それと感想ありがとうございます
破壊された壁の仮補修も終え、夜の内に出発の準備も済ませると
朝からパウロはロアの街に向かった
ここは随分な田舎だが、馬を使えば朝から向かうことで陽が傾かないくらいの時間で着くらしい
「ねぇ、ルディ」
パウロの背中が見えなくなるくらいまで見送ると一緒に見送っていたゼニスが声をかけてきた
家庭教師を雇うのが決まってからずっと上機嫌で今もこちらに笑顔を向けている
「なんですか?」
「お母さんね、まだルディが魔術使ってるの見たこと無いから、見てみたいなーってね」
これはあれか、喋った時と同じというわけか
まったく、親馬鹿っていうのはどんだけやっても終わりがない
まぁ、もう別に使うのを隠す必要は無くなったのだから、ここで俺が出来ることを見せた方が親もコミュニケーションしやすくなるだろう
でも待てよ?
いつも俺が魔術の練習をするときには無詠唱でやってたんだよな
あの魔術教本でも無詠唱のやり方は載ってなかったし、ゼニスが魔術を使うときも詠唱してた
ということは魔術を使うには詠唱するのが普通なはずだ
俺が今どのあたりのレベルにいるのかはわからないが、仮に無詠唱がハイレベルな技術だったとするならば
中級魔術を使っただけであの喜びようだったのに、次にどんな反応をするのか想像もつかん
“こんな才能ならここに居るのは勿体ない、すぐにもっと良い環境を用意しよう”
なんか言い出しそうだ、この世界のこともまだよく知らないというのに、流石にそれは少し困る
しかし結構な間、詠唱なしでやってきたからもう覚えてないんだよな、どうしたものか
「あのー、実
「あら、ごめんなさい。お母さん慌てちゃった、本が無いとわからないわよね、すぐに取ってくるから待っててね」
詠唱のことをはなそうとしたら、先程までの、考えていた様子が、詠唱がわからずに困っていると思われたのか、ゼニスが急いで家の中に戻っていってしまった
(いや、別に詠唱なしでできるから本はいらないんだが)
そう思ったが、考え直してみるとそれもそうだ
あの時の俺はあくまで本の内容を読んでそれを発動したと思われているのだ
魔術を使えると思われているなら、普通詠唱をして使ったと思われるだろう
なんにせよ勘違いしてくれて助かった、これで余計な労力を割く必要も無くなったからな
「ごめんなさい待たせちゃって」
まもなくして魔術教本を抱えたゼニスが戻ってきていた
随分と急いだのか、大した距離でもないのに額には汗が滲んでいる
急いでも逃げはしないのに、そんなに早く娘の晴れ姿が見たいか
むしろ、そんなに期待されると、しないだろうが失敗した時のことが気になってしまう
「それじゃあ、早速見せてもらえるかしら?」
「は、はい」
そう言われて教本を開くものの“見せて”だけで言われても選ぶものに困る
本当に子供なら目についたのを選ぶのだろうからいいんだろうが
こっちは中身が全部わかっているからな
さて、どれにしたものか
火は…流石に止めるか、部屋よりも広いとはいえ燃えるものが多いしな。風も、単純に破壊力があるし避けといたほうが無難か
となると水か、土になるが……発動時の影響はどちらもそう違いはないが、ここはいつも練習してきた水でやるとするか
そうと決めたら、すぐにやろう
待たせるのはいかんからな
少しページを捲り、目的の
(見つけた どんな詠唱だったかなっと)
ページを開いたまま注目しているとゼニスが声をかけてきた
「どれにするか決めた?」
「あ、はい これにしました」
「どれどれ、うんわかったわ、じゃああっちを向いてやりましょうね」
そういうとゼニスは塀の外側を指さした
指差すためにゼニスが体をずらすと、ふと壁が目に入った
そのまま吸われるように視界を上に向けると
昨日書斎に空けた穴の跡がその存在を主張していた
(もう一度やったら、今度こそ禁止は免れんだろうな)
昨日の出来事と今回失敗した時のことを思うと、背筋が寒くなる
もうやると決まったのだから、ウダウダ失敗のことを考えても仕方ない成功させることを考えよう
家から畑までは距離があるとはいえ、誰かに当たらないとも限らない。庭を囲っている柵はそこまで複雑に組まれているわけではなく、仮に壊したとしても柵を直すにあまり労力はいらんだろうが、壊さずに出来るのならそれに越したことはない
