【正義魔王】の“正義”について   作:利月十

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優しい痛み

甘い苦しみ

あなたはどちらがお好みかしら?

アタシが新しい価値を教えてあげる♡

【双槍姫】ラピネ・ルピ





【正義魔王】と【跳躍姫】、【砲撃王】と愉快な仲間達について② 【征跳天 シャンバラ】

 そして30分後、決闘フィールドの中に立つ()()の姿があった。

 

 完全装備をして両手に長剣と戦斧を携えた【正義魔王】トラペゾ・H・ルーラー。

 服装は変わらないが目元に左右それぞれ♡と♢のペイントを入れた【跳躍姫】アール・スタンディー。

 それに寄り添う様に側に控えるシャンバラ。

 

 対峙するは睨む様に相手を見る【砲撃王】ギストリー・グスタフ。

 薄く笑っている【双槍姫】ラピネ・ルピ。

 常に楽し気な【風影】サルトビW。

 モジモジと怪し気に動く【波動姫】ラーフララ。

 ニヤッとしながらクッキーか何かを齧っている【中毒王】モアドープ。

 

 純粋な戦力だけ見るならデンドロ内国家の小規模戦争に匹敵する様な強者達の決闘が今まさに始まろうとしていたが……。

 

「ちょっと良いかしら?そのイケメンは誰?」

 

 招かれざる客を見るように、不機嫌そうな顔をしたシャンバラを見るラピネ。

 

「ねえ……アタシの記憶違いじゃ無ければ二対五だった筈よね?【正義魔王】さん達は数も数えられなくなったのかしら?」

 

 挑発を含む嫌味を言いつつもラピネはシャンバラに対する警戒を外さない。

 

「間違いでは無いっスよ?彼はボクの〈エンブリオ〉っス。シャンバラ」

 

 ラピネ達を不機嫌な顔で眺めていたシャンバラは〈マスター〉の呼びかけに応えて少し頷くと光の粒子に変わってアールの周りを纏う様に漂い、その足元と頭上にそれぞれ光の輪となって顕現した。

 

 これこそが【シャンバラ】の能力発揮形態なのである。

 

 その光景を驚きの目で見ていたラピネ達だったが、おもむろにサルトビWが聞いた。

 

「男性型のメイデン……噂に聞いた()()()()()で御座るかな?実物は初めて見たで御座るよ……」

 

 女性型〈エンブリオ〉のメイデン自体も他の〈エンブリオ〉に比べたら珍しい部類ではあるが、アポストルに比べれば遥かにメジャーである。

 

 アポストルはメイデンと同じく別種のTYPEの〈エンブリオ〉との複合であるが、アールに纏われた【シャンバラ】はその見た目から実体の無いテリトリー系列であるのが見て取れたが、逆にそれしかラピネ達に分からない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 現在、存在しているアポストルで世界的に有名なのはアルター王国に在籍している〈超級〉【狂王】(キング・オブ・ベルセルク)ハンニャの【幽閉天使 サンダルフォン】TYPE:アポストルwithエンジェルギアである。

 

 【サンダルフォン】の戦闘形態は巨大な二足の全長1キロを誇る超巨大ギアであり、その頂点に〈マスター〉であるハンニャを乗せて地上を蹂躙する戦闘スタイルである。

 固有スキルにして必殺スキルの《天死領域(サンダルフォン)》は自身の周囲の空間を改変して四方10キロメートルを100メートル四方の空間、一万個に区切って空間の繋がりを出鱈目に繋ぎ合わせて疑似迷路にすると言うスキルだ。

 

 〈超級〉になる前にレジェンダリアで暴れ、国家元首にして特殊超級職の【妖精女王】(ティターニア)に討たれて監獄入りしたと言うエピソードの持ち主だけあってラピネ達が所属するレジェンダリアでも有名な為にその能力は知っていた。

 

 しかし、逆に言えばそれくらいしか知らないのだ。

 

 監獄に居る〈超級〉フウタの【終焉侵食 アポカリプス】や、アルター王国の討伐ランキング三位、準〈超級〉最上位【嵐王】(キング・オブ・ストーム)ケイデンスの【弄風皇子 ハスター】をラピネ達は知る由も無い故に。

 

 では【サンダルフォン】をベースに【シャンバラ】の能力を推測する、と言うのも無理がある。

 

 当たり前だが、同TYPEの〈エンブリオ〉とは言ってもパーソナル的特徴が似てるだけでそれぞれに形作られる能力は千差万別。

 とてもでは無いが推測して能力を絞る事は出来ない。

 

 結局、ラピネ達はアールに対しては無駄に考え無い事にした。

 下手に考え過ぎるのは戦闘において『考え無い』という事よりもある意味タチが悪いのだ。

 少なくとも判断を鈍くするだけの愚考ならしない方がマシである。

 

 ならば系列だけを予想した上で能力を見て対処するのが次善の策と判断した。

 それに、()()()()()()()()()()()()()()アールに関しては必要以上に対処する必要が無いというのもあった。

 

「さて、じゃあ始めようかしら?最終確認とかは良い?」

 

ラピネの言葉にトラペゾンが反応する。

 

「お前達が勝った場合は俺とアールがデスペナルティしてる状態だが、俺の連れ達は見逃してくれるんだろうな?」

 

 トラペゾンの方から、それも〈超級〉ともあろう者がまさか自分が負けた場合を心配する言葉を言ってくると思わなかったラピネは面食らうが返答する。

 

「アタシ達の目的は勿論貴方達と戦う事だからティアンには興味無いわよ?別にどうこうしたりはしないわ。アンタ達もそれで良いわよね?」

 

 ラピネの言葉には《真偽判定》も反応しない。

 仲間達も皆それぞれに頷く。

 

 ギストリーはトラペゾンに顔を向けつつフィールド外にて見ている〈四司士〉をチラッと見た。

 

「俺は【正義魔王】にリベンジを果たせればそれで良い」

「イヤがる女子に……ってのも堪らないで御座るが、戦いを仕掛けるのは野暮で御座るからな♪」

「わ、私も興味ない、かな」

「オレも遠慮しときまーす」

 

「そういう事よ?後、サルトビはキモいから決闘終わったら自害しなさいよ」

「拙者にだけ辛辣ぅーーー!?」

 

「それを聞いて安心した」

 

 トラペゾンが頷く。

 

「勿論、彼女達が仇打ちって言って襲って来るなら話は別だけど、言い含めておいてくれるのよね?」

 

「俺の方から言い聞かせておこう。ところで……そういう話なら()()()()()()()()()()()()()()()反則って事で良いんだよな?」

 

 そう言ったトラペゾンはギストリーに顔を向けた。

 ギストリーは冷静を務めながら内心で冷や汗を流した。

 

 (ば、ばれてる!?バ、バカな!!そんな素振りは見せていない筈)

 

 ギストリーは図星を突かれた。

 今回使用する決闘フィールドに貼られる簡易結界はグランバロアを除く各国闘技場で正式に使われている様な外部への影響を防ぐ類の物では無い。

 範囲を決める為だけの物に過ぎない。

 それ故に外部からは勿論、内部からも外部へ攻撃が飛ぶ可能性が有るのは当然だった。

 

 ギストリーはそれを利用してトラペゾンの動きを制限する意味で観戦者の〈四司士〉を利用するつもりでいた。

 遠距離攻撃型のギストリーが射線を彼女達に通せばトラペゾンはそれを護ろうと動く事を予想して。

 

 しかし、それは何故かトラペゾンに見透かされていて釘を刺された。

 

 ラピネもトラペゾンとギストリーのやり取りを聞いてすぐに思い当たった様だ。

 

「ギストリー?あんた、つまらない真似する気じゃ無いでしょうね?しらけるのよね、そういう事するの。そう言う魂胆ならアタシは今回の件から引かせてもらうわよ?」

 

 ラピネは遊戯派である。

 自身の愉しみを最優先させるタイプであり、気に食わない事があればこの場から抜けるのも当然と考える女だ。

 今回の決闘におけるギストリー達の作戦の要でもありラピネが参加しないなら作戦は破綻する。

 

 ギストリーの卑劣な作戦はトラペゾンとラピネに見透かされ使用不可能になった。

 

「も、勿論、つまらない真似なんかするかよ!それよりもそういう事を心配するならお前の連れを遠くにやっておけ!!」

 

「そうさせてもらおう」

 

 話は終わったとばかりに〈四司士〉達に向かって歩いていくトラペゾンとその後を付いて行くアール。

 その後ろ姿をジッと眺めていたギストリー一行だったが、トラペゾンが十分に自分達から離れたタイミングでモアドープに全員が顔を向けた。

 

「どうだ?」

 

 代表してギストリーがモアドープに話し掛けた。

 

「ダメだねー。オレの《鑑定眼》じゃ見破れないよー」

 

【中毒王】モアドープはジョブ仕様上、パーティー内でレベル最大の《鑑定眼》を持っている。

 高レベルの《鑑定眼》は何らかの隠蔽をされていない限りはレアアイテムだろうとその詳細を看破出来るのだが、モアドープですらトラペゾンの装備群は看破出来なかった。

 《鑑定眼》よりレベルが高いレアアイテム、保有リソースが高いアイテムに見受けられる現象だ。

 即ち、トラペゾンの装備しているアイテムは全てが〈UBM〉特典武具以上の装備である証明だった。

 

 ギストリーが初めて戦った時に《鑑定眼》を仕掛けて失敗した時からおそらくそうじゃないかとは考えていたが、今回モアドープの《鑑定眼》が失敗した事で確信を得た。

 

 特典武具は元になった〈UBM〉の固有スキルを色濃く持っている事が多い。

 スキルの多寡が強さにほぼ直結するデンドロにおいては特典武具の保有数は強さや対応力に大いに寄与するのだ。

 

 その事実を知っているギストリーだからこそ、その鑑定結果を知らされてゲンナリした。

 

「オーウ!そんなガッカリしないでよ、ギストリーさん。詳細は分からなくても()()()()()()()は分かったから」

 

 ギストリーは自分を慰める様に語りかけてくるモアドープを怪訝な顔で見つめた。

 

「《鑑定眼》は失敗したんだろ?何で等級だけが分かる?」

「これはオレ以外には多分知る人あんまいないと思うよー。特典武具って逸話級より伝説級、伝説級より古代伝説級、って感じに等級が上がれば上がる程に基本的に保有リソースが増えるのは知ってるよね?そのせいなのか《鑑定眼》を仕掛けた際に詳細不明と出る前に僅かだけど保有リソースが多い特典武具程にラグが出るんだよ。そのラグの時間から特典武具みたいな保有リソースが多い等級付けされたアイテムに関してはランクが何となく分かるんだよ」

 

 モアドープが知れっと話した内容にギストリーはおろか他のパーティーメンバーも驚愕した。

 そんな話は初耳だったからだ。

 

「まあ、等級だけ分かったところで大した意味は無いからね」

 

 モアドープは本当に大した事無いように言ったが実際には充分に凄い事である。

 等級が分かるという事はどの装備がより強力な能力を持っているかという事が判明するし、何よりそんな僅かなラグを捉える事が出来るモアドープの技能が凄いのだ。

 

「そ、それでも構わない!教えろ!」

 

 ギストリーに急かされたモアドープが頷く。

 

「まずは長剣と手斧、あれは恐らく伝説級や逸話級だね。それ程ラグは感じなかった」

 

 トラペゾンの持つ長剣【凄烈剣 ドラグソード】と戦斧【断崖斧 ドラグアックス】はそれぞれが伝説級と逸話級。

 モアドープの見立ては間違っていない。

 

「武器はそれ程高く無いと言う事か」

「それ程高く無いって言っても下手な器用貧乏アームズ系列の武器よりもスキル特化型なら性能は上なんだから油断するんじゃないわよ。ギスっチがドーナツみたいに穴空きにされた突撃槍やダーツみたいな特典武具もあるんでしょ?」

 

 ラピネの指摘にギストリーが苦い顔をする。

 

「まあまあ、でそれ以外の装備は如何で御座るか?」

 

「兜、鎧、腰、脚甲は……古代伝説級だね」

 

 その言葉にギストリーは更に苦い顔をし、他のメンバーはヒューと口笛を吹きそうな顔をした。

 

 古代伝説級……伝説級とはワンランクしか違わないが、その強さや能力は〈マスター〉でいう〈下級エンブリオ〉と〈上級エンブリオ〉程に違う。

 ギストリー達の様な超級職に就いた〈上級エンブリオ〉の持ち主、即ち準〈超級〉と呼ばれる戦力の持ち主で相性を抜きにすれば伝説級〈UBM〉に対して勝率は五分五分と言われる。

