とりあえず衝撃も大きいだろう、翌日まで休みにしといたよ。
あたしらが起きたのは昼過ぎだった。
さぁて、養うと言ったんだ。やることはやらなきゃねえ……
「買い物に行くよ、ブラックマーケットだ。運転手と鞄持ちがいるとありがたいね。悪いけど、頼めるかい」
「わ、私が行くっ……!」
「……ヘルメット団だけでは心配だ。私も行くぞ」
手を上げたのは、サキと白栗か。まあ妥当だね。
やっぱり、怯えられてるねえ。無理もない。
まあ、慣れっこさ……
「そうかい、助かるね。ああ、それから……あんたらの武器と服を買い直す。アサルトライフルがどうしても合わない子がいたら欲しい武器を言いな」
「ほ、ほんとにあたいらに武器を……?」
「ああ、まあ予算の都合もあるけどね。最低限武器種くらいは叶えてみせるさね。そうだねえ……とりあえず一人10万をみときな」
最初はおずおずと、具体的な予算を言うとわっという歓声と共にそれぞれ要望を言い始める。
「じゃ、じゃああたいはマシンガン! マシンガンが欲しい! BAWSのエツジン210! 真っ白な塗装で!」
「スナイパーライフル……! スナイパーライフル一度でいいから使いたかった……! モスグリーンの迷彩……」
「グレラン
あたしは手帳を出してそれをいちいち書き留める。こういうのはちゃんと聞かないとダメだからね……
おかげで手短にやっても30分はかかっちまったよ。
「あんたは? 白栗」
「レミントンM870だっ! ソウドオフしたやつっ! それと爆弾も一杯欲しいっ!」
「よし……まあ、なんとかやってみるさね。ついてきな、小娘共」
「おーっ!」
「……了解」
車に乗り込む時、サキが小声でさっと尋ねてくる。
「……お金はあるのか?」
「質に出す
あたしは『懐』から『輝く硬貨』を一枚取り出す。
含有量はお察しだが、それでもこれはヤーナムの中で金貨として使われていた物だ。
そして、最後の夜でこいつは道しるべ程度の価値しかなかった。
……後輩もあたしも、実は一財産あるのさね。
「白栗。こいつを現金に換えられそうな店は知ってるかい?」
「うーん、それなら、うーん……あのおっさん根はいいけど、先生と合うかなあ……」
「まあダメ元さね。行こうか」
「おーっ!」
◇
「へへへっ……穴山の老舗にようこそ……ってなんだ、ガキ共か。冷やかしなら帰りな。俺は忙しいんだ」
「客だよ。ワケあってこの子らの面倒を見ることになってね」
「へっ……こりゃあこりゃあ……連邦生徒会の方がこんな吹きだまりに何のご用で?」
こいつ、ロボットなのにどこかで見た顔だね……というか、蜘蛛になる前のパッチそっくりじゃないかい。
雑多な店内で姿勢を低くして座るその座り方……禿げ頭に悪い目つき。
どこにでもいるもんだねえ、こういうやつは。
「こいつらの装備を買いにね。代金はこいつで頼めるかい?」
『懐』からどっさりと革袋に入った金貨を出す。
「こりゃあ、こりゃあ……へへへっ、今日は何をお求めで?」
「ここに書いてあるとおりさね。ある分だけでいいよ。残りは現金にしておくれ」
「へいへい、ちょっと待っててくれよ……」
「ああそうだ。あんた、あたしを試すのは良い。好きにしな。けれどね、この子たちは巻き込むんじゃないよ」
こういうヤツはだいたい根が良いくせして、こっちを容赦なく試してくるんだよ。
死ぬような罠にかけて、相手が許すようなお人好しじゃないとまともに話さないのさ。
「へ、へへへ……まさか……うちは信頼と誠実の穴山商店だぜ。誓って騙しは無しだ」
「……そうであることを願うよ」
「へへへ……じゃ、じゃあまあ銃をとってくるから、ちょっと待っててくれ」
「ああ」
店の奥に穴山が消えてしばらく。暗闇から声が聞こえた。
「ああ、あんた。悪いけど商品をいっしょに持ってくれないか? こっちだ、そう、もうちょっと先……」
サキと白栗が不安そうにこっちを見る。とくに白栗は何か言いたげだ。
あたしは『待て』と『静かに』とジェスチャーをしてそっと腰にくくりつけた携帯ランタンを灯す。
ああ、やっぱりだ。真っ暗な中でドローン? だったか。何やら機械がうごめいてるじゃないかい……
ヤツが罠を仕掛けるタイミングは……ここだ!
