守月スズミと、そう仲がいいわけでもないある生徒の話 作:ふぁっしょん
将来のことはわからない。いまどうしたいとも思わない。これまでやってきたことはつまらない。
そんな風に日々腐っていたわけだから、一日を振り返れば寂しい、侘しい、虚しい。そんな具合で気分が悪い。
今、ただ、帰路を歩いている。レンガで整えられた道をたかたか靴を鳴らしながら、呆としたまま。
歩いているだけだから特段悪いことはないけれど、いいこともないから、気分は結局悪いままで、そういう漠然とした大したことのないあれこれをへばりつかせたまま歩きたくないのに、どうしようもないから、結局今もただ、帰路を歩く。
そんな具合なのはいつもだ。いつもその、漠然とした嫌気がへばりついているわけだから、きっとしみついているんだろう。
気分がもっと悪くなるから、私は思考を打ち切った。
これもいつものことだ。
私はいつもそうだった。
賢くいれるほど根気がない。愚かでいれるほど勇気がない。どっちつかずで流されているうちに、ただ日とか月とかが過ぎたりして、その移り変わりに親しさなどは剥げてどこかに去っていった。
それで浅い仲の人々とああだこうだ、すったもんだしているうちに、また日とか月とかが過ぎた。
不安は沸々と沸いた、当然のことだ。
今なんて気が付くと過去になっているものにしがみついて、社会という大きな川の流れにのっていると、ろくなことにならない。実際もうろくな有様ではないから、これからどうなる、なんて考えると、それこそろくなものはない。
けれど、だからどうしろというのだろうか?
ふと、あたりのひとをみると、悉くが流されていた。
流されていないのは、沈んだものばかりにみえた。
この大きな流れの中に、留まるものはいないらしかった。
そういうわけだから今も流されているのは、きっと当然なのだろう、なんてことを思う。これもまた気分が悪くなることだ。
けれど、だからどうしろというのだろうか……
そんな私の耳を銃声が打った。
ついと視線が逸れて、一軒の店が目に入った。
銃弾が飛び出したのか、ガラスのパーティションがひどく砕けている。その破片が開きっぱなしの入口ドア周りできらきらと光っていて、洒落た照明だ、なんてことを思った。
興味とまではいかない、うすぼんやりとした関心が、私の足を止めた。
そのときだった。
ば、としか表現できないほどの爆音とともに、店から光がさく裂した。
ものすごい音の大きさに、思わず耳を覆う。そう近いわけでもないのに耳鳴りが残るほどの音量で、何事かと私は目を凝らした。発生源の店の窓からいくつか銃弾が飛び出していくのがみえた。
寄ると、一人のトリニティ生だけが立っていた。幾人かのスケバンらしき生徒が、その周りで拘束されている。
彼女はなにやら、スマホで作業を行っているようだった。
耳鳴りも失せていたから、彼女の声が耳に届く。
なにやらはきはきと喋っているその少女に、私ははっきりとした好奇心を抱いた。
それは彼女の恰好からだった。
どこか涼し気な印象を受ける少女である。真っ白い髪、赤い瞳と、きっちりとしたトリニティの制服。
制服からしてトリニティの生徒だ。だけれど、スケバンを懲らしめるようなトリニティ生は正義実現委員会と相場が決まっていて、そして彼女はあそこ特有の黒と赤の制服を着ていないから、どうもおかしい。
気まぐれでやったにしては、拘束の具合が手慣れている。用がないのに手錠だのなんだのを持っている生徒はそういない。
「あの」
そう声をかけると、彼女はこちらに顔を向けて、「どうされましたか」といった。
やはり整った声色である。私はそれにつられて、声を張って話し出した。
「そこを歩いていたら、音が耳に入りまして、それでこちらに来たのです。随分と手慣れたご様子ですね」
笑いかけると、彼女は少し表情を崩して、「はい、こういうことはよくやっていますから」という。
そこで奥の方から店主らしきひとがやってきたから、私は手で促した。
彼女らはあれこれ話し出す。お礼やらなにやらを聞きながら疑問を咀嚼していると、やがて話が終わった様子で、白い髪の彼女と店主らしきひとは離れた。
立って待っていた私に、彼女は不思議そうな表情で寄ってくる。
先んじて口を開いた。
「先ほど、よくやっているとのことでしたが……なにかそういう活動をされているのですか?」
そう問いかけると、笑みとともに言葉が返ってくる。
「ええ、自警団活動で巡回をしているんです」
「自警団?非公式なんですか」
「ええ、そうですよ」
私は数拍、驚きを噛み殺して、それから「詳しくお願いします」と言った。
彼女は「そう難しいことではないですよ」と前置きした。
「治安を良くしたいので、ちょっとした活動をしているだけです」
そう続けた彼女の顔をまじまじとみる。
どうやら本気でいっているらしい。
「私……」
唇から勝手にことばが漏れて、はっとして言葉を練った。
「ええと、私も参加したいんですが」
すると彼女は驚いて、なにやら困惑した様子になったから、私は矢継ぎ早に続けた。
「決して、余計なことはしません、お願いします」
少しの間のあと、返事がくる。
「もちろん、いいですよ」
そのあとあれこれ伝達があって、私はあっけなく、彼女の活動を協力することになった。
彼女の名前は、守月スズミというらしかった。