アイリーンはゆっくりと駆ける程度で先陣を切る。
狩人の共闘では先走りすぎず、さりとてもたつかないのがマナーとされる。
その後ろをおよそ三千人が整然とついてきた。
「くそっ、魔女め! ばけものめ!」
アリウス生徒がわらわらと集まっては発砲をしてくる。
だが、逆にアイリーンは速度を上げた。
駆け抜けは狩人の常套手段だ。しかも今回は後詰めが山といる。
背後から撃たれる心配はない。
「SRTrabitt小隊! ミグラントraven小隊! 狩りを始めな!」
「アイコピー! rabitt2エンゲージ!」
「raven1、エンゲージ!」
rabitt小隊とraven小隊が手に『
アイリーンも双警棒を抜き、遺骨を握りしめて加速して次から次にアリウスの精鋭たちを殴り倒していく。
「警棒だと!? バカな、そんなもので……? ぐわっ!」
「懐に入り込ませるな! 撃て! 撃て! ショットガン持ちは守りを固めろ! グレネードで戦線を維持しろ! 近づかせるな!」
だが狩人とその薫陶を受けた者たちは止まらない。前に、前に。時にライオットシールドを使ってまで撃たれる前に殴るを実践していく。
『キキキ……相変わらずだな。砲兵隊、ダイレクトカノンサポートだ! 10時方向45度350m! 万魔殿の意を示せ! 撃てっ!』
狩人共の無謀ともいえる前進を支えるのが後詰めだ。地獄のブートキャンプによって戦場での勘を身に着けたマコトは正確に砲術支援を指揮する。
随伴歩兵ならぬ随伴戦車だ。
『やはり道が狭いわね。こんなこともあろうかと用意しておいてよかったわ。アブストラクト君、5機前進。工事を始めなさい。工期10分。ご安全に』
リオの操作するドローンが好き勝手にカタコンベの壁をくりぬき、押し広げていく。
「いくぞ。いつものようについてこい」
その後をツルギたち正義実現委員会が丹念に弾きつぶすようにアリウス生徒を刈り取っていく。
そして、ミレニアムが開けたカタコンベの穴からゲヘナの風紀委員とトリニティの連合軍がまるで血管の中を毒が回るかのように戦線を押し広げる。
「救護!」
「救護!」
最後に倒れ伏すアリウス生たちを救護委員会とシスターフッドがわりと文字通りに救護していく。
「今は何も言わず、傷を癒してください。私たちも強いては聞きません……温かいスープです、ゆっくり食べてくださいね」
「カタコンベに眠る先人たちに今ひと時、黙祷を」
「世に平穏のあらんことを」
後方に送られたアリウス生徒たちはそれは丁重に扱われた。
トリニティの財力と技術を遺憾なく発揮したそれはもう美味しいポタージュスープをいただくことになっている。
飢餓状態のおなかにも配慮した完璧な一品だ。
大幅増員したゲヘナ給食部からも人員と材料が送られ、後方ではすでに円滑な兵站が確立しつつある。
おそらくは、たった一夜の狂騒のために。
そして、今後の支援のために。
◇
一方のアリウス側。
「ま、マダム! トリニティ共の侵攻が止まりません! 予想より2時間は速いです! い、いかがすれば……」
アリウスのエリート兵はマダムの部屋をノックする。
返事がない。まさかと思い開けると、彼女は絶句した。
そこにいたのは全裸のベアトリーチェ。
「ま、マダム!?」
「……ああ、いたのですか♡安心なさい。もはや何も心配することはありません♡足止めのためならば、アビドス砂漠から回収したカイザーのオートマトンを出しなさい♡」
「は、はあ……わかりました……」
「これより私が授かった大いなる啓蒙を皆に授けます♡アリウス生徒は可能な限りバシリカに集合するように♡」
「はっ」
なぜ恍惚として全裸なのかアリウス生には聞けようもない。
すべては蒙が啓けてしまったせいなのだが。
結晶の研究を極めたものは多かれ少なかれ『そう』なるのだ。
ロードランの地においては最適解を求めれば、全裸棍棒勢になって『森』でケツ掘りをするようになる。
つまりそういうことだ。
まあここはキヴォトスなので、そんなことは全然ないが、喜んでいるならばまあよいではないか。
「それから……これらのドローンは地上に出してカイザーに届け物をしなさい♡この……『輸血液』をカイザーに届けるのです。その条件でカイザーから支援を取り付けました♡何も心配はいらないのですよ……♡」
「わ、わかりました……! で、では」
ベアトリーチェから小型ドローンを受け取ったアリウス兵は逃げるように飛び出していった。
「ああ……待ち遠しいですね。皆にもこの『福音』を早く伝えなければ……♡偉大なる『姿なき』上位者を……その甘美なる『蠢き』を……♡」
ベアトリーチェの下腹部はゆっくりと蠢き、膨らみつつあった。
◇
一方で、アリウススクワッドはトリニティから脱獄してアリウス領への道を車で走っていた。
「ミサキ。姫を頼む。姫、ヒヨリ……ミサキを頼む。生きてくれ。皆……」
「じゃあサオリも一緒に逃げなよ。どう考えてもアリウスに勝ち目はないよ」
助手席でミサキが外を見つめながらつぶやく。
「……わかっている。だからこそだ。ここで戦わなければ、私は私でいられない。だがお前たちまで付き合うことはない。何より、姫には生きてほしい」
「……」
アツコは手話を行い、サオリがバックミラーでそれを読み取った。
向かうのはアビドス寄りの新たに作られた隠し搬入口だ。
「姫……すまない。姫が戻ったらマダムに殺される。だが、私は戦わずして逃げるのは納得がいかないんだ。私の頑固さはわかるだろう? 姫や皆が生きててくれるからこそ、私は戦場に戻れるんだ」
「どうしても、か……じゃあしょうがないね」
「ああ……達者でな。アビドスに行くといい。あそこならばヘルメット団を装えばおそらくは入学が許される」
「それでサオリをほっておいてヘラヘラ笑って暮らせって?」
ミサキが不満そうないつもの口調をする。
「……それは、苦しいですね……つらいですね……」
眠りかけていたヒヨリが寝言のように相槌を打った。
「……すまない」
彼女たちは夜を走る。
涼しい夜風に定期的に光る街灯。沈黙する車内。
こうしてしっとりと悩み、走るのもまた青春らしいものなのだろう。
すべての決着は、近い。