ヤーナムから来たアイリーン先生   作:照喜名 是空

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絆ストーリー:SRT・カンナ・フウカ

 ともあれ、休日だ。休日は基本的に部隊は休ませている。

 子ウサギ共にも、ヒヨコ共にも休みは要るからね……

 そういうわけでやむなくあたしが作る事になる。いずれヒヨコ共に習わせなきゃいけないんだが。

 朝と言うことでとにかく簡単に大量に作れる物といえば……

 

「こんなもんか」

 

 スクランブルエッグにベイクドビーンズ、焼いたベーコンだね。

 ヤーナムでも定番の帝国の貧民飯だ。パンはトースターごと買っておいたから勝手に焼きな! ジャムとバターもあるからね。

 それぞれでかい鍋にぶちこんで勝手にとれと食堂においておく。この鍋は保温もできるミレニアム製だから大したもんだ。

 まったく、年甲斐もないことはするもんじゃないよ……

 

「おはよう、先生。……これが先生の朝ご飯か……」

「ああ、サキかい。おはよう。ヤーナムの朝はこんなもんさ」

 

 サキは皿におかずとパンをテキパキと取り込みあたしの前に座って手を合わせて食い始める。

 あたしはもう食い終わって皿を洗っていたけど、飯だけ置いて帰るのもアレだと思って一応朝が終わるまでいるつもりだ。

 

「なんていうか、トリニティみたいな食文化なんだな、ヤーナムって……」

「なるほど飯がヤーナムに近いのかい。そりゃあ不幸なことだね」

 

 産業革命で食文化が軒並み壊滅したからねえ……あの国の不幸の一つだ。

 

「うん、でも普通においしい。実家みたいな味というか……」

「ババアの家の料理だろ」

「まあ、そうだな」

 

 サキと笑い合う。

 こういう細かい積み重ねが価値を生むとあたしは思うよ。

 新入り共とも十分にコミュニケーションを取らなきゃいけないからね。

 

「ところでそのガンカタログ……ようやくアンティークじゃない銃を試す気になったのか?」

「ああ、これかい。うちもそろそろでかくなるだろう? 制式採用する銃に悩んでてね。あんた、詳しいだろう」

 

 新入り共、そしてこれから平らげていくヘルメット団共にはちゃんとした銃を支給してやりたい。

 とりあえずアサルトライフルはあいつらが慣れてるM16、サブマシンガンはMPXで良いとは思うけれどね。

 

「まあ、専門家ということになるな。だけど最高の銃なんてのは存在しない。目的や個人に合った銃があるだけだ」

「そうさね。まず大量生産品であること、そしてシンプルで、使いやすいことだね。荒く扱っても大丈夫なタフなやつがいい。安ければなおいいねえ」

「信頼性と値段か……なら、アサルトライフルならヘルメット団が使ってるM16かゲヘナ風紀委員が使っているHK416。サブマシンガンはMPXに近いけどよりコンパクトなMP5KA1あたりだろう。ショットガンはヴァルキューレのベネリM4……いや、ゲヘナの銃は政治的にまずいかも……?」

 

 なるほど、たしかどれも歴史があるヒット商品ばかりだね。手堅い選び方がいい。

 

「なるほど手堅い選び方さね。それでいこうかねえ」

「うん、でもこれらの銃は予備で良いと思う。制式採用銃は基本的にみんなあんまり使わないから」

「そういうものなのかい?」

「自分の銃は自分で選びたい。だから予備として少しあれば十分だ。けど、組織として象徴的な銃と言えば……たぶんその要件に合うのはG17……いや、M1911だな。古くからあるし、シンプルで頑丈で使いやすい。古いからこそ大量に出回っているし……サブアームとしてお洒落な拳銃を渡せばたぶん喜ぶと思う。それに、その戦い方には拳銃が合うのは先生が一番わかってるはずだ」

 

 なるほどねえ、よく見てるよ。狩人の戦いには結局の所短銃がいい。

 ライフルや散弾もためしたけど、結局銃は牽制でしかない以上、取り回しがいいことが第一だ。

 

