個性差別を何とかしようとヒーローを目指す男のヒーローアカデミア 作:北山 真
もし、この小説の雰囲気が気に入った方は、宜しければ別の拙作をお読みください。
また、脳内会議の結果、薬師寺君にはB組に入って貰うことになりました。B組になる作中の理由は本文に、メタ的な理由は後書に書きました。
それでは本編をどうぞ。
side.三人称
根津校長、ヒーロー公安委員会会長、薬師寺マルスの三名による特別三者面談の結果を受けて、雄英高校では新たな会議が開かれていた。
会議の主題は来年度の一年生に関するなので、会議室には来年度の一年生の授業を受け持つ予定の教師達が集められており、司会進行役兼特別三者面談での内容を報告する役の根津校長をはじめ、一年生の担任を受け持つイレイザーヘッドとブラドキング、更には十三号やプレゼントマイク、ミッドナイトなどもいた。
「まずはこの前行った三者面談の報告をするのさ」
会議の始めに根津校長から報告が行われた。
その要点は三つ。
一つ目、薬師寺マルスの個性は表向き【変身】という事にすること。
二つ目、万が一にでも薬師寺マルスの身に危険が迫らぬ様に、安全の為に雄英高校敷地内の教員用の寮に住うこと。また、これには変身薬が世に出回らない様監視する意味もあること。
三つ目、薬師寺マルスは変身薬を使用時以外で作成、所持をしないこと。
「安全と監視…なるほど、合理的ですね」
厳しい目つきでその判断を受け入れているのはイレイザーヘッドであった。
彼は見込みの無い生徒を容赦無く除籍処分にする男ではあるのだが、大人や世の中の都合で生徒を振り回すことを善としている訳ではない。故に、判断自体は合理的だが生徒に不自由を強いる事に眉を顰めていた。
「うぅむ…」
その横にいるブラドキングもまた難しい顔で唸っていた。
いや、イレイザーヘッドやブラドキング以外の教員達も、もっと言えばこの会議室にいる全ての教員達がこの判断に多少なりとも嫌な思いを抱いていた。
ここにいる全員は教員、つまりは人を導く意思を持つ者達であり、そしてその前にヒーローである。また、ヒーローであるが故に当たり前に善性を持ち合わせている。そんな人間達が生徒の不自由を強いる状況に嫌な思いをしない訳が無い。
だが、同時にプロのヒーローとして変身薬の危険性と、その情報が世に出回った時に薬師寺マルスに大きな危険が及ぶ事が分かっているので反対も出来ない。そんな板挟みの状況に陥っていた。
そんな教員達に対して、根津校長は思いを語る。
「みんな、薬師寺君の扱いに葛藤はあるだろうけど、今更何かを言っても扱いは変えられないのさ。そして何よりも…君達が受け入れられなくても、既に本人は受け入れて前に進もうとしているのさ!ならば僕達に出来るのは全力で後押しすることだけ!…違うかい?」
根津校長の熱弁を聞いた教員達の心に火が灯る。
「そうよね、校長の言う通り、前に進もうとする生徒を後押しするのが教員の役目だものね。気落ちしてる場合じゃわいわね」
「YEAH!!そうだよなぁ!俺達のテンションが低いと、生徒達も盛り上がれねぇよなあ!!」
ミッドナイトが大人として不甲斐ない姿を見せたと気合いを入れ直し、プレゼントマイクがいつも以上に大きな声で話出す。
気合いが入った教員達の姿を見て、焚き付けた根津校長は次の議論に映る。
「じゃあ次に、そんな薬師寺マルス君をイレイザーとブラドキング…どちらが担当するかを今からどちらが担当するかを決めるのさ!」
その議題を聞かされて、イレイザーヘッドとブラドキングが顔を見合わせる。
雄英高校では生徒の所属するクラスを決める際に、入試の成績などを考慮して決めない。それは、雄英高校の入試を通過した時点で優秀であり、実技成績は個性によって有利不利がはっきりするので、入試の成績順が絶対的な実力差であると断言出来ないからである。故に、成績などを鑑みずに適当に割り当てられる。
ただし、推薦入試の合格者と問題があると判断された人物は別である。
