ヤーナムから来たアイリーン先生   作:照喜名 是空

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柴関ラーメン懇親会。そして、獣狩りの時間だ。

 柴関ラーメン。

 ラーメンなんて初めて聞く料理だが、うまいんだって? 要はスープパスタみたいなもんだろう。

 店構えもなかなか愉快で清潔そうじゃないか。

 

「いらっしゃいませ~柴関ラーメンで……うげっ! みんな……っていうか多い多い!」

「あ、あはは……えっと、20人、なんですけど……」

「そういうのは予約とってよ……! やっぱ特殊部隊に調べて貰ったの!?」

「ん、先輩が……」

「セリカちゃんがバイトするならここだと思ってね~それにこの人数をさばける所ってここしかもうないし」

「うう……バレてたかぁ……それで、ご注文はっ!」

「味噌ラーメン!」

「私はね~特製味噌ラーメン! チャーシューセットで!」

 

 セリカがアビドスの子らに注文を聞いてる間に、店のマスターがこっちに注文を聞きに来た。

 

「あんたが『先生』か。次来る時があったら、今度は予約してくれるか?」

「ああ、すまないねえ。急に大勢で押しかけて……子ウサギと小間使い共、悪いけどそういうワケで全員同じ注文にさせてもらうよ。大将、一番プレーンなヤツで頼むよ。二〇人前でね」

「……いいのかい? 生徒さん」

 

 大将がじろりとこっちを見ながら、偶然近くにいたサキにたずねる。

 

「かまわない。奢って貰う身で状況が状況だ。それに、私たちは特殊部隊だ。まともな飯が食べられるだけでもありがたい」

「先生、言われてるぜ?」

 

 大将がずいぶん当てこすってくるじゃないか……まあ、料理人としちゃあ子供にまともな飯を食わさないのは大人失格だねえ……

 

「ああ、今日から食事はまともなもんを配給するよ……ミヤコ、あんたたち普段から戦場の飯を食ってるのかい? 訓練もほどほどにしときな……」

「いえ、基本はちゃんと食べてますが……でも、そういった訓練をすることもあります。戦場では自給自足をする事も、補給が無いこともありますから」

「……そうかい。ああ、小間使い共、安心しな。あんたらにここまでは求めないよ」

「ほんとかーっ?」

「言っただろ小間使いって。とはいえ、そうさねえ……おいおい、あんたが強くなったら次の選択を話す。おいおいね……大将。そういうわけだ。すまないね。それから、この子達には給金はちゃんと支払ってたんだけどね……あたしが甘かった。ちゃんと食わすよ」

「そう願うぜ」

 

 大将はうなずくと頭のタオルを締め直して厨房に向き直った。

 犬人間のくせに、良い顔するじゃないかい。それに、人情家だ。キヴォトスでもまともな大人はいたんだねえ。

 

「さて、そうと決まりゃあセリカちゃん、仕事の時間だ! 今日は忙しくなるぞ!」

「は、はい!」

「ちょいと時間はかかるが……待っててくれよ」

「ああ」

 

 しばらく待ってたらセリカが慌ただしく水と漬け物(ピクルス)を持ってきた。

 なんだいこりゃ、前菜(オードブル)かい? 

 

「こりゃあ……オードブルかい? 頼んでないよ」

「サービスだ! 時間がかかるからそれでとりあえず腹を落ち着かせてくれ! 金はいらねえよっ!」

 

 調理に必死な大将が声を荒げて答えた。

 なかなか太っ腹ないい男じゃないか。

 

「そうかい、ありがたくいただくよ……悪いけどフォークを頼めるかい?」

「セリカちゃんっ!」

「はーい! そういえば先生は外の人だったわ……!」

 

 ふうん、なかなか美味いね。何のピクルスだかわからないけど、塩気が効いてるよ。

 

