【砲撃王】ギストリー・グスタフ
「クソったれが!!」
怒声と共にビールが入ったジョッキがテーブルに叩きつけられ、その中身が跳ねた。
ここはレジェンダリアのとある酒場。
数日前にティアンの商人達のキャラバンを盗賊団を率いて襲ったギストリーは
それが、ケチの付き始めである。
デスペナルティによる長い一日が終わってログインしたギストリーは自身のデンドロスタートの地、妖精郷レジェンダリアでログインすること事になった。
理由はアルター王国においてギストリーが指名手配を食らってしまったからだ。
国家から指名手配された犯罪者〈マスター〉はその国におけるスタート地点であるセーブポイントが使用出来なくなる。
デスペナルティを食らった〈マスター〉は登録してあるセーブポイントからしか復活出来ない為にアルター王国のセーブポイントしか持ってない部下は監獄行きとなってしまった。
この時点でアルター王国出身者が大半を占めていたギストリーの盗賊団は半壊。
更にはティアンの構成員達も〈超級〉と準〈超級〉の戦いを見て、心折れる者が多数出て居なくなってしまった。
残った〈マスター〉の構成員達もギストリーがあれだけ威勢の良い事を言っておきながら負けた事で、ギストリーに愛想を尽かして出て行ってしまった。
自身の右腕とまで思って重宝していたモヒカン・ブレインまでが『持病の癪の悪化』などと言うふざけた理由を言って何処かに行ってしまった。
更には大枚はたいて手に入れた【超硬神話級金属】の大楯さえもが行方不明だ。
せめてこれだけでも残っていれば売った資金で団員を雇い盗賊団の再建が出来たかも知れないが失くしてしまえばオジャンである。
元を辿ればアルター王国で犯罪を働いていた自分の自業自得ではあるのだが、やり切れ無いギストリーはレジェンダリアの古巣でやけ酒を煽りクダを巻いているのだ。
「あ〜〜〜っ!ホントに居るじゃんギスっちぃ♪」
「だから言ったで御座ろう?」
「ヒヒヒッ♪ひ、久しぶりぃ……」
「おぉぉぉっ?効くゥゥゥ♪」
そんなギストリーの孤独な自棄酒をぶち破る様な脳天気な声が四つ聞こえて来た。
ギストリーはビクリと体を震わせると、恐る恐る声が聞こえてきた方を振り返った。
そこには風変わりな服装をした4人の男女〈マスター〉が立っていた。
4人はギストリーの旧知であった
「テ、テメェら……何でここにいやがる!?」
「何でここに居るって……〈マスター〉は自由が信条でしょう?ワタシがここに居たって文句を言われる筋合いは無いじゃなぃ?ギスっちって相変わらず頭が足りないわねぇ?キャハッw」
ギストリーを馬鹿にして笑う女。
ボンテージファッションの上から西洋鎧を要所部分に身に付け、その髪色はそれぞれ左右の編み込みの色が赤と青に染め抜かれており、真ん中の前髪を含む髪色は毒毒しいピンクとなった奇抜なカラーデザインをしていた。
キバを見せて挑発する様に笑うのが実に鬱陶しい。
笑う女をギストリーは殴りたくて仕方無かったが、それをしたら
そう、この女……
「ラピネ殿!その言い方はギストリー殿に失礼で御座ろう?事実とは言え明け透け過ぎるでござるよ!明け透けなのは下着だけにするで御座る♪」
ラピネを嗜めつつギストリーをディスる男はポッチャリ体型の全身真緑の忍者服を纏った男。
「サルトビ、アンタまだ生きてたの?キモ過ぎて死んだと思ってたわ」
「さっきから此処に居たで御座ろう!?」
ラピネとサルトビの漫才を無視して3人目の〈マスター〉が話しかけて来た。
「ス、
吃音で喋りかけてきた女は青黒い髪を無造作に伸ばしたウェーブロングヘアースタイルの黒い不気味なコートを着た【
見た目は不気味だが、
余談だがデンドロ内で〈マスター〉に与えられるアバターは下手に弄り過ぎない限りは万全の健康体である為にこの女の吃音は本人の癖に過ぎない。
「……知ってんだろうが?デスペナ食らって此処にいるのが証拠だよ」
「ホントよね〜w『俺はこんな国に埋もれる様な男じゃねぇ!』とかイキっといて〈超級〉に簡単に始末される盗賊とかマジでヤラれ用のモブ以外何者でも無いって感じ〜wwキャハハハハッ♪♪」
ビキビキビキッ!!と言う擬音さえ聞こえかねない様な怒りの血管がギストリーの額に浮き出る。
ラピネの度重なる挑発煽りに流石にギストリーも限界を迎えつつあったが、そこにもう最後の1人が強引に割り込んでくる。
「まあ、まあ!ギストリーさんも抑えて、抑えて……、良かったらこのブツをキメて気持ちよくなって下さいよぉ?」
カリッ!
