轟音と共に噴き出す水飛沫。
深海棲姫の放った砲弾の先には赤城がいた。そして、赤城のいたその場所に巨大な水飛沫が立ち昇る。
「赤城……さん」
加賀は絶望の表情を浮かべて、水飛沫を見る。
「まズは一体………あラ?」
深海棲姫は首を傾げた。
深海棲姫の目の先には、さっきと変わりない姿で立つ赤城の姿と、庇うように二人の間に割り込んだ雲龍の姿があった。
「雲龍さん…!!」
「…危なかったわね」
だが…雲龍の右手の艤装が火を吹き出し、大破した。
「雲龍さん!!」
「……気にしないで。どのみち、既に中破していて艦載機を扱えない私では、戦力にならない。なら精々盾役ぐらいは務めさせてもらうわ」
雲龍は己の艤装をチラリと見る。
大切な艤装は今の一撃で完全に砕け散ってしまった。今すぐ修理に出したとしても、もう元通りにはならないだろう。
……大本営にいた頃からずっと愛用してきた大切な艤装だ。当然愛着もあったし、ここまで一緒に歩んできた妖精さん達と素人なりに頑張って整備してきたいくつもの思い出が詰まっている。けど…
「後悔はない!」
雲龍は両手を広げて赤城の前に立った。
「この命を投げ出しても構わない!この艦隊に勝利を捧げる!」
「…うっとウしいノヨ、女」
深海棲姫は再び砲弾を放つ。
雲龍はそれを持ち前の反射神経で奇跡的に躱し、血を流す右手を抑えながら必死に抗う。
「邪魔ね…」
深海棲姫が再び砲口を構え、雲龍に狙いを定めて再び放つ。
「shit!!!」
それをまさかの拳で弾き返したのは金剛。
続けて前線に現れたのは衣笠・武蔵・時雨の比較的被害の少ない艦。残り少ない砲弾を撃ち尽くすつもりで一斉砲撃!を行う。
「撃ち方、始めぇ!!!」
「ほら!もう一発!!」
「今なら、守れるから!」
直撃!
深海棲姫は黒煙に包まれる。
だが……それでも奴の装甲は貫けなかった。
やがて、煙が風に流されていき、煙の中で、深海棲姫は不気味に笑う。
「効かないといってるでしょう…?」
「第一次攻撃隊、発艦してください!」
続けて唯一、大破していても艦載機を飛ばせる赤城が攻撃機を飛ばす。
その隣には既に大破しており、艦載機を扱えなくなった加賀、翔鶴、雲龍がいた。三人はまだ飛ばずに残っていた艦載機全てを赤城に託し、最後の力を振り絞って最後の攻撃に臨む。
「──!?まダ発艦がデきたのカ!?」
「いっけえええええええええ!!!!!」
轟音と共に、深海棲姫は水飛沫の中に消えた。
だが攻撃はまだ終わらない。一度攻撃を仕掛けた攻撃機は大きく円を描いて戻ってきた。そして再び深海棲姫へと狙いを定め、最後の最後まで戦い続けた。
─────かなり長い時間が経った。全ての弾を撃ち尽くした艦載機達は、はるか海の向こうへと飛び立っていく。
そして海煙をかき分けて現れたのは、わずかに装甲に傷がついた深海棲姫だった。
「今ノは効イたワ…、少しネ」
傷のついた装甲に目をやりながら、深海棲姫は度重なる虫けらの抵抗に苛立ちが募り、額には青筋さえも浮かんでいた。
「……フフフ、やっテくれるジャナい………って、アら?」
だが、そこで奇妙な事に気付いた。
………いなくなっているのだ。艦娘達が一人残らずに。
「……どコ…?ドコにいった…?」
〜〜〜
(上手く脱出できた!!!)
(赤城さん!!球磨さん!!皆!!お願いもう少しだけ頑張って!!!)
戦闘不能となった夕立と入れ替わるように出撃した応援部隊:天龍・三隈・照月・初月・夕張・浜風の到着によって、第一・第二艦隊は戦線離脱に成功した。
特に損傷の激しい球磨・鈴谷・最上・赤城には比較的身体の大きな天龍・三隈・夕張の三人が肩を貸し、全速力で鎮守府へと撤退する。
「……天龍さん、本当なんですか?提督が、あのバケモノを倒す策を思いついたというのは…」
天龍の背に担がれる赤城が、弱々しく問う。
天龍はお得意の自信満々なニカ笑いで答えた。
「あぁ!!どんな作戦かは知らねぇけどな!!」
「……フフフ♪提督だったら、安心…ですね」
蜘蛛の糸が解けたように、赤城は力無く天龍の背中で気を失った。
「!!?おい赤城!!!」
「赤城さん!!!」
突然倒れた赤城に加賀は慌てて駆け寄った。安らかに眠る赤城の口元からは、規則正しい寝息の音が聞こえてきた。……どうやら、本当に寝てしまっただけのようだ。
「……今は寝かせてあげましょう。赤城さんがいなかったら、きっと私達今頃…」
「そうね。天龍、すまないのだけれど…」
「分かってる。このまま運べってんだろ?ったく」
天龍は赤城の膝を深く抱え直すと、今度こそ全速力で鎮守府へと向かい始めた。
「……実はな。本当は無線で提督から作戦を聞かされてたんだ。応援部隊の旗艦である俺だけには知っててもらった方がきっと動きやすいだろうからって………本当は最後まで黙ってろって言われてんだけどな」
帰りの道中、独り言のように天龍が呟いた。
加賀はすぐに話に食いつく。
「どんな作戦?何故私たちには伝えてはならないの?」
「確実に反対されるから、作戦の進行に影響を及ぼすんだってよ!!……俺だったら反対しないとでも思ってんのかよ…!!」
天龍は忌々しそうに唇を噛む。ただならぬ様子に、加賀達の間にも緊張が走る。
「あの提督はどんな作戦を立てたの?」
「あぁ、それは──────」
「………は?」