彼が彼女で彼女らが彼らで   作:回転するカイデン

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投稿遅れて大変申し訳ない
展開微妙に思いつかなかったのと体調崩してました


12話 早めの再会

 

誘拐犯との熾烈なやり取りを繰り広げた日から翌日

 

初めてのエリオットの魔術の授業は無事に終わった

 

やっている最中、魔術が上手く使えなかったりとかでしばしば機嫌は悪そうにしていたが、真面目に受けてくれていた

まだまだ気は抜けないがこの調子で行くのなら、当初の不安ほど大変なことにはならなさそうだ

 

昼食も済ませ、何をしようかと考えた所

ふとパウロとの剣の訓練を思い出し、エリオットの剣術の稽古に混ざれないかギレーヌに頼みに行こうと思った矢先、フィリップに呼び出された

 

何でもエリオットの母親が会いたいと言ってきたらしく、いい機会だから紹介しようとのことだった

 

 

────

 

 

「私だ、家庭教師の子を連れてきたよ」

 

フィリップが扉をノックし案内された部屋にはいる

 

初めて会ったエリオットの母親は綺麗な人だった

息子と同じ、と言うかこの人譲りなのだろう鮮やかな赤い髪にゼニスとはまた違うタイプの整った顔立ちだ

 

化粧もばっちりしていて、まぁなんとも人妻という言葉が似合うお人だ

 

そして何より彼女は今まで見てきた誰よりも立派な物をお持ちであった

グレイラットの男は巨乳趣味がマストにでもなっているのだろうか

 

「それじゃあ。私は他に用があるから、ここで失礼させてもらうよ」

 

そう言うとフィリップは部屋に入ること無く扉を閉めて去っていってしまった

彼女がどんな人物なのか知らないし、もう少し彼からも言葉が欲しかったのだが

昨日休んだ後に聞いた話によると彼はロアの街の町長もしているらしい

 

おそらく一昨日のあの一件の対応も彼がしているのだろうし、あまり忙しくなることはしないでおこう

 

「お初にお目にかかります。坊っちゃんの家庭教師を任されましたルーディア・グレイラットと申します」

 

既に過ぎたことを四の五の考えても仕方ないし、今は目の前の対応だ

先日のアドバイスを意識しつついつも通りお辞儀と挨拶を行う

 

「あらまぁ、これはご丁寧に。わたくしはヒルダ・ボレアス・グレイラットよ。さぁ座ってちょうだい」

 

促されたままに用意されていた椅子に座ると、準備していたのか何処からとも無くメイドさんが現れてカップに紅茶を淹れていった

 

そこまで緊張しなくても軽く話をするだけだと部屋に来るまでに聞いたが

やっぱりこういう感じで対面するのはどうしても慣れない

 

「あの人も家庭教師の子がこんなに可愛いのなら早く紹介してくれればよかったのに」

「あ、ありがとうございます」

 

ヒルダは俺が座るなり、にこやかな顔をして話しかけてきた

 

エリオットの母親というくらいだからどんな人物なのかと思っていたが

見た限りではあまり悪い印象は受けないな

フィリップもそうだが、こんな人達から何故あんな暴れん坊が産まれたのかほとほと不思議である

 

しかし、すぐにヒルダは浮かべていた笑みを消して神妙な面持ちになった

 

「それでルーディアさん、エリオットはどうかしら?」

 

どうしたのか、と思った矢先にそう聞いてきた

 

なるほど。これが聞きたいから呼んだのか

 

今まで何人も教えようとしてダメであり

そんなエリオットに授業を受けさせられたとあれば、今まで見てきた親としてそれを聞きたくもなるか

 

だが、幸いにも作戦がうまくいった事で授業を受けてくれるようにはなった

ヒルダの心配しているようなことには、今の所ならないだろう

 

「そうですね。少なくとも先程は真面目に授業を受けてくれましたし、教えることはできると思います」

 

そう伝えるとヒルダはホッとしたように息をついた

 

「そう。よかったわ」

 

返事を聞いて安心したのか顔を緩めたヒルダは目の前のカップを手に取ると入っている紅茶をすすった

流れる様な動きであったが、これも貴族の作法というやつなのだろう

 

これもリーリャからも教わってはいたが

正直こちらは挨拶に比べてあまり精度に自信がない

貴族のマナーとして教わりはしたが、まさか呼ばれて茶会をすることになるとは思ってもなかったからだ

 

それでも頭に残っている限りの作法と先程のヒルダの動きを参考にぎこち無い動きで目の前に置かれたカップの紅茶をすする

 

「そんなに固くならなくてもいいわよ」

 

しかし、そんな自分の奮闘虚しくヒルダはフフフと、軽く笑いながら話しかけてきた

 

