2話同時の投稿にしておりますので、どうかこれからもよろしくお願いします
10話 初めての出会い、初めてのドギマギ
「ん、うん?」
おおっと寝てしまっていたか、年甲斐もなく膝枕で寝てしまうとは
いや、今は子供なんだけどね
残る眠気を払うため目を擦って体を起こそうとすると
手の置き場が無かった
「ふぎゃっ!?」
なんとか胴体の力を使って留まろうとしたが、力及ばすそのまま体のバランスを崩して床に落ちてしまった
床にぶつけた頭を抑えながら顔を上げると見知らぬ女性が座っていた
大事な所しか隠していない服に、椅子の背持たれに両手を広げ足を組んでいて中々偉そうな態度だ
目を動かすと頭頂部には獣っぽい耳があり、座っててよく見えないが腰あたりから虎のようなしなやかな尻尾が生えている
獣族ってやつだろうか
「いてて……。え、えっと始めまして、ルーディア・グレイラットと申します。こんな姿勢でごめんなさい」
見知らぬ人にはまず自分から名前を告げる、コミュニケーションの基本である
名前を告げると女性は姿勢はそのままに少し表情を和らげた
「随分激しく落ちたようだが大丈夫か?」
「はい、ご心配なく。これでも結構鍛えてますので」
「そうか、私はギレーヌだ、よろしく頼む」
なるほど、この人が話に出てきたギレーヌか
女性とは思わなかったけど、全身ムキムキマッチョなことに加えて傷跡もチラホラあって強者の風格が漂っている
あれ?でもギレーヌって……
ゴトンゴトンと揺れる室内にやっとここが馬車の中だということに気づいた
つまり俺は寝ている間に馬車に乗せられ、今こうしてロアの街に向かっている最中というわけだ
急いで窓から顔を出すが、周りには一面麦穂が広がる畑でどこを見ても我が家は影も形も無かった
「そんなに気にするな、2人はちゃんとお前を見送っていたからな」
別にそこまで焦ったつもりもないのだが
俺の様子を見てかギレーヌも安心させようとしてくれているみたいだ
「それでも、最後に顔を見て行ってきますって言いたかったですよ」
「そう言ってやるな、パウロは半年経つまでには必ず様子を見に来ると言っていた」
半年か……
そこまで遠く離れている訳でもないが、村の駐在騎士だしそんなに頻繁には来れないか
少しの寂しさに胸がざわつきながらも既に遠くには働きに出るロアが見えてきていた
────────
陽も傾き、夕暮れに差し掛かるころにロアに到着した
街全体を囲む見上げる程に高い壁に空いた門を通過し街へと入ると、この世界で初めて見る規模の数の人が行き交っていた
馬車の通る道の脇では露天商が店を並べており、そこに並べられているものは見るもの見るものが見たこともないものであった
ギレーヌにあれはなんだ、それはどうだと聞けば全てを答えてくれた
久々の知識欲が満たされていく感じはなんとも言えぬ幸福感がある
その先に進むと徐々に武器や防具などを店で構えた並びに変わっていった
そこでは使い古された鎧を付けた冒険者だけではなく、それに憧れているのか、はたまた成りたてなのか自分より少し大きくなった程度であろう少年なんかも店を外から眺めて品物を物色していた
そのまま馬車は進み、お金持ちが住むエリアにも差し掛かったが馬車が止まる気配は見えない
「そういえば私が働くのは貴族のとこだとは聞いたのですけど、具体的にはどこに住んでいるんですか?」
「ん?それなら街に着く前からから見えているだろう?」
「え?」
街に着く前からと言っても、そんな時から見えてるものなんて城壁と中央にある最もデカい建物……ってまさか
「えーっと、もしかしてあの城ですか?」
「ああ、そうだ。今あそこは現フィットア領領主の館になっている」
「マジかー」
おっと驚きすぎて口調が崩れた
だが、本当に驚かされた
まさか領主様の息子が家庭教師先だとは、予め作法とかは学んできたつもりだが粗相をしてしまわないだろうか
今になって心配になってきた
「それにしても領主の息子さんだなんて、お父様も言ってくれればよかったのに」
長年冒険者だったらしいが一体いつにこんなとこにコネが出来たのだろうか、貴族をあまり好いてない様子だったし意外な繋がりである
「いや、息子ではない」
「ではお孫さん?」
「ふむ……まぁ、そうだな……」
変な反応をするギレーヌに引っかかりを覚えたが他所の家、しかも貴族の家庭事情だ
首を突っ込んだところで良いことはなさそうなのでそれ以上詮索するのは止めておいた
そんな会話をする内に馬車は館の門をくぐり、入り口の扉の前に停止した
────────
館に上がると執事のような人に案内され応接間らしき所に通された
