彼が彼女で彼女らが彼らで   作:回転するカイデン

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 ブエナ村編
1話 転生と変転


トラックに撥ねられた俺が目を覚まし最初に目に入ってきたのは、20代前半ほどの若い女性だった

 

金髪碧眼で2次元しか基準がない俺から見ても美女と思える

 

少し顔を動かすとそちらには年齢は同じくらいの若い男性がいてこちらは明るめの茶髪で翡翠色の目をしている

 

かなり筋肉もついていて、全体の雰囲気としてはDQNの一言に尽きる

パット見で少し引いたが、見続けていると不思議と嫌な気持ちは引いてしまった

 

そんなことを考えていると男性がこちらにむかって何かを話しかけてきたが、まるで何を言っているのかが分からなかった

 

意味ではなく言葉が聞いたことのないものだったのだ

男性が話すと女性も話し始めたがこちらも聞き覚えのない言語だった

 

もしかしてここは日本じゃないのか?

 

2人が話しているうちに2人以外の声も聞こえてきたが、そちらも同じだった

 

とりあえず今の自分の状況もわからないし、あなた達は誰なのか、ここは何処なのか等を聞こうと声を出そうとしたのだが。

 

「アー・・・、アゥーアー」

そうして口から出たのはうめき声のような音にもなっていない声だった、体を動かそうとしたがこちらもロクに動かない

 

(もしやあの事故で麻痺でもしたか)

 

なにせあの酷い事故のことだ、そのくらい起きても不思議ではない

そうこうしてると男性が不安そうな顔をしてこちらを見てきた。

 

(やはり、俺の状態は相当悪いのか)

 

男性の様子を伺っていると、おもむろに男性が手を伸ばしてきてそのまま俺を持ち上げた

 

(うおっ、俺の体重は100kgはあるだろうに、こんなに安々と持ち上げるとは、寝たきりで体重がそんなに落ちたのか?)

 

俺が困惑していると男性と女性が何かを話したかと思えば男性が女性に俺を渡した

 

(女性でも持てるのか、細身の見かけ以上に力があるのか、それとも俺の体重がそるほどまでに落ちてるのか)

 

先程の男性と違い笑顔で何かを喋ってきてるが、やはりというか何もわからない

 

(こんな間近で美女を見れるとは目福、眼福、しかし一体俺はどうなってるんだ)

 

目を覚ました日は困惑の中で過ぎていった。

 

 

 

 

あれから一ヶ月たって理解ができた

 

どうやら俺は赤ん坊に転生したようだ、からだを満足に動かせずわからなかったが、持ち上げられた時に体が見えたおかげでやっとわかった、ラノベで散々読んだし考えたこともあったが、まさかその妄想が実現することになるとは

 

そして最初に見えたあの若い男女が俺の両親らしい、俺からしたら一回りほどは年下のようだが

 

二人の外見は日本人離れしているし、服はなんというか牧歌的とでもいうべきで、少なくとも日本で生まれ変わったわけではなさそうだ

 

家も家具も素材の味を活かしてるとでもいうのか、手作り感のある雰囲気をしている。

 

明かりも電球らしき姿はなく、全体的に近代的な雰囲気は全く感じ取れない

 

お金が無いのかとも思ったが、メイドらしき人がいたのでそれも違うかもしれない

 

とはいえ、もしかしたら親戚の人なんかが子供が生まれるからと手伝いに来てるだけなのかも知れないが

 

美女の乳を吸えるのは嬉しいものではある、しかし逆にそれしか嬉しいと思えるものもない家に生まれてしまうとは

 

仕方が無いから色々やってもみるが、

相棒も親が相手だからか、体が未熟だからか、ウンともスンともいってくれない上に今一気持ちも盛り上がらない

 

 

 

転生してから3ヶ月がたった

首が座ってきたのか、少しではあるが周りを見渡せるようになった

 