言われた通り口につけたカップを離し、少し呼吸を整えて体の力を抜く

 

今度はちゃんと味わうつもりで

可能な限りリラックスしよう

 

体の力も十分に抜け再びカップを口につけると、傾けて中の紅茶を少しだけ飲む

 

「あ、美味しい……」

 

ふと口から言葉が溢れた

 

これが金持ちの飲む茶なのか

お茶を嗜む趣味などないのだが、何となくこれは良いものだと感じた

 

淹れた人の腕もいいのだろうか

茶の温度は熱くなく、かといって温くもない絶妙な加減で

茶自体も香りが良いというのか、軽く口にしただけだが何とも落ち着く感じがする

 

「そう?よかったわ。わたくしのお気に入りなの」

 

ヒルダは再び微笑むとそう言った

その様子からは先程の神妙な気配はどこにもない

 

 

 

「ルーディアも、もうここには慣れたかしら?」

「それが、こんな大きな家は初めてでまだ全然なんです」

「同じグレイラット家なんですもの。我が家のように寛いでくれて構いませんよ」

 

それからは体もほぐれ、ヒルダとは暫く雑談をしていた

内容もこちらからは来る前は何してたのかとか、好きな食べ物は何かとか

そんな感じの他愛もないものである

 

「そうだわ、ルーディア」

「はい?」

 

そんな中突然名前を呼ばれた

 

「貴女、服の事で困ってないかしら」

「服。ですか」

 

まぁ確かに困ってはいた

ただそれもここに来たすぐにフィリップに聞いて既に解决済みだ

現に今着ているのは用意されたものだしな

 

「いえ、特に困っていませんけど……」

「でも、貴女の着ているのはあまり良いものではないのでしょう」

 

そう言われ自身の服装を見るが

別に服の先が解れていたり汚れがあったりする訳でもない

高級そうな見た目とは言えないが、少なくとも貴族の家庭教師として着る服としての体は成しているだろう

 

「確かにヒルダ様方のの着ている服に比べたらそうかもしれませんが、家庭教師であるならこのくらいのものでしょう」

 

返事としては妥当だと思ったのだが聞いたヒルダは急に様子を変えた

 

「それはダメよ!」

 

張り上げた声に少し体が竦んだ

しかし、一体今のなにがダメだと言うのか

口調か?目上の相手の立て方か?わからん……

 

なにせ前世ではニート

今世でも基本家族のみで、あっても1人としか遊ばなかったのだ

自慢ではないがコミュニケーション力の低さには自信がある

 

「あ、あのダメとは一体……?」

「あら、ごめんなさい。でも、女の子なんだからもっと可愛い服も着るものよ?」

 

あー、そういうこと

このぐらいの貴族の子なら気にするようになるものか

 

確かに髪とか肌はゼニスもリーリャも手入れしてくれいたのもあって随分と綺麗なものだが

服がそれに釣り合っているのかと聞かれたら多分少し浮いているのだろう

 

一応、ウチも服を新しく買う、というのも可能ではあった

ただそれでもそんなに金の余裕があるわけでもないから

服は日頃から使うものと言うこともあって、あまり見た目重視なものは今まで着ることができなかったのだ

 

「そうでしたか。気にしてくれてありがとうございます。ですが、私はあくまで坊っちゃんの家庭教師としてここに来ていますのでお気持ちだけ受け取っておきます。」

「そう……」

 

返事にヒルダは残念そうにしたのだが

 

「それなら今度服屋を見に行きましょう!きっと似合うのが見つかるわ!」

「え?」

 

すぐに顔を上げると何やら頓珍漢なことを言いだした

いや、今自分暗に言いましたよね立場ってものがあると

 

「ですから、私はあくまで家庭教師であって……」

「あくまで見るだけよ!それに服を知るのも貴女のいい経験になるわ!」

 

1人盛り上がるヒルダ

俺の話なんか聞いちゃくれない

 

なるほど、この暴走具合

確かにこの人はエリオットの母親だ

 

助けを求めて周囲にいるメイド達に目線をやるが、その人達も何やら期待を宿した眼差しをしている

 

どうやら、今この場に味方は居ないらしい

 

そんなこんなでヒルダをなんとか宥めることには成功したが

その時には会話を始めてから時間もたって丁度おやつの時間になり

結局そのままお茶菓子まで一緒にいただくことになった

少しの話だと言うことだったのだが、どのみち時間は余っていたのだから丁度良いか

 

それから話に乗せられ、今後も定期的にお茶会をすることになったのだが

それはまた別の話である

 

 

─────

 

 

ここに来てから1ヶ月が経過し、この館の生活にも慣れた頃

新しい問題が噴出した

 

