ワタル様(@urwataru)がXにて連載されている
カードゲームうさぎの二次創作です。
時系列的にはブルドラ禁止後の環境をイメージしました。

拙い作品ですが、よろしくお願いいたします。

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アギトの平日大会決勝戦

 

 張りつめた空気が、辺りに漂っていた。

 

 平日の店舗大会。夕暮れの時刻。

 同じ目的で集まった人々が、テーブルを挟んで向かい合う。

 

 ――それぞれが、思いを込めたカードを手にして。

 

「焼き討ちをプレイ、対象本体!!」

 

 3-0で迎えた決勝卓。

 勢いよく、俺はカードを相手に見せつけた。

 

 赤い炎が、戦場を駆け抜ける。

 

「……通します」

 

 向かいに座る男性が、控えめな声でそう答えた。

 丁寧な宣言。落ち着いた様子で、ライフを減らす。

 

 にやりと、俺は笑みを浮かべた。

 

 これで、相手のライフは危険水域へ。

 大分手こずったけど、これでようやく流れが――  

 

 すっと、相手が手札のカードを場に出した。 

 

「女王蜂を盤面へ」

 

「……にゃろう」

 

 向かいに座る相手が出したカードを見て、

 俺は心臓が激しく波打つのを感じた。

 

 蜂を統べる女王。美しい装飾の1枚が盤面に降り立つ。

 

 汗が吹き出て、身体が熱くなるのを感じていく。

 かすかに指が震えるのは、武者震いって奴だ。

 

 これだから、ACGはやめられない。

 

 あせる気持ちとは裏腹に、俺の頭は冷静になっていく。

 熱と冷気が入り混じった奇妙な感覚。激しい戦いの鼓動。

 

 手札に視線を落として――

 

(やってやろうぜ、相棒)

 

 そこにある1枚のカード、

 草原を駆ける雄大な猟豹に向かって、俺はそう呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれー、今日はなんか、人少ない?」

 

 広々とした店内。都内屈指の名店Zooにて、

 鰐野アギトが誰に言う訳でもなくそう訊ねた。

 

「確かに、今日はなんか少ないっスね」

 

 近くに座っていたゴリ山が答える。

 鞄を置きながら、アギトがその隣に座った。

 

「なんでだろ、最新弾発売前だからかなー?」

 

「どうなんすかね。クマ吉さんは、最近仕事が忙しいとは言ってたっスけど」

 

「ふーん。そっかぁー」

 

 デッキケースを取り出しながら頷くアギト。

 ぱらぱらと、デッキの中身を眺めていく。

 

「アギトさん、今日はZooっスか? ボルケーノは?」

 

「向こうは今日大会なくてさ。それに、Zooにも顔出したいし」

 

「そっスか。言っておくけど、自分もかなり腕を上げたっス。今日の大会、決勝で待ってるっスよ」

 

 自信に満ちた表情。

 どや顔を浮かべながら、ゴリ山が胸を張る。

 

 アギトが嬉しそうに笑った。

 

「言うじゃん! もちろん、俺もそのつもりだよ!」

 

 笑い合う2人。

 そのまま仲良く、2人が雑談に興じる。

 

 自動ドアが開いて――

 

「……ん?」

 

 入ってきた人物を見て、アギトが声を出した。

 

「っス?」

 

 アギトに釣られるように、ゴリ山もまた視線を向ける。

 店に入ってきた一人の男性。きょろきょろと辺りを見回して――

 

「……いないか」

 

 残念そうに、そう呟いた。

 少しだけ落ち込んだ様子の男性。レジへと歩く。

 

 手慣れたように、男性が大会の受付をすませていった。

 

「知り合いっスか?」

 

 アギトに訊ねるゴリ山。

 ゆっくりと、アギトが首を振った。

 

「いや、今まで見たことない人だったから」

 

「そっスか。まぁ、Zooは都内でも屈指の大型店っスから。知らない人だってたくさんいるっスよ」

 

 あっけらかんと話すゴリ山。

 アギトもまた、そんなものかと納得する。

 

 時間が流れて――

 

『それでは、大会締め切り終了となります。参加者の方はテーブル付近でお待ち下さい』

 

 店員の声と共に、

 近くに座っていた人々がガタガタと立ち上がった。

 

「じゃ、お互いがんばろうっス」

 

「おうよ!」

 

 言い合うアギトとゴリ山。

 大会が始まり、辺りの空気がにわかに熱くなっていった。

 

