さて、とりあえずはヴァンパイア編の終幕となります!
—月崎光也—
「そういうわけで、今日から駒王学園に勤務することになったアザゼル先生だ! オカ研の顧問もするからよろしくな!」
「何がよろしくですか!?」
一旦合流でオカ研の部室に集合した俺達は、その光希のツッコミで心が一致した。
なんで堕天使総督のアザゼルがいるんですか?
真剣に首を傾げている俺だけど、アザゼル総督ははっはっはと笑っていた。
「赤龍帝に色々言っただろ? つまり「最も神器に詳しい男が指導する」って形になったのさ!」
「状況分かってます!? 今間違いなく世界的非常事態!? 呑気な事できる立場ですか!?」
光希の渾身の全力ツッコミが、アザゼル総督に叩き込まれる。
いやいや本当に落ち着こうよとは思う。
禍の団、というよりディーザストラによる国連加盟国の首都を中心とする同時多発テロにより、世界は未曽有の大混乱だ。
ほぼすべての国家は政治機能がマヒしており、更に仕込みは万全だったのか世界各国で独立運動やクーデターが勃発している。広大な国家の場合は地方が軍閥化しているなど、色々と無視できない非常事態だ。ニューヨーク{国連本部}やジュネーブ{国連の重要施設多数}も破壊されており、世界的に対応することがほぼほぼ不可能になっている。
何故か日本とイギリスはそのダメージが奇跡的に少なく政治機能がマヒしてないけど、それも雀の涙だろう。バチカンも攻撃を受けたけどこっちもしのいでいるので、世界は再び宗教を中心にまとまる可能性も高い。
その状況下で三大勢力のトップが一人を、呑気に教師に据えるのってどうなの?
「考えての一手だよ。今後の動き次第では、俺の首を斬る事態も起こるだろうしな」
さらりとそんなことを言ってきて、アザゼル総督に俺達が面食らう羽目になる。
首を斬る。多分辞職とかそういう方向だろう。ただ、異形社会って色々人間社会とずれているから極刑的な意味もあるかもしれない。
「比喩かマジかはともかく、今後はアウトな手段をとる必要もありそうだしな。なら最初っから、トップの一人ぐらいは引責で終わってもいいようにした方がいいだろ? 元々シェムハザやバラキエルの方が向いてる立場だから、絶賛引継ぎ中だ」
な、なるほど。
「つまり、前もって実態として総督の地位を移せる体制にしておくことで、いざというとき総督を引責辞任させる形でダメージを抑える準備と? そこまでのことが起きると?」
俺が何とか理解して確認すると、総督はあっさり頷いた。
「事態が事態だからな。どこの勢力も暗部はあるが、この規模だと限度もあるだろ? おそらくだが、サーゼクスやミカエルが引責辞任するよりはマシなハズだ」
そこまで考えてのことだったのか。
いや、確かに事態は世界規模だ。二度の世界大戦よりまずい事態に、速攻でなっているしね。
綺麗ごとだけでどうにかできる事態ではないだろうし、そういった手段を持ち込むことも必要なのかもしれない。
なるほど。流石に堕天使総督は無能で慣れるような手合いじゃないってことか。
「で、俺達の顧問になるのかよ。教師とかできるのか?」
イッセー君は警戒気味だけど、まぁそれは確かに。
教師としての能力といっても、堕天使の総督としての経験でカバーし切れるのだろうかとは思うね。
ただ当人は余裕そうだ。あと楽しそうだ。
「くっくっく。アザゼル先生のグレート授業で評判を上げてやるぜ。ついでに若い女子生徒も可愛がってやるかな」
「やめてください。いや、この学園なら問題にならないかもしれない気がしますけど本来フィクションでしか許されないですから」
調子に乗っている総督に、光希がため息をつきながらツッコミを入れる。
そしてその隣では、お嬢も盛大に頭を抱えていた。
「というより、どうやって滑り込んだのよ」
「ん? セラフォルーの妹に頼んだんだよ。俺が無理だった時はセラフォルーが赴任したがってるって伝えてな」
……その二択だとこうなるかぁ。
言いたくないけど、セラフォルー様の方が人間界とのTPO面ではかみ合いが悪いし。