「さすがだね、よく見てるよ。ああ、その通りさね。狩人には短銃が結局の所一番良い……それなら、グリップに隊のマーク、スライドに連邦生徒会のマークでも入れて入隊記念に渡すかねえ」

「卒業記念は例の杖か……」

「そうさね。……なんだい、あんたも欲しいのかい。構わないよ」

「いや、先生。私はまだそれを受け取る資格がない。見よう見まねじゃなくきちんと指導を受けてから受け取るべきだ」

「違いないさね。まったく、真面目な子だよ」

「当然のことだ。……ごちそうさま」

 

 本当に真面目な子だねえ。気を抜くことをちゃんと覚えた方が良いよ。

 サキは手を合わせてから食器を洗いに行く。

 M1911か……なるほどこいつは良いね。歴史が古く洗練されていて。シンプルで頑丈で使いやすい。

 ……まるでノコギリ鉈みたいな銃だね。

 

「先生、来週からは私も訓練に加わる。……実は、先生の指導をレポートにまとめてある。実際に体験することで教範として完成するはずだ。書き上げたら見て欲しい」

「ああ、そいつは助かるね。けれどあんた、休日は休むのがあんたの仕事だよ。わかったね」

「もちろんだ、けど週休二日はやはり鈍るな……」

「お互い、職業病だねえ。仕事が頭からぬけないもんだ」

「……ふふっ、そうだな」

 

 人数が増えてくるなら、『獣狩りの杖』も簡易量産版がいるね。今練習用に使っている材質だけ同じ金棒をもう少し杖にデザインを寄せたモンキーモデルを……どうも発想が物騒になっていけないよ。

 

「おはようございます、先生」

「せんせぇ、おはよ。あっ、今日のごはんって先生が作るんだ、うーん、トリニティって感じだね……」

 

 ミヤコとモエがやってきた。特殊部隊はやっぱり違うねえ……朝5時だよ、ちゃんと寝な。

 

「お、おはようございます……この煮豆、おいしいですね……」

 

 ミユはもうすでにいつのまにかあたしの隣で食ってた。この子やっぱり只者じゃないよ。

 さりげなく生徒の調査報告を渡してくるしね。

 

「ああ、おはよう子ウサギ共。早いね。ミユ、この間の報告書は役に立ったよ。あんた、大した物じゃないか」

「せ、先生のお役に立てたなら、よかったです……あんな感じでいいんでしょうか……」

「良い仕事だったよ。今日はゆっくり休みな」

「え、ええと……じゃああとで『工房』にいきます……人形さんは普通に私と話して下さるので……め、迷惑じゃなければ……うう」

 

 相変わらず卑屈な子だね……とはいえ、こういう子は発破かけても受け入れられるだけの余裕がないからねえ。

 なんとか安心できるように笑えていればいいんだが。できるだけ柔らかい表情で答える。

 

「ああ、人形ちゃんはそういうのを嫌がる子じゃないからね。のんびりしてな」

「あ、はい……」

 

 ミヤコとモエが朝食の皿をもって対面に座る。

 ミヤコも丁寧に『いただきます』をするねえ。行儀が良い子たちだよ。

 

「あっ、そうだ。先生、こないだの授業のBDできたよ~。良い感じに編集しといたから、後で見てね」

「ああ、助かるよ。あたしはああいうのはさっぱり解らなくてね。あんたがいて助かってる」

「またまた~……くひひっ」

 

 ヒヨコ共の訓練を良い感じに撮影しててくれたからね。おまけに編集までやってくれるから助かるよ。

 これで上手いこと新入り共の訓練が捗りゃいいんだけどね。まあ月曜日に考えれば良いさ。

 

「先生は今日は何をされるんですか?」

「午前中はここで新入り共と話でもしてるさ。顔通しもまだだからね。ついでに、配属は何が良いか聞けりゃあ儲けものさね。まあ、最悪月曜日に聞ければ良い」

「なるほど……ちなみに、どういう配置をお考えですか? 相談に乗れるかもしれません」

「とりあえず、まず戦いたいか、裏方がしたいかで隊を二つに分ける。裏方は事務と料理、運送の3つがまず必要だね。他ももっと要るようになるだろうが……」

「なるほど、もし私ならそうですね……」

 