 しかし、古代伝説級が相手になった途端にその勝率は極端に落ち始める。

 何だったら〈超級〉ですら三割程度は負けの目が出始めると言われている。

 ギストリー達のパーティーでも古代伝説級特典武具を所持している者はいない。

 勝てないのでは無く遭遇できていないのが理由だが、遭遇出来たところで分が悪いのは大して変わらないだろう。

 

 しかし、ギストリー達にとっての悪い話はそこで終わらない。

 

「ま、まだ、腕部とマントが無いよ?アクセサリーは外側に身に付けるタイプじゃないなら分からないのは仕方ないけど……」

 

 ラーフララが補足した部分を聞き、モアドープが深刻そうな顔をした。

 

「おーう……腕部、つまり手甲とマントなんだけどね……()()()だね、アレ」

 

「「「「…………」」」」

 

 今度こそは全員が口を(つぐ)んだ。

 

 神話級特典武具、即ち神話級〈UBM〉を撃破した証明となる装備は国家存亡単位でのレイドバトルとなる〈SUBM(スペリオル・ユニーク・ボス・モンスター)〉の超級武具を除けば個人で手に入る武具としてはトップクラスの物となる。

 

 神話級の名の通りにその強さはジョブシステムを持つリアルから見れば超人と言って良いティアン達からすら見ても神話として語られるに相応しい強さを持つ。

 〈超級〉達の中でも最高クラスの猛者で無ければ撃破する事は不可能とまで言われているモンスターだ。

 ギストリー達と同じ準〈超級〉でも所持している者はいるが、それらは準〈超級〉最強クラスの者に限られており彼等は〈超級〉すら撃破しうる上澄み中の上澄みである。

 つまりは〈超級〉クラスの戦力が無ければ取得はまず不可能な代物なのだ、神話級特典武具とは。

 

 それを最低でも二つ所持しているという事実は【正義魔王】の強さの何よりの証に他ならない。

 一つだけだったなら能力相性が噛み合った幸運と言い張れるかも知れないが二つではそれも無理であろう。

 純然たる強さの何よりの証明に他ならない。

 

 ギストリー達は自分達が今から挑む存在の巨大さを今更ながら理解した。

 

 しかし……。

 

「アハッ……♪」

 

 戦う前から打ちひしがれかけた雰囲気を笑い声が斬り裂いた。

 

「アハハハハハッ♪」

 

 ラピネの口から愉しみで堪らないとばかりに笑い声が響いた。

 

「良いわぁ……良い……♪凄く良いぃ……♡今まで色々な準〈超級〉や()()()()と戦り合って来たけど神話級特典武具の所持者なんて()()()以外で初めてよ!しかも二つ!!楽しみ過ぎて蕩けちゃいそう……♥︎」

 

 自身の得物である双頭槍を地面に突き立て、柄部に脚を絡ませながらポールダンスさながらに肢体をくねらせあらぬ想像に舌舐めずりをするラピネ・ルピ。

 彼女の()()を知らない者が見れば扇情的にすら見えるだろうが本性を知るギストリー達はドン引きである。

 

 しかし、そんな戦闘狂が先程までの陰鬱な雰囲気を打破したのも事実。

 ギストリー達は改めて気を入れ直し、トラペゾン達が戻って来るまで作戦を入念に確認していた。

 

 ◇◆◇

 

 トラペゾンとアールは〈四司士〉の元に戻り現状の懸念点と【契約書】の内容について説明をした。

 

「大将!わざわざ決闘なんてする事は無え!!俺達も加勢するから皆でのしちまおうぜ!!」

 

 その説明に対して噛み付いたのは叉乱だ。

 

「決闘……いや、()()狂いの天地人がそんな事言うなんてね。けど、言ってる事には賛成。ぼく達は受ける義理は無い」

 

 ティキ・リ・リが合理的に考えて結論を出す。

 

「ワタシは決闘は賛成ネ。ここで始末しておかないとずっと追って来る可能性もアルよ。決闘だろうとリーダーが負ける訳ないシ、問題無いネ」

 

 紫蓮は現在の状況を考えて話す。

 

「私はトラペゾン様が決闘すると言うならそれに従います。しかし、本当によろしいのですか?」

 

 メルマリアはトラペゾンに心配そうに話し掛ける。

 メルマリアもトラペゾンの勝利を疑っている訳では無いが無用なリスクを負う必要は無いと考えていた。

 

 ここで相手を全滅させてデスペナルティに追い込むのは決闘しなくても出来る事だ。

 

 むしろ、今回のルールで決闘を受けてしまえばトラペゾンの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 メルマリアはそこを危惧していた。

 

「問題は無い。ここで勝っておけばお前達(〈四司士〉)の安全は奴等に対して保証される。【契約書】を破るリスクを冒しても手を出す旨味は無いからな。俺やアールと違ってティアンのお前達は死んだら取り返しが効かないんだ」

 

 トラペゾンの言葉は何処までも〈四司士〉達を案ずるものであった。

 自分達の主にこう言われては流石に食い下がれ無い。

 

「みんなの心配はごもっともっスけど、ボクがサポートに回るから安心して欲しいっス♪トラペゾンさんが決闘を望むならそれを助けるのがボク達の役目っスよ?」

 

 アールは〈四司士〉を諭す様に話し掛けるが、それに叉乱が反発する。

 

「大将の事は心配してねえよ。問題はお前が足を引っ張らないか、って事だよ!」

 

 紫蓮とティキ・リ・リも叉乱の様に表立って口にはしないが、アールを困惑の表情で見つめていた。

 そうで無いのはメルマリアだけだ。

 

「……そう言えば、貴女達はアールさんがまともに戦闘するのを見た事が無かったのですね」

 

 失念していた事を呟いたメルマリアはアールを見てから今更と言った表情で仲間達を見渡した。

 アールよりも先にトラペゾンの仲間になったメルマリアはパーティー内の最古株だ。

 アールの能力も加入当初から知っていた。

 それ故にすっかり忘れていたのだ。

 

「まあ確かに生粋の戦闘職じゃないからあんたらに見劣りはするかも知れないっスけど大丈夫っスよ」

 

「俺も保証する。アールは決して足手纏いにはならない。むしろ俺の助けになってくれるだろう」

 

 トラペゾンにまでこう言われては叉乱達も引き下がらざるおえない。

 

「トラペゾン様、どうかご武運を」

「大将、気張んなよ」

「リーダー、信じてるヨ」

「ボス、頑張って」

 

 〈四司士〉達は思い思いの言葉でトラペゾンを送り出した。

 

「ありがとう。ではお前達は確実に安全と思える場所まで下がってくれ。決闘の観戦はスキルやアイテムですると良い」

 

 そう言い残したトラペゾンはアールと共に決闘フィールドの中心に向かって歩いて行った。

 その道すがらにアールがトラペゾンに問う。

 

「最終確認っスけど、本当に良いんスか?トラペゾンさん、わざわざ決闘形式にする意味は無いっスよ」

 

 アールはトラペゾンの指示には従う、その上で自身の自由としてトラペゾンを優先するがそれは〈四司士〉同様にトラペゾンを心配しての事だ。

 

「問題無いよアール。俺自身も正直ワクワクしてるんだ。生憎と機会が無かったからな」

 

 トラペゾン自身は決闘自体を行った事は無いが決闘する事には実は憧れていた。

 

 ちなみにトラペゾンはアルター王国の決闘ランカーである【疾風騎兵】マスクド・ライザーのファンだった。

 いつかサインを貰いたいと思っている。

 

「今回は決闘だ。極力、ジョブスキルには頼らないでいく。〈エンブリオ〉固有スキルは必殺スキル以外は場合によっては切るかもしれんがな。パニッシュも()()()も使わない」

 

「パニッシュはともかくカースも使わないんですか!?」

 

 カースはパニッシュこと《審議制裁》が【正義魔王】の攻撃の要である矛とするならそれと並ぶ盾、すなわち防御の要である固有スキルだ。

 

「タイマン前提ならともかくとしてパーティーバトルでは消耗が激しいからな。今回は使わないでいく」

 

 アールはトラペゾンの言葉に異を唱えないがその表情からは内心が良く伺い知れた。

 しかし、敢えて口には出さない。

 トラペゾンもそんなアールの事を理解しながらも自身の作戦を変えるつもりは無かった。

 もし、それを使用する事態が来るとすればアールを庇う場合くらいだろうが……、アールを信用するが故にそれは無いだろうと当たりも付けていた。

 

「〈四司士〉達にはああ言ったが実際は好きに動いてくれれば良い。普段ならともかく、こう言ったパーティーバトルなら無理に連動しなくてもいいだろう」

 

 ある意味トラペゾンからの突き放す様な言葉であったがアールは拒否しない。

 

「……ボクは好きにさせてもらうっスよ?」

 

「構わない。それもお前の自由だからな。俺は俺の自由……義を貫き、奴等を()る事を優先させてもらう」

 

 トラペゾンの所信表明はいつもと変わらない。

 相手を許容するかどうかは別として()()()()()()()()()を優先するのだ。

 善悪の先に彼の()()は在るのだから。

 

 戦いに臨むトラペゾンを見つめながらアールは今回の決闘における自身の動きをイメージする。

 ただ一つだけ決めている事が有った。

 

 トラペゾンの了承を得たアールは内心で決意をしていた。

 トラペゾンの目的を思えば()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかしながら、アールには最優先で処理をしなければいけない人物が一人いる。

 レジェンダリア討伐ランキング十八位【風影】サルトビWである。

 

 理由は簡単。

 サルトビWは十中八九()()()()()だからだ。

 

 広域殲滅型。

 それは陸上ならカルディナ討伐ランキング一位の〈超級〉“魔法最強”【地神(ジ・アース)】ファトゥム、海上ならグランバロア討伐ランキング一位〈超級〉“四海最強”【大提督】醤油抗菌がそれぞれ世界の頂点に立つ一対多を前提にした大量殲滅に特化した戦闘スタイルの総称である。

 

 討伐ランキングに載る様な人物は〈マスター〉、ティアンの区別無くほぼ確実に広域殲滅型の能力を扱うタイプの戦闘スタイルである。

 これは討伐ランキングを決めるのは個の絶対的な強さよりも多数を撃破する範囲攻撃が必須になる為だ。

 強力なモンスター一体を倒すよりも弱いモンスターを数多く倒す方が圧倒的に効率が良く合理的な為であるが、これは経験値取得にも同じ事が言えてジョブレベルアベレージも討伐ランカーは決闘、クランランカーに比べたら高い傾向にある。

 

 そして広域殲滅型にとって半径500メテルの円状空間はスキルの効果範囲として十分な広さになってしまう。

 アールはもとよりトラペゾンもその広域殲滅に巻き込まれたなら無事でいられる保証は無い。

 カースを使用しないなら尚更だ。

 防御方法は他のスキルでも幾つか有るがカースを使用しない以上は他のスキルを使うかも怪しいところだろう。

 

 アールが考え付く様な事をトラペゾンが考え付かない訳は無いが、トラペゾンは恐らく気にしていないだろう。

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 トラペゾンは良識の有る世界派である。

 しかし、世界派だからと言って自身の命を大事にするかは別問題であった。

 

 トラペゾンにとって最優先すべきは自身の命などでは無い。

 自身の納得出来る行動であり、仲間のティアン達だ。

 その為ならば自分の命すら賭け代にする。

 リアルの事故で自分の身体を失いながらも、本質は変わっていない。

 その精神の異常さこそが【アザトース】を発現させた要因の一つであったのかも知れない。

 

 アールはそんなトラペゾンの事を慕い、その自由の手助けをする為に仲間になった〈マスター〉だ。

 

 〈超級〉であり、何処の国家に所属する事も無く危険なモンスターの討伐を始めとした人助けや修練をし続けるトラペゾンの在り方を気に入っている。

 

 そんなアールにとって許せない事……。

 それはトラペゾンの名誉が汚される事である。

 

 今回の勝負は両者相討ちとなった場合はノーコンテスト、つまりは無効試合となる。

 しかしながら、それは実質的にトラペゾン達にとっては負けに等しいのだ。

 

 その理由は簡単。

トラペゾンは〈超級〉であるが、彼等は準〈超級〉だからである。

 世間が思う〈超級〉の強さとそれに次ぐ準〈超級〉と言う存在の強さは言葉的には一つしか違わないが実際にはそれ以上の差がある。

 

