ヤーナムから来たアイリーン先生   作:照喜名 是空

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第二回『晩餐会』~ハミデヤンを添えて~

 そういうわけで、少し大人しめな青いドレスを着たアコを連れて第二回晩餐会の会場に向かう。

 ミレニアムの高級レストラン……のあるビルの地下駐車場の機械室を開けろ? また面倒なことを言うね。

 

「どう考えても怪しいですよ。やっぱり何かの罠なんじゃ……」

「そうなったら、今ごろC&Cと組手やってる白栗たちが暴れる手筈だよ。それにミレニアムってのはこういう所なんだろ」

「たしかにミレニアムはそういう所はありますが……」

 

 機械室を開けたら光り輝くエレベーター。

 乗ればかなり長い時間かかって上下左右にも移動する。

 

「なんでエレベーターが左右に移動するんですか!? 絶対に誘拐されてますよ!!」

「あたしが知るかい。大方例のシェルターとやらでやるんだろうさ。残り時間が書かれてるからそれでも見てるんだね」

「無駄に車内放送が充実してるのが腹立たしいですね」

 

 エレベーターの操作盤の上に画面がついてるんだ。普通に面白い番組をやってるのが何とも言えないね。

 たどり着いた先は……青白く輝く無人都市。

 

『要塞都市エリドゥへようこそ。当エレベーターはここまでです。案内に従ってください。当施設が皆様の安全を保障します』

「ああ、そうかい」

 

 道路が光って道を示したり、果ては動く歩道やらなにやら……ミレニアムの恐ろしさを実感したね。

 金のあることだよ。

 

「一体どこからこんな予算を……」

「なんでもあたしがスクラップを売ったり、基地を発注した金を種銭に株でもうけたそうだよ」

「ミレニアムの予算感はおかしいですよ! それとも私がおかしいんですか!?」

 

 たどり着いたのは高いタワーの最上階。

 エレベーターから3分もなかったが、どっと疲れたよ……

 ドアを開けるとメイドがいた。

 

「いらっしゃいませ私はリオ様のメイド、飛鳥馬トキと申します。どうぞ、お客様。晩餐会にご案内します」

 

 完璧な挨拶だ。よく勉強してることだよ。

 アコもその礼儀正しい仕草に気おされている。

 

「どうぞ、皆様おそろいです」

 

 トキが豪華なドアを開けるとそれはもう清潔感ときらびやかさを部屋にしたらこうなる、というような高級そのもののレストランがあった。

 楕円形の木目も美しいツルツルのテーブル。黒と青のベルベッド。ミレニアムの校章が描かれたふかふかの絨毯。窓一面に広がる冷たくも美しい摩天楼の夜景。

 

「いらっしゃい。待っていたわ先生。それから天雨アコ行政官も。ゲヘナからこの集まりに客人を招くことができてうれしいわ」

 

 リオが椅子から立ち上がって軽くお辞儀をした。

 ヒマリ、セイアはすでにテーブルに座ってちょっとグラスを上げる。テーブルの上には軽い前菜が並んでいた。

 

「ええ。キヴォトス全体の安全保障を話す晩餐会、でしたね。こちらとしても光栄です。有意義な話し合いができることを願います」

「どうぞ座ってちょうだい。アコ行政官には前回からまとめた資料がテーブルにあるわ。申し訳ないけど、持ち出しは控えて」

「わかりました。読ませていただきます」

 

 アコが資料を読み込んでいる間、軽い雑談をしながら食事を楽しむ。

 前菜の前に出てくるアミューズが並べられている。あたしたちにもすぐにロボットが運んできたよ。

 アミューズはだいたいはちんまりとしたお菓子だ。今回も小さなスプーンに盛られたジュレやら細工の細かな焼き菓子だね。

 

「すごいじゃないか。まるで王侯貴族の料理だね」

「実際それだけの義務を背負っているメンバーだからね。たまには贅沢するのも義務なんだよ」

 

 セイアが慣れた様子でちびりちびり味わっている。そういえばお嬢様だったね。

 場違いなのはあたしとアコだけかい。

 