 ミヤコはすでに食べ終えて『ごちそうさま』をするとポケットからメモを出してさっと書き始める。

 ……これ、そのまま明日の配属希望アンケートに使えるだろ。その上、組織図としてずっとちゃんとしてるね。

 さすがプロだよ。物が違うねえ……

 

「……とこんな感じでしょうか。どうでしょう?」

「普通に良い出来じゃないかい。これをそのまま使わせてもらうよ」

「でしたらコピーしておきましょうか?」

「あんたね、休みなんだから休みな。ババアでもボタン1個押してコピーするくらいはできるさね」

「ふふっ、先生もあっという間にキヴォトスになじまれましたね」

「まあ、これが年の功とでも思いな」

 

 まあそんなこんなで、のんびりと休日を過した。

 新入り共はまだなじめてないね……昨日よりゃあマシだが。

『工房』に返るとミユと人形ちゃんが椅子で寝てたし、アロナからは授業のBDとサキのノートが『初級技術ノート(ヤーナム)』と『初級戦術教育BD(ヤーナム)』として使える内容だと言い出したよ。

 ただし、記録するノートとBDは連邦史生徒会指定の『選択ボックス』とやらでやらなきゃシッテムの箱によるレベルアップには使えないとか。

 ……どういう理屈なんだい。

 

「とにかくこれで少しは楽ができるね……」

 

 後日実際に使ってみたら、普通に一発で『獣狩りの杖』の振り方を覚えてたよ。

 本当にどうなってるんだい……

 何か極めて血の医療に似た神秘を感じたね。

 

 ◇

 

 月曜日からは、ヘルメット団に対する侵攻は止めにして、じっくり時間を取って新入り共の訓練と、テナントの業者との交渉、そういう大軍を作るための準備に追われる。

 書類仕事ってのはやっぱり面倒だねえ。訓練でひたすら殴り合いするのが気分転換になっちまうよ……

 ちなみにサキは1日で武器の振り方を覚えたし、ついでに飛び入り参加したミヤコも半日で覚えた。

 特殊部隊ってのはやっぱり物が違うねえ。

 

 けれど、料理番と事務の仕事を仕込むのは生徒との協力がなければ無理だった。

 

 まずヴァルキューレと防衛室相手に『水盆の使者』に『青輝石』を売り払って得た、大量の弾薬を届ける。

 カイザーがいつも届けてる二倍の量を渡してやったらカンナとカヤがなかなか良い顔をしてたよ。

 こいつで元SRTの子を雇うのさ。

 

「言っただろ? カイザーより良い思いさせてやるってね。売るなり使うなり好きにしな」

 

 ヒヨコ共が倉庫に弾薬ケースを積み上げていく。その数なんと10万発。

 この運送の仕事もバイトとして運送のプロを雇ってやり方聞いたからね……

 

「これはこれは、融通していただき助かります」

「先生……この弾薬は一体どこから」

 

 カヤは引きつった笑みで。カンナは眉間の皺が取れない顔で。

 

「何、地元の知合いから仕送りがあってね。それで買ったのさ」

「各種弾薬二万発づつ……ありがたいですが、しかしこれで懐柔されたとは思わないでください。職務に関しては忖度なくやります」

 

 予算がなくて装備が買えずにカイザーに支援という名のワイロを受け取らざるを得ないのは悔しかろうさ。

 けれど、それを悔しいと思える高潔さは素直に羨ましいね。若さだよ……

 

「……あんたも大変だね。けど、あんたの目はまだ折れてない。きっと良い警官になるよ」

「そうありたいものです」

 

 これで現金な話をするのは本当にやりづらいね……けどあたしもヤーナムで半生をすごしちまった身だ。やるさ。

 

「ところで、こいつの見返りだけどね。元SRTの子達でうちに興味のある子を出向させて欲しいのさ」

「……それは」

 

