それはそれとして衝撃の展開で終わった前話。そこからの続きになっております!
—月崎光也—
会合が終わってから、お嬢は俺と光希を気遣って、下層階にあるカフェテリアで休憩を取らせてくれた。
本来は完全予約制だけど、ちょっとしたフォローがあって予約されてない部屋を取れた形になる。
その分、ちょっと人が多いけどね。
「眷属は帰らせた。それと、縁を断たれたとはいえ妹がすまんな」
「いえ、こちらの発言が利用された形です。私にも責任はありますね」
サイラオーグ殿とソーナ殿が、気遣ってくれた形になる。
いやまぁ、だいぶ来たけどだいぶ落ち着いたよ。
「申し訳ありません。その、こちらにも色々ありまして……」
俺は謝るけど、本当にとんでもない事態になった。
もっと早くに伝えるべきだった。いや、上層部には伝えてはいるんだけど、この流れは想定外というかなんというか。
……光希と明日香は、このご時世の日本では珍しいことに五人家族。光希は功希さんと達希君がいて、逆に明日香は三人姉妹の次女だったりする。ちなみに年齢は奇跡的に五年ごとにずれているという何の偶然というかなんというか。
いやまぁ、明日香がルシファーの先祖返りなら、夜明ちゃんもそうなる可能性はあるよね。となると、夜露さんも?
いやもうどっから答えればいいのか。
「どうしましょう、お嬢。これ腹切って詫びた方がいいのでは?」
「落ち着きなさい。とはいえ、流石にこの流れは想定外ね」
弱音を吐いた俺をたしなめながら、お嬢はため息をついている。
まぁそうだね。
政治的には対立している魔王派の若手筆頭だろうお嬢こと、リアス・グレモリー。そんな対立側の大王派若手筆頭だろう、バアル次期当主ナーダレイア・バアル。
そんなナーダレイアの眷属に、寄りにもよって夜明ちゃんが属している。
……胃が痛い。本当に痛い。
「……その、光希。実は怖くて深入りしてないんだけど……明日香がいなくなった後の地崎の小父さん小母さんって、離婚したんだよね?」
俺は、それを口にするだけでも吐きそうになる。
そして光希も、顔色を青くしながら頷いた。
「うん。元々、有村が家庭教師になったのって小母さんのミスだったらしいの。小父さんは女の人にしたがってたけど、小母さんはまぁいいかって感じだったらしくて」
ああ、そういうことか。
吐きそうになるのを抑えながら無言で促すと、光希は深呼吸をしてから更に続ける。
「……アンタの失踪でうちの両親や兄さんが何かあったんじゃないかって感じで、色々調べてたらしくてね。多分勘づいた有村は、今教会と一戦交えることを避ける為に逃げる事をと考えたんでしょうね。ただタイミングがいいのか悪いのか、私はその前で食中毒で緊急入院してたから、有村も切ったんでしょうね……もしくは、明日香の方が付いて行くことを選んだか」
そう言い切ってから、光希は大きく息を吐いた。
見るからに嫌な汗を浮かべている。これ以上は聞かない方がいいだろう。
「ありがとう。嫌なこと思い出させたね」
「いいわよ。この辺りまでしか知らないし、私の罪でもあるんだし」
そう言ってくれるのはありがたい。ただ、それに甘えるわけにもいかない。
後で調べ直すとして、問題はそこから先なんだろうけどね。
そう思っていたけど、お嬢がそこで息を吐いた。
「これを聞かせるのは後にするべきだと思ったけど、一応功希大司教から地崎明日香の件については教えてもらっていたわ」
そう言ったお嬢は、魔方陣で紙の束を取り出すと、俺達に渡してくれる。
俺は自分の分を確認するけど、これは色々ときついらしいね。
失踪が発覚するまで、地崎家は有村の悪行とかについては全く気付いていなかったらしい。そして俺の失踪に続いて明日香まで失踪して、続けて有村とも連絡が取れなくなった。そりゃ地崎家も調べるだろうし、功希さん達もコネである程度探っていたようだ。
結果、有村無涯という名前の男は実在して東大に籍を置いているけれど、そいつは偽物だということが判明。実在の人物は東大受験に失敗しており、金で名前などを貸し、東大合格及び卒業の箔をつけた状態で返してもらう予定だったという流れらしい。
それが判明したことで、地崎家はそれはもう荒れたらしい。小父さんと小母さんは大喧嘩の末、一歩間違えれば警察沙汰になっていたところを月宮一家がとりなして、協議離婚。同時にある程度の真相を知った功希さん達は光希を修道院に入れて性根を鍛え直そうとしたけど、地崎家のフォロー中なこともあって手抜かりがあり、衝動的に光希が失踪してしまったと。
そして離婚後、家族はどうやら散り散りになったらしい。小父さんと小母さんはその心の傷からくる反動もあり、とっくの昔に再婚し、子供もできているとか。