最近になって、最後まで授業を受けてくれていたエリオットが途中で抜け出すようになったのだ

 

俺が見ている限りでは一応座っているのだが、ふと目を離すと忽然と姿を消している

そしてそのままお昼の区切りの時間になるまで逃げ続け、お昼になるとひょっこり姿を見せる

 

勿論俺もそれから極力逃さないようにしているのだが

エリオットは注意を逸らすような事を言ったり、質問するふりして立って窓から逃げたり、あの手この手で抜け出すのだ

 

魔術の授業ではそんなことにはなっていないのだが

やはりそれと違って体を動かず、座って頭を使うのがダメなのだろうか

逃げるのに頭使うくらいならそのまま素直に受け続けて欲しいんだけどね

 

こんなことも起きるだろうと、石とかで物理的に数えさせる等であまり頭の中で数字だけを動かさせないようにしていたのだが

結果としてダメだったらしい

 

それでも仕事として任されてるからエリオットの脱走に色々対処法を練っているものの

それでも日に日に我慢する時間は短くなっていき、今日に至ってはもはや授業にすら来ない

 

 

「全く……」

 

こうして授業を受けないエリオットを探しに行くのは1ヶ月ぶりである

 

さて、こうなってしまった以上

このまま授業を工夫するよりもまた別の方法を探してみなければな……

 

 

「すみませんギレーヌ」

 

その方法を探すためにもまずはギレーヌに聞いてみることにした

 

ギレーヌは本人からの要望もあってエリオットと一緒に算術、読み書きを教えていたので近くにも居たし

何よりギレーヌは俺よりもエリオットに教えている時間が長い

何かいい方法を知っているかもしれない

 

「なんだ」

「いえ、最近エリオットが読み書きと算術をマトモに受けてくれないでしょう?それでギレーヌなら何か教え続けるコツとか知らないものかと思いまして」

「ふむ、コツか……」

 

ギレーヌは少し考えるそぶりを見せたが、すぐに頭を振った

 

「すまない。剣はともかく、勉学には見当がつかない」

「そこをなんとか。剣術を教える事自体で困ったこととかそれを解决したのならその方法でもいいので」

「ううむ……」

 

ギレーヌら難しい顔をしていたが、暫くして何かを思い出したのか喋りだした

 

「そういえば、私も教え始めたころは度々坊っちゃんが来ないことがあったな」

「おお!それです!それ! でも、今はちゃんと受けてますよね。何をしたんですか?」

「何をと言っても。坊っちゃんを見つけ出し、家に連れ戻して剣を渡し、鍛錬を受けさせただけだ」

 

うーん、シンプル

とはいえこれだけ教えられても解决にはほど遠い

 

「それって、どのぐらい続きました……?」

「あまりよく覚えていないな。ただ、それからしばらく寝込みとかを不意打ちで襲ってくる様になったのを返り討ちにしていたら次第に受けるようにはなった」

 

ああ、うん

今までの家庭教師がダメだったってのはそういうことね

 

受けるにしても自分の気分で

受けさせようとしても逃げ出す

実力行使で受けさせようとしたら今度は暴力で奇襲を仕掛けて

それに家庭教師は耐えかねて辞める、と

 

それを全部対処したのはギレーヌだけだったと

ハハハ、こりゃ参考にならん

 

「そ、そうですか。ありがとうございました……」

「あまり力になれなかったか」

「い、いえ。大丈夫です」

 

 

──────

 

 

うーーむ

 

さて、どうしようか

 

昼食も済ませた俺は自室の中で策を巡らしていた

 

実力行使が無理であるなら、まずは説得と言うことになるが

正直先日のあの流れで約束して……

待てよ、確かにあの時受けると言ったのは魔術だけだ

もしやその時の事を覚えているんじゃ無かろうな

 

ならもう一回あれに似たのをやるのは……

いや、今度は流石にギレーヌが許してくれない気がするな

 

どうしたものか……

 

「ルーディア様、失礼致します」

 

対処法について頭を悩ませていると

ふと名前を呼ばれ俯いていた顔を上げると扉を開けて執事の人が頭を下げていた

 

「ルーディア様のご両親がお見えになっておられます」

 

 

──────

 

 

執事の話を聞いて急ぎ目的の部屋に向かうと

 

「ルディ!」

 

扉を開けた瞬間、ゼニスが駆け寄ってきた

 

「お母様!」

「大丈夫?怪我とか病気はしてない?ご飯はちゃんと食べてる?よく眠れてる?」

 

ゼニスは体をぺたぺた触りながら

答える前に次から次に質問をしてくる

 

ちゃんと答えるからもう少し落ち着いて欲しいのだが

 

「ほらゼニス、ルディも困っているだろう」

 