 第七形態エンブリオ、即ち〈超級エンブリオ〉に到達した者達を称する〈超級〉はこの世界において100人に満たないと言われている。

 全世界共通サーバーで同時プレイ人数約数十万、総プレイヤー数約数百万に比べて異常な迄に少ない。

 その希少さに比例する様に〈上級エンブリオ〉とは次元の違う強さを誇示している。

 

 それに対して準〈超級〉。

 時間さえかければほぼ間違い無く到達出来る〈上級エンブリオ〉を所持して超級職に就いた者達。

 レベル制限がある上級職に対して、レベル制限の突破及び強力な奥義が付属している超級職は確かに強力ではあるが、世界にティアンも含めて1000人以上は存在していると言われている。

 

 〈超級〉が出現していなかった<Infinite Dendrogram>黎明期ならまだしも、現在においては国家にどれだけ〈超級〉が所属しているかがその国家の強さの指標の一つにさえなる時代だ。

 準〈超級〉でありながら相討ちとは言え〈超級〉を撃破した者が“超級殺し”などと言う二つ名を付けられる事からもそれが伺い知れると言うもの。

 そう、〈超級〉と相討ちになったとしても彼等にとって全く恥では無くむしろ勝ちにも等しいのだ。

 

 今回は二対五の変則型決闘。

 準〈超級〉であるアールと相手の準〈超級〉を相殺すると考えても一対四。

 ギストリー達が勝てれば大金星だ。

 トラペゾンをわざわざ狙って仕掛けて来た程だ、相討ちになったとしてもこれ見よがしに〈超級〉に、【正義魔王】に痛み分けしたと喧伝するであろう。

 

 それは世間から見たら〈超級〉の敗北として見るに疑いのない事態だ。

 

 そして、ここはレジェンダリア。

 〈超級〉の犯罪者同盟〈デザイア(欲望)〉の跋扈する魔境。

 ここに生きる者達なら【魔王】の脅威は他の国の住民達よりも分かっているだろう。

 

 犯罪クラン<アンダーグラウンド・サンクチュアリ>の長たる【嫉妬魔王(ロード・インヴィディア)】“貪欲(ボトムレス)”ジー。

 海底を模した世界とそこに棲まう深きモノどもの主君たるクトゥルーを従える海の澱(ルルイエ)の支配者。

 

 悪夢の国の主【怠惰魔王(ロード・アケディア)】“睡眠欲(スリープ)Z(ズィー)Z(ゼー)Z(ゾー)

 触れた生物を〈強制睡眠〉に落とし込み自身の無敵化と相手の無力化を強制する【遊迷夢実 ドリームランド】に君臨する王。

 

 神話級〈UBM〉すら捕食した暴君、レジェンダリア最強の〈超級〉と目される【暴食魔王(ロード・グラ)】“食欲(ミール)”ディス・サティスファクタリィ。

 あらゆる存在を捕食又は消し去る、攻性に特化した〈超級エンブリオ〉と【暴食魔王】の高LVにより成立する破格の耐久力で無敵を誇る歩く災害。

 

 いずれも犯した罪の重さによって国から指名手配を掛けられた重犯罪者であるが、未だに監獄に入らずに世界に健在なのが彼等の破格の強さを証明している。

 

 【正義魔王(ロード・ユースティア)】トラペゾ・H・ルーラーことトラペゾンもレジェンダリアから指名手配を受けた身であるがそれは国の陰謀によってもたらされた濡れ衣であり、彼等の様な生粋の犯罪者とは違う。

 しかし、そんな事実は世間一般には関係ない事。

 トラペゾンが敗北、もしくは相討ちになった時点で世間は『ああ、同じ【魔王】でも【正義魔王】は〈デザイア〉の連中に劣るんだな』と、すなわち【魔王】としては格下と言うレッテルを貼るのは想像するに容易い。

 【魔王】の脅威に現在進行形で晒されているレジェンダリアなら尚更だろう。

 

 アールはそれを想像しただけでハラワタが煮え繰り返る様な気分になる。

 ギストリー達に対する抑えようの無い殺意が無尽蔵に湧き立ってくる。

 

 その想像を現実にしない為にもアールはサルトビWの撃破を最優先項目として行動する。

 

 ◇◆◇

 

 ギストリーは決闘の舞台にてトラペゾン達を待ちながらもいまだに一つの疑問を考え続けていた。

 それは何故、決闘フィールドが《シキンコウコロ》の範囲と同じなのか?だ。

 

 【正義魔王】は一度ギストリーと戦っている。

 その際に《シキンコウコロ》にはそれなりに手こずらされたのを確認している。

 もう一度、目の前で名乗り上げると言う愚行はしないだろうがわざわざこちらの有利な範囲で戦う必要は無い筈だ。

 その為に決闘に使用するフィールドの範囲を決めるのは揉めるのでは無いかとギストリーは心配していた。

 必殺スキルの適用範囲より狭い範囲で速攻を仕掛ける、もしくは広い範囲でショット&アウェイを仕掛ける……。

 どちらを選ぶにしてもギストリーの提示した範囲よりも有利に戦える筈。

 わざわざこちらの言う通りの範囲を選ぶ利点は無い。

 その事をラピネ達に話しても『〈超級〉としての余裕でしょ?』と言われ取り合ってもらえなかった。

 

 確かにその線は十分にあるが……、ギストリーには腑に落ちなかった。

 根拠は無い、ただの勘である。

 しかし、ギストリーはこうした勘を外した経験はあまり無い。

 故に考える。

 もっと何か別の……。

 

 そうこうしている内に供と話を終えたトラペゾンとアールが戻って来た。

 

 ギストリーは思考を切り替える事にした。

 今更、どうこうしても仕方ない。

 ギストリーは仲間達と事前に話し合っていた作戦を遂行する事に専念する事にした。

 ギストリーが戦った際に得た情報、デンドログラム・インフォメーション・ネットワーク、通称〈DIN〉に金を払って【正義魔王】の現在位置と一緒に得た詳しく情報、それらも既に共有してあり対策等も立てている。

 後は上手く実行に移すだけである。

 

 懸念事項としては【正義魔王】だけで無く、【跳躍姫】も相手にしなければいけないという問題が発生した事だが……。

 

 正直、それに関しては殆ど無視して良い事だと言うのが仲間内での見解であった。

 千差万別の〈エンブリオ〉の能力はともかくとして超級職である【跳躍姫】はたかが知れている。

 

 そう、レジェンダリアでも有名な()()ジョブ。

 【跳躍師(ジャンパー)】系統の超級職なのだから。

 

 基本的に〈エンブリオ〉において外れという概念は無い。

 他者からどれだけ無駄、無意味に見える〈エンブリオ〉だろうとその所持者である〈マスター〉本人にとっては自身の願いから生まれた、己の願いを叶える力である故にである。

 その為に〈エンブリオ〉のモチーフに対する好き嫌いはあれど〈マスター〉本人が外れなどと言う事は無いのだ。

 

 しかし、ジョブという職の器には〈マスター〉達から見て明確に問題点が存在する外れジョブ、外れ超級職という概念が存在した。

 

 それこそは【跳躍王(キング・オブ・ジャンピング)】または【跳躍姫(ジャンピング・プリンセス)】と呼ばれるA()G()I()()()()()だ。

 

 <Infinite Dendrogram>というゲームが発売された黎明期の事。

 〈マスター〉の増加に伴い様々なジョブが発掘されて超級職に就く者がチラホラ出始めた頃の話。

〈マスター〉達が自身のステータスやスキルについて、即ちビルドについて話す時にほぼ必ず出る話題としてAGI型、END型、という言葉が存在する。

 何の事かと言うとAGI(速度)END(耐久)、どちらで自身の生存性を高めるかと言う話だ。

 バトルスタイルに直結するこの二つの型のどちらが優秀か、と言うのは往々にして〈マスター〉達の激論のタネになるがどちらも一長一短のスタイルになる。

 

 まずはAGI型。

 速度に秀でており、戦闘に際して相手の攻撃を避け自身の速度的優位性において攻撃面のイニシアチブを取るスタイル。

 〈エンブリオ〉の中には一撃でも食らったが最後、そのまま死に直結するというスキルは必殺スキルを含めると然程珍しくは無い。

 そんなスキルへの対抗策として相手の速度を上回り回避すると言うのは理に適っている。

 俗に言う『当たらなければどうという事は無い』というヤツである。

 問題点としては速度に偏る分、防御面が薄くなり一撃の被弾が致命傷になり易いという事だが、これはEND型とのトレードオフであり仕方ない事である。

 

 次にEND型。

 防御力に秀でており、多少の攻撃を貰ってもびくともせずに反撃をするスタイルだ。

 デンドロはHP全損以外にも首や心臓を破壊されたりすると傷痍系状態異常となり即死判定が発生する。

 防御力を高める事はそういった傷痍系状態異常に対する対策として非常に分かり易い。

 速度強化に比べて防御強化はスキルでも比較的上げやすいし、防具などの装備品も含めるとその差はより顕著になる。

 カウンター型のスキルを持つ〈エンブリオ〉やジョブもここに多く含まれるが、攻撃面においても硬さとしてストレートに物理攻撃ね反映され易いのも強みであった。

 速度の手数に対して、一撃の威力を重視する傾向もそれに拍車を掛けている。

 問題点としては先に書いたようにAGI型に対して手数や反応、思考速度を含めて大分水を開けられ易い事に加えて移動速度にも関わって来る部分がある。

 

 どちらも一長一短であるが、両ステータスを両立させる事が可能なビルドを成立させる〈エンブリオ〉を所持したり、万能タイプのジョブにでも就かない限りはどちらかを選ぶのが〈マスター〉達のセオリーであった。

 

 そんな中にあって【跳躍師】と言うジョブは名前から察せられるようにジャンプする者、即ちAGI型であった。

 ジャンプした後の着地を無事にする為なのかENDもそれなりに上がるが、典型的なAGI型ではあった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが属するのは芸人系統。

 言わば芸を見せるのが仕事の、生産系に近いエンターテイメントを司るジョブ系統であった。

 

 跳躍、ジャグリング、玉乗りといったサーカスや大道芸でやる種目や曲芸に特化したものから、果ては話術やカードトリックに秀でた壇芸人の如きジョブまで揃っている。

 総じて人を楽しませる技能を司るジョブ群である。

 

 戦闘にも使用可能なスキルやステータスを持つジョブもそれなりにあるが、正式な戦闘職には及ばない。

 ただし、その芸を人に見せる事で経験値を得たりする事は可能な為に戦闘事を目的としないティアンや〈マスター〉が就く様なジョブ系統であった。

 

 そんな中において跳躍、すなわちジャンプに関するスキルを強化する【跳躍師】は移動力やAGIの強化に分かりやすいリターンが有る為に戦闘を目的とする〈マスター〉達からも当初は人気であった。

 何より、超級職になる条件やその保有スキルも知られていたのが大きい。

 

 先々期文明時代に存在したあらゆるジョブのスキルや就職条件が記された完全リストが失われて久しく、超級職に就くのはティアンは元より万能適性を持つ〈マスター〉にとっても一筋縄では行かない問題である中、その詳細が知られているのは就く上で非常にアドバンテージとなる。

 

 それ故に高AGI型を目指す〈マスター〉はこぞってこれを……狙わなかった。

 

 それは、その詳細を知れば知るほどに割に合わない事が判明したからだ。

 

 まずジャンプと言う行動に秀でるとは言ってもそのジャンプ自体が移動手段はともかくとして戦闘行動として問題があった。

 何故ならジャンプは基本的に途中で軌道を変える事が出来ない。

 それなりにレアだが汎用スキルの一つに《空中跳躍》と言うスキルもあるが、使用するのに重要なステータスがSTRなのに加えてクールタイムの関係で一時的な対応にしかならない。

 あくまで非常用だ。

 そして〈エンブリオ〉の能力によってカバーするにしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 次に就職条件。

 【跳躍師(ジャンパー)】、【高空跳躍師(ハイ・ジャンパー)】、男性なら【跳躍王(キング・オブ・ジャンプ)】女性なら【跳躍姫(ジャンピング・プリンセス)】と上がって行くにつれて条件の一つである『ある一定の高度を保持したジャンプを○○回する』がネックになる。

 下級職の【跳躍師】から上級職の【高空跳躍師】への条件は10メートル以上を1000回だが【高空跳躍師】から超級職である【跳躍王】、【跳躍姫】に至る条件は1()0()0()()()()()()()()()()()()