ただ、明日香の妹である夜明ちゃんに、姉である夜露さんは消息不明。二人ともショックが大きかったようで、夜露さんは海外に渡ってからの行方が掴めず、夜明ちゃんも親戚に引き取られたが悪魔側の縄張りだったことで目が届かなくなったうちに行方知れずになったそうだ。
……ただし、そこを当時縄張りにしていたのが大王バアル家の者だということだ。
「サイラオーグに頼もうかとも思っていたけれど……ね。先手を打たれたわけじゃないけれど、こうなると失態に感じるわね」
「お前が気にすることではない。俺があのタイミングで追放されていなければ、もう少し早く知れたことだろう。……もっとも、ナーダレイアの眷属になっている以上は下手な手は打てんがな」
お嬢もサイラオーグ殿もすまなそうにしているけど、そんなことはない。
こういう言い方はあれだけど、二人とも権限の範囲内で動いてくれたわけだしね。むしろ下僕の為にそこまで動いてくれたお嬢には感謝しかない。
第一、眷属関連においてはお嬢やサイラオーグ殿で強引に対応することも難しいだろう。最悪数年前から眷属になっている可能性だってあるし、やろうと思ってもできないってことだってあるんだから。
と、いうかだ。
「この件に関して、お二人に責任なんてないですから。気にしないでください」
二人とも、ほぼほぼ無関係といえるしね。
だからはっきり言っておく。この件においては二人に責任はなければ、そもそも二人が動く理由だってほぼないと言っていい。
なので、正直俺としても恐縮しっぱなしだよ。
「そうです。この件に限定すれば有村が主体で、私が共犯者ってところですから。むしろそんなのを眷属にして苦労するだろうお嬢に私が謝らないと」
光希もそこはしっかり分かっている。だからちゃんと口にしてくれている。
とはいえ、これはややこしいことになるかもしれないね。
「ナーダレイアは領民からの評判も良いと聞いております。貴族主義で上から目線ですが、領民から過度の重税を課したりはせず、税を集める際も人間界から専門家を探し出して特別講師にすることで税のもととなる民の収入を増やす策をまず取っていますからね」
「そうだな。奴は公明正大で、少なくとも無能な貴族より有能な下民を重宝する。態々眷属にしたのなら、少なくとも虐待のようなことはするまい」
ソーナ殿の情報からくる判断と、サイラオーグ殿の直接見たことからくる意見もある。なら、まぁ大丈夫かな?
「でも、大王派が魔王血族を抱えてるってやばいですよね? セラフォルー様達に政治的に色々ありそうですし」
「確かにそうね。大王派も魔王派も対禍の団や和平主体の動きは一致しているし、このタイミングで無駄に内輪もめをする愚は犯さない。ただ、政治的に色々と対立しているのは事実だもの」
匙君が首を捻っていると、お嬢もそこは納得していた。
まぁ、大王派のスタンスって「変えれるところは変えてもいいけど、基本的に家柄重視」だろうしね。
ミカエル様からすると、やっぱり魔王派が主導権を握ってほしいみたいだけど、積極的な人工授精とそれによる出産に限定した子供手当により、民衆からの支持率を少しは奪っているみたいだ。……まぁ、その分若干増税しているみたいだから、人工授精を敬遠している層の支持率がちょっと減っている場合もあるようだけど。
……ただ、出生率の低さによる種の存続。これに対する明確な打開策を取ったのは大きい。辣腕だしリスクも懸念点もあるだろうけど、成功するとこういう時大きいだろうしね。
はぁ。世の中はやっぱり、いいことばかりになるわけがない。
ちょっと前向きに向き合おうと思ったけれど、やはりこういうのを聞くと頭が痛くなるね。
「……一応言っておくけど、これに関しては光也は何も悪くないわよ。私は有村が明日香に何してるか知ってて黙ってたから糾弾されるだろうけど」
光希はそう言ってくれるけど、でもね。
「夜明ちゃんとは遊びに行った時によく話してたからね。気にはするよ」
ああ、本当にね。
「……事情は知らんが、お前達にとって無視できぬ者達のようだな。それに、業も背負っていると見える」
サイラオーグ殿はそう言うと、自分の拳を見つめながら息をついた。
「俺も、多少なりとも業を自ら背負った身だ。だからこそ、一つだけ言えることはある」
「そうですか? 俺達の場合、自業自得だし確実に悪行なんですけど」
俺は真剣にその辺りを指摘するけど、サイラオーグ殿は真正面から俺達を見て首を横に振った。
「いや、背負う覚悟を今は持っているということだ。そして、そういう者達のことは嫌いではない」
……ちょっと返答に困るね。
光希はなんというか、複雑そうな表情だし。
「だとするなら、もう少しリアスを頼るといい。お前達のような者を見捨てるほど、冷血な女ではないぞ?」
「当然でしょう? 二人は私の可愛い下僕、明日香の件も含めて面倒見るわよ」
お嬢も胸を張って宣言するけど、そう言われるとちょっとその……ね?
