彼が彼女で彼女らが彼らで   作:回転するカイデン

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前回の投稿から2ヶ月空きましたこと、ごめんなさい



8話 家族会議

 

我が家に1つのニュースが入ってきた

ゼニスの妊娠である

 

1ヶ月ほど前から吐き気に嘔吐、倦怠感等のつわりで見られる症状が出てきて、それに勘づいたゼニスが医者に見てもらったところ、ほぼ間違いないと言われたらしい

 

ゼニスは中々第二子ができない事を気にかけており 度々その事を漏らしていた

俺が生まれてかれこれ6年と少し、あれだけお盛んなのにその間に1人も生まれないのでは、何か原因があるのではと心配になっていたのだろう

 

何にせよそんな心配も杞憂に終わって、今ではグレイラット家全員大盛りあがりだ

 

元々不調が続いていたから手伝いも率先して行っていたが、本格的に妊娠がわかったとあれば、安定するまでは極力安静にしていてもらいたい

いい機会だし手伝いだけではなく家事自体を教えてもらうことにした

リーリャはあまり気乗りしないようだったが、ゼニスが大喜びで教えているものだから、気にはかけるもののこちらが頼めば素直に教えてくれるようになった

 

今度こそは兄弟姉妹との仲は良好にしよう

そのためにも両親からの好感度稼ぎには労力を惜しまない、憧れのお姉ちゃん計画は下の子が生まれる前から始まっているのだ

 

 

 

そしてゼニスの妊娠報告から1ヶ月ほどが経ち

今日も今日とて家事をする

家の掃除は既にリーリャと分担して粗方早い内に済ませておいた

分担といっても床拭きを俺がして後は大体リーリャがやるというものだが、体の小さい俺なら机とかに潜り込みやすいし、身をかがめても腰にかかる負担は少なくて済む

床拭きを終えたら今度は空いた手で洗濯に取り掛かる、こうしてテキパキ行動できると確かな家庭力の高まりを感じる

 

洗濯はまずは家中の洗濯物を集め、壺の中に入れて水を注ぐ

後は洗剤代わりの灰を入れて混ぜ、火にかけ暫く煮沸する

暖かい時期なら外で揉み洗いとかでもよいのだが何せ今は水も凍ることのある寒さになる季節だ

やろうものなら手が凍傷になってしまう

 

窓から外を見ると今日は雲一つ無い晴天で洗濯日和だ

これだけ陽が差していればそこそこ暖かく、乾燥には十分だろう

それに日光浴にうってつけの日でもある

ゼニスは妊娠がわかってからこういう日には外に出て日光浴をしているのだ

 

お腹も服の上からではわかりづらいが、触れば確かにわずかな膨らみを感じることができるくらいになっていた

前世でまだ弟が母親の腹の中にいた頃の記憶も朧ながら残っているが、それでもこの細い胴体に人一人が入っているというのは今一実感がわかない

 

 

「少し大きくなってきましたね」

「そうね、よかったわ誤診じゃなくて」

「元気に産まれてきてくださいね」

 

まだ見ぬ我が弟妹よ、出会いの日を楽しみに待っているぞ

 

「今度こそ産まれてくるのは男の子がいいな」

 

ゼニスのお腹を撫でているとパウロが顔を挟んできた

妊娠がわかってからというものどういう子が産まれるか、何を教えようかと話のネタはいつも下の子についてである

もちろん産まれるのは妹、弟どっちがいいかなんてのももう数え切れないほどに話をしている

 

「えー、私は妹がいいです」

「そうかー?」

「そうですよ」

「きっと俺に似たカッコいい子が産まれると思うんだけどなぁ」

 

パウロは成長した子を想像でもしてるのか恍惚とした顔で自身の顎を撫でている

大層な自信である

 

「ならきっとスケベにもなりますね」

「おいおい、それどういう意味だ?」

「言葉通りですよ、君もそれは嫌ですよねー」

 

この世界の倫理にはまだ詳しくはないが、子供の前で妻にこっそりだが尻を撫でるような節操なしには流石の俺も引く

たとえ俺が同じシチュエーションだったとしてももう少し自制はしているだろう

多分、きっとそう、メイビー

 

「全くそんなことしてもまだ聞こえないと思うぞ」

「気持ちの問題ですよ、そういいますが昨日お父様もやってたじゃないですか」

 

