そういうわけで、今回も投稿です!!
—兵藤一誠—
俺は今、山の中で走っている。
この生活を……もとい、特訓を始めてから一週間くらいかな。嫌でも慣れた。慣れないとやってられない。
息を切らしながらも走る速度は落とさない。それぐらいはできるようになってるし、比較的楽に走れるようになったとも思う。
そして俺は全力疾走。……いや、死力を尽くして走っている。
だって―
「止まったら死ぬぅううううううううっ!?」
『逃げるだけじゃない、反撃もして見せろ!!』
―後ろで攻撃までしてくるタンニーンのおっさんに追いかけられてるから!
ちょっと待ってください!? 伝説のドラゴンで、その中でも指折りレベルのやばい人ですよねあんた!?
ハーレム王を目指して上級悪魔を目指す俺にとって、ある意味目標にはなるよな。ハーレムを作ってるライザーとは別の意味、ドラゴンが昇格したって意味では。
あと俺の籠手に宿ってるドライグ達二天龍は、更にその上を行くらしいし。つまり、俺も籠手が持つ本来の力を発揮できれば最上級悪魔になれるって考えてもいいだろ。
でもその前に死ぬ!? 寝ても覚めても時折強襲してくるタンニーンのおっさんにしごかれて数日。俺は命を危険を感じっぱなしだ!?
「助けてくれぇえええええええええっ!?」
誰もいない山で届くわけがないけど、俺は弱音を吐くしかない。
とりあえず言わせてくれてもいいよね? だって、それぐらいはしないとやってられないし!?
うわぁあああああ! パワーだけなら魔王クラスのおっさんのブレスが迫るぅうううう!? 隕石の直撃に匹敵するとかいう炎がせまるぅうううううう!?
マジで死ぬぅうううううう!?
でも頑張れ。一生懸命頑張れ!
俺は自分を奮い立たせて、一生懸命走る。
「み、皆だって、同じぐらい大変な目に合ってるんだからぁああああ!」
「あ、御免。多分生活環境は全然違うよ。拠点貰ってるし」
あ、そうなんですか光也さん。
え~。俺も生活環境はマシになってほしいなぁ。
だって、俺、野宿しながらサバイバル生活だってしてるんだぜ?
たまたま拾った鍋を使って煮沸消毒して飲み水を確保。寝る時はでかい葉っぱを布団にして眠るし、時々おっさんが夜襲を仕掛けてくる。食べ物に至っては一生懸命頑張って野生動物を飼ったり魚を捕まえて、おっさんに食べられるかどうか確認。特訓で真っ先にドラゴンが吐く炎を出せるようになってるから焼けるけど、そうじゃないなら生で食う羽目になっていた。
まともな、まともな生活拠点が欲しい!?
……ってあれ?
「光也さん!?」
今更気づいたけど、そこには光也さんが荷物を抱えて並走していた。
……よし、光也さんだな。
「女子メンバーじゃないし妄想じゃないな。服だって着てるし」
「相当追い詰められてるね。念の為に来てよかったかな?」
光也さんに苦笑いされたよ。
いや、ジャージのまま連れてこられたから娯楽もなくって。女の子達の裸を妄想するぐらいしか楽しみがないし。
既に時々、タンニーンのおっさんから逃げ回っている時でも裸のリアス部長達が俺に話しかけてくる。自分でも病気だと思う。
そんな生活をしているからか、一つ強い想いが生まれてるぐらいでさぁ。
「光也さん。女の子達のおっぱいと、話したいって思ったことありませんか?」
「タンニーン殿!? イッセー君、かぁなぁりぃやばいのでちょっと休憩! 安らぎを、安らぎを彼に!!」
ひでえ!?
っていうか、よそ見しながら走ると危ない……って躓いた!?
「おっと」
と思ったら、背中から倒れながらバク転するみたいに飛び跳ねた。後ろ手で河原に手を置いて跳ね上がってるよ。
そのまま飛び上がった光也さんは、落下軌道上にあった木の枝を足で軽くけるようにしていなしてあっさりと着地した。
……凄い。え、マジで凄い。
『ほぅ? まるで軽業師だな。しかもその流れで走れるのか』
「人間界ではパルクールとかフリーランニングって呼ばれている技術です。見てて格好いいのでカッコつけてばかりだった中学高校でよく練習してまして」
タンニーンのおっさんに光也さんは苦笑しながら説明するけど、マジでかっこいいな。
こういう特技があった方が、女子にもてるんじゃないだろうか。俺もギターとかやってみるべきか……?