ラフな服を着た橙髪の青年は懐から
「キ!キクゥゥゥゥゥゥッ!!♪」
目の前で堂々と
ちなみに、この果実はモアドープの〈エンブリオ〉である。
目の前の男が見せる昔と変わらずの寄行にギストリーの気勢が削がれた。
そして周りの客達もいつもの事か、とまるで騒いでいない。
ギストリーははっきり言ってこの国が嫌いだった。
正確に言えば苦手であった。
ギストリーはデンドロプレイヤーとしては古参と言っていいくらいには初期に始めた〈マスター〉の1人だ。
各国の特色が現在の様に〈マスター〉の個性や色が染み付く前にこの妖精郷から始めた一人である。
この国を出発地点にしたのは純粋にレジェンダリアが西方三国と言われる中で立地が端にあったからに他ならない。
此処を出発点に各国を回って全国制覇だ、などと考えていたのだが、現状を鑑みるに正直失敗したと思っている。
過去の自分にもし会えるなら『レジェンダリアだけはやめろ!ドライフにしておけ!』と必死に止めるだろうがそれはもはや到底望めない夢だ。
「テメェら、一体俺に何の用だよ?」
ギストリーが忌々しそうな顔をして聞いた。
そんなギストリーの台詞にニンマリとした不気味な笑いを返してラピネは言った。
「ギスっちさぁ……
◇◆◇
【跳躍姫】アール・スタンディーと合流したトラペゾン一行はレジェンダリアの海岸に近い草原地帯を歩いていた。
トラペゾンの入手したデータによればこの近辺に〈UBM〉が潜んでいる可能性が高いからだ。
潮風が吹き抜ける草原の片隅でトラペゾン一行は簡易のテントを張ってキャンプの準備をしていた。
時刻は昼過ぎ、まだ取って無い食事をするに一行はインスタントのテーブルに腰掛けて出来上がるのを待っていた。
調理を担当するのはトラペゾンだ。
紫蓮の符で火力を増した簡易コンロを二つ使い、器用に片手ずつで料理を仕上げている。
鎧を付けずにラフな格好で調理をしているトラペゾンを〈四司士〉とアールは見惚れる様に眺めている。
イケメンは何をさせても絵になるものなのだ。
一際火力を強め、仕上げに煽った鍋からテーブルに用意されていた皿に料理が放たれる。
「へい!お待ち!」
更には海鮮と無数の野菜を炒め上げた料理、肉とキノコを炒め上げた料理が並んだ。
「おあがりよ!!」
今日の昼食は中華……こちらの世界で言えば黄河風の炒め物だ。
スープと簡単な前菜も用意されており、ご飯も炊き立てである。
「うわーーーっ!美味そうっスね!トラペゾンさんは何やらせても万能っス♪」
自身も料理は出来るが人並みの腕前のアールがトラペゾンを褒めそやす。
「
トラペゾンは【料理人】系統に今は就いている訳では無いが、それに負けずとも劣らない腕前を持っている。
この才能のおかげでシステムそのものに影響されるスキル以外は困らないと言うのもトラペゾンと【アザトース】の強みと言える。
トラペゾンも席に付いて食事をしようとするが、そのテーブルには一席が
「アール、
その空いた一席には他の席とは別にピザや胡麻団子が用意されていた。
席に着く予定者の
「シャンバラも気難しいっスからね……もう!シャンバラ!出て来るっスよ!!〈マスター〉命令っス!!」
そう言って掲げられたアールの左手。
そこに描かれた真円と交差十字の紋章より、一人の男が呼び出された。
背はアールより頭一つ分程高く、不機嫌そうにひそめられた眉毛と薄褐色の肌色が特徴的だが整った容姿。
その服装は砂漠民、西洋、和風と様々な意匠を取り入れられた奇妙なものであるが、誰が見ても不思議と神官と言ったイメージが沸く服装であった。
彼こそがアール・スタンディーの〈エンブリオ〉。アポストルのシャンバラである。
女性型〈エンブリオ〉のメイデン、男性型〈エンブリオ〉のアポストル。
他種の〈エンブリオ〉との明確な違いの一つとして自我がハッキリと存在している点が挙げられる。
彼、彼女等は〈マスター〉の願いこそ尊重するが基本的に紋章から出て〈マスター〉に寄り添う相棒の如く世界に在る事を好む。