そこで出された紅茶を飲むなどしてしばし待っていると、床が壊れるんじゃないかと間違える程の乱暴な足音がこちらに向かってくるのが聞こえた
その音が聞こえると同時に反射的に座っていたソファから立ち上がった
このまま座っていると何か碌でも無い目に遭いそうだと第六感が警笛を鳴らしたからだ
この第六感によると、これから入ってくるのはサーと言えだの、貴様らはゴミクズだとか言ってくる鬼教官に違いない
そうして立ち上がり、服に乱れが無いのを確認して姿勢を正し顔を上げると
丁度俺も入ってきた扉が蝶番が壊れそうな勢いで開けられ、1人の男が入ってきた
男は軍帽を被り、サングラスをかけてパイプを蒸している……訳では無いが、筋骨隆々な体に顔は鬼のようなというか厳しいという言葉をそのまま表現したような表情をしている
雷親父というのに相応しい見た目をしていて、イメージした人物像とは大体一致していた
「貴様がそうか!」
男は軽く首を動かし部屋を見渡すと俺を見るなりそう叫んだ
見た目に違わぬとんでもない声量と迫力である
「は、初めまして……ルーディア・グレイラットです……」
貴族の挨拶は家で何回も何回も練習してきた
大丈夫、大丈夫絶対に出来る
ここで出来なくて何時するのだと、一瞬放心しかけた頭にスイッチを入れて、体を完璧に動かした、そのつもりだ
男は俺の様子を見ると表情を変えずジッと見ていると、フンと荒々しく鼻息を吹いた
「ほう、パウロの娘にしては中々作法がなっているな!」
反応を見た時には何か失敗したかと思ったが、幸いちゃんと出来ていたみたいだ
そう思うと急に力が抜けてくる、脱力したのをバレないように姿勢をもとに戻し男の方を向く
それにしてもまだ面会しただけだと言うのになんという疲労感、この先が思いやられる
「大旦那様、ルーディア様はまだ7歳、そのように声を張り上げていらっしゃっては彼女も怯えてしまいます」
「馬鹿者!仕える先の家の主が下手にでて何とする!」
扉のそばで立っていた執事の人が宥めようとしてくれたが、一喝されて黙ってしまった
考えあってのことというのはわかったけど、怯えないからもうちょっと音量は落として欲しいな
「して、その作法は誰から習った。まさかパウロからではあるまい!」
「はい、我が家で働いています侍女であるリーリャに大部分を教わりました」
「やはりか。あいつなら堅苦しいだのなんだの言って、作法なぞ教えんだろうと思っとったわ。ふん、中々よく出来ておる」
一応貴族目に見て大丈夫なくらいには出来ていたらしい、練習の甲斐があった
「そう言ってもらえてなによりで
「だが!まだまだ貴様も爪が甘いわ!姿勢に意識が行き過ぎて細かい所がなっとらん!」
と、思いきや梯子を外された
詰め込んだとは言え1週間で完全に身につけるのは無理があったか
まぁ、リーリャからも合格とは言ってもらえたけど完璧とは言ってくれなかったからな
「そのとおりですね、私の練習不足よりお見苦しいものをお見せしてしまいました、申し訳ありません」
問題を指摘されたのですぐに謝罪する
「しかし!その自身の能力の不足を素直に認め、謝罪する姿勢や、よし!この館への滞在を許す!」
すぐに謝ったのが良かったのか、よくわからんが許しを受けると、大旦那様と呼ばれていた男は踵を返して入ってきた扉から去っていった
その様子を見届けると椅子に手をついてため息をついた
僅かな間だったというのにドッと疲れがやってきた
なるほど、あんな奴の血を継いでるとなると話に出たようなワガママ坊主にもなるだろうな
もう一度ため息をつき、執事の人からの気の毒そうな視線を受けていると、扉から再び男が入ってきた
同じ男ではあるが今度の人物はかっちりと服を着ていて線が細く、さっきのが肉体派であるならこちらは頭脳派といった雰囲気だ
部屋に近づいていたのに気づかず乱れた姿勢になっていたのを急いで正したが、幸いにも男性はそのことを指摘することは無く、にこやかにこちらに話しかけてきた
「やぁ。待たせてすまないね、父さんの相手は疲れただろう」
父さん……となると、この人はさっきの人の息子なのか
真反対と言ってもよさそうな程に違いがあるが、よく見ると確かに似ているところがあるような……っとしまった、挨拶を忘れていた
「初めまして、ルーディア・グレイラットです」
先程と同じように、しかし今度は指先とかの細かい所も意識して挨拶をする
それを見ると男性は感心したようにこちらを眺めてきた
「これはこれは、私はフィリップ・ボレアス・グレイラット」
こちらが頭を下げると、フィリップも返すように名を名乗った
うん?というか今グレイラットって言ったか?
