とにかく、ミグラントの編成は一段落したよ。
カヤも連邦生徒会内で必死にロビー活動をしてミグラントをそのまま連邦軍に、と言い回ってくれてる。
あたし本人にもアユムを通じて確認が来たり、電話で問い合わせがそれなりに来た。
あたしはその全てに「最初から連邦生徒会にプレゼントするつもりで作った組織だ」と答えたし、リンとも何度も話し合った。
『なるほど……事実は把握しました。ですができあがってからいきなり軍を渡されても正直困惑しかありませんが……』
『そうさね、いきなり渡したのは悪かったと思ってるよ。けれど、あんた現状維持で手一杯だろう? それに実績を出してからじゃなきゃ話も持ち込めないじゃないか』
しかしホログラム電話ってのは慣れないね……リンも見たところ、前より元気そうでよかった。
『それはまあ、そうですが。いずれにせよ、事の是非は置いておいて今貰っても受け入れられません。とりあえずは先生の私兵でありただの傭兵派遣会社という形にしておいて下さい。仮にそちらを動かすことが必要な事態になったとしても、今は生徒会か、生徒会内の個人があくまで傭兵として臨時的に雇い入れた、という形でお願いします』
意外にも以前は絶対にしなかったであろうグレーな判断をしてくれたし、思ったより表情に余裕があった。
『あんた、だいぶ頭が柔らかくなったじゃないか。苦労をかけるね。助かるよ』
『いえ、今はカヤが協力してくれていますから。多少の余裕はできました』
『そうかい、そりゃあよかった』
頭が硬かったというより、一杯一杯だったんだろうね。カヤが折衝を手伝ったおかげで楽になったみたいだ。
その後はトリニティからの圧力ととんでもない額の献金で『廃墟』を貸し出すハメになったことの愚痴を聞いたりしてその日は電話を切った。
すまないね、あたしも一枚噛んでるんだ。
◇
第二回『晩餐会』のお誘いはリオからあった。
ドローンがしれっとシャーレビルまで手紙を届けに来たのは笑ったものか迷ったよ。
次はちょっとした依頼がてらミレニアムの最上級セキュリティの場所で行うそうだ。
「先生、この怪しいドローンは一体? それにわざわざもってきたのが手紙ですか? よほど大事な機密なのでしょうね……」
「あんたにも見せろとさ。ミレニアムのリオからだよ」
「はあ!? なんで私も見る必要が!? まったく……」
よりによってチナツじゃなくアコが来てる日だったよ……風紀委員の子たちは監視がてら事務仕事を手伝いにちょくちょく来るのさ。
どうもリオは狙って今日届けたね。まあ一番さわぎそうな子に真っ先に話を持っていくのは正しいか。
「『キヴォトス全体における安全保障を話し合う晩餐会』? 議題は『テロリストグループ【ゲマトリア】および【無名の司祭】に関する相互調査報告および計画の進捗報告』? 『そちらに今おられるゲヘナの風紀委員の方もぜひご同行下さい』? 『この晩餐会はあくまでキヴォトス全体の安全を話し合うパーティーとお考え下さい』……?」
アコの表情がコロコロ変わり、最終的に呆然と宇宙を見上げるような混乱の顔になった。
そしてしばらくして復活するとまたキャンキャン言い出したよ。
「どういうことですかこれは!? トリニティとミレニアム、連邦生徒会の会合!? ゲヘナはなぜ、いえ、解らないでもないですが……」
「だから今回は誘おうって前に決まったのさね」
風紀委員だからこそ解るだろ。ゲヘナに最初に声をかけなかった理由は。
とはいえ、便利屋ちゃんを誘えなかったのは痛いね。
今はミレニアムがとびきりの弁護士を雇って減刑や弁護をしてるらしいが。
たまにあたしも面会に行ってそれとなく話を回している。
最悪部活の名前が書面上で変わるかも、くらいは言っているけどね。
「なるほど……それは実に正しい判断ですね。本当に安全保障を話し合っているんですか? あまりにも怪しすぎるメンバーですが」
「怪しいのはわかるよ。けれど本当にテロリストに備える話をしてるんだよ。それだけ危険な奴らを相手にしてると考えな」
