Eric——追放された元第一王子が如何にして英雄となり、王へと至ったのか——   作:愛織ロビンソン道真

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追放①

「エリックよ。此度の決闘の宣誓に従い、敗者であるお前の地位と権利を剥奪の上、追放刑に処す」

 

 苦々しい表情を浮かべ、ウォーケン王国の現国王であるジェームズは自らの息子にそう告げる。

 対するエリックも、何かをかみしめるような表情で自らの父に対して跪いたまま、黙ってその宣告を受け入れた。

 場所は、王都トランの中心にそびえる王城。その謁見の間である。

 ジェームズは、謁見の間のいっとう高いところに設えられた玉座に深く座りながら、息子のその様子をただただ眺めていた。額に深く刻まれたしわが苦悩にゆがむ。ジェームズとて、こんな結末など望んではいなかった。

 実の息子を追放するなど、そんなことをしたい親がどこにいるだろうか。

 深く静かにため息をつく。

 そっと、謁見の間の左隅に目を向ける。そこにはジェームズのもう一人の息子であるアスランの姿があった。

 アスランはエリック追放のきっかけとなった決闘の、ある意味原因と呼べる人物だ。彼が、追放と王位をかけた決闘をエリックに申し入れ、それをエリックが受諾した。そして行われた決闘でアスランがエリックに勝利し、結果エリックの地位の剥奪と追放が決定した。それが今回のことのあらましである。

 つまりはアスランが新たな王位継承者となったわけなのだが、だというのにアスランの表情も非常に暗く、苦々しいものであった。

 アスランにとっても、この結末は不本意なものなのだろう。

 なぜこうなったのか。

どこで間違えたのか。

 どうあればよかったのか。

 そんな思いが、ジェームズの胸中を深くかき乱す。

 重く、長い沈黙が続く。

 しかし、そうして押し黙っていたところで、もはやどうにかなることはない。すべてが遅きに失しているのだ。

 

「っ……」

 

 ジェームズの喉が、苦しそうに鳴る。それは、もう金輪際息子と呼ぶことができなくなってしまった我が子に何か言おうとして、けれども何も音にならずに。ただただむなしく吐き出されようとした空気を、飲み込む音だ。

 

「追放までの猶予は五日。それまで悔いの内容に過ごせ」

 

 ジェームズはそう言うと、再度ため息をついた後に一言、「もう行け」とエリックに退室を促す。

 エリックはゆっくりと立ち上がると、完璧な所作でお辞儀をした。それは、一朝一夕では決して身に付くことのない美しいお辞儀だった。

 やがて顔を上げたエリックはその身をやおら翻して、出口へと向かって歩き出した。

 出入り口である扉の前まで着くと、すぐ近くに控えていた近衛兵が扉を開く。そして、誰に促されるでもなくエリックは謁見の間から退室した。

 ゆっくりと閉まる扉。息子であるエリックの姿が完全に見えなくなると、ジェームズは今日何度目かもわからないため息をまたこぼした。

 

「父上」

 

 それまでずっと押し黙っていたアスランがジェームズに声をかける。

 

「その、申し訳ございません……このようなことになってしまって。それに、父上にも嫌な役割をさせてしまうことに……」

「気にするな。あれがあのようになってしまったのは、全部わしの責任じゃ。わしこそ、おぬしに不始末のつけを押し付けることになってしまった。……すまぬな」

「いえ」

 

言葉が続かない。

 

「お前も、もう行ってよいぞ。疲れただろう。」

「……は。失礼いたします」

 

 ジェームズの言葉に、アスランはそれだけ返すと足早に謁見の間から出ていった。

 後に残されたジェームズは、うつむき、瞑目し、ただただ押し黙る。

 

「わしは、どうすればよかったのだろうな……なぁ、リリーよ」

 

問いかけるようにつぶやかれたその名は、今は亡きジェームズの最初の妃の名であった。

そしてその名は、エリックの母親の名前でもあった。

 

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