 カードを置く音が、辺りに響き渡る。

 

「チーターでアタック!!」

 

「ぐっ、対応ありません……。負けました……」

 

 がっくりと、アギトの向かいに座る男性が肩を落とす。

 微笑みを浮かべながら、アギトが頭を下げた。

 

「対戦、ありがとうございましたー!」

 

 元気に言うアギト。

 そのまま、2人が感想戦に興じていく。

 

 順調に大会が進行していき、そして――

 

『それでは、次戦が最終戦となりまーす!』

 

 店員の呼びかける声が、辺りに響いた。

 ゴリ山の前に座っていたアギトが、立ち上がる。

 

「よーし、それじゃ次は決勝卓だー!」

 

 上機嫌なアギト。

 ゴリ山が渋い表情を浮かべた。

 

「ぐぐぅ、悔しいっス。本当なら、決勝で当たるはずだったのに……!」

 

「まぁまぁ、実質これが決勝戦ってことでいいじゃん! 検討したい所もあったし、また後でフリプしようぜー」

 

 明るく言うアギト。

 天真爛漫、人たらしの雰囲気を醸すアギト。

 

 ゴリ山の表情が和らいだ。

 

「そっスね。そうするっス」

 

 気を取り直したように頷くゴリ山。

 2人が別れ、それぞれ別の卓についた。

 

 3-0の決勝卓。アギトに向かいに座ったのは――

 

「よろしくお願いします」

 

 先程、店内に入ってきた見知らぬ男性だった。

 

「お願いします~」

 

 頭を下げ、挨拶するアギト。

 2人がデッキを取り出して、シャッフルしていく。

 

 男性の手つきを見ながら――

 

(うーん、けっこう手強そうじゃん)

 

 アギトが、そう心の中で呟いた。

 カードを持つ手つき。手慣れた動き、流れるような所作。

 

 長くACGをやっている人だと、アギトが推測する。

 

(油断大敵! 気を引き締めて行こう!)

 

 気合いを入れるアギト。

 2人が向き合い、それぞれ手札を構えた。

 

 しんと、一瞬辺りが静まり返って――

 

『それでは最終戦、開始して下さい』

 

 店員の声と共に、

 辺りから一斉に「お願いします」の声が響いた。

 

「では、先攻もらいます」

 

 落ち着いた口調で、男性が宣言する。

 アギトが頷き、好奇心に満ちた目を向けた。

 

(さーて、相手はどんなデッキかなー。決勝卓ってことは、多分強いデッキだよね。今の環境だと、最近新規で強化を貰った飛魚コンとかかなー。もしくは安定のセイウチワンキル。あと、他に考えられる選択肢は――)

 

 瞬間、アギトの脳裏に3つの姿が現れて――

 

『バーンがあるだろ!! いいか、バーンはいつの時代だって最強なんだよッ!!』

 

『むぅん!! キメサイ最高!! キメサイ最高!!』

 

『ほぉ? 先週の手痛い敗北はもう記憶の彼方か……? まぁ、そうやってジェイルに対する理解が乏しいまま挑んでくるのであれば、こちらとしては良いカモで実に助かるがな……』

 

 それぞれがやかましく、そう喚きたてた。

 顔がひきつるアギト。現れた姿を記憶の隅に追い出す。

 

(ここはZoo、ボルケーノじゃないの! あんた達みたいなメタ外の使い手なんて、そうそういないから! ましてや決勝卓になんて、そんなこと滅多に――)

 

 そう考えた瞬間。

 向かいに座る男性が、1枚のカードを場に出して――

 

「先鋒蜂を盤面へ。兵隊蜂をサーチ」

 

 静かに、そう宣言した。

 ぴたりと固まるアギト。僅かに目を見開く。

 

 豪華な装飾に象られた美麗な絵の蜂が、盤面で輝いていた。

 

(……ビー!?)

 

 呆然としたように考えるアギト。

 男性がさらに、山札から1枚を表にする。

 

 その1枚もまた、同じような輝きに彩られていた。

 

 なんとなく、アギトが直感する。

 あれはフルレートのデッキだと。

 

 驚きから立ち直りながら――

 

(ちょっと待ってよ! ビーって確か、ものすごい昔のデッキなんじゃなかったっけ!?)