思わず視線を逸らすと、イッセー君が拳を握ってこっちを見ていた。
「もちろん俺も手伝います! ま、馬鹿なんで何ができるかも分かりませんけど!!」
……ぉお~う。
「これは、中々気恥ずかしいね?」
「同感。ま、それだけの厚意には答えないとね」
お互い、流石にちょっと照れ笑いをしちゃったね。
—月宮光希—
夜、帰ってきたグレモリーの城。そこで私達は風呂に入っている。
湯船にしっかりつかる風呂文化は、決して世界全部の風呂文化ではない。ただし、このグレモリーでは湯船にしっかりつかるタイプの風呂文化がある。
それも、露天風呂。
「……あ~……っ」
おっさんみたいに声出すけど、割と真剣に染み渡る~……。
そういえば、家を出てからは基本的にシャワー中心だったわ。そうでなくても長風呂は避けて、その分浮いた時間で自己研鑽してたし。
お風呂、気持ちいぃ~……。
「あらあら。アーシアちゃんも少しずつ成長してきてますわね」
「あ、朱乃さん!? その、揉まないでください!」
「……いえ、本当に大きくなっているわね。悪魔は体格が変えられるものだけど、そういう意味だと才能があるのかしら……?」
……すいません。何やってんですか?
「あの三人とも~? 多分男衆も、隣にいるんですよ?」
聞こえてたらどうするのかしらね。
年頃の男は興味津々でガン見ならぬガン聴するか、照れくさくなって動揺するかの二択が多いでしょうけど。
とりあえずイッセーは前者ね。あいつは絶対にガチの顔になって聞こうとする。
「いいじゃない。というより、
「は、はい! 一緒に入るお風呂は楽しいです!」
……お嬢にアーシア。なんでそれでいまだイッセーが童貞のままなのかしら?
やはりこれは取り合いかしら。一度完全にじゃんけん大会でもして順番を作ってやるべきかしらね。
あとお嬢。それとなく二人の部分を強調したわね。朱乃に対してマウントとっちゃってまぁ。
「うふふ。帰ってからは私も一人でイッセー君と一緒のお風呂ですわ♪」
そして朱乃は朱乃で対抗心バリバリ。
イッセーも大変ね。というか、数日前のグレモリーご夫妻のあの言い回しや教育担当の若様発言で気づいた方がいいわよ。
なんかトラウマでもあるのかしらね。まぁ、あのスケベ根性暴発具合から察するにこっぴどく毛嫌いされたりしててもおかしくないけれど。
あ~でも、温泉気持ちぃ~。
なんか心が洗われるわ~。人間、心にゆとりを持つ努力は必要だってことかしらね。私悪魔だけど。
と、思った時だ。
「覗きなんて三流行為を耐える暇があるなら、混浴だぞイッセー!!」
バカ総督の馬鹿丸出しの声が聞こえた。
そして数秒後、イッセーが落ちてきた。
………。
「光也~? 総督拘束しといてー。あとでシメるからー!」
「分かったー!」
「分かるな!? いや、その大型ハンマーはなんだぁああああああ!?」
とりあえず、総督の拘束は光也に任せましょう。
さて、イッセーが変な暴走をしないように見張っておかないとまずいわね。
いや、女性陣が暴走する可能性の方が大きいかしらね。
「はいはい一旦全員落ち着きましょうねー。小猫辺りを気にしてあげましょうね~」
私は素早くタオルをイッセーの目元に巻き、とりあえず視界を塞いでおく。
「す、すんません光希さん!? あと光希さんは大丈夫なんですか!?」
「私が今まで何十人の欲の皮突っ張った男に裸見られて抱かれたと思ってんのよ……いや、百人超えてるわね」
数年間売春で食ってきたからね。それなりの経験値は積んでいるわ。
ま、そういうわけだからこういう青春はちょっと目の毒かもしれないわね。
そう思いながら苦笑してると、視界の隅に小猫が見えた。
……なんというか、様子がおかしいわね。
普段なら即座にイッセーを張り倒しているでしょうに、心ここにあらず。
……後でそれとなく探ってみるべきかしらね。
—木場祐斗—
温泉を堪能した翌日、僕達はジャージ姿で外に出ていた。
向き合う形になっているのはアザゼル先生だ。ちなみにところどころ切り傷がついているけど、あの後光希さんから逃げ切ったらしい。流石というべきかこの人は……というべきか
