守月スズミと、そう仲がいいわけでもないある生徒の話 作:ふぁっしょん
なぜ自警団活動を始めたのか、自分でもいまいちわからないまま、日がいくつも過ぎた。
過ぎた時間が週単位になってからまた考えたけれど、やはりわからない。
そんな具合で、しかもこの活動は実に苦労するから、なんでやめようと思わないのか、これもまた疑問に思っている。
そんなことを守月スズミに語ると、ええ、と奇妙そうな表情を向けられた。
互いに巡回の休憩ということで、飲み物を片手に、街中でふたりでベンチに座っているわけだから、なにか話のタネが欲しかったのだけれど、何の気なしに出したテーマにしては妙すぎたらしい。
彼女は二の句を告げないでいるから、私はそのまま話し続けることにした。
「スズミさんには理由がありますか?これ、結構な数のひとに聞いているんですが、割と皆さん理由といえるものがあるんですよ。例えば正義実現委員会の制服が気に食わないとか、好きな時に好きなことをしたいとか」
「そう、なんですか」
「そうなんです、理由といっても根拠ってほどではない具合のやつばっかりです。それくらい緩い感覚の質問でもあります」
ぱちりと赤い瞳が瞬きをした。守月スズミはそれから髪に手をやって、「そうですね」と少し遠くを見やる。
視線の先を追うと、特に何の変哲もない街並みがあった。
今は夜間の巡回であるけれど、トリニティは流石マンモス校と称される地区なだけあって、街灯がいたるところに立っていて、明るい。それだから、どうやらなにかを見ているわけではないらしいとすぐにわかった。
しばらくの間を挟んで、彼女はいった。
「……そのほうがいいから、だと思います」
私はそれを聞いて、じっと彼女をみた。
どうやら含むものもなにもないらしい。
私はちょっと困った。
自警団活動を始めてから、そう時間が経っていない頃にはもう、守月スズミの巡回予定は把握できていた。
決して暇がないというほどでもないが、しかし大きな余暇はないといえるスケジュールが、これまでもこれからもずっと並んでいる。そういう具合である。
それはボランティアというより仕事の予定表のようだった。決して楽ではないし、楽しくもない代物だ。
それを、そのほうがいい気がするからやっている、と彼女は言っているわけで。
私は「う~ん」と唸った。
「本当に、自警団活動はそういうものだと思いますよ」
守月スズミは視線を動かさないでいる。
その先にはやはり、ただの街並みが並んでいるばかりだ。
「特に強い動機がある必要はなくて……ただ少し、なんとなくよりよくしたいという気持ちがあれば、それで充分じゃないでしょうか」
私は「そう、ですか、ね」と煮え切らない具合で返して、それから「そういうもんですかね~」といった。
それからつい、「そういうもので、いいんですかね……」という言葉が漏れた。
彼女が促すようにこちらに顔を向けるから、私はつい視線を逸らして、先ほどの彼女のように、何の変哲もない街並みをみた。ほんとうに変化のない景色だ。
自分語りをするほど勇気がないから、私はどうにか誤魔化したくて、すこし思案した。
「ええと」と前置きのように音を挟んで間を作る。
「高尚な理由、とかじゃなくて、単に……ああしたい、こうしようみたいな指針といいますか、そういうものがあるからなにかするのが、ええと……」
当たり前なのかな、というのは、なんとなく嫌だった。当たり前というほど普通というものを知らないからだ。
けれど何も思いつかないから、私はつい口を閉じた。
ちらりと守月スズミをみると、彼女はなにやら考えているらしい、また遠くを見ている。
しばらくの無言の後、ふと気になって、私は言葉を発した。
「スズミさんは、最近やりたいこととか、興味があることって、ありますか?」
彼女は少し間を空けて、こういった。
「好きなバンドの新曲が気になってます」
私はその話を深堀することにした。
それでしばらく話して、時間が過ぎて、私たちは互いの担当区域に巡回へ向かった。
そんな一日があった。