色々考え、庭の入り口辺りを狙うことにした
もう一度本を開き詠唱を確認し、片腕を突き出して狙いを定める
(狙いヨシ、角度ヨシ、体調ヨシ)
最終確認をすませ、深呼吸をする
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、
清涼なるせせらぎの流れを今ここに」
「ウォーターボール」
掌から飛び出した『水弾』は発射の魔力調整の甲斐あってか。緩やかな放物線を描きながら飛ぶと、丁度柵の少し手前辺りにバシャりと音を立てて着弾した
(よし、想定通り)
通常通りに発動すると少し飛びすぎるだろうと思い、少し魔力を絞ったのだが上手くいったようだ
さて、ゼニスの反応はどんなものかな
「お母さ
「ルディー!」
振り返ると同時にゼニスが思いっきり抱きついてきた
「凄いわ、凄いわ!」
「本当にあなたは天才よ!」
眼の前に広がる豊かな実りに興奮したのも束の間、鼻と口が塞がれ息苦しくなりそれどころではなくなった
確かに死ぬのなら美人の胸の中がいいが、それにしたって時期というものがある、流石に今この死に方をするのは御免被りたい
「むぐぐぐぐ」
必死に体を動かして脱出を図るが、幼女の力では成人しているであろう女性からも抜けれない
「あらルディ、ごめんなさい、苦しかった?」
必死になって暴れる俺にゼニスがやっとカラダを離してくれた
嬉しいのはわかったからもう少し落ち着いて行動してほしいものだ、これでは身の危険を覚えてしまう
「ねぇルディ」
呼びかけられて顔を向けるとゼニスが最初に聞いてきたような、にこやかな笑顔でこちらを見ていた
「よかったら他の魔術もみせてくれないかしら?」
こちらを見る目はその時よりも輝いて見えた
その後もゼニスからのおねだりは続き、別の魔術を見せるだけではなく、もう一度同じのを見せたり、既に見せたのをまた見せたりと逆にこちらが子供の相手をしているようだった
魔力自体は問題ないどころかまだまだ余裕があったのにもかかわらず、どっと疲れてしまった
結局リーリャが見かねて声をかけてくれたお陰で
やっと今生始めての発表会は終了したのだった
────
翌日になり、もう隠す必要が無くなったということで庭で白昼堂々と魔術の練習をしていると、お昼すぎくらいにパウロが帰ってきた
「おかえりなさいお父様」
「おう、ただいまルディ、一人で練習とはおまえは偉いな」
「あなたおかえりなさい、どうでした?」
「ただいま、問題なく募集できたよ、でも働くのがここだからな見つかるまでは時間かかるんじゃないか」
「そう、残念ね。見つかりやすくできないかしら」
「条件には相場と同じくらいの額は書いたし、魔術と冒険者ギルドの両方にだしておいたから後は時間が経つのを待つだけだよ」
見た目ではわかりにくいが、パウロは下級ではあるが貴族にあたるらしくこんな田舎でも家庭教師の相場の額は払えるらしい
それよりも見つける上で辛いのは話にもあるこの田舎っぷりだろう、募集を出しに行ったロアという街からも離れていて正直かなり不便だ
俺が家庭教師やるとしても、ある程度お金を積まれないと首を縦にはそうそう振れん
(これは時間がかかるな)
そんなことを考えていたのも束の間、数日すると家庭教師が見つかり、明日には来てくれることになった
「よかったよ無事に見つかって」
「そうね、一体どんな人がくるのかしら」
「教師になれるのも上級以上からだからね、若いやつはここにはこないだろうし、王宮とかで働いたことがあるならそっちにいくだろうから、多分冒険者上がりの老人くらいじゃないかな」
「ということは、タルハンドみたいな人かしら?」
「そんな感じだろうね、髭がたくわえてて……」
「見るからにベテランって感じの人」
夫婦で知らん人を話題にだして盛り上がっているが、どうやらその人は老人らしい
ふむ、折角なら若い女性くらいの人がよかったんだが、教えてもらうのだから贅沢は言えないな
─────
そして夜が明けて、家庭教師を迎えたのだが
「こんにちは、ロキシーです、よろしくお願いします」
やってきたのは中学生くらいにしか見えない外見の少年だった