パウロがそんなゼニスを後ろから宥める

流石、こういうときは頼りになる父親だ

不倫して縮こまっていたあの時とはワケが違う

 

「お父様!」

「おう。元気にしてたみたいだな」

 

パウロは俺に向き直すとしゃがんで俺の頭をワシャワシャと撫でだした

 

家にいた時は帰ってきたパウロを迎えるといつもこうして撫でられたものだ

まだ1ヶ月しか経っていないというのになんだか随分久しぶりに感じる

 

「ルーディア様。お変わりになられてないようで何よりです」

「リーリャさんも!」

 

パウロが撫でるのを止めると少し後ろにいたリーリャも声をかけてきた

そして、そんな彼女の両腕には2人の妹

ノルンとアイシャが抱えられていた

 

「ノルンとアイシャも元気そうでよかったです。ほーらお姉ちゃんですよー」

「「うー?」」

 

リーリャが身を屈めて顔がよく見えるようにしてくれたので、自身を指さしてみるが2人ともまるで理解していない様子だ

 

流石にまだ1歳の子に人の記憶は早かったか

それでもこれから覚えて貰えばいいのだ、焦りはしない

 

「そういえばお父様達はどうしてここに?半年経つまでには来るとは聞いてましたが少し早くないですか?」

 

両親の方に振り返るとふと未だこれを聞いていない事に気付き

先程から頭に浮かんでいた疑問をぶつける

 

「本当ならもうちょっとしてから行くつもりだったんだが。お前がロアに行ってから心配だ心配だってゼニスがうるさくてな、心ここにあらずみたいになってたし。そんなに心配なら1度様子見に行くかってなったんだ」

 

さっきのあれは久しぶりにあって感無量だったわけじゃなかったのか

全く、最近は落ち着いてきたと思ったんだが、ママの親バカっぷりには困るね

 

「もう、そんなこと言って。あなたも心配してたじゃない」

 

そんなゼニスからの言葉に図星を突かれたのか

俺がパウロに顔を向けるとバツが悪そうに顔を背けた

 

心配していたと、そうならそうと素直に言えば良かったのだ

既に威厳なんかほぼ無いと言うのに変なとこでカッコつけたがる父親である

 

「でもよかったわ、ルディが元気にしてて。」

 

そう言うとゼニスはしゃがんで先程のパウロのように俺の頭を撫で始めた

2人とも同じような位置を撫でていたがその撫で方には大きな違いがあった

 

パウロの撫で方は髪を掻き乱すような感じで気分がよくはあるのだが剣ダコまみれの手が少し痛い

ではゼニスの撫で方はというと髪に沿わせるような感じで優しく撫でており、なんだか気分が落ち着く

 

そういえば家を出る最後の時にはゼニスに撫でられていたっけな

 

「そうだわルディ。ここでのお話聞かせてくれないかしら」

 

ゼニスは頭から手を離すとパチンと両手を合わせてそう聞いてきた

 

 

────

 

 

というわけで3人にこの1ヶ月俺が家を離れてから起こったことについて色々話した

 

ロアの街について初めての大都市に興奮したこと、面接で苦労したこと、エリオットとの初対面でヤンチャされたこと等々

脚色もいれつつできるだけ皆が楽しめるように話した

 

勿論かの誘拐作戦については話していない

仮に話そうものなら、絶対に連れ戻されることになるだろうことは想像に難くないからだ

 

あの出来事は前々からエリオットに殺意に近い鬱憤を募らせていた執事が誘拐の実行要員にそう言うのを生業にしていた荒くれに頼んだが故の事故だったが、元を正せばあの作戦を立案した自分が悪いのだ

 

だと言うのに、それのせいでこの仕事から離れることになるのは

避けなければならない

 

 

「とまぁ、私がここ1ヶ月で体験したのはこんな感じです」

 

とりあえず話せるだけの出来事は話し終わり

次はこちらから聞いてみようかと思った所でゼニスが話しかけてきた

 

「ねぇルディ」

「なんですか?」

「今エリオット君を呼んでくることってできるかしら?」

「あー……」

 

しまった、久しぶりの再会に浮かれていたが元はといえば授業を逃げ出したエリオットをどうするかで頭を悩ませていたのだ

 

お昼になれば連れてこれる、というか出てきてくれるだろうが

すぐにと言うのはまず無理だ

 

「えっと、連れてこれなくは無いと思うんですけど……」

「どういうこと?」

「何と言いますか、その……」

 

これはもう打ち明けてしまった方がいいか

 

どの道逃げ出すことの対処方は考えなければならんのだし

それにここにはパウロがいる

幼少期大概な悪ガキだった彼なら何かいい方法を知っているかもしれん

 

「実はエリオット、今授業から逃げ出してまして……お昼になれは戻ってきてくれるんですけども……」

 