まず、推薦入試合格者は優秀な者ばかりである。当たり前だが、中学からの内申点は良くなければいけないし、筆記試験も一般入試のものよりも難しい問題が出される。そして、実技試験に至っては個性の強さとその扱い方を厳しく見られる。それこそ、プロヒーローに匹敵するレベルで見られるし、むしろプロヒーローであっても試験に不利な個性であれば合格出来ない者もいる程、試験の難易度は高く設定されている。
そんな推薦入試に合格した優秀な四名を同じクラスに入れてしまうと、片方のクラスに戦力が固まり過ぎてしまう。だから、慣例として推薦入試組はクラス分けの段階で意図的に二人づつに分ける。
そして、問題のある人物の場合だが、この場合は何が問題なのか、どう対応するのかを複合的に見て会議を行い担任を決定する。
例えば、今年度一般入試で実技試験の成績が二位だった爆豪勝己の場合。彼の問題点は素行不良であり、中学の内申は最悪であった。
リーダー気質と言えば聞こえは良いが、クラスを力で従える様な横暴な性格である。特に暴言に関しては酷く、「死ね」や「殺す」などと発言するのは日常茶飯事で、本当にヒーローに憧れているか疑問に思える程だ。ただし、暴言は酷いが相手に本格的な怪我をさせる事はしていないため、致命的では無いと判断された。
だから、雄英高校は彼を入学させる事に決めた。それは一般入試の結果が非常に良く、問題点が精神や言動ならば矯正が可能であると判断したからだ。
そんな彼の担任はイレイザーヘッドに決定している。イレイザーヘッドの個性【抹消】であれば、爆豪の強固性も打ち消せるし、実力で黙らせれば暴力的な性格も矯正出来ると考えられたからだ。
では薬師寺マルスの場合はどうなるのかと言うと…
「さて、僕としては薬師寺君の担任はブラドキングにお願いしたいのさ!」
「俺ですか?イレイザーではなく?」
根津校長の推薦にブラドキングが不思議そうに聞き返す。
「うん、僕が君に任せたいと思った理由は三つあるのさ。一つ目は、何かあった時に物理的に止めやすいことなのさ。イレイザーの個性は異形型とは相性悪いからね」
イレイザーヘッドの個性【抹消】は非常に強力で便利な個性だが、唯一の苦手分野として、異形型への効き目が薄いという事が挙げられる。
【抹消】を薬師寺がオニヤンマに変身している時にかける場合を考えると、個性因子の塊である翅や複眼は一時的に止められても、昆虫由来の筋力までは止められない可能性が高いと、根津校長は判断したのだ。
また、変身薬という過去に類を見ない薬品に対して【抹消】で干渉した場合に、どんな危険があるか分からないという理由もあり、イレイザーと比較してブラドキングの方が良いと判断された。
「二つ目は、君の個性の柔軟性、応用力が高いことさ。薬師寺君もまた、変身先次第で応用が効く、その応用力を高める様に指導して欲しいのさ」
ブラドキングの個性は【操血】であり、文字通り自身の血液を操作する事が出来る個性だ。これは非常に応用が効く能力であり、戦況に応じて液体から個体へと変化させて戦うことが出来る。イレイザーとは違った意味で便利な個性であり、その応用力を活かして薬師寺の力を伸ばす事を期待されていた。
「三つ目は、単純にA組に問題児が集まってイレイザーの負担が大きくなりそうだったからなのさ!」
現在のA組に配属が決定されている人間だけでも問題児が多過ぎた。
素行不良の爆豪に、その爆豪とは同じ中学出身で個性を使用する度に大怪我する緑谷、親がNo.2ヒーローだが、推薦入試で愛想が悪過ぎた轟がいる。
彼らをイレイザーが担当するのにはそれぞれ理由があった。
まず、爆豪は先述した理由からである。
次に、緑谷は一般入試の際に個性を使って大怪我をしていた。なので、緊急時にはイレイザーの【抹消】で緑谷の個性を止めてもらう為に担任になってもらっていた。
最後に、轟は推薦入試合格者である。そんな轟の個性は【半冷半燃】であり、炎と氷を放つ強力な個性だ。しかし、そんな強力な個性にも関わらず推薦入試では氷しか使用してなかった。また、他の受験生に話しかけられても目も合わせずあしらったり、面接でも常に仏頂面であったりと、何かあるとしか言えない雰囲気を醸し出していた。だから、【半冷半燃】と【操血】の相性の悪さを加味して、万が一の時に確実に止められる様にイレイザーが担任をする事になっていた