少し癖のついた水色の髪を切り揃え、実に魔術師らしいローブを羽織っている
顔はかわいい系で肌が白いのもあって女の子と勘違いしても可笑しくなさそうである
立派な杖と立派なとんがり帽子で魔術師なのは疑いようはないが、昨日に考えていた姿と随分なギャップがある
一緒に迎えた両親もその姿を見るなり、衝撃を受けたのか固まってしまっている、なにせ若い人はこういう田舎にはこないと話してすらいたから無理もない
ゲームをやり尽くした俺としては、少年がこんなとこで魔術師をやっていても大して不思議でもないんだが、実際に冒険をしてきた両親はそんなこともないんだろう
しかし残念だ、この見た目なら女の子にだったのならばどれだけ可愛くなっただろう、俺には男色の趣味はないのだ
「あー、えっと。君が家庭教師に応募したって、ことでいいのか?」
「あのー、そのー、えっと随分と」
両親も何を話し出そうか困ってしまっている
話す内容は決めていたんだろうが、老人と少年ではそりゃ対応も変えなきゃいかんだろうしな
よし、ここは俺からいってやるとしよう
「ちっちゃいですね」
「君には言われたくないです」
中々食い気味に反応されてしまった
気にしているのだろうか
まぁ中学生くらいに見えるだけで実はもっと年上という可能性があるが、男子なら身長はそりゃ気にするか
これは申し訳ないことをした
「して、私が教える生徒はいったいどちらに?」
ため息一つ吐いて、両親に向き直すと依頼のことについて話しだした
というか、一人称私なのか僕あたりかと思ってたぞ
「あ、それならこの子です」
ゼニスの腕の中にいた自分が紹介された
挨拶代わりにウインクを決めてみた
母親ゆずりの外見をした美少女のウインクである、どうだ可愛いだろう
「……ふぅ」
ロキシーは俺を見るなりため息をついてしまった
ウケが悪かったようだが、中々失礼だな
もう少しいい反応してくれてもいいじゃないか
「たまにいるんですよ、こうやって成長がちょっと早いだけなのに、天才だのなんだとと大騒ぎする親が」
ゼニスの反応を見て小声で独り言を呟いたが
それ、思い切り聞こえていますよロキシーさん
内容は全面同意するが
「なにかしら?」
「ああ、いえ何でもないです。しかしそちらの子の年齢だと
魔術の理論の理解はできないと思いますけど」
「それなら問題ないわ!うちのルディちゃんは天才なんだから!」
ゼニスの変わらない親馬鹿発言にロキシーがまたため息をつく
「わかりました、とりあえずやれるだけの事はやりましょう」
これ以上何を言っても変わらないと悟ったのかロキシーが折れ
一先ず家でロキシーが家庭教室として働くことが決まった
────
「それではまずはこの魔術教本で……と、その前に今どのくらい魔術が使えるか知っておきましょうか」
授業が始まるとロキシーはまず俺を庭に連れ出した
魔術の練習は基本何かあってもいいように屋外等で行うらしい
実際屋内で練習してた俺は結局壁を破壊したのだから当然と言えば当然の話だ
「ではまずはお手本を見せます、私の後に同じ魔術を使ってくだ さい」
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、
清涼なるせせらぎの流れを今ここに」
「ウォーターボール」
詠唱の後にバスケットボール大の水弾がつくられ、発射された
勢いよく発射された水弾は庭の木をへし折り、その勢いを弱めると塀にぶつかり、その姿を崩した
「どうです、見事なものでしょう」
「はい、あの木はお母様が大切に手入れしていたもので、前に一度お父様が傷つけた時には大変怒っていました」
「ゑ。そうなんですか」
「今回も間違いなくそうなるかと」
あの時のゼニスの怒り様はとんでもないものだった
出来ればもう一度は見たくはない
「そ、それはまずい。早くなんとかしないと」
ロキシーが慌てて折れた木に駆け寄り、持ち上げて折れた部分を合わせて赤い顔をしながら詠唱を始めた
「か、神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん」
「ヒーリング」
早口で詠唱を終わらせると、みるみるうちに木の折れた部分が繋がっていく
植物にも回復魔術は効くんだな、生物ならなんでもいけるのか?