 カンナが露骨に嫌そうな顔をしたらカヤが良い感じに割り込んでくる。

 

「まあまあ、カンナさん……シャーレに入部希望は生徒の誰でもできる事ですし。先生、ちなみにどういう目的で元SRTを動かしたいのですか? 何に使うんです?」

 

 まあ、あたしのやらかしを考えたら嫌がるのも無理がないか。ナイスアシストだよカヤ。

 

「ああ、別に『荒事』をさせたいわけじゃないんだ。うちも大所帯になっただろう? 料理番と事務、その教官が必要なのさ。何しろうちのヒヨコ共は荒くれでねえ、そこで腕っ節も立って度胸もあるSRTに頼みたいのさ。もちろん部費からバイト代は出すよ。どうだい?」

 

 そう、キヴォトスでは部活動は学校から『人件費』を支給されるんだよ……だから新入り共の給料は気にしなくて良いのさ。連邦万歳だね。

 

「なるほど料理と事務を教えるために……それなら、SRTで教官をやっていた市民の方を紹介します。元SRT生については……まあ、希望者を募っておきます。正直なじめてない子も多いですから」

「助かるねえ。任されたからにはちゃんとやるよ。それからカヤ、あんた今のは良かったよ。こういう感じで間に入りな。出世できる」

「ふふ、そうですか。ええ、ええ。元SRTの方は今回のごたごたで傷心の方も多いです。もちろん先生ならその辺りは解っていると思いますが」

「そうだね、やれるだけの事をするさね」

「ぜひお願いしますね」

 

 ◇

 

 そんなこんなで、テナントの入居希望業者や入部希望者とひたすら面接する。

 

「ゲヘナでパン購買をやっている『ゼブル製パン』の薄井です。役職は専務ですが、創業メンバーというだけで今は大した事はしていません」

「ゲヘナで商売をやってるのかい……大変だね。面構えが違うよ。その名誉の負傷じゃないよ? 目つきさね」

 

 ドーベルマン系獣人の顔はかなり派手な傷があったが、それ以上に目つきが違う。

 これは死線をくぐり抜けてなお折れない顔だね。デュラを思い出すよ。

 

「はは、この人相が役立つこともありますからね。お噂はかねがね。不良生徒の更正として治安維持部隊を……とお聞きしていますが」

「ああ、それで間違ってないよ」

「それならば、我が社をぜひお役立てください。うちは不良だろうと、貧乏だろうと昼のパンくらいは誰でも食べて良いはずだという創業者の思いについてきた馬鹿野郎共ばかりです。もちろん、競合他社が少ないだろうという商売っ気もありましたが」

 

 熱く語ってくれたねえ……さすがゲヘナで商売をしてるだけあるよ。面構えが違う。

 

「もっともだね。それで20年もゲヘナや似たような所で手広くやってるそうじゃないか」

「はい、ですのでこういった施設でのノウハウはあります。何より購買パンですから施設が要りません。テーブル一つからできますよ。たとえ襲撃されようと、爆破されようと必ずパンを誰でも食べられる価格でお届けします。明日からでも構いません」

 

 まあ、ゲヘナ情報部の息はかかってるんだろうが。それでも商売はまともにやってくれるだろう。

 採用だ。

 

「なら、明日からさっそく頼むよ。場所は……とりあえずテナント階のエレベーター近くのスペースで頼もうか。家具はまだ何もなくてね。今日中にテーブルはなんとか入れとくさね」

「ありがとうございます! ではさっそく契約とお見積もりのほうを……」

「そうだね、家賃は……」

 

 とりあえず家賃だけ雀の涙程度取って、あとはおまかせだ。試食もしてみたけどちょいと辛味が強いだけでまあ食えるね。これでいこう。

 

 ◇

 

「ゲヘナ学園給食部の愛清フウカです。入部希望なのですが、週一からでも大丈夫でしょうか?」

「ああ、あんたが……いいのかい。うちとしては歓迎だけどね。忙しいんだろう?」

 

 わざわざアポ取ってから来てくれたよ……プロ中のプロが。二人で4000人分を作ってるっていうのは報告書で確かめたけど、本当なのかい……? 