昨日は気色悪いくらいの猫なで声をしてたからな、1日経ってるのにまだ耳に残ってるよ

 

「そういえば、ルディはお腹にいた頃から大人しかったんだよな、お前のことだしそのことも覚えてるんじゃないか?」

 

ふむ、生まれる前の出来事か……

 

人によってはお腹の中にいたころの記憶があるという人もいるらしいが、生憎俺の記憶にあるのは生まれてからでそれまでのことは一切わからない

当時どんな風になってたのかは初めて聞くが、あの事故から続いてこうなっているのなら胎児の頃は気を失っていて産まれてきてやっと起きたのかもしれないな

 

「──うーん、ダメですね全く覚えてません」

「そうかそうか、まぁそれならそれでいいさ」

 

パウロが笑いながら言うと、話に一区切りがついたと見たのかゼニスが声を掛けてきた

 

「あら?そういえばルディ、今日は貴女がお洗濯してるんじゃなかった?」

「あっ、そうでした!急いで取りに行ってきます」

 

しまった、つい話し込んでしまって洗濯を忘れていた

幸い吹きこぼれたりする事もなく洗濯はちゃんと終わっていた

 

あまり時間が経った訳では無いが遅れてしまったので急いで洗濯物を絞り籠にそれを入れると、籠を抱えて庭に出た

本来籠と服の重さ自体はそこまででもないが、何しろ水を吸っているし嵩張るので小さな体で持っていくのには一苦労する

 

 

「よっこいせ」

「お疲れさまルディ」

 

庭の裏に回り物干し竿の所について籠を置くと、既にゼニスがいて椅子に座っていた

 

籠の中から服の様子を1枚ずつ傷や汚れを確認しながら取り出し

無いようならシワを伸ばしてゼニスに頼んで干してもらう

洗うのは俺にも出来るのだが、残念なことに干すには身長が足りない

 

「いつもごめんなさい、私だけでできたらよかったんですけど」

「いいのよルディ気にしないで、洗濯してくるだけで凄い助かってるわ」

 

 

 

そうして俺がシワを伸ばしてはゼニスに干してもらうのを繰り返して、洗濯物も減ってきた頃

リーリャが庭に出てきた

 

手には伏せたカップを乗せたお盆とポットを握っている

どうやらお茶を淹れてきたようだ

 

「奥様お茶が入りました」

「あら、ありがとうリーリャ」

 

この光景ももう見慣れたものだ

ゼニスとリーリャは俺が生まれる少し前に初めて会ったようだが

それでも一緒の家で暮らし続けてきたのもあって2人の仲は単純な主従関係だけにとどまらないものになっている

 

ゼニスが椅子に座ると交代でリーリャがこちらに来た

 

「お嬢様、もしお疲れでしたら私に任せてもらえれば」

「ありがとうございますリーリャさん、でも大丈夫です。

 これは私からやると言ったことですから」

「ですが……」

「いいですって、リーリャさんも最近疲れているんでしょう?

少しは手伝わせてください」

「──かしこまりました」

 

ゼニスが妊娠してからというものリーリャはする仕事が増えた

そのためか、たまに立ち眩みなどの体調不良を目にするようになった

この家で暮らしてきてリーリャのそんな様子を見るのは定期的にくるあの日以外では初めてのことだ

いくら平気そうな顔をしてるとはいえリーリャも人、疲れも貯まるだろう

いつも世話を焼いてくれているお礼ということでここは俺に任せてもらおう

 

 

 

 

「これて最後ですね、お母さ……」

 

洗濯物も干し終わり、ゼニスの方に振り返ると季節外れの陽気を受けてかゼニスが船を漕いでいた

それを気にして横でリーリャが静かにと指を立てていた

 

「あっ、すみません」

 

気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てているゼニスを起こすわけにもいかない

音を立てないように慎重に移動しよう

 

リーリャはさすがと言うべきか布ズレの音すら聞こえないレベルで殊更気を使って移動していた

今度教えて貰えないか聞いてみようかな

 

しかし、ある程度歩くと突然よろめき、そのまま体勢を崩して地面に手をついてしまった

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「──っ、いえ気にしないで下さい、少し目眩がしただけです」

「そ、そうですか……?本当に最近調子が悪そうですけど一度お医者様に見てもらった方がいいのでは?」

「お気遣いありがとうございます、ですがお嬢様はお気になさらずお出かけの準備をしてください」

 