この三人だけでも目を光らせておく必要があるのに、それに加えて薬師寺まで担任しようものならイレイザーヘッドのキャパシティを超える危険性が高いと根津校長は判断していた。
「そう言う事なら俺に任せて下さい!立派に育てて見せます!」
「うん、頼んだのさ!」
根津校長の意見を聞き、二つ返事で受け入れたブラドキング。
熱血漢である彼は、根津校長直々に難しい立場にいる薬師寺を任せられた事と、その薬師寺自身が難しい立場にも関わらず真剣にヒーローを目指している事、この二つの理由から気持ちが高まっていた。
「さて、それじゃあ他の生徒の担当も決めていくのさ!」
「はい」
薬師寺という難しい立場にいる生徒の担任を決めた後、他の生徒の組み分けは次々と進んでいき、その日の内にヒーロー科に合格した生徒全ての組み分けが終了した。
三月末。入学まで一週間を切ったこの日、同級生よりも一足早く俺は雄英に来た。正確に言うと、三者面談で約束した通りに今日から雄英敷地内にある関係者用の寮で生活することになる。
引越しの荷物は既に寮にある俺の部屋に運び込まれているのだが、荷解きをする前に俺にはやる事があり、現在は環とミリオの案内により職員室へと向かっている最中であった。
「しっかし、流石はマルスだよね!主席合格だなんて!」
「ありがとうミリオ。二人の協力があったからこそだけど、良い成績が取れて俺も安心したよ」
ミリオの褒め言葉に感謝を返す。環とミリオには個性の制御や近接格闘などを基本に、ヒーローになる為の特訓に付き合って貰っていた。
二人が仮免を取った後はインターン活動が忙しくなった事もあり、特訓に付き合って貰える時間は減った。しかし、二人がインターンで成長した事もあり、インターン以降の特訓は非常に実りの多いものになっていた。
また、二人から聞く話は参考になることも多く、先達として素直に尊敬している。
「いや…主席になったのはマルスの実力だ…胸を張ればいい…」
「ありがとう環。お前の教え方が良かったからだから、お前も胸を張ってくれ」
何故だか微妙に暗い顔で褒めてきた環。環は実力こそ確かだが、メンタル面に問題を抱えている。ミリオと共に何かにつけては励ましている事もあり、これでも多少はマシになったと思ってはいるが、正直微妙だ。
「そうだよ環!お前は上手に教えてたよ!なんならヒーローになったら雄英の教師になるなんて良いんじゃない?」
「俺には無理だよ…大勢の生徒の前に立つなんて…想像しただけで…うっ」
雄英高校の教師なんていうヒーローとしても教師としても一流でなければ務まらない職を薦めるミリオ。
俺から見ても教え方は良かったし、実力もあるが致命的に性格が向いていない。現に教師として教壇に立つことを想像しただけで少し吐きそうにしていた。
そんな話をしているうちに、俺達は職員室に到着していた。
環とミリオに促されるままに、扉をノックして中に入る。
「失礼します」
声をかけながら中に入ると同時に、職員室中から視線が向けられた。
重なった視線に少し怯むが、ここに来た目的を果たすために職員室全体に聞こえる声で挨拶と要件を話す。
「新一年生の薬師寺マルスです。ブラドキング先生はいらっしゃいますか?」
「よく来てくれたな!」
職員用の椅子から大柄な男性が大きな声で返事をしながら立ち上がった。本人には初めて会ったが顔は知っている、あの人がブラドキングだ。
ブラドキング先生は机の上から何かのファイルを取った後、直ぐに俺の方に歩いて来たので、それに合わせて挨拶をする。
「はじめまして薬師寺マルスです。よろしくお願いします」
「うむ、君の担任をする事が決まっているブラドキングだ。よろしく頼む」
身長が二十センチ以上も先生の方が高いので、見上げる形になりながら挨拶を交わし、握手をする。
「とりあえず此処では話し辛いから近くの部屋に移動しよう。後ろの二人も付いて来てくれ」
「はい、分かりました」
職員室を出てブラドキング先生を先頭にして四人で歩く。そして、職員室から一番近い教室に入る。
「まぁ適当に座ってくれ」
ブラドキング先生の言葉に従い、生徒三人が横一列に座り、その一つ前の列の机の向きを対面出来る様にしてブラドキング先生が座った。