 芸を売る者、と言うジョブの方向性故なのか【跳躍師】を含めた芸人系統のジョブのスキルは殆どが超級職以外では自身のセーフティに関するスキルがほぼ無い。

 足からしっかり着地した際には反動を激減させるスキルが存在したが、逆に言えばちゃんと着地しなければスキル効果を受ける事は出来ない。

 100メートルのジャンプは自身の純粋なセンススキル(才覚)で成功させねばならないのだ。

 高度自体は【高空跳躍師】の高位のジャンプLvで確保出来るが問題は落下した後の着地である。

 上手く降りられたなら問題は無いが空中で体勢を崩そうものなら100メートルという高度はまず助からない。

 高いENDやHPを持っているなら命だけは無事に済むかも知れないが骨折等の傷痍系状態異常は免れないし、そもそもそれだけのENDを確保出来る様な者が【跳躍王】を目指す理由は薄い。

 飛行型等の〈エンブリオ〉で安全を確保出来る者にしても同様の事であった。

 

 一例ではあるが、あるイベントにおいて東方の騎兵系統と従魔師系統の複合型超級職【牽牛王(キング・オブ・カウボーイ)】ジャミー・クレセントが自身の乗る【雲煙万里 アブフラ・マタンガ】TYPE:ガーディアンの必殺スキル形態が撃破された際に400メテルからの高所落下が原因で死亡している。

 【牽牛王】は自身のステータスが大きく上昇する様な戦闘型超級職では無いが、曲がりなりにも超級職。

 その超級職でさえ高所からの落下は単純に死亡要因になり得るのだ。

 

 24時間に一度だけなら【救命のブローチ】によって高所落下による即死を免れるが市場価格は500万リル、とてもでは無いが普通の〈マスター〉が就職条件達成の為だけに恒常的に使用出来る値段では無い。

 戦闘を条件と必要としない就職条件でありながら下手に戦闘するよりも遥かに死亡する確率が高いという矛盾性を抱えた達成条件は多くの〈マスター〉を尻込みさせるのに充分な理由であった。

 

 そして最後にその奥義が問題であった。

 超級職はその命名規則によって、ある程度はステータスやスキルの方向性が別れる。

 【(オーヴァー)】や【(グレイト)】と言った下級職からそのまま強化されていったタイプの超級職はステータスの伸びは平均的に高く、スキルや奥義も比較的使い易いのが揃う。

 【(キング)】や【(プリンセス)】が付く超級職は特化ステータスの伸びが高いものの、低いステータスで差が激しく、強力な奥義を持っている事が多い。

 【(ザ・ワン)】は就くのに高い才能や適性が必要であり、ステータスはそれ程高く無いが自身の才覚次第で新しく強力なスキルを作り出せるのが強みだ。

 上記三種に当てはまらない【魔王(ロード)】【将軍(ジェネラル)】【(エンペラー)】【(インペリアル)】等、他多数存在するが概ね方向性は大体決まっている。

 

 それを踏まえた上で【跳躍王】、【跳躍姫】の奥義は何か?

 その名は《ホップ・ステップ・ジャンプ》。

 名前から察せられる様に三種のスキルが複合したそのジョブ系統に相応しい効果を持つ奥義である。

 ホップはジャンプの負担を軽減する効果、すなわちコストや反動の大幅軽減。

 ステップはジャンプのクールタイムや連続使用の負担を大幅軽減。

 そしてジャンプはその名の通りに基礎スキルであるジャンプスキルの効果を名前通りに()()()()()

 

 すなわちこの奥義は【跳躍王】、【跳躍姫】に強力なジャンプを連続して少ないコストで使用可能にするという、スキル特化型ジョブの奥義としては確かに相応しいものであった。

 

 しかし、これを見たら気付くだろう。

 

 この奥義は当たり前と言えば当たり前だが、跳躍(ジャンプ)と言う行動が抱える根本的な問題点を何ら解決していないのだ。

 元より戦闘系超級職では無い、その芸を見せる事で糧を得る芸人系統の超級職。

 戦闘に流用しようとしている〈マスター〉達がおかしいと言えるのだが、そんな事は彼等には関係無かった。

 

 就職条件もリスキーであるし、何より超級職に就く旨味さえも薄い。

 故に()()()()()と言うレッテルを〈マスター〉から貼られた、それが大多数の〈マスター〉による見解であった。

 勿論、千差万別の能力を持つ〈エンブリオ〉の所持者達。

 この超級職と自身の〈エンブリオ〉のシナジーを考えて狙い続ける〈マスター〉は存在したが、それは極小数にとどまっていた。

 

 そんな中、その座に就く事に成功した奇特な〈マスター〉。

 それこそが【跳躍姫】アール・スタンディーであった。

 ギストリー達も《看破》を使用して彼女が就いてるジョブを知った時には目を疑ったものだ。

 こんな超級職(スペリオル・ジョブ)に就く〈マスター〉が本当に居た事に。

 

 勿論、〈エンブリオ〉の仕様次第では外れ超級職などと言ってられないシナジーを発揮する可能性もある……と言うよりはわざわざ【跳躍姫】に就いている程だ間違い無くあるだろう。

 

 しかし、()()()()使()()である事はほぼ間違い無い。

 それだけで攻略法も見えてくる、問題は無い。

 

 そうこうしている内にトラペゾン達はギストリー達が待っている最初の位置に戻って来た。

 

「準備は万端か?」

「ああ、いつでも構わないぜ」

 

 トラペゾンの問いかけに対して答えるギストリー。

 他のメンバーも準備は済ませておりいつでも開始できる状態である。

 

「そうそう……言い忘れていたが、こいつも賭け代にしておくよ」

 

 そう言ってトラペゾンが自前の【アイテムボックス】から鈍い紅色の金属塊を出した。

 以前、ギストリーがトラペゾンと交戦した際に使っていた【超硬神話級金属】の盾であった。

 

「そ、それは!?やっぱりお前が持ってやがったのか!【正義魔王】!返しやがれ!!」

「返すも何も、お前がデスペナルティした時にドロップしたのを拾ったんだから今の所有者は俺だろ?欲しければ俺に勝つんだな」

 

 〈マスター〉がデスペナルティした際には特典武具や〈エンブリオ〉の様な個人に紐付けされた装備やアイテム以外はランダムにドロップする仕様である。

 当然ながらそれらは所有権を無くす為に拾った人物の持ち物となってしまう。

 死亡が丸一日デンドロをプレイ出来なくなるペナルティと同時に恐れられている要因であった。

 

「何よ、それ〜。聞いてないわよ、そんな良い物持ってたなんて?私達にも所有権があるんじゃな〜い?取り分は平等でしょ?」

 

 目敏く見付けたラピネが更に事態をややこしくする様な事を言い出した。

 

「ふざけるなよ!!元々は俺の持ち物だ!俺が貰うに決まっているだろ!」

「けど、アンタが負けて死んだせいで落としたんでしょ?所有権は【正義魔王】に移ってるんだから相手の物よ。それが賭けに出されたんだから私達の取り分になるのは当然じゃない?欲しければ代金払いなさいよ。まあ、払えるなら、だけど♪」

 

 至極正論を放ちギストリーを黙らせるラピネ。実際には【正義魔王】と闘う事自体が目的であったからアイテムはぶっちゃけどうでもいいのだが、貰える物は貰っておくに越した事は無いのだ。

 それに【神話級金属】は非常に価値の高い希少金属である。

 Kg1000万リルを超える市場価格、売るにしても、武器や防具に加工するにしても非常に有用である。

 更には超圧縮されて普通の神話級金属よりも強度が増しているとなれば尚更だ。

 

 しかし……。

 

「けど、良く手に入れられたわよね、それ?【地神】しか作り出せないって聞いたわよ?ギスっチ、カルディナの回し者だったりするの?」

「そんな訳ねえだろ!!アルター王国で強盗団を作った時に伝手で格安で手に入れられただけだ!」

 

 ギストリーの発言には《真偽判定》も反応しない。

 故にギストリーの発言は本当であるが、実際にはアルター王国に対する破壊工作の一環としてカルディナがアルター王国に仇なす犯罪者連中に報酬と同様に融通した逸品ではあるのでカルディナの回し者と言うのも大きく外れてはいなかった。

 ただ、そんな事情をギストリーは知らなかった為に《真偽判定》は反応しなかったのだ。

 《真偽判定》は対象が嘘を吐こうとする感情の機微を捉えて反応するスキルである為に実際には嘘であろうとも対象者が本当であると信じている場合には反応しないのだ。

 同じ様に機械類が流す誤情報にも反応出来ない。

 

「ふ〜ん、まあ良いわ。ギスっチが活躍したなら融通してあげるわよ。精々頑張んなさい。アンタらもそれで良いわよね?」

 

「無〜問題でござるよ」「わ、私も別にいらないかな?」「オレも遠慮しておくよ〜」

 

 幸いにも金には無頓着な連中ばかりだった為にギストリーは安堵した。

 それぞれが金儲けより自身の望みを満たす事を優先する享楽派だったからだ。

 

「じゃあ、そう言う事でそろそろ始めましょうか?アタシもこれ以上お預けされるのは耐えられないしぃ♪」

 

 ラピネが妖しく舌舐めずりせんばかりの表情でトラペゾンを見ながら言った。

 アールはそれを見て不快そうに顔を歪めたがわざわざ口に出す様な事はしない。

 決闘で始末すれば良いだけである。

 

 トラペゾン達とギストリー達は互いにメニューを開いて開始時間を決めると所定の位置に向かう。

 互いに決闘範囲の中心地点から50メテルずつ離れた場所に着くと、静かに開始を待つ。

 

 風が強く吹きつけ、草原の草花が激しく揺れる。

 時刻は昼を過ぎたばかりであり、太陽も高く周囲を存分に照らしていた。

 

 そして、約束の時刻に達すると同時にどちらからもアラームが鳴った。

 

 決闘開始である。

 

 アラームが鳴るとほぼ同時にトラペゾンとアールは駆け出していた。

 

 トラペゾンは前衛に立ち、ラピネ達に向かって真っ直ぐに駆けて来る。

 AGI三万にとって両者の距離100メテルはほぼ一瞬の様な距離感でしかない。

 そして、トラペゾンの後ろに位置していたアールは天高く飛び上がった。

 その上昇速度はまさしく【跳躍姫】の名に恥じない速さであったが……。

 

 それは()()撃たれていた。

 

「!?」

 

 アールの持つ《殺気感知》と《危険察知》が凄まじいアラートとして脳内に鳴り響いた。

 

 アールの跳躍と同時にラピネ以外の遠距離攻撃が可能なメンバーがアールの位置の縦軸に対して連携して攻撃を放っていたのだ。

 

 パーティーバトルにおいて、ある定石が存在する。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 容易く潰せる者から潰して行き、絶対的な数の利を得る。

 〈超級〉のトラペゾンと準〈超級〉のアール。

 どちらが始末し易いかは明白に過ぎる。

 故に突発的に決闘に混じったアールを真っ先に消す事で一番最初に決めた作戦、トラペゾンとの一対五に戻す事を最優先としてギストリー達は行動したのだ。

 

 戦闘職の【正義魔王】と準戦闘職の【跳躍姫】ではほぼ間違い無くトラペゾンが前衛に来ると読んでいた。

 

 左右に分かれて動かれたりしても問題は無かったが、当初の予想通りの動きをしてくれたアールに対してギストリー達はほくそ笑む。

 

 【砲撃王】の砲弾がジャンプ到達最上部を狙い撃ち。

 【風影】の鎌鼬がジャンプ到達範囲上部を範囲で引き裂き。

 【波動姫】の魔法がジャンプ到達範囲下部を粉砕し。

 【中毒王】の投げナイフが地上部を舐める様に無数に放たれ斬り裂く。

 

 完全な形で縦軸を埋めてアールを抹殺する為だけの面ならぬ線に対する制圧抹殺攻撃を作り出す。

 

 どれが当たっても防御が貧弱なAGI型のアールにとっては当たり所が悪ければ致命傷になり得る威力の攻撃。

 攻撃もそれぞれ多重構造になっている為に直撃すれば【救命のブローチ】も余程運が良くない限りは役に立たないだろう。

 仮に脚や手に当たったとしても欠損する事になれば身体のバランスが崩れて普段通りには動けない。

 芸人系統の様な体幹バランスが必要とされる技巧派ジョブなら影響は深刻だろう。

 

 そして狙い通りにジャンプ最上部に差し掛かるタイミングがギストリーの砲弾がクリーンヒットするタイミングと重なった。

 

 普通の砲弾では無く散弾型にした為に貫通威力と射程は短くなったが、アールを始末するには十分な威力。

 

 無数の暴威がアールの細身の体を消し飛ばすであろう瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その認識をするか、しないかの刹那にアールは姿を消していた。

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

 生粋のAGI型であるサルトビWですらアールが消えた瞬間を捉えられ無かった。

 いや、見てはいたが何処に行ったのかまるで追えなかったのだ。

 一瞬光ったかと見えたが、その瞬間に消え去っていた。

 

 瞬間的なAGI増大で更に高速で上?