アコはわかりやすく怪しんでいた。まあ実際怪しさしかないと思うよ。
「そうですか、しかし聞いたことのないグループですね。怪しいです、あまりにも……」
「いくら疑おうが実際そうでしかないんだから諦めることだね。どれ、着ていくドレスでも選ぼうじゃないか」
こういうときのためにカタログを本棚に入れといてよかったよ。
「これでごまかされると思わないでくださいね」
ちなみにアコが選ぼうとしたドレスはあまりにもひどすぎたので流石にもう少し大人しい物を着てもらうことになった。
なんだいありゃ。ほとんど裸じゃないか。ヤーナムじゃ娼婦だってもう少し上品なものを着るよ。
◇
ミレニアムでの仕事自体は簡単なものだった。
廃墟のドローン掃討であり、無限沸きする工場の接収でしかない。
いつもやってることだ。今回は工場ごとミレニアムが買い取る話になっているけど。
「さて、こいつがアリスかい。可哀想にね……あんたの眠りが優しく、有意な目覚めが来る事を祈ってるよ」
だが本命はアリスの眠る工場だ。ここのロックをあたしが行くことで解除。
KEYの入ったパソコンとやらをあたしが『懐』に入れて回収し、後でリオに渡す予定だ。
「こんな本でいい物が作れるなら世話がないね」
KEYの代わりに『G.Bible』と表紙に書いた古本を置いておく。
わざわざ古書の白本をこのためだけにセイアがトリニティの古図書館を尋ねて買い取り、当時のインクを使ってリオが暗号化した本来の『G.Bible』の文書にちょっとばかりの解説じみたお説教を書いてあるだけだ。
『最高のゲームとは何か……様々な答えが模索されてきました。作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出』
『それらは最高のゲームの『条件』ではありますが、『真理』ではありません」
『最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。そしてこのG.Bibleにはその真理が秘められています』
『ゲームを愛しなさい』
『あなたがこのページを見たと言うことは他に何かないか、何かの間違いではないかと思っている状況でしょう』
『残念ですがこれが結論です。ゲームを愛しなさい!』
そこに少しだけ筆致を変えてリオが付け足した文章はこれだ。
『あなたはそもそも何を求めてこの本を手にとりましたか? 最高のゲームを作る……おそらくは売り上げや納期が差し迫ったり、あるいは創作に悩んだ結果でしょう』
『あなたはこの本が何だと思って探したのですか? 最高の教科書? それともチートコードじみた便利なツールがあると思っていたのでしょうか?』
『クリエイティブに銀の弾丸もチートコードもありません。地道に努力するしかないのです。そしてそれには愛が必要なのです』
『この本を手に入れるまで大変な苦労があったでしょう。それは今の創作をするための居場所への愛であり、そしてゲームを愛するからこそできたことなのです』
『あなたには少なくともそれだけの情熱と困難を乗り越える力があるはずなのです』
『だからこそ、最初にゲームを手に取ったときのときめきを、ゲームを作ろうとしたときの愛を思い出して正しく努力しなさい』
『ありもしない解決策を当てにするのではなく、手を動かして作りなさい』
『それがゲームを愛しなさい、ということです』
『近道はありません。まともに努力しなさい。愛があれば可能です』
まあ……『前回』を知ってればこの方がわかりやすかろうさ。とはいえ、子供というのはこういうお説教を聞き流すものだけれど。
リオ曰く、『今回』は予算に余裕があるのでそこまでゲーム開発部を追い詰めはしないが、どっちみち部員は増やせ、ゲームは作れと言いまくるので
そして鍵をあたしが持っている以上、アリスはただの女の子でしかない。後は流れでうまく進むはずだと。
まあ詳しくは今夜聞くさ。