そう思ってると、光也さんは並走しながら器用に背負った荷物を下ろし始めている。
「ま、この業界に入ってから半年足らずでここまで大変な目に合ってるしね。ちょっとはご褒美があった方がいいでしょ?」
—月崎光也—
よし、色々いい感じにできた。
まず、イッセー君が特訓している間に事前に準備していた生活拠点のチェック。
お嬢から許可をもらったうえで、土を掘って石も設置した竈を設営。鍋も設置しやすいように木々も使って仕立てた逸品だ。
加えて少し離れたところにはトイレも設営。土を掘って作った穴で処理し、掘って置いた土に匂い消し用として近辺で採取した香草を混ぜ込んだものを上からかける仕組み。紙に関しては分解されやすいのを準備済みだ。
更に遠く離れたところに、簡易シャワーを設置。間仕切りに包まれたところで穴を空けた木桶にお湯を入れて吊るす……といった程度だけどね。ちなみに沸いたお湯と水の配分を刻んで分かるようにした別の木桶も設置しているので分かり易いはずだ。
眠るところに関しては夜襲されるそうなので断念。ただ、イッセー君が適当に見繕った物よりは使えそうな葉っぱの位置を確認している。敷布団代わりに使っている葉っぱの下に敷いてクッション代わりにできる小さめの葉っぱの位置も把握したから、後でしっかり教えておこう。
と、いうわけで。
「美味しいかな?」
「美味いです。……いや、本当に美味いけど……文明の味が……久しぶりで……っ」
相当キテるね。
『ふむ。この場の簡単なものでよくもまぁこれだけのものを』
タンニーン殿にも堪能してもらっているのは、ここでとれた川魚の香草焼。
あとイッセー君には持ち込んだ食材も使ったスープパスタを追加だ。我ながらよくできたと思ってるよ。
「実は一人でキャンプをするのが趣味{2013年ではソロキャンプはどちらかといえばマイナー側}でして。アウトドア料理にはそれなりに長けてる自信があります」
うん。自分で言えるぐらいにはどっちもいい感じだ。出来がいい料理は気分を良くするね。
「あと、常時いさせるわけじゃないのでこの拠点は壊さないでくださいね? 心のうるおいは大事なので」
『まぁいいだろう。というより、至れり尽くせりだな』
感心されているけどまぁ、これぐらいわね。
「ふふっ。カッコつけてばかりの時期は、やるならガチの山の中とかやっていたもので。そのうえで居心地がいいキャンプを求めるとこんな感じに」
「凄いっす! いや、カッコつけてるとかじゃなくカッコいいです!!」
イッセー君に褒められると悪い気がしないね。彼は真っ直ぐだから心に刺さるよ。
ま、おかげでこっちもだいぶ何とかなっているけどね。
「そういや、光也さんの修業はどんな感じですか?」
ま、お互い気になるよね。
イッセー君は本当に大変だけど。龍王にマンツーマンでシゴかれるとか、上手く加減されてないと心が折れると思うよ。
そういう意味だと、俺は気が楽だ。
「とりあえず、一通り試してみたよ。あとは一つずつ出来をよくする形でいって、並行してトレーニングもね」
周辺被害の大きい武装もあるから、俺もお嬢に頼んで山を一つ借りている。
もっとも、物資調達も考えて人里との距離は考えてるけどね。悪魔の翼で飛行する練習も兼ねて頑張ってるよ。
で、生活拠点は一通り何とかできたからイッセー君の様子を見に来た。その結果がこれだ。
……お嬢、もう少しトレーニングにも福利厚生を入れてあげてください。あとでそれとなく伝えて、トレーニング用の設備を整えた山でも用意させた方がいいって言っておこう。
「あ、イッセー君。一応冥界の本屋で食用薬用の野草について書かれた本とか買ってきたから。俺が個人で使うつもりだったけど、当分貸しておくからそれで頑張りなよ?」
「至れりつくせりで感動です! 本当に……本当に……っ!?」
ガチ泣きだ。今後もたまに見に来た方がいいかもしれないね。
『まぁ実際、これぐらいしないと追いつくこともできん高みにヴァーリ・ルシファーはいるからな。アザゼルのメニューも分かるというものだ』
と、ドライグが声を聞こえるように伝えてくれる。
確かにそこは難点だ。
たった一人で俺達オカ研にイリナを加えたメンバーが総出だ。ネットゲームで言うレイドボスみたいな奴が出てきたものだよ。
しかも、だ。
「あの場で覇まで使おうとするとはね」
『そうなのか? 既にそこまで到達している奴相手に、よく生きて帰ってきたものだ』
思わず呟くと、タンニーン殿も感心している。