 それとも幻術師系統の様なスキル?

 はたまた……。

 

 ギストリー達はそれぞれが自身の思考を総動員して考え出した時、ギストリーの《危険察知》が働いた。

 《危険察知》は文字通りにスキル所持者に向かって来る脅威に反応するスキル。

 脅威が速過ぎる場合には感知しても間に合わない事も多いが、ギストリーは自身の〈エンブリオ〉のおかげで対応出来る場合も多かった。

 

 金属と金属の激しい衝突音と擦過音を響かせながら【シキンコウコロ】がギストリーの背後から飛来した何かを蔦で弾いていた。

 

 それは()()()の一種と思わしき短刀であった。

 

 それらが飛来した方向を見るとそこには先程、ジャンプしてから消えたアールが居た。

 

「あーーー……トラペゾンさんから聞いてはいましたけど、意外と良い反応するんスね。今のを防がれるとは正直、想定外っス」

 

 マトモに当たればほぼ確実にギストリーの命を奪っていたであろう短刀を投げて来た相手にしては呑気な口ぶりで話すアール。

 

「こ、この(アマ)!!」

 

 姿を消したアールが何故そこに居るかを考えるより先にギストリーやサルトビWは反撃を試みて砲撃と苦無投げを行ったが直撃寸前に再びアールの姿はかき消えた。

 

 すぐさまに警戒するギストリー達だったが、今度はサルトビWの死角となる場所からダガーが彼に超音速で投擲される。

 

 それに対応したのはモアドープ。

 

 【中毒王】と言う前衛系戦闘職では無い超級職に就きながらも高い反応速度でサルトビWに直撃する軌道のダガーを自身のナイフで弾いた。

 

「ツッ!!」

「ござっ!?」

 

 モアドープの手に残る強烈な痺れ。

 並のSTRから放たれる威力の投擲ではあり得ない。

 

 いや、それよりも問題なのは……。

 

 ダガーの投擲された方向に直ぐ様反撃を試みようとしたギストリー達の眼前で再びアールの姿が幻の様に消えた。

 

 そして……。

 

「《スコール・エッジ》」

 

 スキル発声が彼等の頭上から聞こえた瞬間に大量のダガーが文字通りに雨霰と降り注ぐ。

 

「《ウェーブ・ウォール》!!」

 

 今度はラーフララが頭上に手を翳しながら魔法スキルを使用した。

 魔法職故に他のメンバーよりもAGIで劣るがスキルの応用性に優れている彼女は防御用魔法スキルを事前に準備していたのだ。

 

 空間が波打つ様にして震えると僅かな輪郭だけが見える透明なドーム状の壁がダガーの雨を阻んだ。

 

 スキルが広範囲故に完全に威力を殺せた訳では無いがその勢いを無くしたダガーがラーフララ達を避ける様に虚しく地面に落下して転がった。

 

 ダガーが投擲された方向、即ち頭上を見上げたギストリー達にアールの姿が見えた。

 

 アールは空に立っていた。

 

 何も無い場所に立ち、遥か上よりギストリー達を見下ろすその視線には熱が無い。

 

 まるで冷徹なキリングマシーンの様に感情を見せずに殺意を叩きつけながら見下す視線の冷たさはギストリー達の心に僅かな怖気すら覚えさせた。

 

「次っスね」

 

 呟くアールは再び何処かへと姿を消す。

 そして、何処からか殺意に塗れたダガーが超音速で投擲されてくる。

 今度のダガーは本数は少なかったが不気味な暗緑色の液体が刃に塗布されていた。

 

 毒物の専門家であるモアドープは即座にそのダガーが非常に危険である事を見抜くと遠距離から迎撃する為にダガーに倍する数のナイフを無数に抜き放ち対応する。

 ナイフによって迎撃されたダガーは地面に落ちたが、その刃の接触面からは刺激臭が発生して地面に不気味な黒色の染みを広げながら抉れていく。

 

 そして再びアールの姿は消える。

 

 ここまで来たならアールの()()はもはや明白であった。

 

 しかし、明白でありながらもギストリー達は信じられない。信じたくない。

 

「馬鹿な……」

 

 ギストリーが思わず呟いたが、仲間達は反応しない。

 皆、内心はギストリーと同じ気持ちだったからだ。

 

「あ、有り得ない……あり得る筈がねえ……! く……()()()()()()!?!?!?」

 

 そう空間転移。

 創作物なら然程珍しくも無い便利能力ではあるが……この<Infinite Dendrogram>内では事情が異なる。

 数多の〈マスター〉が焦がれながらも決して実現不可能な能力として、それは議論にすら殆ど上がらない力であった。

 

 <Infinite Dendrogram>においては他のゲームに存在する遠距離移動、即ちファストトラベルに類するシステムが無かった。

 多くの〈マスター〉が不満点として実装を管理側に打診したが、反応は無しのつぶて。

 解決されない問題として今だに上がり続けている。

 

 管理側が用意しないのであればプレイヤーである〈マスター〉が用意すれば良いと解決策に走った者も多かったが、結論から言えば不可能であった。

 万能の力を発揮する〈エンブリオ〉さえもそれは出来なかったのだ。

 

 正確には()()()的に不可能であったのだ。

 

 まず<Infinite Dendrogram>の世界法則として空間に干渉する能力は非常にレアであり、その中でも空間転移はトップクラスに消費が激しいスキルでもあったのだ。

 それこそ魔法系超級職の持つMP量であっても到底賄えない程に。

 仮に単純なスキルとして成立させるなら膨大なMPを消費した上で長時間のスキル準備時間、使用後のスキルクールタイム、短い距離と使い物にならない代物にしかならない。

 

 そんな稀少かつ使用が難解な空間転移を扱う高名な〈マスター〉が二人居た。

 

 一人は〈超級〉。

 武仙帝国・黄河の誇る〈超級〉にして黄河に飛来した〈SUBM〉【四霊万象 スーリン】の一角を討った黄河四霊の一人【尸解仙(マスター・キョンシー)】“応龍”の迅羽。

 彼女の〈超級エンブリオ〉、超硬度と超音速を両立させる四肢の義足型アームズ【星天到達 テナガ・アシナガ】の必殺スキル《彼方伸ばす手、踏みし足(テナガ・アシナガ)》。

 自身の四肢のみに限るが対象の座標すら把握すれば、ほぼ距離制限を無視して瞬間的に空間転移を可能として対象を内部から破壊する必殺スキル。

 

 もう一人は準〈超級〉。

 ドライフ皇国に所属する情報収集クラン〈wiki編纂部・ドライフ皇国支部〉のオーナーである【扇動王(キング・オブ・アジテーション)】パレード・W(ワースト)・デッド。

 彼の持つ〈上級エンブリオ〉【ビフロスト】。

 巨大な門の〈エンブリオ〉であり迅羽の【テナガ・アシナガ】と違って自身以外も通れる空間転移可能な長距離を繋ぐゲートを作れるが入り口になる門を事前に建造しておく必要があり、通れる時間も最大で1日60分のみ。しかも一方通行であり、一度通ってしまうと反対に戻るには丸一日待たねばならないという制約付き。

 しかも、門を破壊されてしまうと使用不可能になると言うデメリットも抱えている。

 

 両者共に稀少な空間転移スキルの使用者であるが、〈超級〉と準〈超級〉の差を含めても乱用出来る様な類のスキルでは無い。

 

 それ程までに重いコストを払わねばならないのが<Infinite Dendrogram>での空間転移なのだ。

 

 しかし、【跳躍姫】アール・スタンディーの能力はその制限をはっきりと超えてしまっている。

 

 それは<Infinite Dendrogram>というゲームを知れば知るほどにあり得ない事だと熟練の〈マスター〉達には分かってしまう。

 

 そんな事情故にギストリーは混乱の最中にいた。

 

 (チ、チート女がぁ……!! 空間転移を何故自在に出来る!? コ、コストはどうなってやがる!?!? い、いや!そもそも奴は【跳躍姫】だ! SP重視型の超級職が魔法系超級職でも届かない様なコストのMPをどうやって賄う!? ジャンプに特化した芸人系統の役に立たないジョブでしか無い筈……! いや、待てよ……? ジャンプ……()()()()だと!? まさか!!)

 

 しかしながら、ギストリーは答えに辿り着いた。

 

 アールが行っている空間転移。

 その力は別名────。

 

 ()()()()とも言われる事に。

 

 それはジョブを設計した者達ですら予想出来なかった事かも知れない。

 ジャンプ、跳躍を補正するスキルが空間跳躍とも呼ばれる空間転移にすら適用されるという事は……。

 

 そのまるで冗談の様な奇跡のシナジーを為す力の片割れ、その名は〈上級エンブリオ〉【シャンバラ】。

 

 シャンバラとはヒンドゥー教や仏教に伝わる約束の地と言われる場所。

 世界の遥か果てにあるとされている伝説上の理想郷の事だ。

 

 〈エンブリオ〉【シャンバラ】はその名の通りに〈マスター〉であるアールを望みの場所に導く。

 

 自由に()(てん)()く力。

 ある時は青年の姿、ある時はアールのスキルそのものとなって仕える使徒(アポストル)

 彼の力は【跳躍姫】とのシナジーにより通常では考えられない程の自由な空間跳躍を可能とさせるアールの()()()()()()()そのもの。

 それこそが【征跳天(うちょうてん) シャンバラ】TYPE:アポストルwithワールド・ルール。

 特性は空間転移。

 その固有スキルである《ワンダリング・ゾーン》と《リバティー・アポート》によって決められた範囲内において、空間転移ならぬ空間跳躍を自在に行う。

 

 TYPE:アポストルの特徴である世界掌握(ドミネイター)をワールドによって拡大及び適用、ルールとしての強力な法則性スキルを〈マスター〉であるアールにのみ与える事で【跳躍姫】とのシナジーによりアールを極小のコストと超短時間のクールタイムで空間転移ならぬ空間跳躍させる。

 本来なら不可能な空間自在転移、空間連続跳躍をジョブと〈エンブリオ〉のシナジーによって成立させた恐るべきビルド。

 

 俗に言う()()()()()()()

 

 【征竜騎兵(マスター・ドラグナー)GandorL(ガンドール)や【飛将軍(スカイ・ジェネラル)】リーフの様に超級職と〈エンブリオ〉が完全に噛み合った結果、ゲーム的なバグやグリッチにも近いシナジーを起こしている規格外の能力者達。

 その一人が【跳躍姫(ジャンピング・プリンセス)】アール・スタンディーだ。

 

 その空間跳躍の有効範囲は奇しくも今回の決闘フィールドと同じ広さ。

 即ち半径500メテルのエリアに他ならない。

 そこはまさしくアールにとっての理想郷である。

 

 見識と考察に優れたギストリーは自身の疑問(決闘範囲)をアールの能力を見た事により解決した。

 

 しかし、まだ解せない事がある。

 それはアールの攻撃である。

 【跳躍姫】のスキルと〈エンブリオ〉のスキルによる合わせ技により、信じがたいが空間転移をしている事は理解できた。

 しかし、ジョブと〈エンブリオ〉のリソースをほぼそれに使っている為に攻撃性能をロクに確保出来ていない筈なのだ。

 

 だが、現実としてアールから放たれるのは強力な短剣の投擲攻撃。

 その威力と速さは芸人系統の貧弱なSTR(筋力)から放てる様なものでは決して無い。

 何らかのスキルを使っている筈だが……。

 

 いや、そもそも攻撃スキルを使える事がおかしい。

 

 何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正確にはジョブに就く事は自体は可能だが、まともに攻撃系スキルを使用出来無くなるのだ。

 人を楽しませると言う主題のジョブ故かサブにおいたことごとくの攻撃スキルが機能不全になってしまう。

 

 ジョブとジョブの相性というのは個人のレベルがジョブに依存するこの世界では無視できない問題だ。

 何故なら同系統のジョブでさえ相性が存在してしまう程であるから。

 