あと今後どうなるんだろう? とりあえず教会が表に立つ形で人間社会との連携をとるらしいけど、ある程度は悪魔や堕天使とも連携をとることになるだろうし……あのスタンスは人間界だと受け付けない人が多そうだ。
どの辺りでどう連携をとるか、これが非常に重要になるだろうね。
「ま、安心しな。禍の団との戦いはディーザストラの動き次第ですぐ参加してもらうかもしれねえが、その前にしっかり強くしてやるよ」
そういうアザゼル総督……いや、アザゼル先生は、俺達の方を見回した。
「イレギュラーな禁手に至った聖魔剣や、神滅具の赤龍帝。他にもレアな使い方や能力の神器がより取り見取り。ふっふっふ、腕が成るぜ」
「変な実験とかに巻き込ませないでくださいよ? いえ、思い付きで何かしでかしかねないし」
含み笑いをしている先生に、光希がさらりと釘を刺している。
おそらく経験が豊富だったんだろうね。いやな経験が豊富だったんだろうね。
……あとで、ゆっくりお酒を酌み交わすとしよう。愚痴にもきちんと付き合えるような関係にしたいしね。
「さて、とりあえず至ってる木場に聞くが、どれだけ続けられる」
「……調子次第ですが、大体数時間です」
「短すぎるからまず伸ばせ。及第点でも数日、ヴァーリクラスに極めてるなら月単位で持続できるのが禁手ってもんだ」
即座にアドバイスを祐斗君に送っているけど、長すぎない?
禁手というのは一種の奥の手のように考えていたけど、この様子だと進化形態とみなした方がいいのかもしれないね。
呼吸のように禁手に至り続けられてこそ、正しく到達したということか。奥が深いというか道が長いというか。
ま、俺達の場合はまず至ることが先だろうけどね。
「先生! 俺も月単位でできるようにならないといけないんですか?」
「流石にそこまで求めねえがな。ヴァーリは間違いなく、現在過去どころか未来永劫最強の白龍皇になれる男だ。元の性能が違いすぎるんだから同じレベルを求めるわけにはいかねえよ」
と、イッセー君には残酷な対応。
実際ちょっと肩を落としているイッセー君だけど、アザゼル総督はポンポンと肩に手を置いて宥めている。
というか、視線はこっちの方に向いているね。
「確かに赤龍帝のお前さんは対ヴァーリが求められるだろうが、一人でやろうなんて考えんな。あいつも独自のチームを持っているようだし、主や眷属と一緒に強くなりゃいいんだよ」
「ぼ、僕も当たって砕ける覚悟でお力添えしますぅううううう! その……隠れながら!」
ギャスパー君が前向きなのか後ろ向きなのか分からない声を張り上げるけど、まぁ確かにね。
「俺も力を貸すよ。ただまぁ、時々貸してくれると助かるかな?」
実際、明日香が絡むと力を貸してほしくなりそうだし。
だから遠回しにその辺りも言ってみたけど、隣でお嬢がため息をついていた。
「それは当然よ。貴方が私達を支えるように、私達も貴方を支える。仲間というのはそういうものでしょう?」
たしなめるように言われると、確かにちょっと反省だね。
まだちょっと、ディーバギアによる鬱が治ってないかもしれない。気を持ち直さないと。
実際、今のを言われてちょっと光希も戸惑ってるし。
そんな光希と俺を交互に見たうえで、お嬢は部員全員を見渡した。
「私達もやることが多いわよ! この事態に何もしない道理はないし、白龍皇に可愛いイッセーをやらせはしない。そして地崎・明日香・ルシファーも何とかしないといけないわ」
「「「「「「はい、部長!」」」」」」
張り上げたお嬢の言葉に、イッセー君達が同じように声を張り上げて応えてくれる。
……あ、目頭が熱くなってきた。
「やばい。なんかマジで泣きそう……」
「すっごい同感……」
光希と二人でちょっと涙目になっていると、アザゼル先生も苦笑していた。
「ま、そっちについても備えはいるだろうさ。いくつか考えてるから、そこは待っとけ」
へぇ? アザゼル総督が何かしらの策を持ってるのか。
かなり気になるけど、一体なんだろうか?