リーリャは服についた雪を払い立ち上がると何もなかったかのように振る舞い始めた

ゼニスは物音に気がついてか目を覚ましたが今のを見たわけではないらしく、全て干された洗濯物を見て俺とリーリャに労いの言葉をかけてくれた

 

しかし先程のことが気になり出掛ける際にゼニスにそのことを話すと、リーリャにすぐ診に行くように伝えた

 

ゼニスの第2子が産まれるのだから、あまり大事にはならないといいが……

 

 

いつもの場所でシルフと雪だるまを作っている時、診療所に向かっているのだろうリーリャを見ることが出来た

だが、その顔にはただの体調不良だけではしないような神妙な面持ちを浮かべていた

それを見て胸騒ぎがしたのは杞憂であって欲しかったが

 

嫌な予感ほどよく当たるとはよくいったものだろう

 

 

 

 

「申し訳ありません、妊娠致しました」

 

リーリャの淡々とした言葉とは真逆の衝撃的な内容にグレイラット家は凍りついた

 

その場の誰もがまさかと思っただろう、しかし確かにここ最近の体調不良はゼニスがしていたものとほぼ同じだった

 

ならば相手はといえば

必要がなければ滅多に外に出ないリーリャが外に相手をつくっていたというのは無いわけでもないが可能性は低い

 

それに俺には思い当たるところがある

夜中にパウロがリーリャの部屋に向かうのを見てしまったことがあるのだ

俺が本当に子供ならいざ知らず、成人の男と女が1つの部屋に一緒にいて起きることなど用意に想像できる

 

しかもパウロはゼニスが妊娠中で禁欲をしているのだ、その上でのことなのだからつまりはそういうことだろう

 

目線をパウロに向けるとこの世の終わりのような真っ青な顔をしていて、俺の予想が当たっているのを示していた

 

全く、本当に節操のない父親だ

避妊をしていなかったのか、そもそも文化がないか、何れにせよこの自体を招いた種を蒔いたのは当人である

 

ゼニスにも目をやるとあまりのショックにか固まっていたが、すぐに顔を上げると俺と同じ考えについたのかまさかという顔をパウロに向けた

 

それにつられて俺も目線をパウロに合わせたことで、意図せず2人の視線がパウロに集まることになった

 

「す、すまん。た、多分、俺の子だ……」

 

今まで震えるばかりで一切動きはなかったパウロも視線に耐えられなかったのかアッサリと容疑を認めた

 

そして言い終わると同時にゼニスが立ち上がり、かつて無い程怒りを露わにして頰を引っ叩いた

 

 

 

 

 

「それで、どうするつもり?」

 

唐突に始まった家族会議での最初の一言はゼニスからだった

 

俺は大切な話をするからとやんわりと追い出されてしまったのだが、一応覗き込む形で様子を見ている

ゼニスも怒ることはあったが、少なくとも俺の知る限りここまで酷いことにはなったことはない

それだけに如何にこの事態が地雷を踏んだのかがよくわかる

だがその状態でもまずは話を聞くことにしているのだからずいぶんと理性が働いている

 

リーリャも自身のしたことを認め、具体的にどうするかを濁すことなく答え続けている

このまま話が進んでリーリャが出ていくことになったら実家に戻るらしいが、帰る旅は恐らくこの時期に被るはずだ間違いなくお腹の子共々無事ではすまないだろう

最悪命を落とすかもしれない

 

無論そんなことはゼニスも望んではいないようだが、だからといって許すには感情が無視できないようだ

 

この状況でパウロも何かを言おうとはしてるらしいが、その度にゼニスから睨みつけられて縮こまっており、何の役にも立たない

いつも自信満々になっていてこの始末なのは、なんとまぁ情けないことだ

 

 

俺としてもリーリャをこのまま見捨てるというのは避けたい

個人的な交流で話したりはほぼしていないが6年も一緒に同じ家で暮らしてきたのだ、ただの侍女として済ますには難しいほどに世話になってきた

ゼニスとの仲の良さは家事を教わる中でよく知っているし、その家事だってまだまだ教わってないことは多い

やってしまったこととはいえ、これのせいで”ハイさよなら“となるのはとても悲しい

 

それにこの話は近々必ず起きるものだったにせよ俺が気をつけていればもう少し落ち着いて話もできた筈なのだ

 