「とりあえず、これで問題はなさそうですね」
「すごいです、先生は回復魔術もつかえるんですね」
とりあえずここは褒めておく
実際は自業自得なのだが、まぁ褒めて嫌な人はいないだろう
「中級までは使えますが、この程度はどうということはありません」
「いえいえ、凄いです!」
「そんなことはありません、これくらいなら誰だって訓練すれば使えるようになりますよ」
口でこそ謙遜しているが、声には嬉しそうな様子があった
そこまで具体的な褒め方もしていないのだが
もしや、こやつ意外とチョロい?
「それではルディ、やってみてください」
「はい」
片手を突き出し構えを取る、さっきの様に木を折る訳にもいかないしちょっとズラして狙いをつける
詠唱も問題ない、数日前にやった魔術お披露目会でたらふくやった甲斐あって、頭にしっかり入っている
逆にあれが無かったら、多分忘れていたままだったろうから、
あの時の苦労も報われると言うものだ
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、
清涼なるせせらぎの流れを今ここに」
「ウォーターボール」
淀み無くスラスラと詠唱できた
さっき見たものよりもサイズも速度もちょっと落として射出する
さっきのチョロさを見ると下手に力をいれると、機嫌を損ねてしまいそうだ
勢いよく飛んだ水弾は木の横を通り過ぎ先程は濡れただけの柵を粉砕した
「ふむ……、合格ですね。大きさも速度も十分です」
飛んでいった水弾を見て、ロキシーからの評価は至って平凡なものであった
表情も特に変わった様子はない、使ったそばから大はしゃぎしていたゼニスとはエラい違いだ
「疲れや目眩などは起きてませんか?」
「はい、大丈夫です」
「そうですか、では次の魔術に移りましょう」
こちらの体調を確認し、大丈夫なことがわかると魔術教本を開いて次のに取りかかろうとすると
「ルディ、授業はちゃんと受けれてる?ちゃんと休みもとるのよ」
飲み物を入れたお盆をもってゼニスが様子を見にきた
「ロキシーさん、ルディの実力はどうかしら?」
「そうですね、魔術の威力も速度も十分ですし、詠唱もハッキリ言えています。これなら中級くらいなら問題なく使えるようになるかと」
ゼニスはニコニコした顔でロキシーからの率直な感想を聞いていた、しかし一応俺は中級を使えるんだがな
「そうでしょうそうでしょう、うちのルディは優秀なのよ。それとねロキシーさん、ルディはもう中級魔術は使えるんですよ」
「はぁ、そうですか」
ロキシーはゼニスからの発言にも特に驚く様子もせずに、素っ気無く返した
大方また親馬鹿で誇張して言っているのとでも思っていることだろう、無理もないことだ
その後すぐにゼニスはお盆を置いて家の中に戻っていった
「ルディ、中級が使えると言うのは本当でしょうか」
ゼニスが居なくなって聞かれて無いのを確認すると俺に対しても確認を取ってきたが、表情からして本当だとは毛ほども思っていないようだ
流石の俺と言えどもできる事を疑われるのは心外である
ここは一つロキシー先生にも俺の実力を披露してみるとしよう
「はい、一度使ったことがあります」