「それでも、単価はそれほどじゃないのよ。味はちゃんと相応のレベルにしてあるけれど。なぜならこれはすべて3Dフードプリンターで作られているの」

「よくわからないけど、ロボットが料理人ってことかい?」

「大雑把にはそうね。でもこれは食材を印刷しているの」

 

 ヒマリがからかうように笑ってリオの言葉を遮った。

 

「ミンチやペーストを印刷機でこねあげた料理でしょう? とてもお客様に出すべき料理とは思えませんが……技術を誇るのはいいですけれど、おもてなしの心を忘れていませんか?」

「味は私もチェックした上でふさわしいと判断したわ。下手に人が作るものよりも、ミレニアムらしいでしょう?」

 

 ほっとくといつまでもじゃれあってそうなので止めておく。

 

「まあいいじゃないか。ちゃんと旨いんだからあたしは文句はないよ」

「はあ、先生がそうおっしゃるのでしたら……まあここは私が大人になって納めておきます」

「またあなたはそういう事を……ええ、とにかく今日は楽しんでちょうだい」

 

 四本腕のロボットがまた配膳してくる。なんだいこれは緑色のパフェかい? いや、違うね。これは野菜と魚のマリネと肉のテリーヌでできてるよ。

 

「へえ、これは野菜とマリネのパフェか。去年のトリニティ料理コンクールで賞をとった奴だね。うん、味もかなり近い」

「次から次にわけのわからないものが出てくるね……まあ、楽しいからいいじゃないか」

 

 そんな風に料理を食べながら談笑していると……

 隣を見ればアコが瞬間湯沸かし器みたいになっていた。資料を読み終えたらしい。

 

「なんですかこれは!? こんなものを信じろって言うんですか!? ゲヘナだからってバカにしてませんか!?」

 

 リオがホストとして静かに威厳を以てアコに目を向けた。

 

「いいえ、ほぼ全部裏取りが取れているものだけを記載したわ。少なくとも『王女』と『ゲマトリア』については間違いない。『無名の司祭』は遺産の存在が確認できている以上存在したのは確かよ。その末裔がいて恨みを伝え続けているというのも十分に想定されるべきではないかしら」

「おまけにカイザーの狙いまで……あなたたちはこんなものを知って放置していたんですか!?」

 

 動揺しすぎだよアコ……まあ、普段からそそっかしい子が世界単位の陰謀だの災害だのを受け入れられるはずもないんだが。

 

「アコ」

「なんですか! 私が悪いって言うんですか!? こんなオカルトじみたものをこのメンバーが議論しているだなんて思わないじゃないですか! ふざけてるんですか!?」

 

 立ち上がってキャンキャンわめくんじゃないよ。

 

「いい加減にしな。あんたはゲヘナの名代。この面子と釣り合う者として招かれてるって事を忘れるんじゃないよ」

「……ですが」

「信じられないのは無理がないさね。全部を信じろとも言わないさ。あたしたちだって悪い夢じゃないかと思って調べてる最中なんだよ。だからこうやって話し合ってるのさ」

 

 アコがドスンと椅子に座りなおしてグラスに入ったジュースをがぶ飲みした。

 

「……わかりました。少なくともこのアリウス分校というのは明らかにエデン条約を脅かす危険因子です。彼女たちの存在を知れただけでもこの場にいる価値はあります」

「では、いつまでも雑談をしていても仕方ないし、始めましょうか『晩餐会』を。今回はゲストもいることだからエデン条約から議題を進めましょう」

 

 リオがさっと机を撫でると楕円の円卓がすべて画面に変わる。

 それぞれに見やすく、手元に議題が表示された。さすがミレニアムだよ……わけのわからない技術力だね。

 

「それぞれの近況と現状の計画進捗は手元のモニターで見れるわ。けれど、一応説明しておくと先生の方は治安維持のための兵力として連邦軍を作る計画を進めて、今はその前身となるPMCを形にしてるわね。練度はどうかしら、先生」