その中にあってシャンバラは異質。
彼は必要が無ければ極力紋章に入っている事を好む珍しいタイプの〈エンブリオ〉であった。
アールとシャンバラに出会った初めての時は今でも鮮明にトラペゾンは覚えている。
トラペゾンのファンを自称し、仲間に入れて欲しいと頼んできたアールと真逆の反応。
シャンバラはトラペゾンに対して『私はお前が嫌いだ』とハッキリ通告してきたのだ。
それを真横で聞いたアールは顔を青くしてトラペゾンに平謝りしていたが、トラペゾン自身は気にしなかった。
このゲーム内に限らずに
そして、シャンバラのその言葉の理由も自ずとアールと一緒に行動する内に
その事を知ってからは彼の言動を更に一切気にしなくなった。
何故なら、トラペゾンから見てもシャンバラの言い分は
しかし、トラペゾン自身は納得していても〈マスター〉であるアールを始めとした仲間達はシャンバラの言動は面白くない。
アールは幾度もシャンバラを注意していたし、血の気の多い叉乱などはシャンバラを殴ろうとした事さえもある。
それを毎回止めたり嗜めるのはトラペゾン本人なのだから、パーティーメンバーも複雑であった。
シャンバラの性質もありアール自身もシャンバラが望まない時や
呼び出されたシャンバラは自分の為に用意された食事を前に無言で席に座っていたが、アールに言われて手を付け始める。
焼き立ての海鮮ピザは小型ながらもカットされずに丸ごとのまま口に運ばれてモッチャモッチャと咀嚼される。
〈四司士〉達は面白くなさそうにそれを眺めながら食事を続けるが、アールはハラハラとしていて食事どころでは無い。
「アール、気にしなくて良いから自分の食事をしろ」
「はっ、はい!トラペゾンさん。シャンバラ!トラペゾンさんがわざわざ貴方の為にピザ焼いてくれたんスよ!美味しいでしょ?ちゃんとお礼を言うっスよ!」
アールの言葉に仕方無くシャンバラが口を開いた。
「美味くない訳ではない」
その言葉にアールは唖然として、〈四司士〉は眉をひそめるがトラペゾンは苦笑して気にしない。
そして食事を楽しんで、暫く団欒していた一行の前に彼等は現れた。
「あっ!いた、いた〜♪」
そんな団欒をぶち壊すお気楽な声が少し離れた場所から上げられた。
トラペゾンは少し前からそのパーティーに気付いていたが、奇襲を掛けようとするでも無く普通に歩いて来た為に対応しなかった。
ただし、いつでも戦闘に入れる様に自然体で身構えてはいたが。
「誰っスか?アンタら?」
トラペゾンが誰何する前に警戒したアールが先手を取って問いかける。
何時でも戦闘を始めれる様に準備をしており、それは〈四司支〉も同様だ。
それに対してパーティーの先頭に立つ毒々しい赤紫髪色をした女性から名乗り始める。
「アタシは【双槍姫】ラピネ・ルピ♪」
「拙者はサルトビWと申す忍者で御座る。【風影】に就いているで御座る。お見知りおきを!デュフッw決まったで御座る♪」
「わ、私は【波動姫】ラーフララ……は、初めまして」
「へい!ミーはモアドープ!【中毒王】さ!よろしくぅ♪」
「……先日ぶりだな、【正義魔王】。【砲撃王】ギストリーだ」
怪し気な雰囲気の五人組は律儀に名乗った。
それに対してアールが訝し気に言う。
「【砲撃王】?ああ……3日前くらいにトラペゾンさんにぶっ殺されてデスペナルティ食らったっていう吹いたら飛ぶ様な弱小盗賊団のお頭さんっスよね?もしかして再ログインして早々またトラペゾンさんに挑む気っスか?頭イカれてるんすか?それともマゾかなんすか?」
呆れた様子で無自覚にギストリーを煽るアール。
ちなみにこの発言はアールとしては煽っているつもりは無い。
トラペゾンの実力を良く知っているからこそギストリーに勝ち目が全く無いと見て取った故の発言だ。
敢えて例えるなら人間に喧嘩を売って勝てると思っている一匹の無謀な蟻を見ているような気持ちだろうか?
