ヤーナムから来たアイリーン先生   作:照喜名 是空

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エデン条約編
マコトに気合いを入れに行く話 前編


 ちょいと思うところがあって、エデン条約周りの火消しがてらゲヘナに来てみた。

 万魔殿と風紀委員にはアポを取ったよ。

 

「これからお迎えするお客様はとても立場のあるお方だ。一つのミスも許されはしない! 万全を期してマコト議長の権威を証明するのが我々に与えられた任務である! 今日が万魔殿の底力を発揮する時だ!」

「はいっ!」

 

 どうも慌ただしいね……受付の一人もいないのかい。

 丁度良いさ。あの子は偉そうだし、言づてくらいできるだろう。

 

「あんた、忙しいところに悪いけれど……」

「あなたは……? ああ、ひょっとしてシャーレの『先生』でしょうか!?」

 

 仮面が役に立ったね。今日は暑いからYシャツにズボンととんがり帽子に仮面で来た。

 

「ああ。シャーレのアイリーンだよ。今は先生なんて呼ばれてるババアさ」

「そ、そうですか……すいませんが、今日は13時から賓客が来訪されるとのことで準備に急がしく……」

「そうかい。困ったね、あたしもマコト議長に13時から会うことになってるんだよ……まあ、忙しいなら後に来ると言づてしておいてくれるかい?」

「了解しました!」

 

 万魔殿の小間使いはなかなかに対応がよかったね。漏れ聞こえる声からもマコトを尊敬しているのがありありとわかるし、手際も良い。

 これがヤーナムなら石が飛んでくるよ。

 

「では、私は監督に戻ります……賓客の方は今や飛ぶ鳥を落す勢いでキヴォトスを掌握せんとされる方だ! くれぐれもご無礼のないように!」

 

 ……せっかくだから、先に風紀委員に訓練をつけに行った白栗たちを見に行くかね。

 それにしても、この子たちの言ってるのはまさかあたしの事じゃないだろうね? 

 

 ◇

 

 風紀委員の方は普通にヒナに会えたね。

 今はヒナはアコの計らいで野外演習場の居心地の良さそうなバラソルの下だ。

『合同訓練』の監督という名目で椅子に座って訓練風景を見て貰っている。

 

「ああ、先生。この間ぶりね。先に万魔殿に行く予定じゃなかったの?」

「どうも急がしそうなんでね、先にこっちの様子を見に来たのさ」

 

 立ち上がろうとするヒナをあたしは手で制して話した。

 

「そう、ありがとう。正直助かったわ……」

 

 今回は風紀委員に『試供品』として『獣狩りの杖』を人数分とその使い方の指導としてRAVEN小隊とミグラントから三個小隊を貸し出している。

 さらに『訓練』の間はミグラントが代わりに治安維持を行うという契約だ。

 アコから実態を聞けば聞くほどヒナ一人が戦って、後始末を雑兵がやってる感じだったからね……

 これじゃあ部下も成長しないし、忙しすぎて明らかにバテてる。

 テコ入れがいるだろうさ。

 

「正直、訓練期間中の治安維持を代わりにしてもらうのはどうかと思ったのだけど……案外うまく回ってるようでよかった」

「お節介とは思ったんだけどね。あんたは休む間もないし、部下は鍛える暇もないようじゃないか。これはよくやってる生徒にほんの手助けだよ」

「そう、『獣狩りの杖』……良くできているわ。怯ませやすい重い金属製に、動きを封じる電撃。これなら平隊員の子達でもある程度戦力になると思う」

 

 もちろん、タダじゃない。ちゃんとふさわしい報酬を貰うことになっている。

 

「そうかい、それなら貸し出した甲斐があったというものさ。あんたも『報酬』とは言え、悪いね。うちの雛鳥共と手合わせさせて」

「かまわないわ。近接戦闘の専門部隊というのも初めて見るし、新鮮で良い。それに睡眠時間から言えば前より取れているから」

 

 白栗共に加えてミグラント共の中から素養のあるやつを選りすぐった部隊『ホーネット小隊』を仮に発足させている。

 これは訓練のための仮の編成だ。訓練が終われば普段はまた元の所属部隊に戻す。

 けれど、C&Cやヒナとの訓練も含め、『見せ札』として外に見せる役割もあるし、いざとなれば『切り札』として運用もされるだろう。

 この子らの練度を上げるのは報酬としてふさわしいだろう。

 

「そうかい。若い内はちゃんと寝るんだよ。キッチリ休むから良い仕事ができるんだからね」

「耳が痛いわね。でもゲヘナの治安と万魔殿はなかなか休ませてくれないから」

 

 やっぱりアコの話や噂は本当だったようだね。まったく……

 

「あんた、万魔殿から風紀委員がいやがらせされているって本当だったのかい」

「大したことはないわ。ちょっと書類が増えたり予算が減ったりするだけで……」

 

 これはちょっとどころじゃない感じだね。睡眠三時間になったとアコが言っていたけど後でそれも確かめなきゃね。

 

「それはマコトからあんたへの僻みだけでそうなってるのかい?」

「たぶん……その場その場で理由はあるけど、それは建前みたいなもので……正直、なんでこんなに嫌われているのかよくわからないけど」

「そうかい……ならヒナ。三日後まで良く休みな。その後、このあいだアコから伝えた『計画』をやるよ」

「ああ、あれ……本当にあんなのでうまくいくの?」

「たぶんね。それをこれから確かめに行くのさ」

「そう……まあ、がんばって……」

 

 そう言うと、ヒナは目を閉じて眠ってしまった。

 さて、そろそろか……良い時間だよ。万魔殿にいくとしよう。

 

 

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