それを聞いた3人は全員ポカンとした顔をしてしまっている

 

「逃げ出すって、真面目に受けてくれてるんじゃないの?」

「それは間違ってはいないんです。魔術はそうですし、算術と読み書きも初めはよかったんですけど。最近は……まぁ、ハイ……」

「そうだったのね。折角だから会いたかったのだけれど」

「全く碌でも無いやつだな。それにしても勉強か……」

 

会えないことを伝えるとゼニスは残念そうにしているのに対して、パウロは何かを懐かしむようにしている

 

やはり何かを知っていそうである

 

「お父様って、学校で算術とか学んでいましたよね」

「ん?そうだが」

「なら、そこで学ぶときのモチベーションになったこととか、学んでよかったことって何かありませんか?」

「ふむ。そうだな……」

 

パウロは暫く思い付かないように唸っていたが、俺が鬼気迫る様子で頼み込むのを見て何かを思い付いたらしい

 

「俺が学校に通ってた時はな、成績がいい奴は女の子に良くモテ、イテェ!」

 

確かに本人にとってはモチベーションになったのだろうが、下世話な話をしようとしたパウロは横のゼニスとリーリャによって両足を踏んづけられ悲鳴をあげた

 

「真面目にやってください。それらがダメなら実際に算術と読み書きが役に立った出来事でもいいので」

「イテテ……。役に立ったことなら冒険者だったころに数え切れないくらいにあるぞ」

「具体的には何が?」

「算術なら報酬の分配とか複数の物を買う時だな、読み書きになると地図を読む時や契約書あたりか」

 

その他パウロからだけではなく折角だからとゼニスの体験談も交えつつ具体的な内容も教えてもらった

その数も中々多く流石元腕利きの冒険者だったと言うだけのことはある

 

早速次はこれらを伝えてみよう……と思ったが

これを俺が言って効果があるのだろうか

確かにこれは冒険者の実体験に基づくエリオットの興味を引くものにはなるだろう

しかし、これはあくまで親の話であり俺はそれを仲介しているに過ぎない

 

もし、これでも効かなかったらと考えた所で1つ案が浮かんだ

俺からではなく本人から話して貰えばいいのではないのか、そういう案だ

 

しかし、それには本人からの協力が不可欠である

その為にもまずはそもそもこの街に滞在するのかと聞かなければ

 

「お父様っていつ頃までこの街にいますか?」

「明日の昼頃まではいるつもりではあるが」

 

うむ、なら問題なさそうだな

 

「すみません。1つお願いしたいことがあるんですけど、いいでしょうか?」

「おう、別に構わんぞ」

「では、お父様。エリオットに先程の話をしてくれないでしょうか。私からでは無く元冒険者からの言葉ならエリオットも算術とかの重要性が分かると思うんです」

「なるほどな」

 

パウロがそれを聞いて少し黙る

 

 

「どうですか……?」

「そんな顔するな。ちゃんと話してやるよ」

 

仕方ないなと顔に笑みを浮かべつつ了承してくれた

 

これでエリオットも少しは受けてくれるようになるだろうか

受けてくれるといいな……

 

 

───

 

 

久しぶりに、と言っても1ヶ月しか経過してないがルーディアと再会した

 

オレ達が待っている部屋に娘が入ってくるとゼニスは真っ先に飛びついた

ロアに向かう馬車の中でも早くつかないかとソワソワしていて、少しは落ち着けと言ったのだが本人を前にして抑えが効かなかったようだ

 

ルーディアは案の定もみくちゃにされて困惑していた

 

部屋に入って早々飛びついてこられたものだから、オレには気づいていないみたいでただ目の前のゼニスをなんとかしようとしている

 

ルーディアが慌てているところなんて珍しいものだから眺めていたかったのだが

流石に見ていられなくなったのでゼニスを抑えてやると

それでやっとオレがいることに気づいたらしく、ルーディアが笑顔でこちらを見た

 

嬉しくもあったのだが今のゼニスのこともあるし、俺だけでも冷静だぞとアピールしようとしたら

そこで妬いたゼニスが余計なことを言ってくれた

 

確かにゼニスが言っていた通り心配はしていた、何せ相手は学校に来ないでくれと言われる程の悪ガキだ

 

男子としか揉め事を起こさなかったにしても大概な悪ガキだったオレでも来るなとまでは言われなかったのだから、それを超えるやつが女の子に手を出すのは想像に難くない

 

しかし、ルーディアと同じくらいの歳の子では純粋な力ならともかく魔術とかまでありにして勝てる奴はいない

故に喧嘩とかでの怪我の心配はあまりしていなかったのだが、それはそれとして単純に大事な娘に手を上げられるのは気がかりだったのだ

 