「て、てめぇぇぇ!!」
ブチ切れてアールを攻撃しようとしたギストリーの前に突如として槍が現れた。
その早技にアールもギストリーも反応出来なかった。
唯一反応出来たトラペゾンさえも少し驚いていた。
「ストォォォォップ!!まだ早いでしょう?早い男は嫌われるって知らないの?ギスっちぃ」
「ぐっ………!」
ラピネの槍に阻まれたギストリーは悔しく思いながらも大人しく下がる。
近距離戦ではこの女に勝ち目は無いし、何よりここで敵対行動を取っていきなり戦闘になるのは不味いと自身でも自覚していたからだ。
「御免なさいねぇ?早漏野郎が先走ってぇ♪アタシ達はね、貴方に挑戦しに来たのよぉ……、
〈超級〉というのはデンドロを楽しむ〈マスター〉達の中では憧れであり、畏怖の対象であり、同時に嫉妬する相手でもある。
トラペゾンも自身を倒して名を上げようとする〈マスター〉に絡まれた事はそれなりにある。
故にこういった事態には慣れてはいるが……。
「それならどうしてわざわざ名乗ったんだ?奇襲でも何でも仕掛けて来れば良いだろ?」
トラペゾンは全世界指名手配こそされてないが今居るレジェンダリアにおいては指名手配対象である。
セーブポイントも使えないし犯罪者〈マスター〉として狙われるのも不思議ではない。
レジェンダリア最強の犯罪者集団〈欲望〉の〈超級〉達と同じく命を狙われる事は珍しくは無い。
そもそも〈マスター〉はティアンに狙われた場合には正当防衛が成立するが〈マスター〉に狙われた場合にはその限りでは無い。
正確には〈マスター〉同士の軋轢や抗争は国家の法治外の出来事なのだ。
狙うのも自由だし、狙われて返り討ちにするのも自由。
周囲や環境に迷惑を掛けない限りは国家としてはノータッチが基本故にトラペゾンはよく奇襲をされてきた。
その全てを返り討ちにしてはいるが、こうして〈マスター〉から正々堂々と名乗られて喧嘩を売られるのはそれなりに珍しい。
しかも、相手のパーティーは全員が超級職に就いた準〈超級〉で構成されている。
これだけの戦力が向けられるのも中々無い。
「やぁねぇ?そんな事したら話も出来ずに早々に敵対して戦闘になっちゃうじゃない。そちらに居る人達はティアンでしょう?ティアンを殺しちゃったら私達まで指名手配されちゃうじゃない!」
「ああっ!?誰が誰を殺すってぇ!?」
血の気の多い叉乱がラピネの言葉に反応するが、その反応は冷たい。
「やめときなさいよ。貴女達は超級職みたいだけど
ラピネの反応に対して叉乱はキレ掛けるが何とか抑える。
〈マスター〉とティアン、互いに超級職に就く資格を持つ人間範疇生物という存在ではあるが明確な差が存在する。
それは〈エンブリオ〉能力とデスペナルティシステムだ。
〈エンブリオ〉は〈マスター〉にだけ与えられる特権であり、当然だがティアンには存在しない能力だ。
その能力は千差万別であるがTYPE:ボディやTYPE:アポストルでも無い限りレベルアップ時にステータス補正を掛ける為にティアンより強靭になりやすい。
そして〈エンブリオ〉固有のスキルは就くジョブとのシナジーによっては足し算どころか掛け算レベルに〈マスター〉を強化する事も珍しく無い。
更にはデスペナルティというシステムによって死という生命の終わりすら終わりにならないのだ。
特殊超級職や一部の【神】に就いているティアンを除けばどちらが強者であるかは今や常識であった。
叉乱もティアンとしてのプライドを守る為に反論したいが、身近にトラペゾンという自身も認める最強クラスの〈マスター〉がいる為に反論出来ない。
「つまり、ティアンを巻き込まない為にわざわざ正々堂々と戦いに来たのか?」
トラペゾンが話を継いで問いかけた。
「それは理由としては半分ね。アタシ達はあなたと決闘する為にわざわざ正々堂々名乗ったのよ?【
【正義魔王】のデンドロ内でのロールプレイは有名であった。
【魔王】でありながら人助けをする良識側の世界派〈マスター〉。
さながらリアルにおける創作のヒーローの如き行動をしている世界に百人いないと言われている〈超級〉の一人。
