ヤーナムから来たアイリーン先生   作:照喜名 是空

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アビドス対策委員会編
SRT絆ストーリーinアビドス移動中


 どろりと半分固まったかさぶたみたいな『死血』を握りつぶし、『水盆』に垂らす。

 水を張った水盆からはうようよと歪んだ顔の白い小人たちが嬉しそうなうなり声を上げた。

『使者』と呼ばれるヤーナム産のよくわからない生き物さね。

 

「毒メスと輸血液20個に雷光ヤスリ、骨髄の灰だよ」

『ウロロローン……』

 

 あの後輩はよくやってくれたみたいだね。水盆(ショップ)の品揃えが良い。

 おまけに『こっち(キヴォトス)』の弾丸も売ってるじゃあないか……

 この水盆の使者はどういうわけか、商売をやってるんだよ。血やら何やらおぞましいモノと引き替えにね。

 

「くひひ……先生、何してるの」

「ああ、モエかい。何、ちょいとした明日の支度さね」

「アビドスへの支援物資なら、もう受け取ったよ……SRTの車両に積むだけ積んだから、あとは明日レンタカーを借りるだけだね……」

「そうかい、ご苦労だったね。茶でも飲むかい?」

「いいの? ありがと……くひひ」

 

 なんだか、ヤーナムで良く聞くような口調の娘だねえ……

 この子ならあっちでもやっていけるだろうよ。まあ、すぐ獣になりそうだけどね。

 

「人形ちゃん、湯は沸いてるかい?」

「はい、狩人様。今お持ちいたします。お菓子はおつけいたしますか?」

「ああ、適当に頼むさね」

「はい、少しお待ち下さい……」

 

 人形ちゃんが優雅な仕草で紅茶を用意してくれている。

 

「変わった人だね……ロボット種の大人かと思ったけど、球体関節だしちょっと違うのかな?」

「さあね、あたしもあの子がどういう存在なのかははっきり知らないんだよ」

「ええ……? よく知らない人を連れてきちゃって良いの?」

「種族やらはわからないけど、あの子がどういう子かはよく知ってるからね」

「そうなんだ……信頼してるんだね」

「ああ、そうさ。よろしくしてやっておくれ」

「うん、いいけど……」

 

 まあ座りな、とそのへんの椅子と事務机に座る。

 人形ちゃんがお茶を持ってきて、さて話でも聞くかね……

 

「それで、何かあったのかい? まあ、茶を飲みに来たんでも構いやしないけどね」

「くひひ……サキが言ってたんだけど、先生すっごい武器持ってるんだってー? 私、火器が大好きでさぁ……」

「なるほどね……あんた火薬が好きなタチなのかい。見るだけなら好きにすればいいさね……そのへんが火薬庫の武器だよ、あんた、そういうのが好きなんだろう」

 

 パイルハンマー、爆発金槌、銃槍、そして回転ノコギリ……

 どれも火薬を動力にしてる物騒なものばかりさね。

 

「うわぁ、パイルバンカーに……なにこれ、金槌? トリガーがついてる……まさかロケットハンマー? へえ……」

「待ちな、見るだけと言ったはずだよ? あんた、まさかこんな所で火薬で動く金槌を振り回す気かい」

「そうだよねえ、機械室で……ハンマーなんか振り回したら……はぁはぁ……」

 

 この子、破滅願望もちかい! 勘弁しておくれよ……

 

「せ、先生すごく力強いね……くひひ、うん。ごめん……降ろすから、降ろすから離して?」

「ちょいと鍛え直(レベルアップ)してね……とりあえず爆発金槌を降ろすんだ。いいね」

 

 もみ合うことしばらく。なんとか爆発金槌を取り上げられた。

 あまりにも危険すぎるね。この子がいるうちは危険物は仕舞っておくかねえ……

 

「はぁ……勘弁しておくれよ……あんたの欲求不満はわかった。けど時と場所をわきまえな」

「くひひ……ごめんね、私とんでもないことになるなって思ったらつい……やりたくなっちゃって……」

「ああ、そういうヤツはヤーナムにもいたさね……」

 

 なんとかモエを落ち着かせて、椅子に座らせて茶でも飲ませる。

 雑談がてらいろいろ話をするけど、世の男は一体何をしてるんだい……? 

