私は陸八魔アル。華麗なるアウトローを目指す新進気鋭の企業『便利屋68』の社長よ。
今日はたまたま金欠で1杯のラーメンを皆で分け合うことになったけど、いつかは自由で誇り高い悪党になるのよ!
まあ、その……ラーメン屋の店長のご厚意で大盛りにしてもらったけど……
でもこういう楽しい想定外こそ人生の醍醐味じゃないかしら。
「あんた、便利屋68だね? 隣、構わないかい」
「へっ!?」
何か……ヘイロー持ちともロボットともつかないお婆さんが目の前に座ってきたのだけれど……
何あの仮面!? 見たこともないわ! なんか怖い!
それにその、なんていうのかしら。体験したことのない重苦しい圧力があるんだけど。
後ろのヘルメット団? みたいな子たちとトリニティらしき子は何なの!? 誘拐!?
「えーっと……」
……とんでもないアウトローだわ……
ど、どうしましょう……いいえ! 頑張るのよ陸八魔アル! 社長として社員を守るのよ! 何よりアウトローでは負けられないわ!
「……いいえ、私たちはこれからお昼なの。お断りするわ。それより、そのトリニティの子は何? 貴方たちヘルメット団でしょう? ここはそういうお店じゃないの。怪しい集まりならよそでやって。というか……トリニティの子、あなた大丈夫?」
「あ、あはは……すいません。たぶん横のテーブル使って良いかって事だと思いますよ……それから誘拐とかじゃないです! この人達は連邦捜査局シャーレの人たちでスケバンに絡まれてた所を助けてもらったんです」
ななな、なんですって-! とんでもない勘違いをしてしまったわ!
あっ、何か出してきたわ。まさか銃……?
「アル様に何をするんですか!」
「動くな」
えっ、ハルカのショットガンを止めた!? えっえっ、この白いヘルメット団の子もお婆さんもすごい素早いんだけど。
「落ち着きな、取って食いやしないよ。ほら、これが身分証だよ。それから、店の中でかぶり物なんざ確かにマナーがなってなかった。悪かったね。あんたたちも取りな」
「おうっ!」
「……まあ、仕方ないな。ほら。そちらも銃を下げるんだ。ゆっくりと」
な、なんかものすごく渋いお婆さんが出てきたわ! ふわっとした白髪で……眉間に深い皺。困難な人生を駆け抜けてきた感じがするわ……
全体的にシュッとしてて……そう! ものすごくハードボイルドな人が来ちゃったわ-!
「ア、アル様……」
「社長。本物だと思う。どうする?」
ハルカが不安そうに、カヨコが少し警戒しながらこっちを見てうなずく。カヨコがああ言う顔なら大丈夫みたいね……
「はっ! ん、ごほん。ハルカ、下げなさい。ごめんなさいね、少し行き違いがあったみたいだわ。ええ、もちろん隣の席をぜひ使って!」
「そうかい、すまないね。座りな、小娘共」
隣のテーブル席に4人が座る。何か混み合ってきたわ……
「今日は好きなの食って良いのかーっ?」
「ああ、休みだってのにつきあわせたからね。飯くらい好きなモン食べな」
「じゃあ私はチャーシュー麺」
「特製味噌ラーメンチャーシューつきだっ!」
「セリカちゃん。注文さね、チャーシュー麺と特製味噌ラーメンチャーシューつきと、味噌ラーメンだよ」
「はい、今日は買い物に行ってたんですね、先生。良い物買えましたか?」
「まあまあさね」
店員さんとも仲良しみたいだわ……信用できそうね。
それにしてもほっこりするお店にハードボイルド……甘すぎた雰囲気に渋い一面が出て、まるでおしるこに塩昆布みたいね。一見合わないけど甘さとしょっぱさで無限に食べられるような……銀行に融資を断られた時はひどい日だとおもったけど、最後の最後でツキが回ってきたみたいね……
「へえ、店員さんとも顔見知りなんだ。シャーレの先生だっけ……? 私たちに何か用?」
あら、カヨコから探りをいれていくのね……本当に頼りになるわ。さすが我が社の参謀ね!