良識的な〈マスター〉でそう言って行動をしている者自体は珍しくは無いが指名手配までされて犯罪者扱いされているのにやっている者、更には〈超級〉となると非常に珍しかった。
そんな〈超級〉、トラペゾンの返答は……。
「いや、時と場合によっては逃げさせてもらうが?」
ラピネの想定を超えていた。
「はぁ!?!?」
〈超級〉と言うのは〈マスター〉達の間で強者の代名詞ですらある。
その一人が挑戦から逃げると気兼ねなく言ったのにラピネは驚愕で空いた口が塞がらなかった。
ラピネの仲間達も同感である。
そんなラピネ達にトラペゾンが言う。
「よく勘違いされる事だが言っておく。俺は別にヒーローや
淡々と話すトラペゾンの言葉にラピネ達の《真偽判定》は一切反応しなかった。
つまりは本気で言っているという事に他ならない。
予想を裏切るトラペゾンの反応にラピネ達の顔が曇る。
「じゃあ……アタシ達の挑戦は受けられない、と?」
「受けたとして俺に利点は無いな」
「そう……、残念ね。それなら……、アタシ達もそれなりの対応をするべきかしら?」
そう言ったラピネはトラペゾン自身から目線を外して背後に位置する〈四司士〉達に悪意混じりの目を向けるが……。
「やめておけ……、俺に手段を選ばせないつもりか?」
トラペゾンから突然発せられた圧力にラピネ達は気圧された。
「良いだろう、内容次第では挑戦を受ける。それで構わないだろう?」
「トラペゾン様」
「大将!」
「リーダー!?」
「ボス……」
四者四様にトラペゾンに声を掛ける〈四司士〉の声色には自分達を気にするな、という意思が感じられたがトラペゾンは手のひらを向けて制する。
「確かに奇襲をかけられるよりは正々堂々と戦った方がマシだろうな。だが、【契約書】は書いて貰うぞ?」
「構わないわよ」
トラペゾンからの提案をラピネは予想していたのか所持する【アイテムボックス】から一枚の紙を出した。
【契約書】。
それは基本的に人間範疇生物同士の契約をする為のアイテムで、プレイヤー間の約束事にも用いられる。
それを反故にした方には一定期間のステータスダウンや、状態異常、デスペナルティを与える。
その強制力は非常に強力であり、国家間の契約に使われる様なモノであればもし破れば国家が滅亡する程の災厄すら起きると言われている。
それは過去の歴史においても観測されている事実だ。
「確認してちょうだい」
ラピネは【契約書】をトラペゾンに渡した、そこには以下の文言が書かれていた。
契約内容。
『①【正義魔王】は【砲撃王】、【双槍姫】、【風影】、【波動姫】、【中毒王】と一対五の決闘を行う。
②勝敗はどちらかの全滅によって決される。
③アイテムの使用は【救命のブローチ】を含めて何でも有り、ただし決闘開始前に決闘フィールド内部に存在した物に限る。
④決闘を行うフィールドは半径500メテル(500メートル)の球体状とする。
⑤開始位置は決闘フィールドの中心部より両者25メテル以上離れた位置とする。
⑥決闘フィールドより外に出た者はその時点で失格、敗北となりデスペナルティになる。
⑦【正義魔王】が勝利した場合には【砲撃王】、【双槍姫】、【風影】、【波動姫】、【中毒王】は
【正義魔王】とそのパーティーに対して今後一切の干渉は行わない。
契約内容を破った場合には違反者の今後の生殺与奪権一切を【正義魔王】側に譲渡する。
ただし、これは【正義魔王】側から干渉した場合には適用されない。
⑧ 【砲撃王】、【双槍姫】、【風影】、【波動姫】、【中毒王】が勝利した場合には特典武具を除く【正義魔王】側の所持アイテムを五割渡し、【砲撃王】、【双槍姫】、【風影】、【波動姫】、【中毒王】が【正義魔王】に勝ったと言う事実を他者に聞かれた場合に正直に答えねばならない。
契約内容を破った場合には違反者の今後の生殺与奪権一切を【砲撃王】側に譲渡する。
その他の内容は加筆可能』
「……」
トラペゾンは黙って【契約書】をしっかり確認するとその内容を仲間達にも見せた。
仲間達はその内容に揃って顔を顰めた。
アールが口を開く。