 

 リオがあたしを見る。いいパスだ。

 

「まだまだだね、最低限動かせるだけさね。とても手練れとは言えないよ。なんとか回り始めたって感じかね。カヤのほうはうまくやってるらしいよ。リンとも話したけど、順調にいけば秋ごろまでに正式に軍として組み込めるはずさ」

 

 アコがマジかこいつ、という顔をしてるけどこの程度で驚いてちゃ身が持たないよ。

 

「トリニティはどうかしらセイア」

「とりあえずティーパーティーの3人で全部情報は共有できたよ。まあ大変だったね。アズサは保護して補習授業部は意地悪をしないでまっとうに補習授業をしてもらいつつ友情をはぐくんでもらっているさ。それと派閥のトップを集めて決闘クラブを始めたのは噂には聞いてると思う。実際にアレは最高幹部会としてもナギサに自衛を学んでもらう場としてもうまく機能しているよ」

 

 ここで野菜パフェを一口、そしてジンジャエールでそれを流し込む。

 

「さて、ここからが問題なのだけれど。ベアトリーチェに対してミカもナギサもかなり怒り心頭でね。積極攻勢を訴えているんだ。実際に『前回』よりうまく行ってるこの状況でベアトリーチェが同じ行動をするとは考えづらい。たぶんさらなる陰謀をめぐらせるだろう。だからこそ、こっちから攻めることで動きを限定させようとしている」

 

 おっとかなり切り込んできたね。さて、どうしたものか……

 

「これはトリニティの内政でありアリウスに対するトリニティの闘いだ。だから止めてほしくはない。けれど、迷っているのもたしかだ。オブザーバーとして皆の意見が欲しい。図々しいお願いですまない」

 

 セイアが軽く頭を下げる。アコは普通に驚いているね……

 それぞれが少し考え、口を開いた。

 

「それなら、私個人の意見としては……基本的に『前回』うまくいったことは踏襲すべきよ。細かい改善はあってもね。だからあえて騙されたフリをすべきだと思うわ。ミレニアムとしては武器や道具の支援はできるけど、ゲヘナとのパワーバランスはどうしたものかしらね」

 

 リオに対してヒマリが口をはさんだ。

 

「私は無理に『前回』を踏襲する必要はないと思います。いえ、ここまで変わってしまった以上むしろ前と同じ展開を踏襲する方が無理があるでしょう。その上でカタコンベの迷宮攻略ならば当てがあります。ドローンと監視カメラで虱潰しに出口を当たれば出口を変える法則性がわかるでしょう。ヴェリタスは全面協力しますよ」

 

 順番からするとアコか……

 

「ゲヘナ学園風紀委員としてお答えすると、エデン条約に対する不穏因子は徹底的に叩き潰されるべきです。未来やアリウスの心情は知った事ではありません。むしろ、風紀委員とトリニティの協力の先駆けとして良いテストケースになるのではないでしょうか」

 

 私だね。やれやれ……

 

「なるほど、つまりあんたたちは程度の差はあれアリウスと事を構えるし、ミレニアムも風紀委員もできる範囲で支援したいということだね?」

 

 全員がうなずくか微笑する。

 

「まあそれはいいさね。けれどね、忘れちゃいけないよ。相手の後ろにいるのは殺しをためらわない大人だ」

 

 少しは頭が冷えたようだね。まったく腹が立つのはわかるけど、若い子は血の気が多くていけないよ。

 

「方法はどうあれ、あまりもたもたするよりさっさとベアトリーチェの居場所まであたしを連れていきな……後はあたしの仕事さね。あんたたちは手を汚すんじゃない。あんたたちは人の上に立てる子たちだ。人に誇れる道を行きな。あたしからはそれだけさね」

 

 やれやれ。空気が重くなっていけないねえ……

 

「次の魚料理ができるまで休憩にしましょう。15分くらいあるから、頭を冷やすにはちょうどいいわ」

 

 リオの一言で休憩が決まった。長い晩餐会になりそうだね。

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