「ああ、そうだったね……何、依頼をしようとあんたらを探していたのさ。事務所まで行ったけど留守だったからメモを挟んでおいたよ」
「……そう、あとで確認しとくね」
「ああ、頼むよ。せっかくの飯の時間だ。野暮な話は抜きにしとこうじゃないか。あんたらのラーメンが冷めちまう。ババアは放っておいて食いな」
「うん、食べようみんな」
あら? 意外とあっさり引くのね……あんなハードボイルドな顔になるお婆さんの話は興味あったんだけど。
でも冷めちゃうのもその通りよね!
「そうね! みんな食べましょう!」
「そーだね!」
「えへへ、アル様が取り分けて下さる……」
皆のお椀により分けて……今日はお腹いっぱいになりそうね。
あら!! すごく美味しいわ! このレベルのラーメンがこんな所にあるなんて……
もったいないわね、こんな砂漠の中にお店があるなんて。大将もすごく良い人なのに……
本当に今日は良い日だわ……そんなことを考えていたら。
店が爆発した。
「全員動くな! ゲヘナ学園風紀委員会だ! 便利屋68を逮捕しに来た! 民間人がいるなら、地面に伏せて抵抗するな!」
な、ななな……なんですって-!
◇
やれやれ、便利屋の追手かい。たしかに気の良い娘みたいだけどね、一体何やらかしたんだい……
それよりも柴大将や、うちの小娘共は大丈夫かね。
「小娘共、生きてるかい!? まずは自分の手当、無事なら柴大将とセリカちゃんと、ヒフミを逃がしな!」
「大丈夫だーっ!」
「RABBIT2、問題ない。アイコピー」
「あ、あはは……ラーメン、食べ損ねちゃいましたね……」
柴大将たちは……無事みたいだね。
「大将、無事かい?」
「ああ、なんとかな」
「大将、あたしとしちゃあいきなり砲弾ぶちこんでくれた小娘に尻叩きの一つもしてやりたい。けどね、ここはあんたの店だ。怒る権利はあんたにある。どうする?」
柴大将は埃を払って立ち上がり、少し考えると静かに言った。
「別に良いさ。店が爆破されるなんてキヴォトスじゃ日常茶飯事だ。いちいち怒ってたら身が持たねえ。放っときな先生。……けどな、食事を邪魔された客が怒るのを止める権利は俺にもねえよ」
「……そうかい。妙な事聞いて悪かったね」
「ま、相手は子供だ。ほどほどにな」
「ああ、わかっているさね」
さて……ゲヘナの小娘共。おしおきの時間だよ。
◇
ど、どうしましょう……お店を巻き込んじゃったわ。やったのは風紀委員だけど……
っていうかあのお婆さんやっぱりめちゃくちゃ速いわ! 包囲を無視してどんどん前に突出していくけど大丈夫なの!?
それになんか警棒に紙やすりみたいなのをすりつけたら帯電してるのは何?!
すごくかっこいい武器だわ……
「社長、逃げるなら今だよ。他の客が風紀委員の気を引いてるうちしかないよ」
……。
「ねえカヨコ、あなたはとっくに私の性格わかってるんじゃなくって?」
「……」
「私たちのせいで巻き込まれた、未来のお客さんやお世話になったお店の人を置いて逃げる? そんな三流の悪党みたいな事、私たち便利屋がするわけないじゃない!」
「あはー」
「アル様……!」
「ふう……でもどうする? あの先生、どんどん先に進んでいくけど。っていうかめちゃくちゃ強いけど」
「追いつくのよ!」
「はいはい、了解」
「アル様! 私が先行します!」
「きゃははっ! 面白くなってきたねー」
銃を構えてとにかく追いつく。
っていうかあの人本当に包囲を抜けるための最低限だけしか倒してないじゃない! まるで、死ぬのが怖くないみたい……
とんでもないアウトローが連邦生徒会に入ってしまったわね! わくわくしてきたわ! どうなるのかしら!
……あれ? っていうか、私以外にもう一人狙撃手がいるんじゃないかしらこれ。
いつのまにか先生の後ろを突く風紀委員が倒れていってるんだけれど。
「うわっ、なんだこのババア!?」
「包囲しろ!」
「抜かれた! そんな馬鹿な!?」
……あっ、風紀委員のイオリが倒されたわ。なんか勝っちゃったわね……
っていうかおしりペンペンされてるわ!?