「なんなんすか?これ?こちらには一切利点が無いじゃないっすか?そちらも負けたなら
「そうしたいのはやまやまなんだけど、こっちもお金はそれほど持ってないのよねぇ……払えて百万リルとかくらいだけど、〈超級〉にとっては端金でしょ?」
〈超級〉は金持ちが多いのは確かだが、流石にその言い分は認められないとアールも口を挟もうとするがトラペゾンが止める。
「こちらは構わない。ただし、少し内容を変えて貰いたい」
「……どの部分かしら?」
トラペゾンの提案にラピネ達は身構える。
物言いが入る事は前提として考えていたが、その内容如何では【契約書】の使用自体を破棄せねばならない。
「先ずは、こちらが勝った場合の【正義魔王】のパーティーに手を出さない旨の部分だが、俺の仲間のティアンに手を出しさえしなければ構わない。つまりは俺に挑戦する事自体は何度もでも試して構わない」
その返答はラピネ達も想像してなかった事だ。
これはどちらかと言うとラピネ達を利する内容に分類されるだろう。
【正義魔王】の仲間達も信じられないといった顔でトラペゾンを見つめている。
そんな周りを知ってか知らずかトラペゾンは更に続けた。
「次にお前達と戦うのは俺だけでは無い。アールも入れて貰う」
「「はぁ!?」」
トラペゾンのその言葉に双方から驚きの声が上がった。
片方はまさか自分が指名されるなどと思って無かったアール。
片方は【正義魔王】側が味方の追加人員を求めるとは思わなかったラピネ。
自身が指名されたアールが先にトラペゾンに食ってかかる。
「トラペゾンさん!何でボクを指名するンスか!?」
「何でって……お前は〈四司士〉と違って〈マスター〉じゃないか?死んだとしても復活できるし」
「相手は五人がかりなんすよぉ!?」
「こちらを強敵と認めているって事だ。光栄だな」
「どんな能力かも分からないんですよぉ!?」
「〈UBM〉や〈マスター〉と戦う時に相手の能力が分からないなんて珍しく無いだろ?それに既知とばかり戦うより未知と戦う方が為になるさ」
「ボクは戦闘要員じゃないっスよぉ!?」
「戦闘要員じゃなくても、お前は問題無いじゃないか」
アールはトラペゾンの説得を諦めた。
納得いかない顔ながらも渋々頷いて了承する。
「分かったっスよ……ただし、ボクはあくまでサポートっスからね!」
「話は付いた。挑戦を受けよう」
今のトラペゾンとアールの話し合いならぬ決闘の押し付けにラピネ達は少しアールに同情を覚えていたが、何とか自分達の思惑通りに通った事に安堵した。
「良いわよ。その内容で書き換えるわ」
「おい!?」
アールが決闘に参加する事を了承したラピネに味方から声が掛かった。
ギストリーである。
「能力も分からない敵が参加するのにそのまま了承するのか!?俺達が組んだ計画は【正義魔王】一人に対しての作戦なんだぞ!!」
「ギスっちの言い分は良く分かるわよ。けど、ここでゴネて決闘が御破算になるよりはマシでしょ?」
必死になるギストリーを宥める様にラピネは言う。
更にはアールを見つめながら続けた。
「もう一つの追加内容はアタシ達にすごく有利なのよ?もし今回負けてもリベンジのチャンスは無くならないし、アールとか言う子も
ラピネはそう言って【中毒王】モアドープの方を見るとニヤッと笑って彼は首肯した。
「それじゃあ、準備もあるだろうし場所はここで、今から30分後くらいに開始で構わないかしら?」
「構わないぞ」
「ボクも構わないっス、ただ決闘フィールドってどうするんすか?目視じゃあ場外に出た、出ないは揉めるっスよ?」
「それはこちらで用意するわ。サルトビ!」
「ガッテンで御座る♪」
ラピネに声を掛けられたサルトビWは先端が光る棒状のアイテムを取り出して、地面をなぞった。
なぞられた地面は淡く光り出す。
「これは野試合をする時の簡易結果を貼る為のアイテムよ。これで半径500メテルをなぞる円を描けば中心地点から上下も含めて円状に結界が発生するの。決闘開始後に結界に触れたら赤く光るから一目瞭然よ。外部からの干渉も同時に反応するから反則は直ぐに分かるわ」