 

 必死になって、アギトが自らの記憶を探り出した。

 群攻、面押しを得意とするビー。クラシックなデッキ。

 

 アギトがACGを始めて以降、環境で見かけた事はない。

 

 時折、古い環境の話題になった時、名前が出る程度。

 実際に戦ったこともないし、強化された話しを聞いた事もない。

 

 ――つまりは、時代遅れの化石みたいなデッキだ。

 

(嘘でしょ!? 決勝で、ビー!?)

 

 対戦相手の顔をちらりと見るアギト。

 落ち着いた表情に、自信に満ちた雰囲気。

 

 その目は深く集中したように、盤面を見つめている。

 

「……へへっ」

 

 思わず、笑みがこぼれるアギト。

 マナー違反なのは理解している。それでも、我慢できなかった。

 

 身体の奥に、熱い物を感じながら――

 

「ターンもらいます!!」

 

 アギトが勢いよくカードを引いた。

 メラメラと、やる気に燃えているアギト。

 

 その指が手札の1枚を掴んで――

 

「焼き討ちをプレイ!! 対象、先鋒蜂!!」

 

 いつもよりほんの少し大きな声で、アギトがそう宣言した。 

 戦いの火蓋が切って落とされ、運命のゴングが鳴る。

 

 互いの盤面に、カードが並んでいった。

 

「兵隊蜂をプレイ」

 

「対応して火球!! 対象、蜂の巣!!」

 

「通りました。トークンを生成。残ったトークンで攻撃します」

 

「通します!!」

 

 言葉を交わしていく2人。

 熱気が渦巻いて、2人の間に緊迫した空気が流れていく。

 

 アギトが、不敵な笑みを浮かべた。

 

「猟犬でアタックします!!」

 

 地を駆ける猟犬。

 鋭い牙を剥き出し、相手へと飛び掛かる。

 

「トークンで受けます」

 

 その間に割り込むように、蜂が自らの身体を投げ出す。

 黄色と黒。威嚇するように羽根を鳴らしている蜂。

 

 猟犬と蜂がぶつかり合い、互いに消滅した。

 

「焼き討ちをプレイ、対象本体!!」

 

 畳みかけるような宣言。

 アギトが持っていたカードを相手に見せつける。

 

「……通ります」

 

 一瞬の逡巡後、ビーの使い手がそう答えた。

 火力が迸り、相手のライフを削っていく。

 

 このダメージで、相手のライフは危険水域となった。

 

「ターン終わります!」

 

 ほんの少し、得意げに。

 アギトが手札を持ちながら、そう言った。

 

 その口元に、笑みが浮かぶ。

 

(よーし、上出来! 序盤の掴みは上々! このまま、一気に流れで押し切って――)

 

 次の攻め手を考えているアギト。

 すっと、ビーの使い手がカードを選んで――

 

「女王蜂を盤面へ」

 

 どこか威厳さえも感じる声が、その場に響いた。

 蜂デッキの核をなす、麗しき女王の姿。

 

 毒々しくも美しい蜂が、盤面に降臨する。

 

「……にゃろう」

 

 火力の切れ間、対応できない瞬間。

 そこを狙いすましたように、置かれた1枚。

 

 冷や汗を流しながら――

 

(やべ、もしかして今まで盤面に出してた蜂達って、このカードを通すための囮だった? 火力の使い所を誘導されてたりする……?)

 

 アギトが、心の中でそう疑問に思った。

 頭の中、口うるさい師匠の姿が現れる。

 

『なーにやってんだ! そうやって考えなしに火力使うからだ! そもそもだな、ビーが相手なら、まず優先して焼くべきは――』

 

 にゃーにゃーうるさい師匠を、

 アギトが頭の中から追い出す。

 

(反省は後でするから、今は黙っててよ!! こっちはそれ所じゃないの!!)

 

 手札に視線を落とすアギト。

 必死になって、頭を働かせる。

 

 蜂の群れが宙を舞った。

 

「トークンで攻撃します」

 

「……通します!」

 

 アギトのライフが大きく削られる。

 盤面に溢れんばかりに置かれたトークン。面押しの真骨頂。

 

 今までにない程の圧倒的な物量差を、アギトが感じ取る。

 

(ビーって、こんなに強いデッキなの!?)

 

 率直な感想を抱くアギト。

 だが、すぐに思い直す。

 

(……いや、違う。そうじゃないな)

 

 対戦相手の顔を見ながら――

 

("この人が"強いんだ!!)