結局話としては初めて会った時に小競り合いしたくらいで殴り合いの喧嘩とかにはなってないらしく、心配も杞憂だったようだ

 

 

それから暫くルディが家庭教師になってからの話を聴いたのだが

 

それが終わった所でゼニスが教えている坊っちゃん

エリオットというらしいが、そいつに会いたいと言い出すと急に様子が変わった

 

そこで話を聞くと本来はこの時間でエリオットに算術、読み書きを教えているのだが

最近になって嫌になったのか途中で逃げ出すようになり、今の時間は何処にいるのかわからないということだ

 

 

それを聞いて不思議に思った

水聖級魔術師、しかも年下の可愛い女の子が付きっきりで家庭教師に付いてくれる

そんな恵まれた環境、上級貴族だろうとそう簡単には用意できないものだ

 

ルーディアは問題行動には少しうるさい節はあるが、少なくとも人を怒らせるほどでは無い奴である

むしろ、教えるならかなり親身になって教えてもくれる

それはもう男子なら“この娘俺が好きなのでは?”と思うレベルでだ

幾ら苦手な勉学を教えられるのだとしても、仮にオレがエリオットと同じことになったら何としてでも気に入られようとする

 

そんな娘の授業をバックレるとは、まったくもって気が知れん

 

そんなことを考えていると

ふとオレは学校時代が懐かしくなった

 

ナマイキな同年代の奴らと揉めたり

ノトスの長男としてコレを覚えろ、アレを覚えろと窮屈な日々を送っていたり

あまりいい思い出があるわけでは無いが、そこで覚えた教養は確かに冒険者をする上で役に立つことが多かった

 

それに学校での座学試験で珍しく良い成績が出ると普段剣の腕でだけオレに勝てないやつがでかい顔できなくて、更に女子からもチヤホヤされて

なんとも気持ちのいいものだったのは感覚として覚えている

 

 

そんな感傷に浸っていると

ルーディアはオレに算術とかの勉強をさせるためのアドバイスを聞いてきた

 

その時の教えてくれと頼むルーディアの様子は

丁度ロキシーがいたぐらいの頃の剣を教えてくれとせがみに来ていたのを思い出させる

オレにひっつく位に近づき、頭を持ち上げて目線を合わせようとするその動きは体こそ大きくなったがあの時となんら変わりのない姿だ

 

その姿に懐かしくなって意地悪していると早くと急かしてきたので、早速オレの体験談を話そうとしたらゼニスとリーリャから制裁を食らった

 

ルーディアからも冷めた目で真面目に教えろと言われ

仕方がないので今度は冒険者時代の事を話すことにした

 

あの時のオレは学んだ内容が明確にこうして役立ったなと言う感じでは無く、覚えていたからただ使うと言った感じだったが

改めて思い出して言葉として説明すると想像以上に学校で学んだことを使っていたのだと我ながら感心する

 

 

その後も話を続けると、ルーディアがオレにして欲しいこのがあると聞いてきた

その内容はエリオット相手に冒険者時代の経験とかを使って読み書き、算術の必要性を説いてやってくれということだ

 

大方男であるオレが話した方が聞いてくれやすいだろうということだろうが

冒険者時代の話は家では聞こうともしないと言うのにエリオットが関わった途端、聞いてくるようになった

エリオットが冒険者に憧れがあるというのだが、それで娘の行動が変わるのだから妬ける話である

 

とはいえ、優秀な娘がわざわざ頼んできたお願い

聞いてやるのが父親というものだろう

それに会えなかったエリオットという坊主がルーディアにちょっかいを出して無いかを確認するのにも丁度いい

 

 

 

翌日になり、一旦ゼニス達と離れて娘に言われた通りの部屋に待機していると声が聞こえてきた

 

「なんだよ、今日は魔術やらないのか」

「気分転換というやつです。そのためにも今日は特別講師を呼んでありますから」

 

どうやらルーディアがエリオットを連れてきたらしい

扉が開く前に椅子から立ち上がって仁王立ちをしておく

 

「連れてきましたー」

 

ルーディアが扉を開けて入ってくると、その後ろから1人の少年が入ってきた

 

見た目はルーディアより頭1つ大きく、髪は癖のある真っ赤な赤毛

口は結ばれてへの字をしており、吊り上がった目が作る表情は見覚えのある生意気そうな貴族のガキのそれだった

 

昔のオレを思い出すな

 

「なんだよコイツ」

「私のお父様です。丁度良く来てらしたので折角だからエリオットにも紹介をしようかと」

 

オレを顎で指すエリオットにルーディアが軽く紹介する

 

「俺はパウロ・グレイラット。ルーディアの父親だ」

 