今までは見たいとこがあっても人の手を借りなければ見れず、気を揉んでいたが、少しでも自分で見れるようになるだけで随分と気が楽になるものだ

 

首を動かせるようになったら真っ先に見ておきたいものもあったのだが、残念なことに自分でそれをみるには邪魔なものがあるので見ることは未だできなかった

のだが、自力で無理なのならば人の力を借りてしまえばよいのだ

 

というわけで人が来るまで待つことにした、ああ待ち遠しい、早く来てくれないものか。

 

「ルディ、■■■■■■」

 

おお、来た来た。

このルディという言葉はいつも俺に向かって言っているし多分今世での俺の名前なんだろう、愛称という可能性もあるが

 

母親は俺に話しかけた後に持ち上げ、床に敷かれた布の上にそっとのせた

 

そう俺が待っていたのはおむつの交換である

 

なぜ他でもなくこの時を待っていたのかというと、今世における俺の相棒を一目見ておこうと思ったのだ

 

(34年も付き合ってきたし、今世でも長くつきあっていくことになるだろうからな、相棒とは早いうちに顔をあわせておきたい)

 

そして

おむつが剥かれて下半身が丸出しになったのを感覚で察知すると、首を持ち上げて股に注目した

 

(うん?よく見えないな)

 

しっかり首を持ち上げたはずだが、赤ん坊だから視力が弱いのか、それとも相棒がまだ小さいのか確認できなかった

なんとか見てみようとしたが、結局見れないうちにおむつ交換が終わってしまった

 

(まぁ急ぐこともないし明日あたりにもうちょっと力をいれてみるか)

 

 

「ルディ■■■■■■」

 

さて、再びのチャンスが来た

 

俺は失敗から学ぶ男だ、同じ鉄は踏まん

 

昨日の失敗から学んだこととして、残念だが今の俺では首の力だけで下半身を見れない

 

ならば首を動かせるようになるまで待つかというと、それで別に悪いこともないがどうせなら早くに見ておきたい。

 

それならばどうするか、簡単なことで更に人の力を借りれば良いのだ

 

母親はいつもおむつ交換で取り出す時に俺の下半身を持ち上げる、だからその時に首に力を込め確認する、完璧な作戦だ

 

昨日と同じ流れの中、チャンスを逃さないよう神経を集中させる

 

 

(今だっ) 

 

下半身が持ち上げられたのを察知すると

目一杯の力を首にこめ起き上がらせた。

 

(見えっ!・・・た?)

 

タイミングは完璧だった

 

しかし見えなかったのだ、いや見えはしたが見たいものは見つからなかったのだ

 

本来そこにどれだけ小さくても存在をしているはずのものは影もなく、そこにはただ平野が広がっていた

 

(え?なんで?間違いなく見えたはず、いやでも見えてなかったよな)

 

首の力が抜け敷布の上に落ち軽い音をたてたが、そんなことにも気づかないほどに混乱していた

 

(母親の手まで見えたんだ、あそこまで見えたんだから見えないはずはない、でも見えてない、何故だ?)

 

目の前の現実を受け止められず、答えが出る訳もない問いを考え続けたが、次第に冷静になると今までの違和感の繋がりを理解してきた

 

(美女にお世話されているのに全然興奮が沸かないのも、相棒がいないのもそういうことか)

 

考えとしてない訳でもなかったが、そうなっていると考えたくなく、常に捨てていたが現実は逃げを許してはくれなかった

 

(俺、女になったのか)

 

なにせ今までは男として生きてきたし

これからもそのつもりだった。

 

これからやろうとしてたことも色々あったが、こうもなるとだいぶ変わってくる

 

(まさか一回も使わん内に別れることになるとはなぁ)

 

前世でのやり残したこと、やりたかったことを考えていくと、無念が湧き出て、涙も浮かんできた

 

(泣くな泣くな、成人男性が泣くとかみっともないぞ)

 