いや、何かしらの道具ばかりに頼っているわけにはいかない。きちんと地力も上げておかないとね。
そう考えなおしていると、総督は何故か俺とイッセー君の方を向いていた。
「そういや、お前さん達夜伽の技術とか経験はどうなんだ?」
「「……はい?」」
思わず目が点になった。イッセー君もだけど。
何を突拍子もないことを言ってるんだこいつはとすら思ったけど、アザゼル先生はちょっと真面目な顔になった。
「いや、ハニートラップってのはあれで結構やばいからな。煩悩一直線の赤龍帝といい、下半身でやらかしている月崎といい、そういうのに慣れておいた方がいいんじゃないかと思ってな」
……言いえて妙な気がしないでもない。しないでもないけどね?
「俺も後悔してないとはいえ、女の乳で知識を教える代わりにつついて堕ちた身だ。エロには理解があるし、お前さん達なら寄ってくるいい女もゴロゴロ用意できるぜ? 女体食べまくりツアーとかどうよ?」
どうよ? どうよって……どうよ?
「マジなんですか!?」
「マジよ。そのあたりは伝承通りだわ」
イッセー君はリアスのお嬢に確認しており、そして表情が妙なことになっている。
……よし、正直に言おう。
「興味がないとは言いませんが、間に合ってるので大丈夫です!」
「間に合ってんのか。教会にハニートラップ対応部隊でもいたのかねぇ? ミカエルに聞いてみるか」
なんか申し訳ありませんミカエル様!?
というかもう読まれている!? 恐るべし慧眼……でいいのかな!?
「あとでお礼を言っとかないとね。その、会わせてくれる?」
「それでいいのかな!?」
光希もそれでいいの!? それでいいのかな!?
……とは言っても、今後を考えると会う機会はありそうだね。デュリオも面倒を見ている人達だし、俺も積極的に止める理由はないし。
というかイッセー君はもの凄い表情が乗り気だけど、飛び掛かる勢いでお嬢が頬をつねっている。あとついでにアーシアちゃんも涙目になっている。
「イッセー……? 人の貞操に口を出しておきながら、そんなことができると思ってるのかしら?」
「イッセーさん? どこかに旅立つのなら、私もご一緒させてください……っ」
「え、いや、えっと!?」
イッセー君、この期に及んで悟ってないね。
なんか無意識にブレーキかけてない? いや、こういうアプローチは意外と当事者が気づかないものだ。俺も経験があるから何も言うまい。
というか、もうグレモリー眷属全員が生暖かい雰囲気になってるし。これ多分、俺達が経験浅いだけで恒例行事になってるね。
アザゼル先生も愉快そうに笑ってるし、こっちはこっちで察しがいい。
「なるほどな! ま、歴代の二天龍もそういうところがあるっていうし、俺が突っつく必要もなかったか!」
「まぁ確かに。むしろするべきはフォローとかカバーですかね」
光希も頷いているけどまぁ確かに。
こういう関係性も甘酸っぱくていいものだ。むしろ避けるべきは、外野によってそれが犯されることや、致命的に内部から崩壊することだろう。
ほろ苦い思い出程度なら将来の思い出にできるだろう。ただ、致命的な崩壊はどうしても心に深い傷を生むからね。経験があるからよく分かる。
ことがあまりにこじれるような上手くカバーし、外から狙ってくる者がいるのならそれを排除する。そういうのが、年長者としての務めだろう。
というより、アザゼル先生は人徳というか経験がある所為か、何時の間にかどんどんと溶け込んでいる。
「……光也」
と、俺の隣で光希が小さく決意を見せていた。
「必ず、明日香に謝りましょう」
「そうだね。止めるついでにさ」
地崎明日香。俺達の大事な幼馴染。
引け目は当然のようにある。そして、止めたいと心から願うぐらいには大切に想っている。