ああ、危ない所だったかもしれない。というより、使われたらこっちが負けていただろう。
「そういえば、覇っていったい何ですか? 禁手より更に上の力が神器に?」
イッセー君が首を傾げるけど、そういえば言ってなかったね。
「いや、神器の限界点は禁手までだよ。ただ、赤龍帝の籠手のように何かしらの存在を封印している神器は封印系神器とカテゴライズされ、そのカテゴリーには自爆特攻じみた奥の手がもう一つある。……それが覇だよ」
そう、封印系神器にはそういう伏せ札がある。
問題は、最終手段が限界と言っていい代物なんだけどね。
「要はリミッター解除と思えばいい。封印された存在の力をフルに発揮するけど、生命力をごっそり削られるから寿命が高速で減るしね。また、暴走状態に陥るのが関の山だとも言われている」
『最も、二天龍の宿主は例外なく覇に至っている方が勝つがな。そういう意味では絶望的だな』
タンニーン殿。言わなかったことを言わないでいただきたい。
『実際そうだろうな。まして宿主がルシファーの血筋である以上、覇すら何かしらの対応ができる可能性もある。……絶大な魔力を代用品にして、寿命が削れない程度にはできるかもしれんぞ』
ドライグも凄いことを言うね。
しかし、確かに危険だね。
白龍皇ヴァーリ・ルシファー。天文学的確率とかをつけたいレベルで、極小の可能性を引き当てた男。
おかげでかなり調子に乗っているようだけどね。なんというか見てて痛い。身につまされるところがあるというか、あそこまで酷くはなかったよねと思いたいというか。
……拠点に戻ったら飲もう。帰りに酒を買って飲もう。
あとニンニクも買ってアヒージョを晩御飯に食べよう。具材は何がいいかな~。
「光也さん、黄昏てます?」
『そっとしておけ。おそらく、若い頃にやらかした手合いなのだろう』
『相当やらかしていたようだしな。ヴァーリ・ルシファーを見ていると同一視しかねないのだろう』
イッセー君を止めてくれてありがとうね、タンニーン殿にドライグ。
ふと空を見上げると、冥界の紫の空が目に映る。
……そういえば、光希は大丈夫だろうか……?
—月宮光希—
一通りの練習を終え、気晴らしにお嬢に報告する為に城まで出向く。
禁手に関してはいい報告はできなかった。ま、そもそも至るっていうのが偉業になる世界だしね。これはもう仕方ない。多分無理だという自覚はある。
ただし、外付けの方は話が別。試作型の拡張型人工神器を併用する形で、幾つかの神パターンを用意することができた。
それに兄さんからもいいお知らせをもらったしね。どうも試作研究の武装があって、テスターとして私が採用されたとか。
これだけあれば、まぁ何とかなるかもしれないんだけどね。
そう思いながら、神の子を見張る者の施設に戻る前に一息ついていると、朱乃が前の席に座ってきた。
「……少し、相談に乗っていただけませんか?」
「別にいいけど、人生相談?」
盛大に罪を犯し業を背負った私は、そういう観点だと人生相談にある程度適役だろう。
そもそも年齢的に、朱乃やリアスだと私が適役になるでしょうし。
紅茶を飲みつつ、私は朱乃が話し出すのを待つ。
意を決しようとしているようだけれど、やはり相当言いづらそうなことなんでしょうね。十分ぐらいは待つ腹積もりでいるべきね。
事実、朱乃が話し出したのは五分ぐらいたってから。
「……私は堕天使が嫌いです。母は堕天使の所為で死んだようなものですから」
そう、話を切り出した。
当人も言葉を選びながらだったので要約すると、朱乃が堕天使嫌いなのは、堕天使の所為で母親が死んだと思っているかららしい。
なんでもバラキエル様と朱乃のお母さんの馴れ初めは、和平前のいざこざで深手を負ったバラキエル様を、朱乃の母親の朱璃さんが介抱したのが始まりだったらしい。
二人はロミオとジュリエットのように恋に落ち、そして朱乃という子宝に恵まれる。ただし、ここで問題が発生。
日本最大異能者勢力、五大宗家。奴らはかなり排他的かつ鎖国的で、昨今の若手も苦労している。どの勢力もそういった古い手合いはいるし、全否定するのもあれだけどね。
奴らは他の勢力、こと異形を毛嫌いしている。それどころか自分達の代々受け継いだ力に拘り、それに対する強い拘りは偏執的だ。大王派とかの古い悪魔と波長が合いそうね。事実、家の異能を受け継いでいない手合いはかなり冷遇され、一度暴発して大騒ぎになったらしいし。