「さて! 本当なら「当分大人に任せろ」って言いたいところだが、状況が状況だ! お前達も近いうちに戦場に出るかもしれないからこそ、俺が先生としてしっかり鍛えてやる!!」
声を張り上げる先生は、そのうえで僕らを見渡した。
「基本的には将来性を見越した訓練だが、お前達がこれから本当に強くなる為には必要な訓練だ。身もふたもないことを言うが、お前さん達は粒揃いの原石が殆どだということを忘れるなよ?」
粒揃いか。
確かに、僕達は優秀な才覚を持っているだろう。そうでなければ、次期当主とは言え会議に呼ばれるわけがない。
そしてそのうえで、先生はリアス部長の方を向いた。
「まずリアス。お前はほっといても確実に最上級悪魔にはなれるだろう才覚だ。はっきり言って特別なトレーニングを積む必要はない」
「褒められて悪い気はしないわ。だけど、いつか強くなるじゃとても満足できないわね」
そうはっきりと返すリアス部長に、アザゼル先生は頷いた。
「確かにな。だが同時に、お前さんはそれで一つ見落としているものがある」
そう告げた先生は、指を一本立てる。
「お前さんは王だ。身もふたもないことを言えば指揮官であり、眷属を
そう言いながら、先生は何時の間にかたくさんの本を出している。
一部の表紙が見えるけど、レーティングゲームの資料みたいだね。
「お前はゲームを学び、戦を学べ。忘れるな、お前は一人の戦士ではなく、一人の王だってことをな」
「……一理あるわね。ええ、そうさせてもらうわ」
その言葉を聞いて、アザゼル先生は満足げに頷いた。
そして今度は光希さんの方を向いた。
「光希。お前ははっきり言って、今到達できる最高水準に既に到達している」
……中々に厳しいことを言うね。
今到達できる最高水準。つまるところ、彼女はこれから地力を上げる以上の成長がない。
アドバイスできるだけの隙が手抜かりがないのは良い事だ。だけど同時に、地崎明日香の件で強くなろうとしている時に分かりやすい成長の仕方がないことを意味しているだろう。
光希さんは分かっていたようで、少しへこみ気味だけどそこまででもない。むしろ光也さんが凄く気づかわし気な表情だ。
「分かってるわよ。聖剣が使える程度の凡才なのは自分でも―」
「―そうじゃねえ」
と、自嘲気味な光希さんの言葉を先生は遮った。
「俺の基本的な指導方針は「自分自身の力をまず伸ばす」ことを大前提にしている。最後に頼れるのは自分だけ。その自分自身に最大の信頼を置けない奴に本当の強さは宿らねえ」
そう言い切った先生は、そのうえでため息をつく。
「ま、神の子を見張る者の堕天使にも摘出した神器を植え付けてパワーアップ~……って奴は多いがな。移植したから使いこなせるほど神器は単純じゃねえし、逆に自分自身の力に有害なケースも多い。俺の人工神器やお前の拡張型も、個人専用のオーダーメイドだから形になってるようなもんだ」
本当にため息をつきたかったのか、先生は更にため息をついた。
「強くなりたいならまずは、自分自身を見つめ直して己の力を伸ばすべきだ。その点で言うなら、お前はリアス以上に満点を取っている。……上乗せをするのは、今からだ」
その言い方に、光希さんは勿論僕達も戦慄した。
逆だ。先生は更なる上乗せをする段階に入っていると、光希さんをこの上なく評価している。
優秀な自分でい続けようとして、それができずに道を踏み外した光希さん。だが同時に、彼女は「自分にできる強さ」を最もモノにしていると褒められた。
その心中は察し切れない。ただ、何か感じ入る者があったのは事実だろう。
小さく、肩が震えていた。
「……貴方みたいな先達に、さっさと教えを請えばよかったわね」
「敬うがいい! ……ま、だからこそだ」
得意げな表情を消し、アザゼル先生は光希さんを真っ直ぐに見つめる。
「お前の理想は禁手の到達。だがそれと並行しての基礎トレーニングに、拡張型人工神器の更なる増強を試みる。一旦神の子を見張る者の本部に行け。そこから探るぞ」
「はい!!」
少し、雰囲気が明るくなった気がするね。
「……うぅ……よかったね……」
そして光也さんが男泣きしている! 感動している!?