「あの……私の聞き間違いじゃなければ、今グレイラットって言ったように聞こえたのですが……」
「おや、パウロそこは言ってなかったのか。もちろん、聞き間違いじゃないよ、パウロ・グレイラットは私の従兄弟さ」
おおう、まさかの従兄弟だったか
あいつも勘当されたらしいが貴族の家の出ではあったみたいだし、親戚筋か何かだと思っていたら想像以上のが来たな
「さて、あまり時間をかけるのもアレだからね。仕事の話に入ろうか」
そう言うとフィリップはソファに腰を下ろすと、俺も座るように促された
「仕事はパウロからどのぐらい聞いてるかな?」
「この家で坊っちゃんに魔術や読み書き、算術を5年間住み込みで教えてほしいと、賃金についても月に銀貨4枚と聞いています」
「ふむ、他には?」
「えっと、教えるのはとんでもないワンパク坊主だから気をつけろとも……」
「うん、そうだね。返す言葉もない」
フィリップはさもありなんと首を縦にふった
そこは違うことであって欲しかったな!
「うん。内容に行き違いが無いようでよかった。そうだ、君って男の子に苦手意識とかはあったりするかい?」
「いえ、無いと思います。一応ですけど村では男子とも遊んでましたし」
まあ、その子しか友達いなかっただけなんだけどね
「そうか。なら一先ず合格かな」
それを聞くとフィリップは一通り俺を眺めたかと思えば、あっさりと答えた
「それじゃあ。さっそく、息子に会ってもらおうかな……と、言いたいところだけど、実は生憎息子は今席を外していてね。多分夜になるまで戻らないだろうから今日はもう休んで、また明日会ってもらうとしよう」
「えっと……もう終わりですか?」
会うまでに準備できるのはありがたいが、あまりにあっさりしすぎていないだろうか
「君もまずは教える子には、会ってからの方が話しやすいだろう?」
「それはそうですけど、自分のお子さんに教える人にはもうちょっと慎重になっても……」
釈然としない俺を見てか、フィリップは視線をずらして少し考えた様子を見せると、1言こぼした
「1人さ」
「え?」
「あの子が気に入った教師の数だよ、君も会っただろう?剣術を教えてるのがギレーヌさ。彼女以外、そうだね……今まで5人以上は解雇しているよ。それらの人は皆、息子が気に入らなくてね」
ああ、うん。確かにそれならまずは会ってからというのも納得の話だ
いやでも、それってワガママという次元を越えてないか
「だから、君も期待はしていない。同じくらいの娘に教えてもらうなんて無かったし、パウロの頼みだからやってみるだけで、あわよくばと言ったぐらいかな」
話を終えるとフィリップは手を鳴らし執事を呼ぶと、俺を部屋に案内するように言った
そのまま俺はフィリップの呼んだ執事に連れられ自分に与えられた部屋に向かった
部屋は広くホコリ一つなく掃除されており、置かれている家具はどれも高級そうな代物だった
ブエナ村の自室と部屋の広さを比較して、資本力に嫉妬もしたが、慣れない旅と面接で疲れた体を癒すため、ベッドに頭から倒れ込んだ
今まで上手く行ってきて少し天狗になっていただろうか、こんな風に心労がたまるのもこの世界に来て初めてだ
多分大丈夫だろうと高を括っていたが、これは想像以上に厄介な物を引き受けてしまったのかもしれない
とはいえ、今はあれこれ考えて気分を落とすよりも、まずは体を休めて明日に備えよう
疲れた頭と体では出来ることも出来ないからな
──────
朝起きた俺が部屋で目覚ましの体操をしていると、扉がノックされた
開けると昨日とはまた別の執事がおり、その後ろにフィリップとギレーヌが立っていた
早速、噂の坊っちゃんに会いに行くようだ
まだ朝食もまだな朝だが、会うならできるだけ早い方がいいだろうとのことだった
そうして、俺は彼と対面することになったのだが
これまた、言われた通りの厄介そうなやつだった
ややボサッとした感じだが艶掛かった髪は緋色とも言うべきな鮮やかな赤で、同じような色をした目は目尻はキリリとつり上がって幼い見た目に似使わぬ威圧感がある
年は俺より1つ2つ上だろうか身長には頭一つ分程の差がある
雰囲気は祖父とよく似ており、簡単に言えば俺嫌いのタイプだ
シルフとはまた違ったタイプのイケメンだが、女子にモテるのかと言われたら、圧がありすぎて避けられるやつだろう
そんな感じで俺が距離を感じていると、相手も同じような気持ちなのか俺を見てから元々顰めっ面だったのが露骨に機嫌が悪そうになった
腕を正面で組み、眉間にシワを寄せて、ふんぞり返っている
「おはようエリオット、この子が話していた家庭きょ
「なんだよ、チビじゃないか!」
エリオットというらしいガキは、紹介しようとしたフィリップの言葉を遮っていきなり罵倒してきた
見た目に違わず口が悪いらしい
「エリオット、年下の子だと話しておいただろう?」
「水聖級だっていうからどんなやつかと思えば、こんな弱そうなのに教わる気はないぞ!」
目の前に当人が居るというの悪口を止めようともしない
とはいえ言動からはナマイキなやつではあるが、今のところ話に出てきたような学校でも手に負えないクラスのヤバいヤツという感じはしない
典型的なワガママ小僧といった具合だ
まずは反応を見るためにも挨拶をしといた方がいいか
「初めまして、ルーディア・グレイラットと申します」
フィリップの横から進んでエリオットの正面に立って挨拶をした
相手が失礼だからってこちらも礼を欠いてはいけない、丁寧に丁寧に相手を立てるように挨拶をしたが
「フン!」
そんな俺の挨拶が気に食わないとでも言いたいのか強く鼻息を吹いた、本当に祖父そっくりだ
わかってはいたが、その後の返事など無い
「あの、坊ちゃま」
「アァ!?」
出来るだけ刺激しないよう姿勢を低くして声をかけたのだが、そんなのお構いなしに威嚇してくる
「いえ、挨拶されたのなら挨拶はしかえすものなのではと……」
「なんだよ!俺になんか文句でもあんのか!」
子ども特有の声の高さに音量下げずに叫ぶものだから耳がキンキンする
とはいえこれに臆して会話を放棄するわけにはいかない
どんなものにも対処法はある、それのためにまずは情報収集からだ
最悪こいつがブチギレてもギレーヌがなんとかしてくれるだろうし……
ドンッ!