 こんな男好きのする体をもてあましてとんだ獣が誕生しちまってるじゃないか。

 

「……まあ、そういうワケでさ。私たちSRTは事務処理とかハッキングもできるからそっちでたよっても良いよ。先生そういうの苦手でしょ、くひひ……」

「ババアにゃ最新の機械なんてわからないからね、できるのは手書きだけさね。手当をつけておくから、頼んだよ」

「マジで? 太っ腹だね……」

「じゃあ、太っ腹ついでに明日行くアビドスの様子を調べておいてくれるかい? そうさね、歴史に金の流れ、地理くらいで構わないよ」

「おっけーだよ。じゃあごちそうさまだったね……帰るよミユ」

 

 視界の端がゆらめくと、幸薄そうな黒髪の娘の姿に焦点が合った。

 

「あんたいたのかい!?」

「え、えと……はい……」

「そうかい、気づかなくてすまなかったね、これはお詫びだよ。みんなで食べな」

「あ、ありがとうございます……」

 

 飴玉とクッキーを押しつけて返す。

 やれやれ……かなり濃い性格の子たちだったね。けれど、皆良い子だ。

 ヤーナムのクソガキに比べればまあかわいいもんだよ。

 

 ◇

 

 レンタカーを借りて2台に別れてアビドスを目指す。

 メインのSRTの車にはサキとミユ、モエ。こっちのトラックとやらはミヤコとあたしだ。

 モエとミユにハンドルを握らせるのはマズい気がしたからね……こうせざるを得ないのさ。

 

「先生、改めてお礼を言わせて下さい」

「なんだい急に……SRTの事かい?」

「はい。廃校に反対してくれたのは先生だと聞きました。大幅に縮小はされてしまいましたが……それでもSRTの名、法人格があるなら、まだ……」

「すまないねえ、二日三日じゃあそれが精一杯さね」

「いえ、先生は十分にやってくださいました。ありがとうございます」

「そうかい」

 

 景色がだんだんと田舎に、道路に砂が多くなってくる。

 ああまったく、嫌になるほど青空じゃないか……

 

「先生、『正義』をどうお考えになりますか?」

「そうさね、正義か……『まだ実現してない絵空事』さね。悪党じゃなきゃあ、普通はあった方が良いと思うだろう。けれどね、それが実現したことなんか、あった試しがないのさ。それとも、『人によって違い、だからこそ人を狂わせる甘い毒薬』とでも言えばいいかねえ」

「そう、ですか……たしかに、正義はまだ実現していないかもしれません。今のヴァルキューレも……利害関係からは無縁ではいられません。私は……SRTはそういった忖度をしない。時と相手を選ばず、誰であっても法の下に平等に扱う……そんな、屈強な正義を実行してきました。少なくとも、私があこがれたSRTは、そう見えたんです……」

 

 青いねえ、けれど若者ってのはそうでなきゃいけない。

 なかなか芯の強い子だよ。鍛えがいがあるじゃあないか……

 

「そうかい、若いねえ。けれど、若者ってのはそれでまったくいいのさ……忖度しない『屈強な正義』か。いいじゃないか」

「先生、先生自身の正義は一体どういうものなんですか?」

「若い頃は、アンタと同じ事を考えてたよ……もうちょっと、血なまぐさいもんだったけどね。少なくとも、犯罪者を見逃しちゃいけない、くらいの気概は私にもあったさね……」

 

 自然と、懐かしむ口調になってしまう。ああ、まったく懐かしい。

 結局はその正義の代償にあたしら警官隊はヤーナムに迷い込み……一人は獣狩りを絶対に遂行する連盟の長に。

 そしてもう一人は狩人の中の罪人を殺す狩人狩りに……つまらない話さね。

 

「けれど、地獄のような街に迷い込み……そこで、そういう正義を行おうとはしたさね。30人いた隊は、たった二人になった……あたしらの手は血塗れになった……それでも……それでも、あたしらは、尊厳と矜持を忘れたくはなかった……けれど今になって思うんだよ。それでも、誰も救えはしなかったとね……」

「……信念を貫き通せたなら……それで、救われた人はいたはずです」

「……あたしらは失敗した。街は獣であふれかえり、そして悪夢に沈んだ……けれど、そうさね。たった一人くらいは、なんとかなったかもしれないねえ……」

 

 後輩。アンタはやり遂げた。アンタに救われた人もいた……けれど……それはアンタにとって救いだったのかい? 

 

「サキから、先生が任務の中で人を殺したかもしれない、と聞きました……でも、その事実は消せなくても少し誤解していたかも知れません」

「そうかい。いいんだよ、どうせ狩人など誰も血塗れ……何も間違ってない。アンタはこうなるんじゃあないよ」

「……はい。正義がまだ実現していないものなら……私たちSRTが実現してみせます。いつか、きっと……!」

「そうかい、楽しみにしてるよ……ああそうだ。アビドスについたら、後で警棒を2つ貸しておくれ。慈悲の刃……ナイフは生徒に向けるべきもんじゃあない」

「……はい! モエが用意していたはずなのでお渡ししますね。そうだ、ミレニアムなら先生の持つ武器に興味があるかもしれません。再現もできるかも」

「ミレニアムか……ユウカがいる学園だったねえ。そうかい、あの子は技術者だったのかい」

「はい、ミレニアムは……」

 

 そこからは他愛のない話を努めてした。

 これで少しはお互いの距離が縮まると良いねえ……

 それにしても、なんて砂漠だい……建物が砂に埋もれているよ。まるで話に聞く砂に埋もれたローランだねえ……

 

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