握手をとでも思って手を出したんだが

エリオットは鼻をフンと鳴らして無視した

 

全く、礼がなってない奴だ

 

「それで。結局連れてきて何をするんだよ」

 

エリオットが不満げにそう言うと娘がチラチラとこちらを見てきた

話してくれってことか

 

「お前が冒険者に憧れてるって娘に聞いてな。俺も元冒険者だし、それを話してやってくれないかってことなんだ」

 

冒険者と聞いた瞬間エリオットの目の色が変わった

これまた分かりやすくこのくらいの年の少年らしい価値観のようだ

 

 

──────

 

 

冒険者になりたてだった頃1人で放浪していた時の話、黒狼の牙を組む前のとある迷宮の話、ゼニスも加わってパーティーが6人になった後の冒険等々……

 

息子が産まれたら憧れになるよう聞かせてやろうと温めていた話を聞かせてやると、会ったときには生意気そうな面をしていたエリオットが目をキラキラさせて聞いていた

 

これらの話はルーディアにも幾つか聞かせたこともあったんだが、その時はウケが悪かった

娘がリアリストってのもあるのだろうが、こう反応がいい方が話している方としても気分がいい

 

しかし、やはり男子であるのならこういう冒険譚は憧れるものらしい

今子供たちは3姉妹だが、もう1人くらい男子も欲しくなってくるな

 

 

「でまぁ、そこで俺が……」

 

気持ちよく話していると服の裾を引っ張られる感覚があった

話を中断してそちらをみてみるとルーディアが渋い顔をしながら服の裾を引っ張っており、反対の手では頭を下げろとジェスチャーをしていた

 

「どうしたんだ?」

「どうしたんだじゃないですよ。算術と読み書きの重要性を教えるのはどうしたんですか」

 

頭を下げてヒソヒソと話し合うとそんなことを言われた

 

久しぶりに盛りあがった話ができたものだから少し浮かれてしまっていたようだ

勿論別にルーディアに言われたことを忘れていたわけではない、ただもう少しこの話を続けるかと思ってたのが少し長くなってしまっただけだ

 

頭を上げるとまだエリオットはキラキラした目をして次の話を待っていた

この目を裏切ってしまうのは申し訳ないが、優先されるのは娘の言うことである

 

「あー。エリオット、お前は冒険者である上で何が大事か分かるか?」

「それはやっぱり強いことだろ!迷宮に潜って魔物を斬ったり、賊を倒したりするには強くねぇと!」

 

わざとらしく咳払いして質問してみると

帰ってきたのは何とも純粋な答えだった

 

「確かに、それも正しくはある。」

「だよな!」

「だが、それだけじゃない」

 

確かに冒険者に強さは大事だ、特に迷宮に潜ろうとするやつなら魔物と戦うことも多くなるから強くなければならない

しかし、それだけで解决するほど冒険者という職業はヤワなものではない

 

「冒険者は依頼をしなきゃいけないのはお前も知ってるだろ?」

「当然!」

「なら依頼にはどんなもので、何がいるか知ってるか?」

 

そう言うとエリオットは押し黙りウンウンと唸っている

 

やはりだが、こいつは冒険者という職業が何をやるかは知っていても具体的にやることの内容は知らんらしい

知っていたとしても大方ギレーヌから何と戦ったとか聞いているくらいだろう

 

ギレーヌは脳ミソまで筋肉の大馬鹿だ

戦闘以外やって無かったあいつが職業としての冒険者の話が出来たとは思えん

 

「依頼は魔物を狩るだけじゃない。むしろ低ランクなら植物とかの採取、町中の掃除、倉庫の片付けとかの雑用が基本だ。」

「そうなのか!」

「そして、それらには算術とか読み書きだって重要だ」

 

算術という名前をきいた瞬間、それまで笑顔だったエリオットがいきなり顔をしかめた

 

「聞いたぞエリオット。お前、ルディが折角算術と読み書きを教えてくれてるのに受けないんだってな」

「そうだけどよ。それがさっきのに何で必要になるんだよ」

 

あれだけさっきから話を聞かせてくれと言っていたクセに、それだけは学びたくないと言わんばかりの反抗的な口ぶりになった

 

「そうだな。例えば薬草を20本採取する依頼を受けたとしよう。2人が分かれて採取して一方が7本、一方が10本採ったとするとあと何本足りない?」

「あー。がー……2本!」

「残念。3本だ。採取依頼は多い分には何とかなる、だが少ないと依頼は失敗だ。ちゃんと数を数えられなきゃいかん」

 

間違いを告げるとグヌヌと歯ぎしりしているが、悔しそうな感じはしない

むしろなるほどと納得したような感じだ

 

チラッとルーディアを見るとやれば出来るじゃないかと言わんばかりの顔をしていた

 