様子を見つつ次にどうするか考えていると急に強く肩を押された
急なことにふらついたものの幸い転ぶ事無く踏ん張ることが出来たが、これをした本人の方を向くと先程よりも苛立った顔をしていた
「……何するんですか」
「さっきから生意気なんだよお前!」
暴言だけに飽き足らず暴力までか……
こりゃ確かに相当な悪ガキだな
加減ってやつを知らないのか、押された肩の部分が少しヒリヒリする
「謝ってください」
「はぁ?なんでオレがお前に謝んなきゃいけないんだよ!」
「人に暴力を振るったら謝るって教わったでしょう?」
こいつにまともな常識を期待できるとは思えないが、これで喧嘩になったらこちらの話を聞いてもらうことなんかできなくなるだろう
せめてこちらだけでも冷静な気持ちでいなければ
とはいえこういう手合いはまず自分から謝りなんかしないし、それを催促し続けても余計に怒りを募らせるだけだろう
ならばここは──
「お前女だからって……」
「ごめんなさい。私も少し頭に血が登りました」
思いつくや否や、即座に俺は頭を下げた
首だけじゃなく腰まで曲げたしっかりとした謝罪だ
「ん、な……」
さっきまで反抗的だった奴が急に謝ってきたからなのか、頭の上から聞こえてきた声には明らかに困惑の色が見えた
ゆっくりと頭を上げて姿を見ると殴るつもりだったのだろうか
エリオットは右腕を振り上げた姿勢のまま固まっていた
暫くそのまま相手の出方を伺っていると急に相手が動いた
拳が飛んできてもいいように身を構えたが、想像と裏腹にエリオットは腕をそのまま下ろすと俺が部屋に入ってきた時の様に腕を組み直した
「フン」
エリオットは少し俺の顔を見るとつまらなそうに鼻を吹き、俺の横を通って扉の前にいたフィリップを手でどけるようにして部屋を出ていってしまった
「ふぅ…………」
なんとか爆弾処理はできたようだ
緊張の糸が解けると体の力が抜け床にへたり込んでしまった
あいつの爺さん相手も疲れたが、今回の疲労感はその比ではない
傲慢なのはいい、ワガママなやつだってのは聞いてたし、貴族のガキなんてみんなそんなものってのはパウロの言だが知ってはいた
ただ暴力性が想像以上だ
いや確かに女子と男子の揉め事に男子からの暴力があるけどさ
それでももう少しやっちまったって感じもあるだろ
1発だけうっかりならともかく、構え方からして明らかに2発目まで入れようとしてた
しかもそれをグーでやろうとするとは
少し目を閉じてあいつに教える様子を想像してみるが、今のままではまともに教えられるとはとても思えん
今になってここに来たのを後悔してきた……
「君も中々やるじゃないか、パウロが口が上手いと言ってただけはある」
「本当に口が上手かったら殴ってこようとしないでしょう……」
「いやいや、あの子がああ言われて殴らないのは初めてのことさ」
ため息をついているとフィリップが近づいて、称賛の言葉をかけてきた
一緒に差し出された手を掴んで立ち上がったが返しの言葉には愕然とした
つくづくとんでもないヤツの家庭教師の依頼を受けてしまった
「それで、教えられそうかい?」
「正直難しそうですけど、もう少し話してはみます。それに……」
あんな俺の人生4分の1も生きてないようなガキに舐められたままなのは癪にさわる
「それに?」
「ああ、いえ。何でもないです」
「ふむ、そうかい。なら楽しみに待っているよ」
そうしてアイツとの初対面はおわった
──────
朝食も終わり。日差しで暖かくもなってきて俺はエリオットを探していた
とりあえずさっきは起きたばっかでお腹も空いていただろうし、腹も膨れた今なら少しは話を聞いてくれるかもしれないと探しに行ったのだが、これが一向に見つからんのだ
屋敷の人にも聞いて何処にいった、何処で見たと探し歩いているのだが、何しろ不慣れな人の家、オマケに滅茶苦茶デカいときた
そんな事もあって俺だけがやってる鬼ごっこは未だに相手を捕まえられずにいた
そんなのも続けてかれこれ数十分はたったか
さっき出会ったメイドさんの話を聞いて今は中庭に来ていた
今も庭師さんが低木の剪定をしているこの中庭は、ウチの敷地をまとめて入れることが余裕で出来るであろう大きさをしている
それに視界の邪魔をする花や木もあって軽く迷路みたいになっている
このまま探してもまた何処かに言っているか、すれ違うだけなので探す前に庭師さんに1度話を聞いておくことにしよう
「あのー、すみません」
「うん?誰だい嬢ちゃん」
「これは失礼しました、私はルーディア・グレイラットと申します。 エリオット坊っちゃんの家庭教師でこちらにきました。 今坊っちゃんを探しているのですが、心当たりは無いですか?」