 

「はい、4000人分の給食を毎日……そのせいで食材も妥協せざるを得なくって、人員も少なくて……それであんまり美味しくないと……ここは今は100人程度で料理番を志望してる方に調理を教えれば良いと聞きました」

 

 この疲れ切った目は本当なんだろうねえ……かわいそうに……

 

「ああ、今のところはね。実際、あんた本人に作って貰うというより、教えてもらうのがメインになるね」

「少し不安なのが元ヘルメット団の方とお聞きしまして……」

「ああ、そこはSRTの子もあんたの補佐としてつけるから身の危険はないよ」

「なら、ぜひ入部させてください! ああ、安心して料理ができるなんて……」

 

 やっぱりゲヘナの治安は本当に終わってるんだねえ……なんで給食部が襲撃されるんだい。倫理観が小学生以下じゃないか。

 

「そうかい、助かるよ。じゃあ今日の所は料理番志望の子たちとSRTの子に顔合わせでいこうか」

「いえ、昼食はまだでしたよね? ぜひやらせてください!」

 

 良い顔だねえ……本当に料理が好きな顔だ。こんな顔をされたら断れないよ。

 

「食材はあり合わせのもんしなかないよ?」

「それでも、本来食事を作れるだけの量はあるんですよね? ならキッチンカーで来ているので足りない分はそこから出します!」

「……止めはしないけど、あまり身銭を切らなくて良いよ」

「あはは、お気遣いどうも……でも料理は私の生き甲斐ですから!」

「そうかい」

 

 とりあえずサキを含めた料理班といっしょに昼飯作らせてみたけれど……昼飯がイタリア料理のフルコースバイキングになったよ。

 もちろん小娘共には大好評だ。調理を見てたあたしと料理班は困惑しかなかったが……

 

「……あり合わせの食材で高級レストランみたいな味がするね」

「あれが料理のプロか……分野は違えどプロの仕事を見るのは気分が良いな。……習得はすまない、すぐには……」

「サキ、あんたねえ。できるわけないだろ。あそこまでやれとは言わないよ。だからまあ、新入り共にSRT流を求めちゃダメだよ。同じ理由さね」

「ああ、先生の言うことが理解できた……」

 

 姿がぶれるレベルで手早すぎるのはこれは小娘共には無理だねえ……その上で料理番共にもできる作業を割り振ってきちんと解りやすく教えてた。

 超人はここにいたよ。

 

「ど、どうでしょうか……合格ですか?」

「フウカ、あんたもう片付けも終わったのかい……ご苦労さんだったね。おいしかったよ。ただまあ、うちの料理番にあんたのレベルを求めてないのはわかっておくれ」

「はい、そのへんの手加減はその……うちの部員でさんざん……」

「なら安心だ。これからもよろしくたのむよ」

「はい! ああ……普通に料理ができて普通にみんながおいしいと言ってくれる……生きててよかったです……」

「大げさだねえ。とはいえ、まあ解ったよ……小娘共! 今日の料理人のフウカだ! 感想を言ってやりな!」

 

 あたしは声を食堂に響かせる。

 

「うまかったぞーっ!」

偉大(パネ)ェっす……偉大(スゲ)美味(ウマ)いッス……」

「おいしい……あたいこんなの生まれて初めて食べたよ!」

 

 まずRAVENの三馬鹿が。つづいてヒヨコや新入り共が。

 

「おいしい……」

「ね、おいしい……」

「これ本当にタダでいいの……? ゲヘナの子これに文句言ってるとかマジ……?」

 

 SRTが。

 

「お世辞じゃなく本当においしいぞ。おそれいった、これがプロの技なんだな」

「くひひっ、これ週一で食べれるってだけでシャーレに来てよかったかな~」

「お、おいしいです……本当においしいです」

「フウカさんありがとうございます。本当においしいです。これからもよろしくおねがいしますね」

 

 フウカはポロポロ泣いてたが、それはそれとしてこれは言わなきゃいけないね。

 