「ヒャーッハッハッ! 何が『先生』だ。ど腐れ聖職者が……どうせ、子供を食い物にしにきたんだろう? 死に腐れババアが!」
キーン、と穴山の声がスピーカーから流れ、目の前でガシャン! とフェンスが降りて、ドローンが動き出す。
ああ、そうさ。目の前だ。背後じゃない。
つまり、ヤツの罠は普通に避けられたってことさね。
「……あれ? ババアがいねえ? あれ……あー……これは、そのだな……」
「魔が差したんだろう?」
「そ、そう! そうだよ先生! ほんのちょっとしたサプライズじゃねえか……悪かったよ。謝るから、な? お互いまだ何もしてない。ノーカウントだノーカウント! そうだろ?」
本当にこういうやつだったよ……なんなんだいコイツは。コイツが一番の怪異じゃないか?
「……まあいいさね。ほどほどにしとくんだね。なあ、あんた。こうしようじゃないか。あたしはアンタの近寄ってほしくない所には行かない。だから、近寄ってほしくない場所は事前に言っておいとくれ……」
「お、おおそうか! いやあさすがは先生だな! 話が分かるぜ! 俺にはとても真似できねえ。いやあ、さすが年の功だ」
「……それより、早く品物を持ってきてくれると助かるんだけどね」
「あ、ああ! もちろんだ。これからも穴山商店をよろしく……」
スピーカーの声が途切れて、エプロンをした穴山が横の隠し通路から台車に乗った木箱を押してくる。
「あんた、本当に怒ってないよな? 撃たないでくれよ……」
「ああ、それならちょいと商品に色をつけてくれれば、こっちも快く許せる、あんたも負い目がなくなる。そうだろう?」
「も、もちろんだ! ……常識的な範囲でならな」
あたしは店の奥でちょいと興味が出た物があった。
ラビット小隊のヘルメットに良く似た黒いヘルメットがあった。ウサギ耳の代わりにカラスみたいな小さな羽がついてる。
……あいつらに、似合うだろう。
「こいつはいくらだい?」
「ああ、それは1個6万円……の所を! なんと今なら10個で10万円だ! 悪い話じゃないだろう?」
こいつ、耳ざといね。あたしの降したヘルメット団の数を正確に解ってる。やるじゃないか。
「ついでにこのステッカーもつけといてくれるならね」
ヘルメット団で赤いヘルメットは幹部の証なんだろう? なら、白栗のヘルメットには何か赤い物をつけてやりたいのさ。
丁度良く、不死鳥のステッカーがあるみたいだねえ。
「商談成立だ。こいつはおつりだぜ、へっへっへ……」
差し引きで100万くらいかね。いずれにせよ札束が手に入ったのはありがたいねえ。
とりあえず、『懐』に一つ一つ商品を確かめながら入れる。
「間違いないね」
「ああ。クセになる品揃えだろう? 穴山商店をごひいきに……へっへっへ……」
店の奥から、店先に戻る。
「先生、大丈夫だったか」
「せ、先生その……」
「白栗」
白栗はびくっとするが、あたしは目線を合わせて仮面を外し、なんとか笑みを作ってみる。久々だからねえ。笑顔なんて。
「あんた、ちゃんと知らせようとしてくれただろう? それでいいのさ。あいつがああ言うヤツだってことは、あたしも知ってるよ」
「う、うん……」
「こいつをあんたにやる。あんたらは……今日からヘルメット団じゃない。RAVEN小隊だ」
ステッカーを貼ったヘルメットを『懐』から出して渡す。
「本当は赤く塗りたかったんだけどね。今はこいつで我慢しとくれ。服もDUで買うよ。ああ、心配しなくても、あんたらの手は汚させないし、何もSRTになれとも言わない。ただ……強くなって貰うさね。できるなら、あんたがヘルメット団を統一するんだ」
「あ、あたしがか……?」
「まあ、本決まりじゃないけどね。いずれにせよ、あたしらには力が必要さね。このキヴォトスで生きていくにはね……明日から鍛えるよ」
「……わかった」
こっちをまっすぐ見てくる。あたしもまっすぐに見た。
白栗はぎゅっと新しいヘルメットを握った。
「サキ、そういうことさね。明日からあたしはこいつらを鍛える。とはいえ、あたしの地元のやり方じゃあちょいと不安でね。ミヤコかあんたがあたしを見張りな」
「……ああ、SRTにするわけじゃなくて、私のアドバイスが必要ならな」
「必要さ」
「なら、やる。アグレッサー……組み手相手が必要なら全員出すのもミヤコと検討する」
「なあに、アグレッサーなら宛てがあるのさ」
穴山商店の壁に貼られたポスターがある。
『便利屋68』
そして、黒服の言葉が思い出される。
『便利屋68の陸八魔アル……彼女に会ってみて下さい。確かな善性と実力がある子です。ただ、ゲヘナらしく悪ぶりたい子ですが……彼女は、切り札になりえます』
ポスターの不敵に微笑む赤髪の娘と目が合った。
さて、どんな子だろうねえ……