 例えば騎士系統なら下級職の【騎士】のスキルを上級職の【聖騎士】でも当たり前に使えるが派生や超級職にもなると話が違ってくる。

 騎士系統暗黒騎士派生超級職【堕天騎士(ナイト・オブ・フォールダウン)】と言うジョブがある。

 【騎士】と【呪術師】の混合職であり呪われた武具や呪いそのものを扱う【暗黒騎士】派生の超級職。

 【暗黒騎士】は【聖騎士】の対となる上級職であり、仮に【堕天騎士】に就いた者が【聖騎士】に就いていたとしても【騎士】系統の基本スキル以外は使えなくなってしまうのだ。

 光と闇が合わさり最強とは残念ながらならない。

 同じ騎士系統の中でも相性がある様に他の共通点を持つジョブなどでも当たり前の様に相性でスキルが使えなくなるのは珍しく無い。

 

 他の例では素手で戦う者達のビルドにおいて割りかし有名なスキルに《ペネンスドライブ:フィジカル》というものがある。

 これは【苦行僧(サドゥー)】の固有スキル。

 自身が素手の時、HPを消費し、STR・END・AGIを10分間上昇させると言うシンプルなステータス補強スキルである。

 クールタイムは30分と比較的長いが、素手で戦う上級職や超級職の多くがジョブ系統が違っても使用出来るという汎用性に優れたスキル。

 しかし、この素手と言う条件さえ満たせば凡そのジョブが使えるスキルであってもジョブ同士の相性が悪くて使えないジョブも存在する。

 それは【餓鬼(イーター)】のジョブ系統。

 自身に文字通りの苦行を科す僧と、欲望のままに貪り喰らう餓鬼では相性がすこぶる悪く、互いに素手を基本とするジョブながらも決して共存出来ないのだ。

 

 芸人系統は同じ芸人系統のジョブに限っては驚く程にスキル共用が可能となっている。

 これは芸達者と言う言葉がある程に芸や技能は競合出来るという認識からではないか?などとジョブ考察をする者達から言われてはいたが確かな事は分からない。

 

 ただ、現実として芸人系統は幅広くあるが就くのにセンススキルの練度が必要とされてなおかつ戦闘職との相性が悪いのもあり戦闘ビルドを目指す者達からも一部以外は敬遠されていたのだ。

 しかし、アールは芸人系統超級職に就きながら戦闘を行っている。

 

 異常であった。

 しかし……、朧気ながらギストリーはそのタネを掴んでいた。

 掴んでいながら信じたくは無かった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 芸人系統は西方で盛んであり、戦闘系ジョブを目指さない者達には就いても問題無く、ギストリーの古巣であるレジェンダリアではお国柄か特に盛んであった。

 ギストリー自身は就く事を考えた事は無いが、知り合い達がそれなりに盛んに話していたのを聞いた事はあった。

 

 その話題を今更ながらギストリーは思い出していた。

 

『芸人系統は戦闘系スキルを使えない、故に戦闘を行うなら攻撃面は〈エンブリオ〉やアイテムに頼らなければいけないのがネックだよなぁ』

『いやいや、お前は忘れてるだろ?芸人系統の中には()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『ああ、確かにあるけど本職の戦闘ジョブに就いた方がステータスの上がりは良いからそっちの方が合理的だろ?火吹きや()()()()()で戦ってもなぁ……』

 

 先程からアールが投擲してくるのは()()()()()()()()、ダガーやダークと言われる物。

 

 その一撃一撃が超音速や亜音速であり、もはや戦闘型ジョブの上級攻撃スキルと変わらない。

 いや、ギストリーの知っている《投擲》スキル使いよりも遥かに強い。

 

 非力なジャンパーでありながら、強力な投刃によって戦闘を行うアール。

 

 空間跳躍の範囲はアールが自在に移動して、()()()()キルゾーンとなっている。

 狙撃系の技能を知る者にとって、自在に位置を変えて狙ってくる狙撃がどれだけ危険かは語る必要すら無い事だ。

 

 ましてや、それを為すのは上級職のスキルでは無い。

 

 芸人系統投刃師派生超級職【投刃姫(スローエッジ・プリンセス)】。

 これがアールが就いている()()()()()()()()

 リアルではあまりの危険さ故にサーカス等でも人相手にはやられなくなって久しい芸人系統の数少ない攻撃に使用出来るジョブをアールは極めていた。

 

 〈マスター〉、ティアン共に下級職は6、上級職は2まで就けるのが基本であり、更に超級職が有るが超級職は就けるジョブの数が決まっていない。

 理論上は超級職は幾らでも就けるのだ。

 

 しかし、あくまでそれは理論上の事であり言うのは容易いが行うのは難いの証明でもある。

  

 歴史に残らないが【救命のブローチ】等の開発等の多大な功績を残した大天才レオナルド・フィリップスは3つの超級職に就いていたとされる。

 

 逆に言えばそんな大天才ですら3つなのだ。

 

 2つ超級職に就くだけでも紛れも無き才覚と努力の持ち主である事に相違無い。

 

 ギストリーは自身も砲手系統超級職【砲撃王】であるからこそ、超級職に就くのがどれだけ大変かは知っている。

 自身の〈エンブリオ〉が高性能自動砲台である【シキンコウコロ】だからこそ就けた様なものであり、他の〈エンブリオ〉だったら就けた自信は無い。

 世に〈マスター〉が増加する前のティアン達だけが住む世界だった頃は才有るティアンがその生涯を掛けて就く、もしくは就いた後に生涯を賭けて練磨するのが超級職(スペリオルジョブ)と言うシステムであった。

 

 そんな超級職をあまつさえ二つ持ち、更には空間転移、空間跳躍を行う異常なる〈マスター〉。

 【正義魔王】と言う【魔王】を名乗りながら正義を司る異質なるジョブに就いた〈超級〉のお供もまた異質なる存在であった。

 

 ギストリーはとんでもない連中に喧嘩を売ったのでは、と今更ながらに後悔し始めた。

 しかし、今更どうしようも無い。

 後悔とは文字通り、後に悔やむ、と書いて後悔なのだから。

 

 更にアールは〈UBM〉討伐の専門家の【正義魔王】トラペゾンと組む事で特典武具を準〈超級〉としても数多く取得していた。

 それこそ数だけで言えば準〈超級〉の中でも五指に入りかねない。

 

 アールはいつの間にか服の上から無数のダガーが備え付けられたナイフジャケットを羽織っている。

 その名は【鱗刹刃(りんせつじん) レイザースケイル】。

 無数の鋭い鱗を撃ち出し獲物を斬り刻んでいたセンザンコウの如き魔獣の伝説級〈UBM〉【撃鱗(げきりん) レイザースケイル】の特典武具。

 その固有スキルは《カットレス・レイザーズ》。

 無数のダガーを任意で生み出すスキル。

 ナイフジャケットに備えられた無数のダガーは刃が単分子の厚みしか持たない超極薄のスローイングダガーである。

 このダガーは作製にMPとSPを消費するが非常に低コストで大量かつ消費リソースがある限り無尽蔵に作る事が出来る。

 作られたダガーはデンドロ内時間で一時間と持たずに消滅するがその時には役目をほぼ終えている為に全く問題無い。

 

 そしてアールを空中に留め置く不可視の足場。

 

 【白岩支(はくがんし) エアロック】。

 トラペゾンと共同で撃破した先々期文明時代の暴走した気象コントロール装置が変化した〈UBM〉コンビの片割れ。

 トラペゾンは主機である古代伝説級〈UBM〉【大気万精 アネモネイター】を撃破し古代伝説級特典武具【操気盤盾 アネモネイター】を手に入れ、アールは補助機である空気を固めて透明の物体を生み出す逸話級〈UBM〉【固複激条(こふくげきじょう) エアロック】を撃破する事でこの特典武具を手に入れた。

 固有スキルは《マテリアル・ブロック》。

 その能力は至って単純。

 アールの足元に空気を固めて無色透明の足場を作る事のみ。

 そのシンプルかつ簡易的な能力故にこの特典武具も足場の作成速度とコスト減少に秀でていた。

 更には瞬間強度だけならかなりのモノであり上級職の攻撃系奥義スキルすら一撃は耐える為に簡易盾にもなる。

 

 超級職を移動用と攻撃用の二つ、アポストルの空間支配を活かした移動、回避そして特典武具による物量攻撃、防御への強力補正。

 様々な要素の複合がアール・スタンディーを戦闘系準〈超級〉として高めていた。

 

 アールは見えない足場に立ち、ギストリー達を見下ろしながら言った。

 

「ゲームとかあまりやらない人達っスか?RPGとかでも魔王(大ボス)に挑む前に幹部と戦うのはお決まりっスよ?」

 

 【魔王】(ロード)右腕(アール)にして側近(スタンド)たる者。

 【正義魔王】に仕える宮廷道化の如き準〈超級〉“孤高雑技(アローン・サーカス)”のアール・スタンディー。

 

 その技芸に観客はいらない、必要無い……。

 その力が発揮されるのは【魔王】に挑みし愚者への懲罰。

 【正義魔王】に害を為そうとする無謀なりし招かれざる観客が支払うのはその命という対価である。

 

「ボクの芸の見物料は高いっスよ?支払いは貴方達の命で構わないっスけどね♪」

 

 アールが手に持つ短剣の刃を舐めた。

 そう言った仕草は三下感を出す物である事が相場ではあるが、不思議とアールには似合っており、妖艶ささえ感じられるものだった。

 そして、その仕草はただのポーズでは無い。

 アールの舌にいつ間にかタトゥーの様な不気味な紋章が浮かんでいた。

 

 逸話級特典武具【紫毒紋 ポワゾナス】。

 シール型の特典武具であり使用時に舌に貼り付ける形で効果を発揮する変わった特典武具。

 この紋が付いた舌で舐められたアイテムにランダムで様々な効果を発揮する毒を塗布する。

 勿論、使用者であるアールには毒は効果を発揮しないセーフティ付きだ。

 

 アールに舐められたダガーの刃は口から離されると赤く不気味に濡れた色へと変じた。

 

「そして、ボクはあなた達と戦う気は無いっス♪だって……あなた達はボクの(まと)っスからね♪観客参加型の殺戮劇(グランギニョル)、たっぷり楽しんで欲しいっス♪」

 

 無邪気な表情の中に見た者を底冷えさせる様な冷徹な殺意を滲ませてアールは微笑んだ。

 

 ◇◆◇

 

 アールを見もせずにトラペゾンが駆ける。

 正確には目視しないままに()()()()が、その必要は正直無かっただろう。

 アールの実力を誰よりも知っているのはトラペゾンだ。

 仮に真っ向勝負を仕掛けたのならトラペゾンでも倒すのに手こずるのは間違い無い実力者。

 

 トラペゾンとアールはギストリー達が最初に十中八九の確率でアールを狙ってくるであろう事を予想立てていた。

 倒し易い……実際にはすこぶる難しい相手ではあるが消せる相手から消せるのはセオリーとして間違ってはいないのだから。

 仮に予想が外れていたとしても構わなかった。

 その場合にはトラペゾンに注目が集まっている内にアールがギストリー達を全員は無理でも数人を速攻で仕留めていたろうであろう。

 

 アールの能力は奇襲特化に近い。

 初見で完全に対応するのは先読み特化型の能力持ちでも無ければ不可能なのだ。

 

 期せずしてギストリー達は初動の回答を正解していた。

 複数人で対応したからこそ、アールの攻撃が甘くなり初撃を防げたのだ。

 

 しかし、これからが大変である。

 縦横無尽に飛び回り、死角から刃を無尽蔵に投げてくるアールを何とか撃破せねばならない。

 彼等は空間を自在に移動して狙撃してくる無窮の遊撃兵の恐ろしさをイヤと言う程に知る事になるのだから。

 

 トラペゾンはギストリー達は完全にアールに任せて、自身は目の前に立ち塞がる【双槍姫】に対応する事にした。

 

 レジェンダリア決闘ランキング十五位、ラピネ・ルピ。

 レジェンダリアの全〈マスター〉の中から選ばれている事を考えれば十五位は充分に高いが、超級職としては低い。

 アールの様にその強さを甘く見る事は無いが、その戦闘スタイルについてはおおよそ見当が付く。

 

 討伐ランキング上位がモンスターの大量殲滅に向いた広域殲滅型の領分なら、決闘ランキング上位はその逆。

 個人戦闘型の独壇場であるからだ。

 

 トラペゾンの普段の戦闘スタイルもこれであるが、一対一の戦闘において最も効果を発揮するスタイルである。

 〈マスター〉やティアンの戦闘傾向としても最も多く、特殊性の高いジョブや〈エンブリオ〉持ちでも無い限りはまずこれに入る。

 