(いや・・・そういや今は赤ん坊か)

 

(赤ん坊は泣くものだよなぁ、じゃあ泣いてもいいか)

 

もうヤケだった

 

抑えがなくなり泣き始めると、今までの泣かなかった負債が帰ってきたのか、はたまたそれほどに無念だったのか

聴いたことが無いほどの大泣きとなった

 

 

 

母親は娘が珍しく大きく動いたことで元気に育っているのを嬉しく思っていたら

ベッドに戻すと急にぐずり始め、あやしても笑顔になるどころかさらに酷くなり

果てには聴いたことが無いほどの大泣きをし始めたのだ

 

泣き声を聞きつけ父親もメイドも飛んできたが、何せ相手は空腹でもおむつでも痛みでもない、正体不明の理由で泣く赤子であるため人手が増えたところで意味もなかった

 

親達のあやしも余所に泣き続ける娘は

次第に泣き疲れたのか、最後には眠ってしまった

 

 

 

俺が転生してから6ヶ月ほどがたったか

一週間ほど前からハイハイが出来るようになり、ある程度だが自発的に動けるようなった

 

あの日から何するにもやる気が出ない日が続いてたがハイハイができるようにもなるとそんな気も薄れていき、今でも多少残っているとはいえ問題ない位には回復した

 

落ち込んでいるときは体を動かすと良いというのは、ニートだった頃には鼻で笑っていたが、実際に疲れるまで動き回ってみるとこれが意外な程に効果があった

 

もちろんただ気分転換だけが理由だったわけでもなく、家がどんなもんなのか知りたかったからというのもある

 

そこでわかったこととして、どうやらこの家は思っているよりも裕福らしい

 

2階建てでほぼ完全に木造、部屋は少なくとも5つ、メイドも1人雇われている

 

いくらここが田舎で土地が安かったとしてもこのサイズの木造建築にはかなり金がかかるだろう

 

メイドがいるのもそうだ、赤ん坊もここまで大きくなっているから親戚でしたなんてことももうないだろう

 

「ルディー、ルディどこにいるのー」

 

ん?

 

「どうしたんだ?」

「あら、あなた、ルディが目を離した隙にまた何処かにいっちゃったの」

「なるほどね、だけどそこまで心配しなくてもいいんじゃないか?このくらいの年ならそれだけ元気な方がいいよ」

「だとしてもよ、ケガしちゃうかもしれないじゃない」

 

こっちの言葉も随分と覚えてきた

文法が日本語に近いので単語さえ覚えられれば理解するのはそう難しくはなかった

 

幼い頃から言葉に触れるのが大事というのが今になってよくわかる

 

さて、家を探索するといってももう家の中はほぼ全て見てしまい、新しいものもみつからなくなってきた

 

では外にいってみるかとも思ったが、近くまでいっては出る勇気がうまれず引き返してしまう

 

仕方が無いので窓からの景色でも見ることにしよう

 

いつも通り窓の近くにある椅子を体で押し、なんとかよじ登って外を見た

 

景色とはいうものの、外に広がっているのは山と遠目に見える家、辺り一面に広がる畑だけで絵にはなるかもしれないが、見てて楽しいものでもない

 

それでも何かないかと視線を動かしていると庭に父親が出てきた

 

何をするのかと注目していると、手になにか持っているらしく

よく見てみると剣であるようだ

 

しかも剣といっても竹刀や木刀のようなものではなく、光が当たり鈍く輝く金属でできた剣であった

 

もしや、と思い観察を続けると徐ろに剣を鞘から抜き構えると

そのまま素振りを始めた

 

(おいおい、俺の父親ってまだ卒業できてなかったのかよ、そういうのは見た目だけにしておけって)

 

目の前の光景に動揺し、足がふらつくと元々不安定だった足場の椅子がバランスを崩し倒れてしまった

 

ドスンという音と共に落ちると落ちる様子を見ていた母親が血相を変えて駆け寄ってきた

 