「はー、こんな小さいのに……、っと坊っちゃんの場所ね、それなら丁度この中庭にいるよ。ほら、あそこに木があるだろう、あそこで寝ているよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
遂に居場所を突き止めることが出来た、漸くこの鬼ごっこも終わることができそうだ
教えてくれた庭師さんに頭を下げ、言われた通りの場所に向かう
と周囲を柔らかそうな草に囲まれた一本の樹があった
あの樹ほどではないがまぁまぁ大きく、余分な枝も剪定されているのか地面にも程よく日差しが当たっている
しかし、樹の周囲をグルっと回ってみたがエリオットはどこにも居ないし、地面の草に寝そべって倒れた後もない
庭師にガセを掴まされたかと思ったが、ふと頭上から聞こえる変な音に気づき見上げてみると、大人の胴体の太さの枝に器用に寝転がって寝息を立てているエリオットがいた
あの大騒ぎからは信じられないくらいに静かに寝ている、その静かさを少しは見せてくれればよかったのだが
あそこから起きたらまず落っこちるであろうことに少し躊躇いもあったのだが、折角だしお返しということで思いっきり起こしてやることにした
「坊っちゃん!」
迷惑にはならないくらいに、それでいて近くにいたら煩いと思うくらいの音量で叫ぶと、起きたのかエリオットの体が少し動いたそのまま落っこちてくるのかと思って地面を柔らかくしておいたのだが、なんとエリオットは器用なことに枝に乗ったまま体を回転させて俺を睨み付けてきた
猿か何かかコイツ……
「なんだよ、またお前か」
「坊っちゃん、授業を受けましょうよ」
「教わる気無いって言ったよな?」
「親からも言われてるんでしょう。貴方は困らないんですか?」
「困らねぇよ」
「貴方が困らなくても私が困るんです」
ある程度距離もあるからか今回は比較的話も出来ている
この調子で相手の要求を聞いていこう
「じゃあいいだろ困れば、オレは知らねぇから」
「なんでそんなに受けようとしないんですか?」
「お前がムカつく」
「じゃあどうしたら気に入ってくれますか?」
「知らねぇよ」
うーむ、暖簾に腕押し、糠に釘
ちっともまともに答えてくれん、いやこれがコイツの真面目な理由な可能性もあるか
もう少し別の話し方にもしてみよう
「私、あなたと仲良くなりたいです」
「はぁ?何でだよ」
「仲悪いよりは仲良い方がいいじゃないですか」
「それでどうすんだよ」
「それなら授業も受けられませんか?」
「だから受ける気なんかも、お前と仲良くする気もねぇよ」
うーん、強情
話している最中に目も逸らすし、もう少し愛想よくしないとモテないぞエリオットくんよ
「だったら好きなことを教えて下さい、そこから仲良くなれるかもしれないので」
「いい加減にしろよ、お前ッ!」
俺が鬱陶しくなったのか、声を荒げたエリオットは手が届く位置にあった枝を折って、下にいる俺に投げつけてきた
枝はそこそこ大きくはあったが所詮は枝、頭に当たりこそしたが、適当な投げ方だったのもあり当たったところで痛くない
「全く……」
枝自体は当たってそのまま地面に落ちたが、数枚葉っぱが剥がれて体に付いてしまった
ついた葉っぱを払い落としたが、最後に頭を払ったときに何か変な感触がした
それは目の前に落ちた影が葉っぱにしては小さく、触った感触がなんかムニッとしていた
嫌な予感がしつつも足元を見てみると……
自分の手のひら程の大きさがある青虫がウニウニ動いていた
「うわっ!!」
文字通り降って湧いた青虫にビビって後ずさると、自分で柔らかくした地面に足を取られて尻もちを付いてしまった
ちなみに俺は決して虫が嫌いな訳では無い、むしろゼニスの家庭菜園の世話を手伝いをする時に虫が付いている事もあるし、それを駆除することもあるから慣れている
それはそれとして青虫が思ったよりデカかったのと体にこれが付いてたと言うのには嫌悪感が沸くのだ
「フン!ざまぁないな」
俺のそんな無様な姿を見て、エリオットは上機嫌そうな面を浮かべると、徐に枝に立ち上がった
降りるのかと思えばその状態で枝からジャンプし、壁につけられた窓に飛び移りると、窓を開いてそのままその中に入っていってしまった
人というよりもはや猿のような奴である
いっそのこと野猿とかに教育任せた方が真面目に学ぶんじゃないだろうか
それにしても先程の尻もちのせいで服が汚れてしまったな
そう言えば俺は服を持ってきていないが、この服を洗濯してる時とかはどうすればいいんだ?