 

 アギトが、そう結論を出した。

 誰も使わないような古いカード。それをここまで操る手腕。

 

 こういう感じの強さには、覚えがある。

 

(きっと、この人は物凄く長い時間、このビーデッキと向き合って、そして戦ってきたんだ。こっちの想像もつかないくらい努力して……)

 

 思いを馳せるアギト。

 手札を持つ手に、力が入る。

 

(だったら――)

 

 闘志を燃やすアギト。

 ターンが回ってくる。

 

 手札の中の1枚を掴んで――

 

「スプリントチーターをプレイ!!」

 

 自信満々に、アギトが相棒を盤面に送り込んだ。

 

「……!!」

 

 ほんの僅かに、ビーの使い手が目を見開く。

 思考の外、思いもよらぬ物を見た反応。

 

 ほんのかすかな間が空いて――

 

「……通します」

 

 ビーの使い手が、静かにそう宣言した。

 互いのエースが盤面で睨み合う。空気が張り詰めた。

 

(悪いけど、俺、あんたに絶対に勝つよ!! 今、そう決めた!!)

 

 激しく燃えていく心。

 アギトが鋭い目を、相手に向ける。

 

(だって――)

 

 言葉を切るアギト。

 その脳裏に、記憶が蘇る。

 

 あの時、追いかけていた背中を思い出しながら――

 

(あんた、俺がいつか超えたいと思っていた、あの人にそっくりだから!!)

 

 アギトが心の中で叫んだ。

 手札を片手に――

 

「チーターでアタック!!」

 

 激しいカードの応酬が、口火を切った。

 赤い炎が飛び交う戦場を、優雅に舞う蜂の群れ。

 

 死力を尽くすやり取りが始まる。

 

「蜂蜜蜂をプレイ」

 

「対応して除去!! 対象、蜂蜜蜂!!」

 

「通ります。女王蜂がトークンを生成。さらに残ったトークンで攻撃」

 

「通し!!」

 

 じりじりと削れていくライフ。

 減っていく手札を睨みながら――

 

(マジで強い、この人!! 腕だけなら野良さんや月さんクラスかもしれない!! ヤバい、超楽しい!!)

 

 冷や汗を流しながら、アギトが笑みを浮かべた。

 一瞬の油断もできない状況。激しい修羅場の最中。

 

 そんなアギトと対峙しながら――

 

(あのデッキ、独自構築だ……!!)

 

 ビーを使う対戦相手が、心の中で思考を巡らした。

 手札を持つ手に、かすかに力が入る。

 

(デッキタイプが見えにくい……!! ビートバーンだと思ってたけど、チーターが入ってるならキルターンの計算が変わってくる。ベースはラン&ガン? なんにせよ、どう動いてくるか読みにくい……!!)

 

 その顔に浮かぶ無表情とは裏腹に、

 苦しい戦いを強いられているビーの使い手。

 

(つっても……!!)

 

(だけど……!!)

 

 顔をあげる2人。

 その視線が空中でぶつかる。

 

 互いに、手札を構えながら――

 

(勝つのは、こっちだッ!!)

 

 2人の思考が、重なり合った。

 戦いがより一層、激しさを増していく。

 

「火球をプレイ!! 対象、女王蜂!!」

 

(へへ、初心者みたいな手に見えるでしょ? 防がれるのは百も承知、狙いは手札にあるだろう妨害の方! そいつさえもぎ取れば、全体除去をねじ込んで一気に盤面をひっくり返せる! そうすればチーターで走るだけだ!)

 

「通ります。女王蜂は墓地へ!」

 

(あからさまな呼び水……。本命はおそらく全体除去。ラン&ガンがベースなら十分採用はありえる。そうはさせない。盤面の優位はこっち、リソース勝負なら尚更だ。相手の火力が有限である以上、それが切れるのを待つのが安牌!)

 

「チーターをプレイしてアタック!!」

 

(マジ!? 女王蜂を捨てちゃうわけ!? いや、待て待て。トークンの数は十分。ここで女王が消えてもキルターンに変化はない。なら妨害を構えておく方が良いって考えか。火力見えてるのに、なんつー度胸してんだこの人!)

 

「通ります!」

 

(正直、この攻撃を通すのはかなり怖い……。でも、リスクは承知の上。重要なのは、相手の手を読み切って適切に対処する事。勝つためなら、ライフは1残ってればいいんだ! 蜂の手数は十分! このまま捌ききる!)

 

「……攻撃後、ドロソをプレイ!!」

 

(ヤバいヤバい、このままじゃジリ貧だ。手札に決め手もないし、いちかばちか、この引きに賭けるしかない! 頼む、通れ!)