そんな連中からしてみれば、異教の異形であるバラキエル様なんて嫌悪の対象。あの手この手で別れさせようとしてきたそうだ。
そして業を煮やした実力行使をバラキエル様が返り討ちにした後、返り討ちにあった奴らは外部の堕天使嫌いな異形勢力に朱乃達の情報を横流ししたらしい。そして、バラキエル様が不在の時に襲撃を仕掛けてきた。
「母が殺されたのは、バラキエルが堕天使だった所為です。その血を引く穢れた私もまた、殺される対象になっていたのは間違いない。……だから、私は堕天使が嫌いです」
絞り出すように告げた朱乃は、そのうえで私の方を向き直る。
「確かに、私が強くなるには堕天使の力を振るうべきでしょうし、それが最も効率がいいでしょう。……ですが、堕天使の血を否定したくて悪魔になったのに、あの男の力を振るうのにはどうしても抵抗があるのです」
なるほど、ね。
「……正直な話、他に強くなる手段があるなら真っ先にそちらに手を伸ばしたい。どうすればいいでしょうか?」
ま、私に言いたくなる気持ちも理解はできる。
私は拡張型とはいえ人工神器を使ってるし、ディーバギアも併用している。
底上げしまくりの人生である以上、「ずるい」に近い感情を持っているのかもしれないわ。
ただまぁ、言った方がいい事はあるわね。
「朱乃。とりあえず一つ私が絶対に言えることがあるわ」
私は一旦紅茶を飲んでから、言うべきことをはっきりと告げる。
「貴女素直すぎよ」
「………え?」
まったく想定外の方向だったのだろう。朱乃はきょとんとしている。
まぁ、素直なのは悪いことではない。人の善性とは尊ばれるに越したことはないしね。
ただ、悪意のある人間や下卑た連中とつるみ、長らく私自身そうだったからこそ言えることもある。
時として、美徳は悪徳にもなるのだと。
「世の中にはさ、取り合う必要がない詭弁や妄言ってのがあるわよ。もっと悪い自分を棚に上げて、大して悪いことしてない奴を諸悪の根源のようにこき下ろすやつの糾弾とかね」
素直であること美徳であることの方が多いが、悪いことがないわけじゃない。
こと、相手にする必要がない妄言や詭弁の類を素直に受け取れば、道を踏み外すことだってある。
「自分自身に対しても言えるわ。例え自分の行動や発言には責任を持つべきとはいえ、まともじゃない状態の発言や行動は必ずしも責任を負う必要がない場合がある」
酒に酔った時に騒動とかそれね。
自発的に飲んだ後に事件を起こせば、それは当然自分の意思で飲んだんだから責任を取らないといけないのが日本の法律。ただし、「まともな判断力がない」と分かっている外野の誘導などがあった場合は、そいつにも同等の責任が負わされることもあれば、そもそも責任を負わなくていい場合もあると聞く。
本当にそれね。真面目で素直だと、こういう時にドツボにはまるってことなんでしょう。
「……とりあえず一度冷静になった上で、今の価値観や知識で振り返って見直してみなさい。まずはそれからよ」
私はそう言うと立ち上がる。
とはいえ、ちょっとアドバイスが足りないかもしれないわね。
「最低でも、今の私なら五大宗家の老害連中や下手人の方を嫌うわね。これ、きちんと考える時のアドバイスにもなると思うわよ?」
……実際問題、この件で能動的な行動をとったのは五大宗家側だ。
コカビエル以外は平和主義である、現状における神の子を見張る者の幹部メンバー。彼らなら、相手がもう少し平和的な対応を試みれば代価込みで穏便な解決策を取れるだろう
はっきり言って殺されかけたこともあれば、今の私なら間違いなく五大宗家の方が嫌いになる。
……素直なのも困ったものね。「ふざけんなクソ野郎!」の一言で済むだろう相手の言い分を素直に呑み込んで、それを軸線にして物を考えているんだから。
ま、とりあえず無理やり考えを押し付けるわけにもいかないでしょう。考える時間ぐらいは作っておかないとね。
……後で本部に戻ったら、バラキエル様に何かお土産でも渡すべきね。お土産屋さんについてお嬢に聞いておきますか。
そういうわけで、光也の趣味や特技が明かされました。
ま、カッコつけならパルクールは習得してみたいと思うでしょう。それで実際に高いレベルで習得できるかは別問題。
逆にソロキャンプはこの年代だとマイナーより。それが趣味になる辺り、光也の本質がちょっと透けて見えるかもって感じです。
逆に光希は朱乃の相談に乗る形になり、アドバイスをしっかりと。
まぁ実際問題、詭弁とか屁理屈はバッサリ切っていい状況が大半ですよね、うん。