ラピネの説明を聞いたトラペゾンとアールは理解したと頷く、するとサルトビWはその棒を持って駆け出した。
決闘フィールドを作りに行ったのだ。
「じゃあ、場外って言っても実際には触れたらアウトって感じなんスね。自分から触るのは勿論、相手に飛ばされて触れてもアウトって事っすね」
「勿論よ。そこら辺は戦術次第だけど注意する事ね。まあ、中心部から開始する以上は動き回らない限りは大丈夫でしょ?」
ラピネの言葉を聞いたアールは引っ込む。
後はそれぞれ作戦を練る時間だ。
双方は反対側に歩いて行こうとする。
ラピネはその前に【正義魔王】に声を掛けた。
「けど……さっきの殺気は堪らなかったわぁ♪それに、あなたってイケメンねぇ……?その強さ次第では惚れちゃいそうよ♡」
舌舐めずりしながらトロンとした顔でトラペゾンを見つめるラピネにアールと〈四司士〉はピキるが、トラペゾンは呆れて返す。
「顔が整っているかどうかなどは俺にはどうでも良い事なんだがな……、リアルでは醜い者がどんな皮を被っているかも知れないぞ?」
「キャハハハハッ♪そうね♪デンドロ内ではリアルでどんなブサメンだってイケメンに成れるんだから顔なんてどうでも良いわよね♪」
トラペゾン自身もラピネの意見に内心、首肯する。
リアルでは脳味噌だけの青年は容姿に関して割りかし無頓着であった。
トラペゾンが美形なのはアバター作成に普通に成長した自身を投影しただけであり、わざわざ作った訳では無い。
リアルのトラペゾンがイケメン(もし事故に遭って無かったら)であっただけの話なのだ。
ムカつきを隠さない顔でアールが聞いた。
「そう言えばアンタらはレジェンダリアの〈マスター〉っスよね?超級職に全員就いてるみたいっスけど、国家ランキングは何位ぐらいなんスか?」
その質問にキョトンとした表情を一瞬見せたラピネは怪しい笑顔を浮かべて答えた。
「あら、失礼したわね♪
◇◆◇
ラピネ達から離れた場所でトラペゾンはアールに聞いた。
「アール……一応、聞いておくが本当に奴等の詳細は知らないんだよな?」
「知らないっス。七大国の各ランキング一〜三位くらいはちゃんと調べてますけど、十位以下の連中まで把握なんてしてないっスよ。入れ替わりも激しいですし」
トラペゾン自身はデンドロ内に入り浸りな為にリアルのネット等でゲームの情報収集をするのはもっぱらアールの役目であった。
「けど今更気にする事っスか?決闘ランキング十五位、討伐ランキング十八位、クランランキング二十一位って……
アールの発言は相手達を明らかに見下していた。
しかし、それは仕方ない事である。
その理由を知るには国家ランキングという仕様の内情について知らねばならない。
七大国家には共通して決闘ランキング、討伐ランキング、クランランキングという順位付けが存在している。
決闘ランキング。
国においてやり方が異なる部分もあるが、概ね一対一の決闘によって強弱を決めるランキングである。
その仕様上、個人対個人の戦闘に優れた個人戦闘型がほぼ上位を占めている。
討伐ランキング。
全国家共通でその国家におけるモンスターの討伐数(正確にはモンスターごとに定められたポイント)を競うランキングである。
一度に広範囲を攻撃出来る広域殲滅型が俄然有利なランキングであり上位もその例に漏れない。
クランランキング。
個人のランクでは無く、同じ思想や目的、友人や知り合い同士で作るクランの貢献度を競い合うランキングである。
個人の能力よりも集団での行動力が物を言うランキングの為に大人数を擁するクランが有利である。
そして、今現在においてそのランキングの一位の座に就いているのは殆どが〈超級エンブリオ〉を所持し超級職を持っている〈超級〉なのである。
決闘が七大国家で最も盛んな天地などは決闘ランキングの1位〜3位までが〈超級〉で占められている程である。
そして、それに続く様に〈上級エンブリオ〉だが超級職に就いている準〈超級〉クラスがひしめいている。
それらの事情を知った上でラピネやサルトビWのランキング順位を知ればどう思うか?