「そうかい美味かったかい! なら全員フウカと料理番どもにお礼をいいな!」

 

 不揃いだが、歓声めいたお礼の合唱が上がる。

 

『ありがとうございました!』

『ごちそうさん!』『ごちそうさまでした!』

御馳走(ゴチ)ッス!」

「ごちちそうさまでしたーっ!」

 

 フウカがふつうに泣いてるね……まあ、これも青春だろう。

 

「あ、ありがとうございます……私、私……ありがとうございます。うれしくって……」

 

 その後、フウカは夜まで料理番の子たちに料理を教えて帰った。もちろん、こんな料理を食べた以上、小娘共はみんなフウカを尊敬したし、反発するヤツはちゃんとフウカに手を出さないように自主的に牽制された。

 翌日からちょっとづつ料理番の飯がうまくなってるのは本当に驚いたね……

 さすがプロだ。違うねえ。

 

 ◇

 

 そんなこんなでなんとか軍として形になりつつ、もう週末だ。

 

「あ、あの……先生、トリニティに行ったら、その……百合園セイアさんから、これを先生に渡すようにと……」

 

 調査に行ってたミユから手紙を渡された。

 どうやら、本当にトリニティのセイアからの手紙らしい。

 

『晩餐会のおしらせ』

 

『ティーパーティーの百合園セイアだ。いきなりの手紙ですまない。

 この手紙は、アイリーン先生、調月リオ、明星ヒマリの三名に出している。聡明な皆ならもうなんとなく気づいているんじゃないかな? 

 

 私たちはキヴォトスの存続に関わるレベルの脅威の存在を知っている。

 もちろん、困ったことにそれぞれ別の案件だけど、根っこでは繋がっているだろう。

 私もそうだから解るのだけど、正直これは個人が抱えるのは不可能な案件たちだ。

 凡百の他人に相談しても理解されないだろうしね……

 

 貴女たちはやがて来る『脅威』に対して本気で立ち向かおうとしていると私は思っている。

 だからこそ、協力しあいたい。

 情報共有と違う視点からのアイデア、なにより秘密を打ち明けられる仲間というのはかならず貴女たちの助けになるはずだと私は確信している。

 

 まずは顔見せとして実際に合わないかい? 場所はDUシラトリ区にある中華料理屋『梁山泊』だ。日曜日の夜6時に集まってくれるとうれしい。

 付き添いの方も来てもらってかまない、いい返事を期待している』

 

 なるほど、向こうから来てくれたね。そういやあこの子の神秘は予知だった。

 渡りに船だね。行くか。

 

 それにしても気になるのは『黒服の証言』と『ミユの調査結果』に違いがあるね……

 

『対象:百合園セイア 調査結果、情報との差異あり』

 

『昨年のサンクトゥス寮爆破事件にて重傷、失明。

 その後わずか1日で回復し杖をついてティーパーティー参加。

 その日のうちに聖園ミカと殴り合いの喧嘩をしたとして一週間の謹慎。

 

 その後、聖園ミカは正式にこの件が百合園セイアに対する悪戯のつもりでやったことであり、このような事件になるとは思っていなかったとサンクトゥス派に謝罪を表明。一週間の謹慎を正義実現委員会から申し渡され、服役。

 即日、サンクトゥス派から先日の喧嘩により十分に殴ったので遺恨無しとすると発表。

 

 その後は決闘部を立ち上げ、自ら杖をもって殴り合いの決闘をティーパーティー内で流行らせる。

 眼球は失明しているが、他の手段『脳の瞳』によって視力を確保していると本人が明言。

 なお、百合園セイアが手を触れた者が健康になった、筋力が上がったなどの情報あり。

 これにより『奇跡の人』『真の預言者』と称されている。

 

 補遺:百合園セイアの使用する杖はアイリーン先生の持っている『仕込み杖』とほぼ同一の物と思われる。

 

 どういうことですか先生?』

 

 どういうことかは私が一番聞きたいよ。

 おい、なんでセイアが狩人になっている……

 

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