「ちょっ!? そこまで泣かなくてもいいじゃない!? それにこれからだし!?」
光希さんも思わず驚ているけど、そこで先生が手を鳴らして意識を引き戻す。
「んじゃ、そこで号泣している光也。お前さんの場合だ」
と、先生は感心しているような呆れているような顔つきになった。
「お前さんは逆に邪道を極めてるな。創造系神器は基本的に、その多様性を中心とした手数こそが真骨頂。それを同一規格の大量生産による物量という一点特化に仕立てている」
まぁ確かに、そこはもう反論の余地もないね。
実際創造系神器で「種類を極限まで絞って大量に作って圧殺」という戦術は邪道だよね。身もふたもないことを言うと、創造系神器という点では僕の方が王道に近い使い方なのは断言できる。
ただ、光也さんはちょっとむっとしていた。
「……お言葉ですが、多種多様な手札は適切な手札を瞬時に取捨選択できる奴が持ってこそです。即座にいくらでも作れる点を生かした物量戦術は一つの回答では?」
光也さんはそう反論する。
確かにそれはそうだ。
言いたくないけれど、創造系神器は基本的に玄人向けだろう。多種多様な手札を用意しても、有効でない手札を切ってしまえばその強みは全く生かせない。
そういう意味では、一瞬のスキが命取りになる戦闘という土俵では使いづらいだろう。その観点からすると、そもそも手札を可能な限り絞るというのは理にはかなっている。
「確かにそうだし、事実ヴァーリやコカビエルに通用するだけの成果を上げてることも事実。だが、今のままではいずれ頭打ちになるだろう」
先生はある程度理解を示しつつも、結構バッサリと言い切った。
「というより、戦闘の殆どをハンマーとジャベリンでどうにかするのはシンプルすぎだぞ? その手の武器はどうしても、でかさと重さが徒になって隙があるからな。物量でカバーすること前提で威力重視なんだろうが、同時に物量が無けりゃぁコカビエルやヴァーリには通用しない荒さがあるってのを忘れるな」
確かに、手札をかなり切り詰めすぎているのは事実だね。
「第一だ。ヴァーリにキレた勢いだけで即興到達できるほど、龍殺しは簡単に到達できやしねえ。神殺しと同レベルで、創造系神器でも難易度の高い領域だ。そのセンスとポテンシャルを邪道に拘って殺しすぎりゃぁ、ここから先の成長は望めねえ。……と、いうわけでだ」
そう言いながら、先生は一冊の同人誌のような本を取り出すと、それを光也さんに押し付ける。
「とりあえず、神の子を見張る者と縁があった
「なるほど。とりあえず、一通り作れるようになっておきます」
光也さんは本を確認しながら、とりあえず納得したようで頷いた。
そして次に、僕の方に視線が向く。
「お前さんは前にも言ったが、禁手の持続時間を伸ばしていけ。数日は使えるようにならなきゃ、ヴァーリからイッセーを守ろうなんて夢もまた夢だ」
「はい。剣術は師匠に頼み、一から見直すことにします」
こと剣に限定すれば、師匠は先生より遥かに上の高みにいる。
奇跡ともいえるイレギュラーな禁手。それが聖魔剣だ。
これを高めれば、イッセー君を守ることもできるようになる。僕はまずここからだろう。
「そしてギャスパー。お前さんは……とにかくその対人恐怖症を克服しろ。いろんな意味でまずそこからだ」
「はぁああああああああはいあいいいいいいいい!? が、頑張りますぅ!?」
「……本当にな? お前、才能だけなら多分リアスやイッセーより上だからな? プランは立てたから少しずつこなしていけよな?」
ギャスパー君はそういう流れか。
まぁ確かに、強くなるとか以前にこれ話した方がいいよね?
