまま布団にくるまった。
……親友でもあり姉妹でもあるせめてもの情けとして、時雨は心の中で深く手を合わせた。
〜〜〜
お昼時になったので、俺は神通と一緒に食堂へとやってきていた。
その時だった。
待ち伏せていたようなタイミングで、食堂へやってきた俺に向かって大皿に乗ったとんでもない量の料理が突撃してきたのだ。
よくよく見ると、それは大皿の上で不安定に揺れる料理を天性のバランス感覚で見事に操りながら器用に突撃してくる夕立だった。
「提督さ〜ん!!見て見て〜!!」
「待て待て待て!!上手にご飯運べるのは分かったから、こっち来んな!!」
「そうじゃないっぽい!!夕立、今日はこんなにいっぱいご飯食べるんだよ!!」
夕立はいつもの『褒めてモード』を全開にしながら、ズイッと頭を出してくる。
えぇと…確かに、その皿の上に乗ったご飯の量は尋常ではない。
重巡…いや、空母?下手したら戦艦級かも。流石に赤城スペシャル程ではないだろうが、駆逐艦一人に食べられる量ではないことは明らかだ。
おいおい、これを夕立一人で食べる気なのか?
お前、特別そんな大食いという訳でもなかっただろ?
それとも、ただ単に俺に褒めてほしくて見栄を張ってるだけか?
…と、とりあえずいつものように頭を撫でてやる。
「エッヘヘ〜♪ねぇねぇ提督さん!このご飯全部夕立一人で食べられたら、夕立とケッコンしてくれる?」
「ぇ」
「……夕立さん、それはどういう意味ですか?」
突如湧き出た凍るような殺気。
「夕立ね、神通さんのお腹が大きくなってるから、提督さんとケッコン出来たんだと思うの!!」
いや、そういう訳じゃないんだが……。
ま、まぁ間違ってなくもない……か?
「だからね!夕立も神通さんみたいにお腹が大きくなったら、提督さんとケッコンしてもらえると思ったっぽい!!」
いやその理屈はおかしい。
なんだ?どういう思考をしたらそんなぶっ飛んだ発想が出てくるんだ…?
夕立は戦闘面でも日常面でも頼りになるイイ勘を持ち合わせてるんだけど、どことなーく抜けてるとこがあるからなぁ…。
「夕立さん、それは間違いです。私と提督がケッコン出来たのは別にお腹が大きくなったからではないんです。………そ、それより本当ですか?私のお腹ってもう大きくなってきているんですか?」
「うん♪なんだかお腹が張ってるような気がする!」
…正直言うと、俺にも神通の腹が大きくなってるようには見えない。が、夕立の並外れた勘の良さは無視できない。
「神通…ちょっと触るぞ?」
「は、はい」
もしや…という僅かな願望の下、俺は神通のお腹に手を押し当ててみる。
「ど、どうでしょうか…?」
「………言われてみると確かに。若干だけど、腹が膨らんでる………ような…気が……する」
ただ一つ言える事は…神通のお腹って、やっぱり筋肉質で張りがあるよなぁ…。
「そ、そうですか…。さて、それはそうとですね…夕立さん?」
突如、神通が夕立に黒い笑みを向ける。
突然標的にされた夕立は訳も分からず、ただただ神通の微笑みに怯えるだけ。蛇に睨まれたカエルとはまさに今の夕立を指す言葉だろう。
「ぽ、ぽい…?」
「申し訳ないのですが、先程私の耳が詰まってしまったみたいでして…。夕立さん、私の聞き間違いでなければ、なんだか提督と結婚をしたいなどとおっしゃっていたような気がしたのですがそれは……」
「聞き間違いです!はい!夕立の言い方が悪かったっぽい!!あ!ぽいじゃなくて悪かったです!!ごめんなさいです!!はい!!」
「ウフフ♡そうだったんですね。怖がらせてしまって、すみません…。提督に寄ってくる虫は追い払っておかないといけませんから」
神通の言い方だと、追い払うというより皆殺しのような印象を受けるのだが。