それから3日。挨拶回りと荷物の受け取りやら引っ越しはとりあえずは終わったけどね……
やっぱりどうにも慣れないよ。『スマホ』とやらをリンに持たされてはみたものの……
とりあえず出るだけで精一杯だね。まあ、あまりにも時代が違いすぎるさね。
車と運転手もいるだろうしねえ……
小間使いが一人いりゃあ事足りるんだけどね。
弾薬費の請求に来たユウカがちょいと手伝ってくれたはいいものの……あの子だって生活がある。
毎日とはいかないさね。
「先生! 10人の部員さんの入部届けがありました! 先日の3人と……あとは各学校の有力者さんと、例のSRT一部隊ですね。ユウカさんやSRTはともかく、他の方は実際に部室に来てくれるかどうかはわかりませんが……それでも、大きな前進です!」
「そうかい、ありがとうねアロナちゃんや。まったく助かるよ。あんたがいなきゃ、機械の操作がお手上げだったろうからね……」
とりあえずキヴォトスの常識とやらを把握するためにブルーレイディスクとやらで勉強してはみたけれどね。
やっぱり違和感があるさね。実学に傾きすぎてるよ。歴史がここ最近50年くらいしか習わないし、それ以上は考古学と来た。
国語の教科書の薄さはなんだい。パンフレットじゃないかい。
ヤーナムは余所様の事はいえない街だけどね、それでもここまでひどくはなかったよ。
情操教育はどうなってるんだい……
『おはようございます、アイリーン先生。RABBIT小隊、連邦捜査部に出頭いたしました』
「ああ、あんたらかい。入りな」
チャイムが鳴り、あたしはリモコンとやらでドアを開ける。
そうそう、SRT特殊学園は結局廃校は延期。その代わりに大幅縮小……ってことらしいね。
希望者のみ残留で可能な限りヴァルキューレ警察学校に編入。だとさ。
それで残ったのは二小隊の8人だけ。半分はカヤの嬢ちゃんが担当、もう半分があたしの直轄で部活として捜査部加入だと。
あのちんちくりん、やってくれるねえ……絶妙のタイミングで美味しいところだけかっさらっていったね。
……まあいいさね。
「SRT特殊学院RABBIT小隊『隊長』、月雪ミヤコです」
「同じく『ポイントマン』、空井サキ」
「『ハッキング、後方担当』風倉モエだよぉ、先生背ぇ高いねえ」
「えっと……『狙撃手』霞沢ミユ、です……」
不揃いだけど敬礼するだけましかねえ……
まあ……まあ、この年頃でこのくらいなら、まあこんなもんだろうさ。
さて、警官時代を思い出してやってみるかねえ。昔取った杵柄というやつさ。
「ご苦労。連邦捜査部『顧問』アイリーン・ザ・クロウ。受領した。本日より、貴部隊の指揮を執る」
まあ、それなりには形になる敬礼だろうさ。小娘のやる気のない敬礼よりはね。
ミヤコの差し出すリンからの命令書を受け取って儀礼は終了だ。
「……とまあ、儀礼はいいさね。よろしくたのむよ、子ウサギ共」
「はい、リン行政官からはアイリーン先生の指示に従うようにと……」
「先生、何をすればいいんだ?」
ミヤコは素直そうだが、サキはなかなか芯がある子みたいだね。その分、警戒してるようだけれど。
モエは……飴玉舐めてるねえ……あらゆる意味で舐めた子だよ。ミユは卑屈そうに見えて、狩人としての適性はなんなら一番高そうだね……
「ああ、そうだね。説明しとくよ。捜査部……シャーレはいわば何でも屋だ。各学園からの要請に従って武力介入を行う組織、ってところかね」
「それで? 具体的には何をするんだ先生」
サキがいかにも信用していない、という口調で聞いてきた。
「担当する案件には当たりがあるよ。けどね、まずは引っ越しさね。使ってない部屋がいくつかある。あんたら、たしか寮も校舎もじきに閉鎖だろう? 3階を使いな。どうしようと、あんたらの自由さね。それからこれは、引っ越しと改装のための予算だよ。アロナちゃん、振り込んでおくれ」