「なるほど。では今から使ってみてはくれませんか?」
俺の返答を聞くと、できるものならしてみろと言わんばかりのニヤリとした笑みを隠すこと無く浮かべる
(本当にもう少し隠す努力はした方がいい気がしますよ)
気分を切り替え、早速発動しようと腕を伸ばしたがここで大事な事を思い出した
『水砲』の詠唱した使い方を覚えていないのだ
あの時見ていたページには確かに詠唱も書かれていたはずだが、
全く覚えていない
確かに使いこそしたが、なにしろあの時の出来事が激しすぎて忘れてしまったようだ、威力もあるのでゼニスに見せていた時でも使っていなかったのだ
しかし、もうやると言ってしまっている、今から「すいません、詠唱を忘れてしまったので見てもいいですか」なんては言えない
そりゃ見れば出来るし、使ったこと自体で驚かれはしそうだが、その前に出来ないから誤魔化そうとしてると思われるだろう
その状態で借りるのは流石に難しい、こちらにもプライドというものがある
よし、ならば無詠唱で使ってやろうじゃないか
何れ何処かでバレるであろうことだ、いっそのことここで見せてしまおう
幸いにもあの時の感覚は覚えている、水弾とよく似たというか、水弾自体を大型にしたような感覚だ
「おや、どうしました?もしや使えないのでは?」
使うのに時間がかかっていることにロキシーの疑いの色が強くなっているのがわかる
だが問題ない、腹はくくった
先生の鼻を折るようで申し訳ないが使ってしまおう
『水弾』をベースになるが、威力は格段に上がるので先程よりも少し強く構える
先程と同じ手順で掌に魔力を込める、あっという間に水が塊をつくり『水弾』ができる
しかし、今回は『水砲』である
魔力を込め続け、水塊を大きくしていく
水塊の様子を見て前回の時と同じくらいの大きさになったところでサイズ用の魔力を断つ
そして射出用の魔力を込められた『水砲』は勢いよく庭を飛び越え原っぱに着弾して土をえぐり取った
(改めて外で見てみると屋内で撃つものじゃないな)
冷静にその威力を見て、以前の自分の浅慮さに反省する
振り返りロキシーを見ると、目を見開き驚愕の表情で固まっていた
中々にいい顔をしてくれる
俺が見ていることに気づくと、急いで表情をもどし咳払いをした
「すいません、まさか本当に使えるとは……失礼しました」
「いえ、大丈夫ですよ」
素直な謝罪をするも、未だに難しい顔をしているロキシー
まだ、何かあるのかと身構えると
「魔術を使った時、詠唱をしていませんでしたね」
どうやら無詠唱のことが気になっていたようだ
もしや俺が使うのに何か不都合な理由でもあるのか
「はい」
おそるおそる答えてみる
「そう…ですか、詠唱せずに出来るのはあれ1つですか?」
「いえ、少なくとも攻撃魔術の初級であれば全部で」
「初級全部で!?なるほど……詠唱ありより疲れが出てはいませんか?」
「現状はありません」
会話が終わると顔を振って驚愕した様子から、元に戻った
「なるほど、中級も使えて、しかも、無詠唱で……」
何かを俯いたままブツブツ呟いており、しだいに表情がニヤリとした微笑みに変わっていった
これは…何かを間違えてしまったか?