馬車に俺の服とか一緒に乗せられたりしてたのだろうか
とりあえず落とせる所の汚れは落として、メイドさんに聞いてみるか
─────
何故だ
何故こうなった
着ていた服が汚れてしまったので、館に戻って1番最初に目に入ったメイドに何か替えの服は無いかと聞いたら
連れて行かれたのはメイドが共用で使っているという部屋
そこであれよあれよと服を脱がされて、着せられたのはメイド服
流石にこの年の子が着る専用のは無かったらしく、裾詰めとかはされているが甘く少しブカブカである
うんまぁそりゃ、メイドが私用とか寝間着で着る服以外はこれしかないんだから仕方なかったってやつなんだろう
着替えさせてから“やっぱり良く似合ってる”だの“こっちの方が可愛い”だの集団で言ってきたのは聞き間違いであったと思っておこう
そうして着替えさせられてメイドたちにもみくちゃにさせている状況からなんとか脱出して、今はフィリップの部屋の前にいるというわけだ
ここに来たのにはエリオットの事と、これから住むにあたって生活の相談をすること
それと俺が受けたことの文句を言うためである
扉をノックし名前を告げると部屋から入っていいと返事が来た
「失礼します」
「私に話とは一体なんの……おや?その格好はどうしたんだい?」
朝見た姿から様変わりしている今の俺にフィリップは目を丸くしている
「坊っちゃんを探している最中に服が汚れてしまったので、替えの服を用意してもらったらこうなりました」
「ははは、そうだったか。いやでも、よく似合っているじゃないか。どうだい、君がよかったら今後はその服装でいるとい……
「断固として拒否させていただきます。といいますか、それのためにも話に来たんです」
見た目には自信があるからな、そりゃ似合ってるんでしょうとも
美少女が恥ずかしそうにしながらメイド服を着てる……
うん、まぁ、俺だって可愛いと思うよ?
だが、それをは傍から見るのと自分がやることになるのだと話が違う
「それとは?」
「私もここで住み込みで働くというのは聞いていたのですけど、その上で私の生活はどうすればいいのか、ということですね。
食事だったら昨日と今日で勝手がわかっているのですが、服はどうすればいいでしょうか。まさか働いている間この服でいるというわけでは無いでしょうし、私が家で着ていたのもここに来るとき着ていたものしかありません」
「なるほど、そういうことだったのかい。それならすぐにでも君の分の服を用意させるとしようか。ただ、今すぐは用意できない。今日の内はその服で居てもらうことにはなるね」
「それは覚悟してます」
それを聞いてフィリップは満足そうに頷いた
今すぐ用意できないって本当か……?