思えば具合が悪そうなのを心配して声をかけた時、初めの数回はいつものような冷静さだったのに次第に焦りのようなものが見えてきて、特に先日のは表情も崩れて明らかに様子がおかしかった

 

その体調不良がつわりから来ているものなのは冷静になって考えれば想像できただろうに、安易にゼニスに伝え医者に診てもらうのを勧めたばかりにこうして急に告げることになってしまった

 

先にそのことを察して、下の子も同じくらいの歳の子が友達で欲しいとか、リーリャも家族だとかを露骨にならないくらいに日頃から言っておけばもう少し空気も緩くできたのかもしれない

 

いや、グダグダ考えるのはよそう

俺はリーリャに出ていって欲しくない

 

 

「あの、お母様……」

「あらルディ、こっちには来ちゃ駄目って言ったでしょ」

「それはわかっています」

「なら……

「お母様、リーリャにも赤ちゃんができたのですよね、なのに何故こんなに空気が重いのですか?」

 

それとなく、自然に

子どもらしい純粋な疑問で

なんで兄弟ができたのに今回は喜んでないの?と

 

「それはね、お父さん達が約束をやぶったからよ」

 

約束か……

妻1人のみを愛しますか?というやつなのだろうか

だが、今はそのことに触れている暇はない

話していて俺から目線を外したがその視線の先にリーリャはいない

ゼニスも今回で一番悪いのは誰か分かっているのだ

 

「そうですか、ですがリーリャがお父様に逆らうことができるでしょうか」

「どういう事?」

 

悪いなパウロ、今回は全部の責任を被ってもらうぞ

後でフォローもしておくから許してくれ

 

「リーリャはお父様に雇われている立場です、雇い主に反抗するのは難しいでしょう。それ以外にも、お父様は何かリーリャの弱みを握っているみたいなんです」

「えっ?リーリャ、そのことは本当なの?」

 

よし、手応えがあった

今のは即興で考えたものだが、何か心当たりがあるのか能面のような顔をしていたリーリャに僅かに反応があった

 

そうとなればこちらとしても都合がいい、このまま話を続けて出来るだけ刺激せずになんとか話を着地させよう

 

「この前のことです。夜中にトイレに行きたくなって起きたのですが、帰りの廊下でリーリャの部屋から物音が聞こえたのです。近づいてみたら父様の声がして、上手く聞こえなかったんですが“なんとかをバラされたくなければ大人しく言うことを聞け”と言っていました」

「いや、ちょっ、ルディ、何を言っ

「あなたは黙ってなさい!」

 

口を挟もうとしたパウロを一括すると、ゼニスはリーリャの方を向いた

 

「今のは本当のことなの?」

「──いえ、それは……」

 

言い淀んでいるし、目線も泳いでいて先程までのハッキリした態度とは打って変わって迷いが見える、もしかしたら本当にあったことなのだろうか

 

「いいえあなたからは難しいでしょう、無理して言わなくてもいいわ」

 

ゼニスもその態度から納得した様子を浮かべている

この調子なら押し切れるか……?

 

「お母様、今回の件はお父様が悪いと思ってます」

「……そうね」

「それなのにリーリャ1人だけ出ていくなんておかしいです」

 

気持ちが揺らいでいるのを感じ取れはするがまだ完全に傾いてはいないようだ

なら、あと一押し

 

「お母様、私にとってリーリャは家族なんです、大好きなリーリャに何処かに行って欲しくはありません」

「…………」

「お腹にいる子も一緒です、両方とも私の大切な兄弟です」

 

さて、どうだ……?

 

そのままゼニスと目を合わせていると、目を閉じたかと思えば大きく息をついて肩の力を抜いた

 

「わかったわよルディ、そんな目で見ないで頂戴」

 

ゼニスはいつものような優しい目つきに戻り、俺の頭をゆっくりと撫でた

 

「リーリャ、家にいなさい!あなたはもう家族よ!勝手に出ていくのは許さないわ!」

 

ゼニスの一喝でやっと重たい家族会議が終了した

一時はどうなるかと思ったが、一件落着である

 

 

 

 

さて、今回の責任はパウロに全て押し付けはしたし、そうなるべきだとも思っている

だがさっきの話の内容は俺の作り話だ

それが原因で今度は夫婦離婚になんてことになったらと思うと気が気でない

 

そのため解散した後にバレないようにゼニスの後をつけた

寝室に入ったのを確認し、少し間を置いて部屋の戸を叩いた

 

「お母様、私です」

 