「これは、鍛えがいがありそうだ……」
また聞こえてるんですけど、しかも口調崩れてますよ
「あの……」
ロキシーはこちらからの呼びかけで我に返ると咳払いをして、誤魔化した
「今のルディの実力はわかりました、とはいえ基礎が大事なのもまた事実です1度初級の魔術もやりましょう」
「では、さっそく次の魔術を始めます」
妙に興奮した様子になったロキシーにより午前中の短い間にたっぷりと魔術の鍛錬をうけた
元々使えるのもあってサクサク進んだが、流石に俺より長い間魔術師をやっているだけあってか、俺が知らないことが幾つもありその度に勉強になった
しかし、こんなことになるのなら乙女ゲー辺りもやっておけばもうちょっと交流しやすかったのだが
まぁもう過ぎたことは仕方が無い、これも今生で学んでいけばいいさ
ロキシーの魔術の授業が終わると午後がフリーになってしまった
魔術の質問なんかもしたかったのだが、一回村を見て回るため出かけてしまっているのだ
魔力を伸ばす訓練は続けているが、それも途中で終わってしまい全部の時間を潰せるわけではない
では、どうするかと思っていたら、1つの考えが浮かぶ
今の俺は体を鍛えていないのだ
思い出すのは前世の体、贅肉がダルダルについた見窄らしい姿が脳裏に浮かんでいる
この生活を続けたらそんな体にはならないだろうが、だからといって鍛えないのも嫌だ
今回こそは本気で生きるのだからできる事は全てやる
なにより魔術しかできないのよりも剣術等が一緒にできる方が良いに決まっている
高威力の魔術で敵を吹き飛ばしながら、近づいてきたやつをバッサバッサと斬り倒す
うむ、我ながらカッコいい
こうして魔術の授業が終わったあとは魔力伸ばし以外にも走り込みや、腕立てとかで体作りをすることにした
パウロに聞いてみたりもしたのだが、まだする必要はないと相手にしてくれなかったので、1人でコツコツやることになった
─────
そしてそんな生活を始めて数日がたって、慣れてきたころのある日の夜
練習を続けていたのもあってかかなりの時間使っても
魔力が尽きなくなっており、夜中まで魔術を使っていた
すると、上の階から軋む音と悩ましい音が聞こえてきた
もうこの出来事も慣れたものだが、今日は何処となく激しい気がしている
この調子なら俺の弟か、妹もそう遠くない内にできるだろう
しかし、弟か、弟は前世の光景が思い出される
バットで俺のパソコンを粉砕する姿が
うん、妹がいいな
パウロには申し訳ないが、俺は妹の方が欲しい
最初は俺もあの活力があるのだと
希望にもなったが、今じゃあ枯れて部屋の前を通るのにも大して
反応しなくなった
慣れたというのもあるんだろうが、なにより今の俺は啼かせる側なのではなく啼かされる側、複雑な気分である
そんな気持ちで微妙なBGMと共に魔術を使い続け、使い終わるとBGMも病み
魔術の疲労を癒やすために寝床に入った
そして夜が明けた
もういつもならロキシーが起きてくるくらいの時間になってもなっても姿が無く、家の中全体を見ても居なかったので、現在ロキシーが使っている部屋に辿り着いた
「先生いらっしゃいますか」
ノックをしてみるも反応がない、仕方がないので入ってみる
「先生ー?」
入ってみるとベッドが膨らんでいた、どうやら只の寝坊だったらしい
「んあ……はい」
やっと起きたのか、瞼を擦りながら体を起き上がらせる
朝に弱いのだろうか
「ああ、ルディですかおはようございま……
覚醒してきたのかこちらを認識して挨拶をすると、急に目を開けて止まってしまった
その後すぐに勢いよく布団を被ったかと思うと、なにやらモゾモゾし始めた
「いやー、ルディごめんなさい、起こしに来させて」
と、思いきやすぐに布団から出てきた
アハハと笑いながら部屋から出ていくが、その時僅かに漂ってきたもので全てを理解した
これは俺でなかったらこの歳の少女は何も感じていなかっただろう、なにせ俺はこの匂いをよく知っている
そして昨日の夜に何が起きていたのかも知っている
ロキシーも落ち着いた感じを出してこそいるが、やはり見た目通り、まだまだ青いということだ
俺だって見た目はともかく中身は30過ぎだ、ここは年長者らしく触れずにいてやるぜ
そして、その日はロキシーの動きがなんだかぎこちなかった