「話というのはこれだけかい?」
「あ、いえ。むしろまだ本題は話していません」
「ふむ、じゃあ本題というのは何だい?」
「本題と言いましても、そこまで難しいことでもなくて坊っちゃんのことを教えて欲しいんです」
「教える、というのは……?」
「そうですね……好きな物とかお気に入りの物とか、そういう感じの、なんと言いますか坊っちゃんの気を引けそうな物を教えて欲しいです」
「ふむ、それを知ってどうするんだい?」
「仲良くなります」
「仲良く?」
「はい。多少話して思ったことですけど、坊っちゃんは学ばせようとしても学ばないと思うんです。やりたくない事はやらない、シンプルですけど厄介なやつです。なのでまずは仲良くなって、それから自分で学ぶ気になってもらおうかと」
「なるほどね、そういうことなら協力しよう。しかし、仲良くなれなさそうならどうする気だい?」
仲良くなれない、言葉としては可愛いがその意味は仕事を果たせないということになる
そうなってしまってはここに来た意味がない
「一応別の方法も考えてはいます」
「そうか。じゃあ君に任せるとしよう」
「わかりました。では早速ですが、何か興味を引けそうな物を教えてくれませんか?」
「うん、少し待ってくれ」
そう言うとフィリップは顎に手を当てて考え始めた
「用意が必要なものでしたら、私も出来る限りはなんでもしますので」
それを聞いたフィリップが俺を見ると頭から爪先にかけて全身をジロジロと見始め、少しして何かを思いついたような顔をした
「あの子が興味を示すだろうのに良いのが思いついたよ」
そう言ったフィリップはいい笑顔を浮かべていたが、何故かそれが無性に不気味に思えた
───────
昼も過ぎて少し陽も傾いた頃
昼食を済ませた俺はある1室に向かっていた
そこではエリオットを待たせて居るはずだ
アイツの爺さん、サウロスというらしいがその人の言う事は割とまともに聞くらしく、その人に待つように言ってもらった
だから今はその部屋に居るはずだがアイツのことだしもう何処かに行ってしまっているかもしれない
そうでなくても待たせたら何処かに行くであろうことは想像に難くない
足早に移動して目的の部屋の前についた
軽くノックして扉を少し開き中を覗くと、目に付く真っ赤な髪の後ろ姿が目に入った
どうやらちゃんと待っていてくれたらしい
しっかり扉を開いて中に入るとその事に気づいたエリオットが振り返った
「チッ、またお前か……って、何だよその格好」
変わらず悪態をついて出ていこうとしたエリオットだが、今回は俺の姿が気になるらしく立ち止まり、怪訝な顔をしてジロジロ見てくる
羞恥心で顔から火が出そうだが、仕事に必要なのだから仕方がない
仕方がないことなのだ
「なんだって爺様はこんなヤツのために……」
意外に呼び名は様付けするんだな、コイツのことだしジジイとかで呼んでも不思議じゃないのだが
「で?何だよ、授業は受ける気無いからな」
そんなことわかっとるわ、あくまでそれを受けさせる準備のためだ
だから、うん、えっと、フィリップに教えて貰ったのは、いや、でも、あれやるのは……
「オレが聞いてんだからなんか言えよ!」
「ル……」
「あん?」
「ル、ルーディアと、仲良くして欲しい……ニャン☆」
前もって解いておいた髪を2つに分けるようにして両手に持ち、それを曲げて頭の頂点に付ける
この時髪は少し間を開けておくのがコツだそうだ
そして体を斜め30度くらいに傾ける、この時体は揺らさずピタッと止めると見栄えがいいらしい
もちろん頼み事をするのだから、これをする時は笑顔であることを忘れない
ほーら、スマイル……スマーイル……
これを見たエリオットは何やってんだコイツという感情をそのまま形にしたような表情をしていた
「は?、……は?」
───死にたい……いっそ殺してくれ……
フィリップが言うにはこれはボレアスの女性がやる伝統の頼み方なのだと言うが、嘘だ、嘘に決まっている
「お話もしたい、ニャン☆」
だが、今は恥も偲んでやらねばならぬ
毒を食わらば皿まで、やることやってくれるわ!
「答えが欲しいニャン☆」
こんな恥ずかしい事をしてまで何の成果も無かったらこの家押し流してやろうかと思っていたが、今までとは明らかに様子が違うエリオットを見て、確かな手応えを感じたのでその考えは一旦捨てることにした
顰めっ面なのは変わらないが、こちらをジロジロと見る目は怪訝ではあれど敵意が明らかに薄い
この調子でいけば確かにちゃんと話もできるかもしれない
そんな風に思っていたのだが、ふとエリオットの目がこちらから逸れ、首も追うように回した
俺もそれに釣られて目を向けると、そこにいたのは1人の家事に従事しているメイドがいた
ただ人が居たから目をやったのかと思えば、エリオットの方に向き直すとその目はそのメイドの頭頂部や臀部辺りをジッと見つめていた
メイドに色目かと思ったが、そういうのとはまた雰囲気が違う
そこで1つあることに気づいた、この館のメイドはある1点において共通しており、その1点が普通のメイドと大きく違った
この館で見たメイドは、皆獣族なのだ
もしかしたら他にもいるのかも知れないが、少なくとも俺がここまで会ってきたのには獣族以外にはいなかった
それに気づいて改めてエリオットの視線の先をよく見てみると、確かに頭部であるがそれはピクピクと動く耳を、臀部辺りはゆらゆらと触れる尻尾を凝視していた