声をかけると、すぐにゼニスが顔を出した

 

「ごめんなさいお母様、先程の話はすべて私の考えた嘘です。お父様のことは嫌いにならないで下さい」

 

いきなりの告白にゼニスはキョトンとした顔で聞いていたが理解すると怒ることもなく、苦笑いしつつも頭を撫でてくれた

 

「大丈夫よルディ、あれは少し驚いただけ。そんな悪い人に惚れたつもりはないわ。

あの人は昔っからそうなの、女の人に目がなくてね、問題を起こしてばっかだったわ。今回もそう、約束はしたけどいつかはあるとは思ってたのよ」

「そう……だったんですね」

 

そうだろうとは思っていたが妻にまで信じられていないとは、想像以上の駄目親父だったようだ

 

「今はルディもいるから、昔ほど表には出さなくなったみたいだけど、やっぱり人は変わらないのね」

「そんな人なのに、お母様はなんでお父様と結婚したのですか?」

「やっぱりそう思う?でもね、ルディも好きな人が出来たらきっとわかるわ」

 

そういっているゼニスは懐かしむような優しい顔をしていた

惚れた弱みってやつなんだろうが、恋愛経験ゼロの俺にはサッパリわからん

 

冒険者であった頃の話は幾らかパウロから聞いていたが、それは主にどんな冒険であったかで人間関係については余り聞いたことがなかった

今度聞いてみるとしよう

 

「でもルディはあんな人には引っかかっちゃダメよ」

「はーい」

「本当にわかってる?」

「わかってますよ、それに私はまだ幼いですし狙う人がいたらとんだ変態です、そもそもこの村では昔のお父様みたいな人は見たことないから平気ですよ」

「それでも、ずっと村だけにいるって訳でもないでしょう?ルディは可愛いんだからもう少し警戒しないと悪い人に騙されちゃうわよ」

 

ははは、忠告感謝します

先程からの反応をみるに夫婦関係も一先ず問題はなさそうだな

 

後はパウロ次第ってとこで、この一件以来暫くパウロはゼニスの様子を気にしてか何時もよりビクビクしていた、それ自体は反省として良いことなんだが、なにしろ剣の稽古でもそんな調子ときたもんだ

集中して取り組みたい俺からしたらもうちょっといつもの調子に近づいて欲しいよ

 

 

 

 

そうして家族会議も過ぎて数ヶ月

パウロも元通りになって、リーリャも一緒に食卓を囲むようになって和気あいあいとしたグレイラット家が帰ってきた

 

あの日からリーリャが色々世間話や自身の昔話を話してくれるようになったし

ゼニスからは馴れ初めとかも聞くことができた

 

それに伴うパウロのクズ行動の数々も一緒にだが……

 

 

リーリャの話の中でここに働きに来る前は王城で働いていたのを聞いた時は大層驚いた、優秀だとは思っていたがまさか王宮勤めとは想像していなかったからだ

それを聞いて俺は貴族とかのマナーとかを教わりたいと申し出た

 

一応うちは貴族には当たるのだし、そういうマナーについて教わりたかったのだが両親は揃って教えるのに難色をしめしていた

いつもは俺の言うことに大体賛成してくれるゼニスも中々首を縦に振ってくれないので半ば諦めていたのだが、思いがけない所に教師になってくれる人がいた

 

 

ゼニスとリーリャはお腹も目立ってきて動きにも少し支障が出ているが、前よりも連携が上手くなっておりむしろ家事の遂行はスムーズになっていた

もちろん俺も手伝いは欠かしていない

 

それもあって日中訓練に取れる時間は少なくなってしまってもいるがその分集中して時間効率を上げている

つもりなのだが、剣術の腕はサッパリだ

なんとか3大流派の内の1つ、剣神流の初級は認めてくれたが他2つはまだだし、剣神流も上達の兆しが見えない

 

「どうしたルディ、考えごとか?」

 

おっと、剣術の訓練中に少し考えすぎてしまったようだ

 

「いえ、少しお父様との距離を考えようかと思いまして」

「んなっ!?」

 

まぁこれは事実だ

リーリャとパウロ、双方の若年期でリーリャに対して強姦の上そのまま逃亡

ゼニスから聞く冒険者時代の女癖の悪さのエピソードの数々

それを聞いた俺の中でパウロの株価はかつて無い勢いで急落していた

落ち込んでいる間は色々フォローはしてやってはいたが、改めてやってきたことを聞くと同性だった者としても少しは嫌悪感も湧いてくるものだ

 

