さくっと小間使い共とついでに捕まっていたセリカを助け出して、小間使いのリーダー、白栗に車でカイザー理事の借りているアパートの近くまで送らせる。
「せ、先生……マジでやるのかよ……」
「さあね、知らない方が良いことさ。ただ一つ言うなら、シャーレはキヴォトスのどこでも承認無しで戦闘行為が許可されている。それだけさね。クックック……」
あたしは何と言うこともなく静かに、低く唸るように歌い始める。
「
「
「
少しだけ、声高に。
「
白栗が息を呑んだ。
「……ッ!」
この歌はかつてヤーナムが栄えていたころ、獣狩りを楽しむ下卑た狩人達に流行った歌だ。
だが、今夜はそれを歌いたい気分さね。
「……ついたよ。あの先だ」
「ああ、朝に迎えにきな。場所は後で指示するさね」
「……わかった」
歌いながら、夜道をゆっくりヤツの家にまで向かう。
「
玄関のガラスドアの鍵を慈悲の刃で抉り抜く。
「
警報が鳴った。足を早め、エレベーターに乗る。
「
エレベーターを降り、装備をホルスターに収める。
「
思い切りドアを叩く。
ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!
「
『なっ、何だ! 警報……くそっ、襲撃か……?』
足音が近づいてくる。あたしは『いつものように』鍵穴に火薬を注ぎ込み、マッチで火をつけた。
小さな爆発音と共に鍵が無理矢理に開く。
「
扉を開く。銃撃。骨髄の灰を弾丸に振りかけ、撃つ。
これは特別な神秘を弾丸に付与する。要はなぜか攻撃力が強くなる。
「ぐうっ!」
一瞬、弾幕が止んだ隙にあたしはロスマリヌスを噴霧しながら素早く中に入る。
これもまた神秘の霧……溶解液の類いを噴霧する霧吹きさね。
「うっ、ごほごほっ! な、何だお前は! どこの手のものだ!」
「
十分な距離に近づいたね。両手を慈悲の刃に持ち替えてまずは口を一閃。
「がっ……うぐぐぐっ!」
もう助けは呼べない。
「
「ぐううっ!」
理事が銃を撃つ。リビングの家具を吹っ飛ばしながら転がり周り、いったん距離を取る。
物陰に隠れてナイフを投げる。気を取られた一瞬に素早くステップで部屋の反対側に回り込み、また近づき、何度も体を斬り付ける。
「ひっ……ひぃっ! まへっ! まっへくれ! わらしはカイザーのりし……! 金か!? かねならある……まっへくれ……!」
「
何度も、何度も斬り付ける。深く。深く。刻み込むように。
「わっ、わかっら! アビロスのしあけのけんか!? お、おれらけのしゃない……! そ、そそのかされらんら! ほかにももっろわるいやつが!」
「
背をかがめて逃げ回る理事の背中に溜め攻撃を突き刺す。
「があっ!」
『体制を崩して』膝をつく。丁度良い位置だね。腰骨の辺りだ。
腕を腰にぶち込んで、背骨らしきモノをぶっこ抜く。
「ひっ、ひいい……ぐううううっ!! やめれ……やめれくれ……」
「……囚われるべきでない場所、知るべきでないこと。愚かな好奇には、恐ろしい死が必要なのさ……!」
「てっ、てをひく! てをひくから!! たのむ!! ……たのむ……!!」
あたしの返答は慈悲の刃の代わりに取り出した回転ノコギリだった。
これがあたしの唯一示せる慈悲だ。なんのせいで死んだかくらいは知っておくべきだろう。
おぞましい、悲鳴が響きわたった。
◇
物言わぬ理事だったものを無視して、あたしは財布の中の名刺からパソコンまで全部『懐』に詰めておく。
「共犯」がいるのならば、今夜中にそいつも『やっておく』必要がある。
その時、電話が鳴った。知らない番号だ。
「……いたずらなら、間に合ってるよ」
「……いたずらではありません。どうか、電話を切らないで下さい。単刀直入に言いましょう。私はさきほどの彼が言った協力者です」
どうやら見られていたようだね。そして、ビンゴだ。
「続けな」
「はっきりさせておきたいのですが、私たちはあなたと敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいのです。本当に」
「……それで?」
ため息が出てくるね。都合が悪くなったら命乞いかい。お前はきっと誰の命乞いも聞いてこなかっただろうに。本当に都合が良いね。
「私たちはゲマトリア。私の事は黒服とでもお呼び下さい。私たちは探求者であり、観察者であり、研究者でして……私たちと協力すれば真理と秘儀が手に入れられますよ」
こいつは殺す。今をもって絶対に殺さねばならないヤツになった。
あの街の血の医療者も同じ事を嘯いて誰も彼もめちゃくちゃにした。
害獣が……駆除するしかない。
「…………」
「……あの?」
「『神秘に見えるのは人の幸福』そう言って全てを踏みにじり、あげく何もかも巻き込んで自滅したクズ共がいた。……あんたも、何も変わりゃしない……!」
「どうやら、私は誘い方を間違えたようですね……とにかく、我々はアビドスから手を引きます。あなたとあなたの生徒にも手を出しません」
「ああそうかい。逃げるがいいさ。隠れるがいい。祈ることだね。……お前がどれだけ隠れたいと思っても、どれだけ逃げたいと思っても……あんたに死を。そうして悪夢を終わらせるのさね……クックック……!」
「あ、あくまで私たちはルールに従って」
「笑わせるね。無法者が都合が悪くなったらルールにすがるのかい……命乞いはもう少し下手に出な。まあいいさね……あんたは獣だ。この狩人狩りアイリーンがそうと言ったらそうだ。それが獣狩りの夜のルールさね……」
どうせ都合良くルールを持ち出して、相手が弱ったら破るんだろう? あたしゃ知ってるんだよ……
こいつの言うルールは結局の所弱肉強食でしかない。だったら……老い先短いババアがやるだけやってやる。
もうあんなことはゴメンだからね……
もういい、こいつから聞くことはもう何もないさね。聞いてて胸くそ悪くなるだけさ。切ろう。
「まっ、待ってください、そうです! あなたのもっと気に入らないであろ……」
「ああそうかい。獣が人間様みたいな事言ってるんじゃあないよ」
疲れたよ……そうかい、ここにもいるのかい。ああ言う奴らが……そうかい……
このババアにできる事は、一つしかないねえ……
「はあ……」
ため息は、重かった。