「なかなか美味いね。どうしたんだい、全員食べな」

「やったぞーっ! みんな食えっ!」

「美味いね、しかしこりゃあ何のピクルスなんだい?」

「それは……メンマとかシナチクというのです。たしか、竹……いえ、竹は食べられないからタケノコでしょうか……ええっとタケノコというのは竹の出始めた柔らかい芽のことです。それにしても先生……そのマスク、外れたんですね……」

「当たり前だよ。顔かと思ってたのかい? なんだい、ババアの顔なんて見ても面白くないだろう」

「いえ、思ったより精悍な顔をされているなって……」

 

 ミヤコがぼそぼそ言いながらメンマを食べた。それにしても割と多いねこのメンマ……

 

「世辞はよしとくれ。モエ、何調べてるんだい? 食事中にスマホはよしな」

「くひひ……つい、メンマが何でできてるか気になって……タケノコであってたみたいだね」

 

 モエはこっちにスマホの画面を見せてくる。なるほどわかりやすい。

 

「へえ、そんなに簡単にわかるのかい……それじゃあ、飯を食い終わったらちょいとした残業追加さね。カイザーの狙い目が何か調べておくれ。ここの土地なり建物が狙いなんだろ? なんかあるはずさ。鉱脈なり、隠し財産なりね……」

「うええ……なんでぇ……?」

「飯を楽しく食ってるときは人と飯に集中しな。料理が来るまでの待ち時間は良いとしてね」

「はーい」

 

 その話を聞いて、アンの手が止った。

 

「その噂、聞いたことがあるぞ。カイザーが探してるのは砂漠に眠る埋蔵金だってなーっ!」

「あ、あたしもそういうの聞いた。オーパーツがどこかにざくざく眠ってる遺跡があるって……」

「私が聞いた話ではすっごいロボットがあるとか……」

「先生……どうしたんだ、顔がすごく怖いぞ。殺気……なのかこれは……」

 

 あたしはその言葉を聞いて、マスクをまた被った。ちょいとこれは人様に見せられない顔をしてるね。

 

「なぁに……あたしのいた街でも同じような事があっただけだよ。遺跡だの古代のロマンだの、神秘だの……そういうものを追って、何もかも狩り尽くしたバカ共がいた……元々住んでいた人も、生き物も、何もかも殺し尽くし穢し尽くして……あげく、最後には自滅したのさね……!」

「……」

 

 静まりかえっちまったよ……まいったね。

 ごとり、とあたしの前にラーメンが置かれる。大将だ。

 

「先生、あんたも同じ目にあってきたんだな……だけどな、だからこそラーメンの味でそんなことは忘れてくれ。特別にビールもつけようか?」

「いや、かまわないさね……悪かったよ、大将。……ククッ。モエ、男を見つけるんならこういう粋な大人を見つけな。ろくでもない男に貢ぐんじゃないよ?」

「くひっ……う、うん……ろくでもない男に貢ぐのは楽しそうだけど、それはそれとして大将がいい男だってのはわかったかなー?」

 

 あはは……となんとなく笑いに包まれる。やれやれ、なんとか笑い話にできたかね……

 どうしても、思い出しちまうよ。ヤーナムを……

 それはそれとして、ヤーナムと同じ事を繰りかえすカイザー……危険だよ。場合によっては殺すしかないね……

 なにせ、ここも実際に効果があるオーパーツがざらにある所だからねえ……

 まあいいさ、それは後だ。この美味そうなパスタをいただこうかね。

 ズルルーッ! 

 

「これは……うまいじゃないか……! ああ、懐かしいねえ。こんな美味いものを食べたのはヤーナムに来る前だったよ……もう、50年も前になるんだねえ……」

「ご、50年……☆柴関のラーメンはおいしいですけれど、このレベルの食べ物がない生活を50年してたんですか……?」

「うへぇ……おじさんより大変そうな生活してる人が目の前にいるとはね~」

「ああ、全く美味いねえ……そうさね、飯とは美味いもんだったねえ……」

「ん、先生はもっと食べるべき」

 

 なんだい、目がかすむじゃないか……大将、少しこのラーメンとやら、塩っ辛いねえ……

 