まぁパウロなりに父親っぽくはあろうとしているらしいし、根は悪いやつじゃないのを加味して口だけに留めておいてやろう

 

「嫌だと思うならもっとちゃんとした姿を見せてください」

「お、おう……わかったよ……」

 

思ったより効いたみたいで俺の発言を受けて目に見えて落ち込み始めている

態度は元通りになったとはいえ、家庭内のヒエラルキーは落ちに落ち今では俺より下かもしれないのだ

そんな中で俺に冷たくされたとあれば男として、父親としての威厳なんか紙切れ同然だ

元々威厳を気にしていたこいつのことだし、落ち込みすぎてドジをやらかしてもおかしな事では無い

 

それで怪我をされても困るし少しはフォローしてやろう

 

「まぁでも剣は凄いと思ってますよ」

「ん?そうか?」

「はい、3流派が全て上級ですし、こうして稽古を受けてますが上回れる気はしません。それに真剣にやってる姿は本当にカッコいいと思います」

 

前に森に出た魔物の討伐に出向く時に無理言って同行させてもらったことがある、もちろん戦わずに見てるだけだったのだが、その時のパウロは本当に格好良かったのだ

相手の攻撃を華麗に避け、テンポ良く相手を斬っていく様はまるで踊るようで、柄にないが見惚れてしまった

そりゃ純粋な乙女にはモテるだろうなと実感したもんだ

 

「おお、そうかそうか、そうだろうな」

 

全く少し褒めただけで気分を良くするとはなんとチョロいやつだ

まぁこっちの方が俺にとっては楽だからいいんだけどな

 

「んふふ……ん?」

 

ニヤニヤした笑みが急に消え、何事かと思いパウロの顔を見ると、視線は俺を外れて後ろに注がれていた

 

振り返るとそこには気まずそうにしてシルフが立っていた

珍しいなと思ったがそこでふと気づき空を見上げると、陽が天辺から少し傾いていた

 

先にいつもの場所に来たが、待っても俺が来ないから様子を見に来たというとこだろうか

 

「ごめんなさい、待たせちゃいましたか」

「あ、ううん大丈夫。それよりルディはいいの?」

 

声をかけれなかったのは仮にも剣の稽古をしている様に見えたからだろう

実際は駄弁ってただけだがな

 

「お父様」

「わかってるよ、行って来い。……あー、それとくれぐれも気をつけてな」

「了承も得ましたし早速向かいましょう」

「う、うん」

 

 

 

そういえば、パウロに出掛けるのを伝える時はいつも“行ってきます、いってらっしゃい”だけで終わるのに今日は珍しく注意までしてきたな

 

これは父親としての姿を見せたい、というよりは俺たちが男女のペアだからか

あいつ、俺たちぐらいの歳の頃にはもうあんな感じだったらしいからな、あの家族会議を経てあいつなりに気になったのかもしれない

 

 

2人で歩いている中シルフを改めて見ると、少し癖のある緑髪に透き通るような白い肌、そしてそれらに強調される赤い目

将来イケメンになるのが確定している整った顔立ちをしている

 

出会ってから1年ほども過ぎて成長もしているが、未だにある何とも言えない頼りない雰囲気がそれを打ち消してしまっている

綺麗だとは思うが、そこ止まりである

シルフもグイグイいくようなタイプではないし

万が一にもパウロが心配するような事にはならないと言えるだろう

 

「え、えっとルディ、何かぼくの顔に付いてる……?」

「ああ、いや、なんでもないですよ」

 

だがしかし付き合う相手は考えてみないとな

天涯孤独というのでも別に悪くないが、折角の人生だ恋愛経験の1つや2つ体験したい

とはいえ何しろ中身がもう40過ぎのおっさんだ、今更好みが変わるなんて事も無いだろうし……

 

相手求めて世界を旅する、なんてこともしてみようかな

 

あれこれ将来について考えていると、気づけばいつもの丘まで辿り着いていた

シルフは一足先に駆け出し、木にたどり着くと手招きしている

 

考えはしたが俺はまだ6歳、まだまだ人生先は長いし一先ず今はシルフと遊ぶのを優先しよう

 

雪は溶け緑が芽吹き始めて、畑では種が蒔かれている

今日もこの村は平和である

 

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