「そしてアーシア。お前さんは回復能力の拡張だ。回復力は既に確認されている聖母の微笑保有者でもピカイチだから、そいつらの一部ができた回復
先生の言葉に、僕達も目を見開いた。
アーシアさんの治癒の力は凄まじい。触れただけでほぼ致命傷といえる傷すら治癒できる。
だけど、先生は回復範囲といった。つまり、離れた相手にも治癒を届かせることができるということだ。
それができるようになれば、安全圏から戦闘中の味方に回復ができる。もしくは、同時に負傷した者達をまとめて治癒することもできるだろう。
凄まじい力だ。これはできるに越したことはない。
「んでイッセーだが、サーゼクスに頼んだ専属コーチが来てないから後回し。……朱乃と小猫、お前達に言えることは同じだからまとめて言うぞ」
その言葉に、朱乃さんと小猫ちゃんはそれぞれ対照的な反応だった。
あからさまに不満が見える朱乃さんに、意気込みがここからでも分かる小猫ちゃん。
最近悩みがちだった小猫ちゃんは、きっと強くなりたいという願望が強いのだろう。
逆に堕天使嫌いの朱乃さんは、堕天使総督であるアザゼル先生に教えを乞うことそのものが不満と見える。
その二人に対し、先生ははっきりと言い切った。
「自分の血を受け入れろ。その第一歩すら踏み出してない奴が強くなろうなんざ、千年早い」
「「……っ!?」」
明らかに不満が見える表情になる二人だけど、先生はバッサリと切り捨てるように言い切った。
「リアスのところに張ったばかりの奴は知らねえかもしれないから言っておく。朱乃は
あけすけに内情を語られた朱乃さんの雰囲気が厳しくなるけど、先生は意に介さない。
「そして小猫は妖怪。猫又の希少種であり、本来仙人でもないと使えない仙術すら扱うことができる猫魈というレア種族だ」
来歴を語られた小猫ちゃんは、明らかに意気消沈している。
……二人はその辺りで思うところがあるのは知っている。ただ、先生は分かったうえで容赦しない。
「自分を否定している奴が強くなりたいなんざ甘えでしかねえ。お前達が強さを求めてるなら、弱くしている自己否定を克服しろ。話はそこからだ!!」
厳しいことを言っているね。
ただ同時に、正論であることもまた事実だ。
先生もそれが分かっているからこそ、厳しいことを言っているんだろう。
リアス部長も分かっているからこそ、反論もフォローもしないで黙して聞いている。
……ふと、空が暗くなったような気がした。
「お、来たようだな」
先生が上機嫌になりながら上を見上げたので、僕達も上を見上げる。
……そこには、凄まじいお方が飛んでいた。
『まったく。まさか堕天使総督をグレモリー本城の前で見ることになるとはな』
呆れた声を投げかけるのは、人型の巨大なドラゴン。
最上級悪魔タンニーン様。かつて龍王の一角だった、伝説の最上級悪魔が降り立った。
「イッセー、こいつがお前の専属コーチだ」
「……はい!?」
あぁ、イッセー君のコーチって彼なんだ。
……大盤振る舞いだね!?
アザゼル的に光希は「できることはほぼほぼやっているので、ここからは上乗せを試みてもいいだろう」といったところ。基礎がかなり万全で、自分の力を伸ばせるだけ伸ばしているといったところです。
この時系列だと禁手は「到達することが偉業」な時期ですからね。到達できないことそのものは悪くはないのです。
逆に光也の場合は「邪道一本なので、正道にも慣れておく」といったところでしょう。
「取捨選択の手間とリスク」を避けるために「徹底的な物量戦術」に割り振っているのが光也。ただしかなり早い段階からそっちに舵を切っているため、「お前もうちょっと取捨選択できるだろうし、とりあえず一旦正道を試そうか」的な感じです!