「はい! 三〇万クレジット、ミヤコさんの口座に今振り込んでおきました!」
「ミヤコ、確かめな」
「あ、はい。三〇万……これで、私たちのSRTが……はい、了解しました」
「ありがとね~……それで、先生は何するのー?」
モエがだらけてそうで、人をよく観察してる目で尋ねる。
「あたしはちょいと自室で休んでいるよ。ああ、そうだ。どうせ場所も教えなきゃあいけないね。ついてきな」
「じゃあ、私がいく。一人知っていればいい。ミヤコ、あんまりだらけた部屋にするなよ」
「うん、わかってる」
どうも値踏みされてるねえ……まあ、この年頃の子供はそんなものさね。
エレベーターを使って地下へと降りていき……『クラフトチェンバー室』にはいかずに、そのへんの壁にくっついてる『機械室』に入る。
「先生。そこは機械室じゃないのか」
「ああ、そうさね。どうもここは小綺麗すぎてね。あたしにゃあコンクリート打ちっ放しくらいが性に合ってるのさ」
「……不本意ながら、同感だ。こんな所にずっといたら性根が腐ってしまう」
「そうかい、真面目なこったねえ」
重たい鉄の扉を開けると、薄暗い機械室だ。
そのへんで拾ってきたでかめの事務机、ゴミ収集に捨ててあった安っぽい絨毯。
そして……天井から吊されたり、壁にかけられた武器。武器、武器。
水を入れられた噴水のような水盆と、こちらに向かってぺこりとお辞儀をする『人形ちゃん』
ああそうさ。ここは「狩人の夢」の再現さね。
「おかえりなさい、狩人狩り様。それでは、何なりとお申し付けください」
「ああ、人形ちゃん。紹介するよ、今日からここで働く空井サキだ。よろしくしてやっておくれ」
『人形ちゃん』は本来はただの人形だが、狩人の夢でのみ人と同じように喋り、動き、狩人に仕える。
ヤーナムの『狩人の夢』……秘された空間にしか存在しないはずの彼女はどういうわけか、こっちでは普通に現実でも動き出した。
あの後輩が棺に入れて送ってきたんだよ。怪しさしかない送り方をしないでおくれ。
「あ、よろしくお願いします……先生、この大人の人は……?」
「『人形ちゃん』だよ。あたしのいたヤーナムでの古い知合いさね。気のいい子だから、仲良くしてやっておくれ」
「はあ……それが命令なら。それにしても、先生。この武器は……」
「ああ、これもヤーナムの狩り武器さね。向こうの知合いが送ってくれたのさ」
ノコギリ槍、獣狩りの斧、仕込み杖、ルドウイークの聖剣、獣狩りの曲刀、獣肉断ち、回転ノコギリ、爆発金槌……
いずれも、殺意と暴力を形にしたらこうなる、と言う物ばかりさね。
あいつは……ノコギリ鉈だけは未強化のやつをよこしたね。あいつの使ってたノコギリ鉈だけはまだあいつの手元にあるんだろうよ。
きっと、狩りを忘れぬためにね……
「先生。これは……こんなもので斬られたら私たちでも危ない。治安維持というよりこれは……」
「ああ、これは殺すためのものさね。そういう街だったのさ……だから、このままじゃあキヴォトスでは使えないね。そのうち刃引きでもして鎮圧にも使えるようにするよ」
「……先生は」
「ああ、殺したよ。とても沢山ね。それしか方法がなかった」
「……いい部屋だし、ちょっとかっこいい武器とおもったけど、やっぱりあなたは信用できない」
「クックック……ヤーナムの狩人など、誰も血塗れ。簡単に信用しないのはいいことさ」
「……なら、私は戻ります」
「ああ、お行き」
サキは走り出すように戻っていった。遅かれ早かれこうなることさね。
それなら最初から言っておいた方が良いってものさ。
まあ、しばらくは子ウサギ共となじむのを優先して……明後日にはいきたいもんだね。
アビドスへ。