それから、クロノスのインタビューはさらに続き、ミカが涙ながらに『ただ仲良くできればと思ったのになんでこんな事に……』ととてつもなく面の皮の厚い本音を涙ながらに語ったり。
キヴォトスでも引かれるようなアリウスの終わっている貧困に虐待が淡々とアズサから全部ばらされたり。
その上で秤アツコの事まで出たからもう世間はお祭り騒ぎだ。
『ですが、私たちトリニティは引き続きアリウス分校とは和解を探っていきます。その生徒会長を
そんな穏やかな言葉で煽り散らかしたコメントでナギサはしめくくった。
この仮面のような笑顔が恐ろしいと話題になったり、『妙な女』が流行語になったりした。
そう、これがナギサの最初の反撃だ。相手が立つ瀬がないレベルで煽るのだ。
無視し続ける限り臆病者の烙印を免れず、それでいて世間からの目はどんどん厳しくなる。
実に陰湿でトリニティらしい反撃だろう。まああたしがちょっとアイデアを出したんだが……
どうやら、あたしもだいぶヤーナムに染まっていたらしい。
「あんた、本当にやっちまうとはねえ」
「ええ、ここまで相手が手段を択ばないのでしたら、こちらもご期待通りにトリニティらしいやり方で闘います」
「だからってあんた、本当にここまでやるやつがあるかい……」
あたしは恐ろしいほど豪華に飾り付けられた古聖堂に困惑するしかなかった。
遺跡同然だった古聖堂がきれいに磨き抜かれ、真っ白い豪華な絨毯にみずみずしいバラで飾り付けられている。
その一つ一つにゲヘナとトリニティ、そしてアリウスを表す意味が込められていてそのすべてが皮肉に彩られているらしい。
トリニティらしい笑顔の下にある怒りが実によく表現されている会場だ。
そこにはこう看板がかかっている。
『Eden Tekken Onair』
そう、これは
主催は『トリニティ決闘クラブ』による『舞闘会』。舞踏会であり武闘会だ。
よりにもよって『ゲヘナとトリニティの友好をアピールするレクリエーション』としてだ。
そしてわざわざアリウス分校を『審判役』として『招待』している。
こんな文章をカタコンベにばらまいて。
『~舞闘会のお誘い~
拝啓 アリウス分校生徒会様へ。
梅雨明けの候、貴校におかれましてはいよいよご盛栄のことと存じます。
暑い日々が続きますが、地面の下におかれましては過ごしやすい日々でしょうか。
もしエアコンなどご入用でしたらいつでもおっしゃってくださいね。
暑中見舞いもかねて、たくさんの涼しいお菓子と共にお届けいたします。
アリウスとトリニティは今は袂を別ったとはいえ姉妹なのですから。
さて、来る七月X日午後七時におきまして古聖堂でトリニティ統合学園とゲヘナ学園による舞闘会『
懸案でありましたの両校の和解ですが、
エデン条約の前夜祭的位置づけとしてささやかなパーティーを開かせていただきます。
その際にレクリエーションとしてダンスと格闘試合を行いますが、アリウス分校の皆様にはぜひこの試合の『審判役』をお任せしたいのです。
突然のことで驚かれたでしょうが、どうかご寛恕くださいませ。
きっと今回の催しはかの
我々トリニティは貴校との和解を引き続き模索していく用意があります。今回の催しもその一つです。
私たちには直接顔を合わせてお互いを理解することが必要ではないでしょうか? 食卓を共にすることで、少しでも距離が縮まればと存じます。
ご馳走もたくさんご用意してお待ちしております。カタコンベから古聖堂までの道も綺麗に掃除しておきますので、どうかご一考くださいませ。
敬具 トリニティ学園フィリウス派首長 桐藤ナギサ』
あまりにもバカ丁寧に書いてあるが要は煽り散らかしている。あまりにも見下した手紙だ。
その意図を率直に訳すならば……
『何やらコソコソしているようだが全部バレているし、何にも効いてないぞ貧乏人共。金がないなら恵んでやろうか?
それはそうと、こっちは絶好調なのでゲヘナとパーティーを行う。ETOと名のついたヤツをな。もちろん貴様らも招待してやる。
この状況ならひょっとしてミメシスとやらを発動できるかもなあ?
まさか来ないとは言わないよな? どうせ腹が減ってるだろうからご馳走はたくさん用意してやったぞ、カビ臭い墓場から出て来い』
そのくらいドギツイ文章を丁寧に丁寧に上品にしただけだ。
あたしはその宣伝ビラを見て頭を抱えたよ……
「こんなビラまで……怒りはわかるけどね、煽りすぎだよ。相手の立つ瀬がない」
「ええ、そうでしょうね。ですが私も親友ごと暗殺計画を立案されて冷静でいられるほど大人しくはありませんので。それに……煽るアイデアをノリノリでご提供くださったのは先生でしょう」
「ここまで全力で大金かけてまで煽るとは思わなかったよ……」
ここは古聖堂の2階テラス席。いわゆる天井桟敷だ。カタコンベから来ればどうやったって思い切り見下ろされることになる。
ご丁寧に壁の右左にゲヘナとトリニティで別れて座っている。わざわざ本来なかった大階段までつけてだ。
あたしの本来の席はなんと祭壇の真正面。大向こうだ。なんだってこんな偉そうな席に座らきゃならないんだい。
今はゲヘナとトリニティ、両方を行ったり来たりしてるけどね。
「さて、ここまでコケにされて相手が来るかどうかだね。来ても恥、来なくても恥。哀れに思うよ。同情はできないけどね」
ティーパーティーの三人娘は一つのテーブルに固まって優雅にお茶している。
もちろん、天井やすぐそばのテーブルに正義実行委員会がさりげなく配置されているし、いざとなればミカとセイアが暴れればいい。
幹部が固まっているからと安易に手を出せば逆襲に合う。そういう配置だ。
「ええ、ですが来ざるを得ないでしょう。少なくとも秤アツコだけでも」
「ミメシスを得るチャンスはこことエデン条約しかいないからね。それもこっちがわざわざ『招いた』この意味は大きいよ。発動の可能性がぐんと上がるはずだ」
セイアは相変わらず目に分厚いレースを巻いているが、よどみない動作でアイスティーを飲んだ。
「よくわかんないけど、こんな手紙でも来なきゃいけない状況になったってこと? ちょっと気の毒じゃんね……まあ『マダム』ならいくら恥かいてもいいけど」
ミカはつまらなそうにマカロンを口に運んでいた。
「はあ……まあいいさね。やるだけやってみな。どうしても危なくなりそうならあたしたちが手を出すよ」
実のところというか、もちろんというべきか、この舞闘会自体が巨大な罠だ。
古聖堂自体がキルゾーンだし、敵が今まさにブチこみたいであろうミサイルも発射可能な地点をミレニアムの総力をあげてドローンで捜索している。
爆弾の類についても仕掛けられそうな場所は監視カメラだらけだ。
近くにはホーネット小隊とレイヴン小隊が待機してる。
「この見え見えの罠を『マダム』とやらがどう破るか……お手並み拝見だね」
夕暮れの太陽が、ゆっくりと沈み始めた。