「こんな感じだが、何も冒険者が算術を使うのは依頼の時だけじゃない。依頼が終わった後の報酬を分け合う時や自分の武器とか趣味の物の買い物にも使う。パーティーが複数で全員で使うものならそう言うのを買うのを担当するやつもいるが、1人で冒険者をするならそれがいくら掛かるかを覚えなきゃどうにもならん。」

 

もう少し話した方が良いかとも思うが

前置きで時間を使い過ぎて、もうあまり時間がない

ここいらで算術は終わりにして読み書きの話を始めよう

 

「算術はまぁこんなとこだが、冒険者なら読み書きだって使うものだ。依頼の時には契約書が出されるものもあるからな」

「なんだそれ?」

「依頼を受ける時にその依頼の間だけ守らなきゃいけない約束みたいなものだな」

「守らなかったらどうなんだ?」

「まぁ叱られるだけだとか場合によっては依頼を打ち切られることもあるが、大体の場合は賠償金を払うことになるな」

「なんだよ面倒だな!」

 

同じ必要になるという話なのだが、算術に比べて少しエリオットの機嫌がいい

となるとこの坊っちゃん、算術の方が嫌いなのか

 

「ま、一応読めない奴の為に最低限守って欲しいことは口頭で言うことも多いんだが……」

「なんだ、それなら結局必要ないじゃないか!要するに言われた約束を守ればいいだけだろ」

「ところがそうもいかん。悪質なやつだと文字が読めないのを良いことにわざと書かれてる契約の一部を隠したりするやつがいてな。難癖つけられるとかわざと賠償金ふんだくろうとするやつがいるんだ。」

「悪いやつもいたもんだな」

 

実際ギレーヌが1度この手のやつに引っ掛かったことがある

 

あの時は結局騙されたことに気づいたギレーヌが騙した相手を半殺しにして解决したんだが

そんなこと話したら余計に学ぶ気を無くすだろう

 

「それでも払える賠償で済めばいい方だ。酷けりゃとんでもない金額を請求されて払えないから奴隷として売られちまうやつもいる」

 

まだ話したいこともあったのだが

これを言い終えたすぐ後に獣族のメイドがやってきて、馬車の準備ができたと伝えてきた

 

名残惜しいが、時間とあれば仕方がない

ルーディアも十分といった顔はしているし、後は優秀な先生に任せるとしよう

 

 

──────

 

 

パウロは部屋を出ていくと、すぐに準備を済ませ

既に準備をしていたゼニス達と一緒に門まで移動した

 

 

「次はいつ頃来ますか?」

「んー、そうだな。元気にしてるのはわかったし、何も無けりゃ半年後だな」

 

今は馬車の前でお別れ前の会話をしている

 

「パウロ!今度来たら次は剣の相手をしろよ!」

「わかったって。お前こそ娘に手を出すんじゃねぇぞ」

「殴ったことはないぞ!」

「そっちじゃないが……まぁ、いいか。ウチの長女を大事にしろよ」

 

ごく僅かに話しただけだと言うのにエリオットはパウロを気に入ったらしい

そんなんだったらそいつの子の俺の言うことももう聞いて欲しいのだが

そこは男の絆というものか

 

ま、俺も中身は男なんだけどね

 

 

「ルディ」

 

男どもの会話を横で見ているとゼニスが名前を呼んできた

 

「どうしたんですか、お母様」

「ギュッとしてもいいかしら?」

 

そう言っていたゼニスの目からは昨日のような心配をしているようには見えなかった

 

家にいた時のいつもゼニスが俺を見る時に向けていた目

穏やかで優しい、そんな目である

 

「勿論。はい、どうぞ」

 

それに応えるように目一杯に腕を開いてゼニスを待つ

ゼニスは背に腕を回し、ゆっくり抱きついた

 

「元気でいてくれて。ありがとう」

 

少しの間そのままの姿勢でいると、そう一言呟いた

言い終わるとゼニスは腕を解き、俺に背を向けて歩き出す

 

そうだ、1つ言っておきたいことがあったのだ

 

「お母様!」

「なにかしら?」

 

既に馬車の中に足をかけるゼニスを急いで呼び止める

 

「いってきます!」

「!……。いってらっしゃいルディ」

 

俺の言葉にゼニスは目を見開いて固まっていたが。すぐに笑顔になってそう答えると、馬車に乗り込んだ

 

 

 

家を出た時は寝てたから、いってきますは言えてなかった

だからこっちに来た時には改めて言っておこうと思っていたのだが、忙しくて今までそれを忘れていたのだ

 

本当、別れる前にこれを言えてよかった

 

そんなことを考えながら、門を出てブエナ村に向かう馬車を見送っていた

 

 

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