 それ故にトラペゾンとラピネの対決は互いの戦闘スタイルが噛み合った物となるのだ。

 

 トラペゾンが《鑑定眼》を使用してラピネの全身を鑑定する。

 準〈超級〉が身に付けるには全体的に些か低品質で固められていたが目を引くのが一つ、いや()()あった。

 それは両腕に一つずつ持っている巨大な槍だ。

 トラペゾンの目には【氷炎太槍 イン・ヤン】という表記が写っている。

 モアドープより高いレベル……と言うか一部の超級職が持つ《鑑定眼》LV:EXを除けば最高の《鑑定眼》LV:10を持っている為に特典武具であろうと問題無く鑑定出来るのだ。

 これで鑑定出来ないのは高い隠蔽効果が施された装備や〈エンブリオ〉くらいである。

 

 《鑑定眼》のLVを上げるには一般的には高品質なアイテムを数多く鑑定すれば良いと言われている。

 某鑑定団に倣う訳では無いが、良い物を沢山見れば鑑定する眼力も養われるという理屈である。

 

 アルター王国の〈超級〉、アルター王国〈三巨頭〉の一人、【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】のフィガロも《鑑定眼》LV:10を持っているが彼の場合は〈超級エンブリオ〉が装備品の効果を上げる固有スキルを持っているのに加えてアルター王国の特典武具最多獲得記録保持者でもある事から《鑑定眼》を鍛え上げられたと思われる。

 

 国家無所属の〈超級〉、【正義魔王】トラペゾ・H・ルーラーも同じ事。

 〈超級エンブリオ〉こそアイテムとは何の関係も無いが、国家無所属の〈マスター〉としての特典武具最多獲得記録保持者としてフィガロを上回る数の特典武具を所持しているトラペゾンも《鑑定眼》を鍛え上げるのに然程苦労は無かったのだ。

 

 そのトラペゾンが確認したラピネの武器は間違い無く特典武具であり保有リソースから伝説級相当と考えられた。

 

 特典武具の能力は余程捻くれてなければそのランクと名前に見合った効果をシンプルに出力する。

 名前の氷炎と言う部分から見るに左右の槍で氷属性と炎属性を扱えるのは見て取れた。

 相反する属性を扱う特典武具は珍しいが、【双槍姫】と言う超級職にアジャストした形で発現した結果、可能になったのだろう。

 

 しかし武器の鑑定をした結果、トラペゾンの思考には疑問が発生した。

 その理由は武器が()()()()()()()()()()()

 

 武器の使用や扱いに特化した【王】や【姫】等の超級職に就いている〈マスター〉の多くは〈エンブリオ〉自体が武器型のTYPE:アームズ系統である事が多い。

 武器系の超級職の多くは就職条件が分かり易く、かつ特化型なら就く事も難しくない事から〈マスター〉達にも人気であった。

 特にアームズ系統の〈エンブリオ〉持ちには。

 

 理由としては単純であり、最初から強力な武器を持っている事は条件達成に対して大きなアドバンテージを持っているからに他ならない。

 超級職就職条件に『亜竜や純竜クラスの強敵を何体以上倒す』や『何千、何万体のモンスターを倒す』は戦闘系ジョブとしては有る有るであり、珍しくも無い。

 しかし、当たり前ではあるが武器や防具は壊れる物。

 大量の戦闘を熟す上で破損や劣化は避けて通れない道である。

 強いモンスターを倒すのに必要な高品質な武器程、手に入れるのに運や大量の金が必要になるのも当然でありその入手にはかなりの努力が必要となる。

 

 しかし、武器型のアームズを持っている〈マスター〉ならその苦労が省けるのだ。

 〈エンブリオ〉であるアームズは〈エンブリオ〉で無い武器と比較した場合、同ランク帯の武器に比べて強力な物が殆どだ。

 例外は特典武具くらいであるが、逆に言えば特性にもよるが最初から特典武具の武器を持っているのに等しい。

 壊れても時間を置けば自動的に修復するし、〈エンブリオ〉の進化によって容易に強化されていくアームズの存在は超級職取得において絶大なるアドバンテージだ。

 

 有名な【剣王(キング・オブ・ソード)】、【魔砲王(キング・オブ・イリーガルカノン)】、悪名高い【光王(キング・オブ・シャイン)】、そして今戦っている相手の【砲撃王(キング・オブ・カノン)】もその手合いだろう。

 

 武器特化型超級職でありながら武器が〈エンブリオ〉で無いタイプは搦め手が得意な可能性が高い。

 ガードナー、チャリオッツ、キャッスル系列は恐らく違うだろう。

 この距離において未だに展開していないのはあまりに遅過ぎる。

 もう既に展開して隠している可能性も無くは無いが、トラペゾンの警戒に一切察知されない時点で可能性は低い。

 テリトリー系列ならスキル発動兆候が見える筈だが、それも無い。

 

 奇しくも以前にギストリーがトラペゾンと対決した時の心理をトラペゾンはなぞっていたが、両者には明確な違いがあった。

 

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 トラペゾンのステータスはトラペゾンが就いている【正義魔王】の破格のレベルに高さによってTYPE:ボディ持ちの〈マスター〉としては通常あり得ない高さにある。

 

 装備やスキルの補正込みでのステータス平均値三万オーバーはTYPE:ボディのステータス減算補正を加味しても、そこらの戦闘系超級職より余裕で高いのだ。

 

 そして戦闘思考と他の思考を並列で行えるセンススキルに近い、リアルのトラペゾンの境遇から来る能力はそのAGIも含めて対応力に大幅なマージンを与えていた。

 

 トラペゾンはラピネに臆さず攻撃を仕掛ける事にした。

 どちらにせよ、相手の能力を知るには戦わない事には始まらない。

 

 ラピネに接近する直前に斧【ドラグアックス】を《瞬間装備》によって【シングーラ】に取り変えた。

 リーチの差を埋める為、そしてラピネの槍術と自身の槍術を比べる為だ。

 

「それがギスっちをドーナツみたいにしたって槍ね♪さっきから入念に全身を舐め回す様に見ていたようだけど、鑑定や看破は出来たかしら?」

「ああ、お陰様でな」

 

 ラピネは自身が鑑定もしくは看破されている事に気付いていた。

 気付いていながら特に対応しなかったのはしても無駄だし、問題無いからである。

 

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 【双槍姫(デュアルランス・プリンセス)】。

 最初にこのジョブ名を知った時にトラペゾンは疑問を抱いた。

 

 それは(ランス)という単語。

 通常、槍はスピアである。

 ランスと言うのは槍は槍でも突撃槍、騎兵槍と言った突きに特化したタイプの重槍の事である。

 リアルでも普通は騎馬と併用してその突撃力にて敵を粉砕する重量武器。

 歩兵に扱わせるには荷が勝つ部類の武器。

 

 デンドロでも種別として間違いでは無いが、リアルとはシステムの違いで事情が異なる。

 リアルでは実現出来ない超ステータスの部類はリアルでの不可能を可能にする。

 重武装であろうとも高ステータスの者にとってはその重量は何ら枷にはならない。

 

 現に騎乗スキルを持っていても殆ど使用しないトラペゾンにアジャストした特典武具【穿金槍 シングーラ】も分類としては重量物の突撃槍である。

 

 十全に使えるのはトラペゾンの高STRあればこそだ。

 ちなみにトラペゾンが騎乗しないのは自身で走った方が大抵の騎獣より速いからである。

 

 スピア()ならぬランス(突撃槍)使いの超級職。

 しかも珍しい二刀流タイプ。

 トラペゾンは自身も【騎士】系統に就く者として、槍を扱う者として自身の槍術と比べてみたくなったのだ。

 

「や〜ん♪ぶっとい〜♥︎」

 

 ラピネの戯言を無視して【シングーラ】を突き込むトラペゾン。

 

 仲間であるギストリーに大穴を開けた一撃に対してラピネは……。

 

 スッと槍同士の側面を合わせると回転させる様にしてその突点をズラした。

 

「!?」

「〜〜〜♪」

 

 その結果に驚愕するトラペゾンに対して、まるで鼻歌を歌う様な気楽さでもう一つの槍を突き込むラピネ。

 

 その一撃を膂力と長剣の鋭さで弾き返す様にして防いだトラペゾンに次の槍が自然と突き込まれて来る。

 

 螺旋運動を利用して相手の槍を外側に逸らしながら、自身の槍はその螺旋運動を逆側に利用してトラペゾンに隙無く突き込まれる。

 

 トラペゾンの方が圧倒的に速いであろうに、その一撃は超級職の技能スキルの強化も含めて恐ろしく上手く速く感じる。

 

 槍が直撃する瞬間に爆発的な速度でラピネから距離を取ったトラペゾン。

 

「あら?離れるの?」

 

 ラピネの揶揄する様な声にトラペゾンは反応しない。

 今の一合で技量の差が分かった。

 

 槍術、槍技ではトラペゾンはラピネに及ばない。

 

 他の武器ならまだしも槍では技術で上を行く事は出来ないのだ。

 恐るべき練度の槍。

 トラペゾンの槍術が甘い訳では無い。

 トラペゾンが一番得意なのは剣だが、槍もそれに次いで得意な武器になる。

 【剣王】が相手でもトラペゾンは互角に斬り合える技巧の持ち主だ。

 仮にラピネがアームズ系統の性能で超級職を取った様な良くある手合いならまともにやり合えたかも知れないが、そうでは無い。

 

 【双槍姫】ラピネ・ルピは槍の天才である。

 その力量はハイエンド(才能の怪物)ドライフ皇国皇女クラウディア・L・ドライフが先に突きスキル特化型超級職【衝神(ザ・ラム)】に就いていなければその座を狙えた程であった。

 

 彼女は武器型〈エンブリオ〉を持たずに武器系超級職に難なく就いた才覚者。

 その技量は〈マスター〉達の中でも“技巧最強”や【抜刀神(ジ・アンシース)】カシミヤに近い領域にあった。

 

「成る程な……、前衛型超級職とは言え俺の相手を一人で任せられる訳だ」

 

 トラペゾンは槍比べを諦めて大人しく【シングーラ】を仕舞った。

 クールタイムが明けていない為に自身の手で武器を入れ替える。

 その手には片手斧【ドラグアックス】が再び握られていた。

 

 ラピネがそれを見せて不愉快そうに眉根を寄せた。

 

「槍を使わないのは賢明かも知れないけど、リーチの差を分かってるの?」

 

 トラペゾンが両手に持つ武器はいずれもリーチにおいてラピネの武器に及ばない。

 

 接近戦においてリーチの差はそのまま彼我の優劣さに直結する要因だ。

 

「ああ、問題無い。リーチは……ステータスで補わせてもらうさ!」

 

 言うや否や自然体から最高速に達してラピネに肉薄するトラペゾン。

 

「ッ!!」

 

 先程を遥かに上回るスピードにもラピネの槍は対応する。

 超音速に対応する超音速の刺突。

 螺旋運動を利用しながらトラペゾンの正中線をしかと狙う槍をトラペゾンはしかと見据えて……。

 

 渾身の力で長剣と手斧を持って打ち払った(パリィした)

 

 「グゥっっ!?!?」

 

 速度もそうだが、鎧内で《フレキシブル・ワーム》を利用して発条(バネ)の如く力を溜めてから放つ双撃はSTRにして六万強に達する。

 

 その一撃を受けて手から槍を飛ばさなかったのは流石であったが、ラピネの体勢は充分崩れた。

 

 その隙を見逃すトラペゾンでは無い。

 

 双槍の間合いの内側に踏み込むと【ドラグソード】の斬撃を袈裟斬りに放った。

 

「アギッッッ!?」

 

 斬撃をマトモに受けて変な声を漏らすラピネ。

 

 その姿に躊躇無く更なる一撃を【ドラグアックス】で見舞う。

 頭を真っ向から断ち割る脳天唐竹割りは間違い無く即死級の威力。

 【救命のブローチ】をこれで破壊して、返す刃で首を刎ねれば終わりである。

 

 そんな目算から放たれた断撃は()()()()()()()()()、ラピネの頭上に吸い込まれる様にして当たった。

 

「ブギイ゛イ゛ッ!!」

「!?」

 

 上から押し潰される様な重斬撃を受けたラピネから不気味な声が漏れた。

 しかし、彼女の頭蓋は断ち割られる事も無く、脳漿が飛び散る事も無い。

 まったくの無傷である。

 