「ルディ!!」

 

落ちた俺を拾い上げると、全身を隈無く触り、ケガがないか確認していった

 

頭を下に向くように落ちたため、特に頭部は念入りに確認していた

 

一通り確認しケガがないのを確認するとホッとしたのかすこし表情が和らいだ

 

「ケガはなかったみたいだけど、念の為にかけておいたほうがいいわね」

 

そう呟くと頭の床にあたった部分に手を当て

 

「神なる力は芳醇なる糧、力失いし者に再び立ち上がる力を与えん」 

「ヒーリング」

 

俺の耳を疑った

 

なにせ飛び出した発言は御大層な詠唱である、ゲームやラノベくらいでしか聞かないだろう言葉に吹きそうにもなった

 

“いたいのいたいの飛んでいけ”がこっちではこういう言い方をするのだろうか

 

(いやあの父親なのだし結婚しているならこんな母親であってもおかしくないか)

 

そんなことを考えたのも束の間、母親の手が光ると頭部の痛みが掻き消えたのだ

 

(・・・え?)

 

「これで大丈夫よ、お母さんこれでも S級パーティで回復術師してたんだから」

 

ふふんと音が聞こえてきそうな顔をした母親を余所に起こった出来事に混乱しきっていた

 

「なんの音だ?何かあったのか?」

 

父親の声で正気にもどり、声がした方を振り向くと先程除いていた窓を開き、父親が覗き込んでいた

 

「何があったもなにも、ルディがイスに登っててそのまま落ちちゃったのよ!」

「まぁまぁ落ち着いて、見る限りケガはなかったんだろう?仮にケガしちゃっても君の魔術なら治せるしね」

「そんな呑気なこといって、もしも私が治せないくらいのケガをしたらと思うと気が気じゃなくて・・・」

 

夫婦の会話は先程までの現実離れした様子とは真逆の日常で見かけても何らおかしくないものだった

 

「大丈夫さ、一回泣いてくれた後に元気が無くなってずっと心配してたけど、今こんなにも元気でいてくれた方がずっといいよ

─それにこの子はそんな無茶はしないよ」

 

父親は俺ごと母親を抱きしめ、顔をこちらに向けて呟いた

 

「こんなに君によく似ているからね」

 

そういうと母親に唇を落とした

 

(おー、子供の前でお熱いことで)

 

「まったくもう・・今回は誤魔化されてあげるわ」

 

顔を真っ赤にした母親は俺を隣の部屋のベッドに寝かせると、夫婦で肩を並べ2階へと上がっていった

 

その後少しすると2階から漏れてきた音で両親の様子を察した

 

(声が大きいから漏れてるんだよなぁ、おのれリア充許すマジ)

 

音も止み日も落ちる頃には、今度は身に起きた出来事が頭の中を満たした

 

(鉄剣、詠唱、冒険者、魔術・・・)

 

その日以降に両親達の会話により注意深く聴くと聞きなじみの無い言葉、聴いたことが無い言葉が次々に出てきた

 

 

ここまで情報が揃ったのならばもう確定したものだ

 

この世界は地球上ではなく、俗に言うファンタジーな異世界だろう

 

なにせニートだった者だ、そんな世界に行けたらを考えなかったことなんて無い

いい年にも関わらず興奮してきた

 

記憶をもって転生できたのも何かの縁なのだろう

 

(ひょっとしたらこの世界でなら今度こそ悔いのないように生きていけるのかもしれないな)

 

目を閉じると惨めな前世の己とそれに怒りを向ける兄弟、そしてその後の顛末が浮かび上がってきた

 

──いや、かもしれないじゃないな

生きるんだ、今度こそ本気で

 




初めて小説投稿をしますのでタグや見づらい内容などに意見したい場合があると思います、そんな場合は遠慮せずに自分に報告をお願いします
追記:句点消し忘れてました
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