「まずは味噌ラーメン20人分おまち~! どんどん運んでいくからね! あれ、そんなに美味しかったの……?」

「ああ、こいつは良い料理だよ……」

「う、うん……先生が美味しいなら、それでいいけど……」

 

 まったく、年はとりたくないねえ……涙もろくなっていけないよ……

 

 ◇

 

 それから、懇親会はまあなんとか和やかに終わった。

 とりあえず、子ウサギ共と小間使い共はアビドスの校舎を借りて寝ることにしたよ。

 小間使い共の一部が荷物を持ってきたいと言い出したんで、一応モエに頼んで発信器と通報装置を持たせて帰したが……

 心配だねえ。

 

「……先生、屋上にいたんだねぇ~。少し、話良いかな」

「ああ、あんたかいホシノ。なんだい、眠れないのかい?」

「そんなところかな~、埋蔵金の噂、そういえば聞いたことあったよ。その時の私はふざけてると思ってろくに聞いてなかったから詳しいことはわからないけど……」

「そうかい。こりゃあいよいよだねえ……ふざけた真似をしてくれたもんだよ、カイザーとやら……」

 

 ぎりっ、と手袋越しに拳を握りしめてしまう。

 あの手の奴らに恨みは尽きないよ……許されることじゃあない。

 

「そうだよね、本当にふざけてるよ……」

 

 ホシノが壁をゴンッと殴った。

 

「そんな……そんなことのために……? 私たちは……ユメ先輩は……! そんな! そんなことのためにっ!」

「ああ、解るよ。あんたがしようとしてることも……だからこそ、そんな事は大人に任せておけばいいのさ。あんたは手を汚すんじゃないよ」

「先生……本当にやるんだね?」

「実際に目的が遺跡だったら、するよ。これは狩人の領分さね……」

「そっか……信じるよ。先生の目、おじさんと同じだからさ~」

 

 ああ、ホシノ。あんたも立派な憎しみに酔った目だ。蕩けかけてるよ。

 

「今、モエに裏を取らせてる。安心しな」

「うん……でも、できたら『その時』はおじさんにもやらせて欲しいかな」

「バカを言うんじゃないよ。あんたには未来がある。若さがある。それは何にも代えがたいものさ。だから、捨て鉢になるんじゃないよ」

「……うん。努力するよ」

「そうかい……」

 

 ここで、スマホが鳴った。モエからか……丁度良いね。

 

「なんだい?」

『良いニュースと悪いニュースがあるよぉ……くひひ、これ一度は言ってみたかったんだぁ。先生、どっちから聞く?』

「悪いニュースから聞かせておくれ。急ぎなんだろう?」

『くひひ……いいよ~。小間使い部隊だけど、アジトに戻った子たちから緊急通報だね~。たぶん誘拐されたみたい』

「良いニュースは?」

『カイザーの動機、ビンゴみたいだよぉ……旧アビドス本館に採掘施設をいくつも作ってるね~オーパーツの流通もそこから少し出てるし~。意志決定の一番上はカイザー理事だねぇ……くひひ、どうする~?』

 

 ホシノが見ている。あたしは大きく息を吐き、静かにしかしはっきりと聞こえる声で言った。

 

「RABBIT小隊は今すぐ玄関に戦闘装備で集合。友軍奪還作戦を行う。急ぎな」

『了解~。くひひっ……楽しくなってきたね……』

「それから、後でも良い。カイザー理事の居所を調べて、そこまであたしを送りな。いいね」

『先生。マジでやっちゃうんだ……ゾクゾクしてきた~』

「これは遊びじゃない。気を引き締めな」

『り、了解』

 

 あたしは懐からマスクに帽子、烏羽のマントを取り出して歩きながら装備していく。

 メインに『回転ノコギリ』サブに『慈悲の刃』。銃は『獣狩りの短銃』と『ロスマリヌス』。

 さあ……獣狩りの時間さね。

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