だからこそ、必ず止める。
そして、ならもう一つもするべきだろう。そう、謝ることもしないとね。
そして、それと同じように―
「守ろう。この光景を」
「ええ、命をかけてね」
―それを導いてくれる、この光景を守りたい。
できると断言なんてできない。それぐらいには、俺も光希も自分の弱さを知っている。
そのうえで、分かったうえで、全力だけは尽くす。
……かかって来いよ、有村無涯。
俺達は、俺達にできる範囲でお前に立ち向かってやるともさ。
—Other—
一方その頃、冥界にて小さな大事件が起きていた。
小さいとは、それは世界の趨勢を左右することはない為だ。そして、冥界の趨勢を左右する事態でもない。
大きいとは、その衝撃は悪魔にとって重大だということだ。世が世なら、内乱が起きてもおかしくないような事態だった。
そしてまさにその瞬間、巨漢が一人崩れ落ちる。
崩れ落ちた理由は単純、その身を支える足を切り落とされたからだ。
既に全身が切り裂かれ、失血量が酷いのも大きい。それほどまでに、その男は瀕死の重傷を負っていた。
そして、それを成した者も決して無傷ではない。
左腕は複雑骨折で骨が見えており、体のいたるところに打撲痕が浮かんでいる。こちらもまた満身創痍と言っていい。
だがそのうえで、彼女はしっかりと立っている。右腕に持つ剣もしっかりと握り、ふらつくことなく男の首元に切っ先を突き付けていた。
「私の勝ちだ、兄上。消滅を持たぬ貴方に、バアルの長をこれ以上続けさせるわけにはいかないのでね」
「……俺の負けか。残念だ」
血を吐きながら、男は女の勝利と己の敗北を受け入れる。
かつて己がしたことをされる側に回った。本質的にはただそれだけだろう。
だが、同時に男にとってはそれ以上の打撃となるだろう。
「ヴァプラには既に話は通している。本来は取った方が将来的にはやりようがあった選択肢を、父上に代わり貴方になそう」
息を吐き、女はそれを宣言する。
「私、バアル次期当主ナーダレイア・バアルは此処に、実兄サイラオーグをバアル家より追放することを宣言する! サイラオーグ・ヴァプラとすることに異論ある者は名乗り出よ!!」
吠える彼女に対し、反論する者は皆無。
それどころか見届けた者達からは拍手喝采が鳴り響き、この結末が大歓迎されていることが示される。
それに対し、ナーダレイアと名乗った少女は嘆息一つ。そのうえで、サイラオーグに憐憫が籠った視線を向ける。
「最初からヴァプラにすり寄ることを選ぶべきだったのだ。この連中の中に居て、貴方に益があるわけなかろうに」
どこか残念そうにそう告げたうえで、ナーダレイアはサイラオーグと呼んだ男に背を向ける。
「ヴァプラとして、魔王派の一人として大王派に挑むといい。それが貴殿にとって都合のいい人生だ」
「そうさせてもらおう。そして、俺は俺のような者が生まれぬ冥界を作る」
そう返すにサイラオーグに、ナーダレイアは小さく微笑む。
「安心しろ。私もそれはさせないとも。……貴族の名を汚す無能は排除し、価値ある者を新たな貴族に迎え入れるべきなのは事実だしな」
この日、大王派の若手達はその多くが一致団結することになる。
グランド・ノウブル。その名を掲げる大王派の若き派閥は、四人の若手上級悪魔を筆頭として動き出す。
その筆頭、バアル本家にて妾の子として生まれた女傑。名をナーダレイア・バアル。
彼女の最初の偉業は、無能の次期当主サイラオーグ・バアルを死闘の末にヴァプラに押し付けることから始まったのだ
はーい。そんなこんなでグレン×グレン恒例「強い大王派」となっております!
さて、ヘルキャット編からもいろいろと動きますよ~?