「人の店を勝手に壊すんじゃあない! あんただって自分の家を壊されたかないだろ! わかったね」
「やっやめろー! こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!? これは政治問題……いったーっ!」
「知るもんかい。そりゃああんたの庭のゲヘナなら別さね、でもここは砂漠だよ! 無法には無法が帰ってくるのさ。覚えておきな!」
「くっ、くそーっ! 離せーっ! あっ、逃げるな-!」
あっ、お婆さんがイオリを投げ飛ばしてこっちに逃げてきたわ!
「そこの影の薄いメガネ娘! えーっと……チナツ! 今日の所はこれで手打ちにしてやるから、
「はい……すいませんでした……って、ええ!? 捕まえちゃっていいんですか!?」
あれっ!? なんか流れがかわってきたわ!?
なんか、ゆっくりこっちに来るんだけど!?
「そもそも、あたしは国境で罪が消える仕組みに別に納得してない。それから、連邦捜査局はキヴォトスであればどこでも戦闘ができるし、捜査や逮捕も……まあできる。捜査局だからね。犯罪者の引き渡しも。つまり、この場で唯一公的に便利屋68を逮捕できるのさ」
ななな、なんですってー!?
「えっ! 今はこの子たちを逃がす流れじゃないの先生!?」
「人様の店を撃った風紀委員は悪い。けれどね、そもそも罪を犯した便利屋も悪い。……まあ、そもそもまともな法がない場所でそんなことを言ってもね……それでも、罪は罪だ。どこへ行こうと消えやしない……」
店員さんが庇ってくれたわ……うう、良くない流れよ……
「一つ言うなら便利屋ちゃん。ブラックマーケットであんたのうわさを探ったけどね、あんたは別に悪い子じゃない。というか、もっとろくでもない温泉開発部やら美食研究部だの、そういうやつらでもすぐに出てくるんだろ? なら、筋は通すんだ。ちょいと臭い飯食ってから退学届叩きつけてやりな。罪を償ったら……その時は雇わせておくれ」
「悪いけど、お断りよ! うう……けれど、昨日の味方が今日の敵っていうのも実にノワールね……」
「そうかい。やりな、子ウサギ共」
なんか……白ヘルメットの子たちが増えたわ……時間をかけすぎてしまったわね。ごめんなさい、カヨコ、ムツキ、ハルカ……
結局ゲヘナに捕まったけど、懸念してたあれやこれやは起きずになんか普通に1ヶ月たたないで出れたわ……
先生がものすごく動いてくれたのはわかったけど。明らかにおかしいレベルの弁護士がついていたもの。
事務所まで家賃が普通に振り込まれてたし……
先生が何度か面会に来てくれたけど、その言葉が耳に残る。
『あんたが憧れてるアウトローってのは自由の表象だろ。ならそれは善悪じゃあない。矜持を持てって事だろうさ』
『誰にあこがれたかは知らないけどね、その人が見て恥ずかしくない行いをするんだ。誇りってのはそういうことじゃないか』
『自由には必ず責任と力がついて回る……』
『厳しい道だ。けれど、気高い道だよ。あたしはそれを歩めなかった……けれど、案外あんたみたいなヤツがその道を踏破できるのかもねえ』
牢屋から出てきて、事務所に戻ったらゲヘナから便利屋が公認部活になった手紙が来ていて、私たちはただただ困惑したわ……
先生を嫌うことはきっと簡単だろうけど、それにしては収支で言えば得をしている。
なんか事務所の冷蔵庫やロッカーに保存食がいっぱい置いてあったし……
カヨコとちょっとぎくしゃくしたけど、すぐにお互い謝れたし……
事務所の掃除も終わって、さあ営業再開よ!
「はい、便利屋68」
『連邦捜査部のアイリーンだよ。仕事を頼めるかい』
「……! ええ、ええもちろん。私たちは便利屋68。金さえもらえれば何でもする。それがたとえ、昨日敵であった者であったとしても」
『そうかい、それじゃあ仕事の時間だよ、便利屋ちゃん』
「任せてちょうだい!」
私たちは無敵じゃないのかもしれない。どうにもならないことはある。
でも、それでも……私はこの道を歩んでいける気がする。
一つの区切りがつき……だからこそ、前に進めたのかもしれないわ。
なんか……なんかすいません…アルちゃん大好きだし逮捕したくなかったんですけどね…でも殺人をも辞さない秩序側の先生としては…ネ…