超級職に就いていながらそこまで戦闘に特化していない微妙な〈マスター〉と言う評価になるのだ。
クランランキングは集団の能力評価になる為にクランオーナーの能力はそこまで重視されない為に除外しても良いかも知れないが、決闘と討伐は本人の能力の為に誤魔化しが効かないのだ。
勿論、ランキングに載るぐらいの実力は国家所属〈マスター〉でも間違いなく上澄みであるだろうし、普通は舐めてかかれる相手ではない。
ランキング外にも強者はいるし、何より〈エンブリオ〉持ちはオンリーワン能力ばかりだ。
初見殺し系も珍しくは無い。
しかし、【正義魔王】トラペゾンは戦闘型の〈超級〉。
本人は国家無所属の為にランキングには一切載ってないが、その実力はランキング最上位達に劣らない。
仮にやろうと思えばどの国でも瞬く間に上位一桁ランキングを狙える存在なのだ。
これはトラペゾンを良く知る者達の総意であろう。
そんなトラペゾンに対して数を頼みにするとは言え、準〈超級〉のランキング下位が挑んだところで勝負は見えてると挑戦する本人達以外は判断するであろう事は明白だ。
しかし、その事実を踏まえた上でもトラペゾンの顔は険しい。
「アール……アルター王国の
トラペゾンのその言葉にアールはハッとした顔をした。
言葉の意味を瞬時に理解したからだ。
アルター王国におけるランキング十三位……決闘でも討伐でもクランでも無く、単純にランキングと言ったのはその順位に付いているのは同一人物であるからに他ならない。
アルター王国所属〈マスター〉“夜蜘蛛” 魔術師系統暗黒術師派生超級職【
自身が率いるクラン〈暗黒舞踏会〉のオーナーであり、全てのランキングにおいて十三位に付いている少女。
このランキング順位は偶然などでは無い。
本人が不吉な数字を好む為に敢えてこの順位に止まっているからだ。
その実際の実力はランキング一桁は確実であろう逸材なのだ。
自身の〈エンブリオ〉である【呵責十字 ジューダス】によって、得意とする闇属性魔法に状態異常デバフを付与する戦法は個人、複数との戦闘を選ばずに有用であり、必殺スキル《
そして討伐ランキング三十位、魔術師系統閃光術師派生超級職【
リアルでは小説家であり、<Infinite Dendrogram>の世界を自身の創作の取材対象として楽しむ遊戯派。
様々な国で騒動を起こしてはそれによって起きるイベントを自身の創作の糧として消費している最悪クラスの遊戯派だが、その実力は本物。
戦争の様なイベントへの挑戦権を確保する為だけに討伐ランキング三十位に居るだけであり、実際の強さは一位すら狙えるであろう準〈超級〉最上位の存在。
元々光属性は、火属性に次ぐ威力と全属性最速の速度に加え、アンデッドへの特効をも併せ持ち、闇属性と相殺関係にある強力な属性であるが、他の属性魔法と比べてMP消費量がかなり多い為に、他の魔法系超級職よりも一回の戦闘で使用できる魔法の回数が少なく、他の属性魔法よりも魔法発動までに時間がかかり、魔法が直線軌道を描き、読み易いなどの欠点があった。
その為に正面戦闘では遅れをとりやすいと言うのが常識であったのだが……。
エフの場合、自身の〈エンブリオ〉【光輝展星 ゾディアック】によって、光属性魔法の三つの欠点全てを克服した、規格外の存在なのである。
死音とエフ。
この両名は準〈超級〉でありながら油断すれば〈超級〉【正義魔王】トラペゾンさえ撃破しうるスペックを秘めた猛者なのだ。
彼等の様なランク詐欺を知ってる身としては到底油断は出来ないし、するつもりはトラペゾンには無かった。
◇◆◇
変わって、こちらはラピネ達の陣営。
当初の予定とは若干の差異が生じたがおおむね想定通りに行ったのでラピネは満足であった。
しかし、収まらないのはギストリーだ。
【正義魔王】に対する必勝を期して準備して来たのにそれが御破算になりかねない要因が入り込んで来た為だ。
アールの存在である。
「どうするんだ!一対五が二対五になったんだぞ!」
喚くギストリーをサルトビWやモアドープが宥めるが、ラピネはつまらなさ気に言う。
「まったく、つまらない男ね。予定通りに行く事なんて人生では稀よ。それに問題無いわよ。モアくんがちゃんと《看破》で判定してるんだから」
【中毒王】という毒物や薬品のエキスパートに就いているモアドープの《鑑定眼》や《看破》と言った対象の装備やステータスを見破るスキルレベルはパーティー内で最も高い。
そのモアドープがアールの就いているジョブをしっかりと把握してパーティー内に伝えていたのだ。
ギストリーもそれを聞いて安心した。
「そうか……〈エンブリオ〉の能力もあるだろうが、それなら大丈夫そうだな。作戦も少し調整すればいけそうだな」
「そうそう、安心なさいな。さっきの戦闘要員じゃ無いって言葉にも《真偽判定》で嘘は無かったし、何より……」
「【跳躍姫】なんて
To be continued
取り敢えず、今回の話が終わるまでは毎日投稿するのじゃ♪(①〜④)
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