 

「……ドロソ、通ります!」

 

(このタイミングでドロソ? 追加の火力を探しに行った? いずれにせよ、ここで妨害を使う意味はない。通すしかないか……)

 

「ドロソ解決します。……!!」

 

 カードを見たアギトの目が大きくなる。

 山札から1枚、手札に加えるアギト。

 

 意を決したように、その中の1枚を手に取って――

 

「――プレイ、全体除去!!」

 

 勢いよく、アギトがカードを掲げた。

 ビーの使い手が驚く。

 

(このタイミングで!? なぜ!?)

 

 混乱する思考。様々な思惑が頭をよぎる。

 勝負を捨てて、自棄になった? いや、違う。

 

 考えられるとしたら――

 

「対応で妨害を使います!」

 

 カードを見せつけるビーの使い手。

 虎の子の妨害。狙い通りの一手。

 

 冷や汗を流しながら、アギトがニヤリと笑って――

 

「対応で、こっちも妨害!!」

 

 ぱんと、小気味よくカードが盤面に置かれた。

 周囲からどよめきが起こる。

 

(やっぱり、妨害か!!)

 

 ビー使いが苦い表情を浮かべた。

 相手のデッキタイプはビートバーン軸。

 

 普通なら、妨害が入るようなデッキタイプではない。

 

(いや……だからこそ……!!)

 

 険しい表情を浮かべるビー使い。

 アギトが不敵な笑みを浮かべながら、返答を待つ。

 

 ほんの僅かに、視線を落として――

 

「……そちらの妨害、通りました」

 

 ビーの使い手が、どこか悔しそうに宣言した。

 安堵の表情を浮かべるアギト。効果が解決される。

 

 全体除去が、蜂の群れに迫って――

 

「――解決後、対応で妨害をプレイします」

 

 ビーの使い手が、"もう1枚の"妨害を表にした。

 時が止まったかのように、一瞬辺りから音が消える。

 

 胸を撫でおろしながら――

 

(危なかった……。妨害をもう1枚持ってなければ、負けてた……)

 

 ビーの使い手が、冷や汗を流した。

 激しかった戦い。その終わりが、ようやく見え始める。

 

「……対応なし。全体除去は消えます」

 

 少しだけ沈んだような声色で話すアギト。

 残った手札は1枚。盤面にはチーターだけ。

 

 大きく、アギトが息を吐く。

 

「やっぱり、2枚あったかぁ……」

 

 心の声が漏れたように呟くアギト。

 その言葉に、ビーの使い手が違和感を覚える。

 

(……やっぱり?)

 

 弛緩していた思考が再び動き出す。

 妨害が複数枚ある事を、相手は読んでいた?

 

 という事は、つまり――

 

(しまっ……!!)

 

 ゾクッという悪寒が背筋を走る。

 最後に残っていた1枚を表にして――

 

「チーターを生贄に、火達磨をプレイ! 対象本体!」

 

 アギトの宣言が、その場に響いた。

 鮮烈なる炎が戦場を走り、大地を駆け抜けていく。

 

 赤い閃光が弾け、ビーの使い手のライフが0になった。

 

「……火達磨」

 

 アギトの場のカードを見つめるビーの使い手。

 悔しさが胸の奥から溢れ出てくる。

 

(本命は全体除去ではなく、本体火力の方……!! あからさまなドロソからの、全体除去と妨害の応酬……!! それらは全部、僕に妨害を使わせて、最後の火力を通すため……!!)

 

 途方もない敗北感。

 ぎゅっと、ビーの使い手が手を握った。

 

「……あの」

 

 恐る恐るといった口調で、アギトが話しかける。

 ビーの使い手が顔をあげた。

 

「……はい?」

 

「その、自分、ビーと戦ったの初めてで……。バーンとかキメサイなんかは、よく知ってるんですけど。正直、こんなに強いって知らなくて、なんていうか、本当に凄いって思って……」

 

 しどろもどろな口調。

 どこか照れたように、アギトが微笑む。

 

「それで、その。やっぱり、そのデッキって……」

 

 人懐っこい笑み。

 何が言いたいのか、ビーの使い手が察する。

 

「……えぇ」

 

 控えめな口調。

 はにかむような笑みを浮かべて――

 

「好きだから、使ってるんです」

 

 ビーの使い手が、誇らしげにそう答えた。

 


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