 流石にここに来てトラペゾンは異常を知る。

 

 両手の武器からはダメージが徹っている様な感触が返るのに結果に繋がっていない。

 

 【ドラグソード】の刺突で致命損傷に繋がるであろう首への攻撃を放つが。

 

「グブッッ!?」

 

 やはりダメージを受けている様な苦しげな声はするが喉元は穴が空くどころか僅かな裂傷すら無い。

 

 それに……。

 

 更なる無数の斬撃がラピネを襲う。

 剣の横腹を利用した殴打、斧の柄まで利用した打撃を斬撃に織り交ぜて攻撃部位も全身に散らしたが……、その攻撃でラピネが死ぬ気配は無い。

 ダメージを受けてる様子に嘘は無いし、威力の手応えも存在している。

 

「アガア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」

 

 これが何らかのスキルで攻撃が無効、無力化されているなら手応えにも違和感があっていい筈なのだがそれも無い。

 

 何よりラピネのダメージを受けた際の絶叫は演技とは到底思えないものだ。

 仮にこれが演技だったとするなら演劇系統の超級職を目指せるだろう。

 

 しかし、この絶叫も上げるのがおかしな事。

 

 明らかに悲痛な叫びは痛みを感じているとしか思えない。

 <Infinite Dendrogram>はVRゲームでありながらリアルな感覚を売りにしてるのもあって五感を完全な形で再現している。

 しかし、その五感の内一つが発揮される事は少ない。

 即ち、痛覚。

 リアル過ぎる感覚で受けるそれは実際の苦痛、悶死にすら繋がりかね無い為にセーフティとしてカットされる事が殆どだ。

 殆ど、と書いたのは一部のプレイヤーはその痛覚カットを行っていないからである。

 【破壊王】、【超闘士】、【犯罪王】、【武神】、【操糸神】、そして【正義魔王】。

 特に世界派のトッププレイヤーに多いそれは、自身をこの世界においてリアルに体感したい者達故と言われていた。

 

 トラペゾン自身も痛覚カットを行なっていないが、これは彼の出自と弛まない鍛錬の賜物である。

 失った肉体をこの世界で手に入れ、文字通りの全身全霊で感じて生きるトラペゾンには痛覚すら大切な感覚。

 それでもダメージを受けて平気と言う訳では無い。

 特殊な肉体を持っているが、痛覚自体は何ら変わらないのだ。

 

 相手が痛覚をOFFにしてない事を理解したトラペゾンはその手を……緩めなかった。

 

 何らかのスキルとの兼ね合いでOFFにしてない可能性に思い至ったからだ。

 一般的にはデメリットでしかない痛覚を敢えて生かしているのは強化に作用している可能性もある。

 

「《サンダー・スラッシュ》!」

 

 剣士系統が扱う斬撃に電撃を纏わせて斬り付けるスキルが直撃する。

 

「ギイ゛イ゛イ゛イ゛ッッ♪」

 

 電撃の影響で食らった相手は麻痺したりする可能性もあるのだがダメージは有るが麻痺はしていない様だ。

 

 更に【アイテムボックス】から【紅蓮術師】の奥義スキル《クリムゾン・スフィア》が詰められた【ジェム】を取り出してラピネに投げ付けた。

 

「グウ゛ウ゛ウ゛ン゛ッッ♪」

 

 全身を焼き尽くされるラピネだが、やはり無傷。

 

 魔法系の攻撃さえも痛みを与える以外の意味が無い。

 

 ここまで来たならトラペゾンも流石に察する。

 〈エンブリオ〉の固有スキルによる無敵である事に。

 

 痛覚を生かしておくのが条件かどうかまでは分からないが、少なくとも普通には倒せない。

 

 ただ、無条件の長時間無敵化はあり得ない。

 ジョブにしろ、〈エンブリオ〉にしろ、どこかで歪みが発生するのだ。

 

 可能性は幾つかあるが、時間経過で解除されるタイプや一定以上のダメージで効果が無くなるタイプが比較的メジャーである。

 

 前者ならMPやSPの兼ね合いも有り、短くて1分、長くて精々10分程度。

 後者はダメージを()()()()()にもよるが〈上級エンブリオ〉である以上は精々100万とかが妥当なところだろう。

 もしくは両者の複合スキルである可能性も有る。

 

 トラペゾンは一瞬だけ逡巡したが、結局攻撃を続ける事にした。

 時間経過で解除されるタイプならまだしも、ダメージ総量タイプなら続けなければ突破出来ないからだ。

 

 トラペゾンはスキルも交えて両手で間断無き猛攻を仕掛けた。

 ラピネの防御力も計算に入れた上で100万ダメージを超す程度与えたタイミングで手を止める。

 

 しかし、ラピネは健在であった。

 服も鎧も身に付けた装備はボロボロで用を為すとは思えない。

 ただ、その鎧や服の下に身に付けていたエナメル質のボンテージスーツだけがまったくの無傷だ。

 鑑定も効かない。

 その事実がラピネの〈エンブリオ〉の正体を如実に表していた。

 

 凄まじいダメージ総量を受けたのにラピネは問題無い。

 むしろ……最初より調子が良さそう、と言うか明らかに途中から楽しんでいた。

 

 時間型の無敵能力……。

 しかし、トラペゾンは途中で止めた。

 理由は勘である。

 これ以上の攻撃は不味いと本能が囁いていた。

 

「はぁ……♡はぁ……♡もう……終わり?それとも、()()()()()()()?」

 

 顔を上気させながら問いかけてくるラピネの表情は取り繕い様も無く、快楽に塗れていた。

 

「成る程な……、挑発的な態度は全てこの為だったと言う事か?」

 

 トラペゾンの問いかけに応える事無く、両手の槍を地面に突き刺すとラピネは自身の肉体を艶かしくかき抱いた。

 

「はぁ……♪はぁ……♪ホントに素敵な攻撃♡こんなの久しぶりよ♡やっぱ〈超級〉は違うわねぇ……♡バルクも、ディスも、ジーも、オーも、アイも、皆んな違った攻撃でワタシを楽しませてくれた♪そして貴方もね、トラペゾン♡」

 

 レジェンダリアの名だたる〈超級〉の名前を上げながら情欲に満ちた顔で恍惚に浸るラピネ。

 

「こんな悦びをもらったら我慢出来ないじゃない!じゃあ、()()()()()♪《私が責めで、貴方が受け(サ ド ・ マ ゾ)》!!」

 

 必殺スキルの宣言と同時にラピネの纏っていた装備はボンテージスーツを除いて弾け飛ぶ。

 

 そう、この肉体に一体化したボンテージスーツこそがラピネの〈エンブリオ〉にして無敵の能力の正体。

 

 【交呪逆展(こうしゅぎゃくてん) サド・マゾ】TYPE:フュージョンアームズである。

 

 結果的に〈マスター〉に対して自傷デメリットを負わす事や感覚の制限を付ける事で性能を引き揚げる〈エンブリオ〉は存在する。

 トラペゾンの友人である【憂鬱魔王】アルブレヒトの【ウボ・サスラ】の必殺スキル《自存する源へ》も正にそうであり、〈超級〉メンバーの犯罪クラン〈イリーガル・フロンティア〉に所属するガーベラの〈超級エンブリオ〉【唯我六尊 アルハザード】も〈マスター〉自身が痛覚無効をOFFにする事で相手へのダメージから発生する痛覚を自覚出来ない様にする。

 

 ラピネ・ルピの〈上級エンブリオ〉【サド・マゾ】の能力もそれに近い制限を持つ。

 

 ラピネの願いより生まれしその能力は、ダメージを受けても死なずに楽しむ事。

 

 そう、ラピネ・ルピは極度の()M()であった。

 

 リアルのラピネ・ルピこと相楽流歌(さがらるか)がその性癖に目覚めたのは幼少期。

 家でたまたま見ていた海外ドラマで家の主人が問題を起こしたメイドを折檻すると言う内容のシーン。

 直接的な描写は無いが、小学生の流歌が見るには少々早過ぎる内容の作品。

 これを見た事により肉体の一部に疼きを覚えたのがキッカケだ。

 最初は何で火照るのか分からなかったが歳を経るにつれてその理由を知った。

 

 そして時は流れて中学生となった流歌。

 多感な時期である。

 流歌はラピネの派手派手しい装いとは真逆の大人しめの少女であった。

 しかし、生まれ持った美しい容姿は彼女に儚い雰囲気を纏わせており、周囲の男子学生の数多くを魅了した。

 

 ある時、その一人から告白された流歌はそれを受け入れて恋人になった。

 最初は中学生らしくウブに、しかし時が経つにつれて性衝動が盛んな若者らしく大人の階段を登ろうとする時が来る。

 

 しかし、それが間違いであった。

 彼氏は若い誠実さから普通にイタそうとしたが、流歌の長年押さえつけられていた性欲はそれを許さなかった。

 

 流歌が望んだのは自身を痛め付ける様なプレイ。

 しかし、彼氏はドン引きした。

 良くも悪くも普通の男子であった彼は流歌の性癖に引いて二人の仲は破局。

 

 それからも複数人と付き合ったが年月を経るごとに重く激しくなる彼女の欲望を受け止められる男はおらず、その身は清いまま。

 

 その満たされない衝動を消化するかの様に激しくスポーツに打ち込んだりした末に様々な快挙を成したが彼女は満足出来なかった。

 

 やがて成人してそう言うプレイをする店に行く選択肢が出来たが、彼女の欲望は遥かに肥大し続けており、もはや凡百のそういって店では満たせないレベルに達していた。

 

 それこそ自身を壊すかの様なプレイをする、もしくはさせて相手を破滅させる事になる様な事を望まない程度には常識人だったのも彼女の不幸だったかも知れない。

 

 そんな彼女の前にある時、新発売のゲームの広告が入って来た。

 <Infinite Dendrogram>である。

 『貴方だけの可能性を提供する』と言う文言に惹かれた流歌は直ぐに購入してプレイ。

 

 そして、自身の願いを叶える事に成功したのだ。

 

 キャラメイクはリアルとはまるで違う扇情的な姿の女性に。

 普段の言動も他者が彼女を害するのに躊躇しない様に煽りまくるスタイルに。

 そうする事により相楽流歌ことラピネ・ルピは自身の欲望を満たし続ける事に成功した。

 

 【サド・マゾ】は彼女の願いである『好きなだけ痛め付けられたい』を叶えるに相応しいアームズ。

 

 固有スキルは三つのみ。

 その一つが《マゾヒスティック・カム・ペイン》。

 トラペゾンが実感した無敵性の発現である。

 アクティブスキルであるが、常に発動準備をしている為に発声する必要も無く使用出来る能力。

 ラピネの肉体に超再生、超復元能力を与える力。

 その効果時間は1日に1分しか使え無いが、スキル無効化等を使用しない限りは如何なる攻撃も彼女を滅ぼす事は出来ない。

 それこそ【暴食魔王(ディス)】の〈超級エンブリオ〉の即死攻撃でさえ例外では無い。

 バフ、デバフの類いは状態異常も含めて痛みしか通せない。彼女の『痛みを受ける』と言う願いを阻害しかね無い【強制睡眠】等に至っては〈超級エンブリオ〉【ドリームランド】由来ですら効かない。

 

 スキル使用中の1分間に限り、彼女の不死性はカルディナの〈超級〉、最強の個人生存型“万丈無敵”カルル・カールルーにすら匹敵するのだ。

 

 そして、その効果は防御だけでは終わらない。

 

 【サド・マゾ】は受けたダメージを蓄積する。

 その蓄積された力を自身の〈マスター〉であるラピネに付与するスキル。

 それが必殺スキルの《私が責めで、貴方が受け(サド・マゾ)》である。

 《マゾヒスティック・カム・ペイン》の使用中に受けたダメージをステータスに転換、すなわちステータス強化を行うスキル。

 効果時間は10分。

 

 これによりラピネ・ルピのステータスは跳ね上がる。

 今回のダメージ量は……、H()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ありがとうね♪【正義魔王】さん。お礼に貴方にも被虐の悦びを教えてあげるわ!」

 

 トラペゾン自身が与えた攻撃によってトラペゾンよりステータスが強化されたラピネの猛攻が襲い掛かってきた。

 

To be continued




【双槍姫】ラピネ・ルピ
ドMの才能と槍使いの才能を持つ、責めて欲しい系メスガキギャル。
【爆裂姫】ブレンダの友人であり、ブレンダがカルディナに行った事により爆破して貰えなくなった事を残念がってる。
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