少しの間メイドを見続けていたエリオットだったが、突然こちらに顔を向けるとそのまま全身を……
いや、頭頂部と臀部辺りを交互に見始めた
はー、なるほどなるほど、理解したぞ
つまり、この髪の毛は獣族にある耳の代わりで
獣族が沢山いるのは雇う人の、つまりこの家の主の趣味ってわけか
で、坊っちゃんはその主の血引いてて趣味も同じだからそれっぽい頼み方にすれば興味を持ってくれるかも、という訳と
「フッ……」
メイドを見ていたのと同じくらいの時間が立ち、ふとエリオットが俺の顔を見ると急に嘲笑するような笑みを浮かべた
その後何かに満足したようで悪態を付くこともなくエリオットは笑みを崩さずに俺の後ろにある扉から出ていった
「な」
離れていく足音と共に握っていた手の力が抜け、髪の毛が垂れると同時に手がワナワナと震えだした
「な……」
これ教えたフィリップとか、坊っちゃんの興味引いたはいいけど結局効果無いどころか余計に馬鹿にされたとか
まぁ色々あるけどとりあえずこれだけは叫ばせろ
「なんじゃこの家はッーー!!」
あらん限りの力を込めて叫び声をあげると、先程のメイドさんがビクッと反応し何事かとこちらを見てきた
すまないね、叫ばずにはいられなかったんだ
───────
「フィリップのバカは何処だ!出てこい!」
あの後エリオットを追いかけること無く、すぐさまフィリップの元に突撃しに行った
「その様子を見るに、上手くはいかなかったみたいだね」
フィリップは苦笑いを浮かべつつも、落ち着いた様子で佇んでいた
「上手くいくも何もない!何させてくれてんの!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「落ち着いていられるか!」
誰のせいでこんな怒ってると思ってるんだ
あの時の顔、全然なってないなとか言いたげだったのに何も言わないのが余計に腹が立つ
あー、今思い出しただけでも腹が立ってきた
「ボレアス流の頼み方があるって聞いてみれば、なんですかアレ!ちっとも効果ないじゃないですか!」
「ふむ、やっぱりもう少し腰をつきださせてしなを作ったほうがよかったのかな」
あー、うん
まともな奴だと思ってた俺が悪かった
パウロの従兄弟だしね、そりゃ変な性癖持っててもおかしくないか
「いや、あの……本当にアレ、ボレアス流の頼み方なんですよね……?」
「うん、それは本当だよ」
申し訳なさそうにするわけでも無く、あっけらかんとしたした様子でそう述べた
やっぱり、この家1回押し流してやろうか……
というか伝統ってことはあの爺さんとかも同じ様なのが好きなの?
何?グレイラットってそういう変態の家系?
「しかし、これでダメとはどうしたものかな」
にこやかにしていたフィリップだったが、そう呟くとは眉間にしわを寄せて考え込んでしまった
ふざけているでも内心真剣ではあったようだ
だが、これでダメと言っても他にやりようはあるのではないのか?
──いや、違うか
アイツが一見してダメだった奴に興味を引かせるにはああするくらいしか方法が無いのか
なら1回叩きのめしてみて……
いや、それなら自分より前の教師で教えられているか
しかたないがあれで行こう
最終手段と思ってたんだが、もうあれしか頼れるものもないか
「あの、一応私にも策があるのですが……」
「ふむ、策とは一体……?ああ、言っていた別の方法か」
「はい。とは言っても坊っちゃんから学ぼうと思ってくれる様にするのは同じで、私が力を持ってるというのをアピールしてみるというだけのものなんですけど」
「アピールというが、具体的にどうするつもりなのかな?」
「それは───」
───────
「なるそどね、中々面白いじゃないか。ここまで大掛かりな事をしようとするのは教師の中で君が初めてだ」
考えていた内容を話すとフィリップは感心したように頷いた
「しかし、いいのかい?」
「いいのか。とは?」
「そのやり方は君も怪我する可能性があるけど」
「それならご心配なく。私中級までなら治癒魔術も使えますので多少の怪我なら治せます」
「パウロからは何としてでも怪我をさせるなって言われているのだけどね……」
フィリップは頭を押さえてヤレヤレといった顔で答える
手紙でどんな風に書かれていたのやら
家でも行くことが決まったら散々心配していたからな、細心の注意はしておきますよ
「それはまぁ。もし何かあったら私から説得しますので」
「ふむ……よし、わかった。君の言う案をやってみようじゃないか」
フィリップは立っていた執事に目配せし、受けた執事も軽く会釈し退出した
「ありがとうございます」
俺自信も礼を言ったあと自分の部屋に戻った
部屋に戻ると綺麗になった服が折りたたまれた状態でベッドの上に置いてあった
着ているメイド服を脱いで元の服に袖を通すと、フワッと花のような良い香りがした
大貴族の家なだけあって、石鹸とか香油とか使っているのだろうか
雇われ家庭教師だというのに贅沢な家である
いや、こんな風に金を使える家だから、あんな子供の提案にも乗ったのかもしれない
人を雇って、配備して、馬とか用意して……
作戦をするであろう上でどれだけ人と金を使うか考えると少し頭が痛くなってくる
その時キラリと光るものが視界に入った
メイド服を脱ぐ時に外しておいた、師匠から貰ったお守りだった
お守りを両手で握り天に祈る
(師匠、どうか俺に力を……)
これが通じたのかは分からないがその夜は中々ぐっすり眠れた気がする