「まず、薬師寺の変身薬の秘匿の為の条件を契約書として書き出したものを渡すので、しっかりと目を通してサインを書いてくれ」
ブラドキング先生から手渡された書類に素早く目を通す。内容は概ね三者面談で話したものだったので、確認した後に署名した。
「よし。なら次は君の個性を【変身】と偽るカバーストーリーに関してだ」
「はい、どんな話になったか聞かせてください」
ブラドキング先生の話を俺達三人は集中して聞く。
環とミリオが一緒に聞いている理由は、俺と同じ中学出身の先輩であり、仲の良い友人関係でもあるので、三人の話から齟齬が出る事によって俺の個性が周囲にバレない様にする為であった。
「まず、完全に個性を偽る事は不可能だという結論に至った。君の個性は中学までの人間の多くが知っているだろうし、それを今から【変身】だったとは出来ない。それをするなら名前も交友関係も捨ててもらうしかないからな」
「それはそうですね」
個性を偽る。それが実質的に不可能なのは分かっていた。俺の個性が【薬品開発】な事を知っている人間は数多くいる。中学までの同級生、先輩後輩、彼らの親兄弟、親戚、何処まで俺の個性を知っているかを正確に把握する事は出来ない。それを無理に偽っても、すぐにバレる事になる。
それこそ、バレない様にしようと思ったらブラドキング先生の言う通りに完全な別人になるしか方法は無い。
「だから、君と天喰の友人関係を活かすことにした。【薬品開発】で天喰の個性を再現しようと様々な事をしていた結果、変身のしすぎで個性自体が変質してしまった事にする。
また、それに伴いどんな副作用があるか分からない為に、雄英高校の敷地内で暮らしてもらう必要がある、という事にする」
「個性が変質…ですか?」
疑問に思った環が質問した。
「疑問に思うのは確かだが、個性因子の完全な解明はされていない。何らかの要因で変質してしまったと説明すれば、殆どの人間はそういうものだと納得するものだ」
「そういうものですかね」
「ああ、現に今年の新入生の中には一年前まで無個性だと思っていた生徒もいるぐらいだ。何が起きても不思議では無い」
環とミリオが俺の方を見て納得した様に頷く。
「確かに、変身薬なんて出来るぐらいですしね」
「まぁ…それぐらいならあり得るかもしれませんね」
二人の言葉に俺も納得した。
変身薬自体が後天的に個性を与える薬だ。それを作れるなら個性変質薬も作れるかも知れないし、そもそも変身薬の副作用も完全には解明できていない。そう簡単に副作用が出る様には使っていないが、使い過ぎて個性が変質するかも知れないと言われたら否定は出来なかった。
「そして、対外的には二度と変身薬は作れないという事にしておく。薬師寺が将来的に変身薬を認可してもらう際には、個性が復活して変身薬を再び作れる様になったし、改良により副作用も出なくなった事にする」
「それ、世間が納得してくれますかね?いざ薬が出来ても誰も手に取らないと思うのですが…」
「その可能性は確かにある。一度副作用が出た薬を使うのを躊躇う人もいるだろう。しかし、治験の際にその安全性は確保出来るだろうし、変身薬の存在を世間に発表する時には雄英高校の名前を出して安全性を保証するつもりだ」
「分かりました」
雄英の名前を安全保障に使うというブラドキング先生の話を聞いて、信頼したし、納得した。
「そうだぜ!その時には俺もプロだから、ルミリオンの名前も使ってくれ!」
「サンイーターも使ってくれて良い」
「勿論、俺の名前もな」
「ありがとう二人とも。ブラドキング先生もありがとうございます、その時には是非お願いします」
ミリオと環も自分のヒーロー名を使えば良いと言ってくれて、それに乗っかったブラドキング先生もまた、自分の名を使う許可をくれた。
一件落着、話が纏ったところでブラドキング先生が新しい話を切り出した。
「さて、じゃあ次の話だ。薬師寺は主席合格ということで入学式の時に新入生代表の挨拶をして貰いたいんだが、引き受けてくれるか?」
「ええ、喜んで」
俺はそれを二つ返事で引き受ける。断る要素が一つもない。
「そうか良かった。なら、この原稿用紙を渡すから挨拶文を考えてくれ」
「今からですか?」
「うむ。例年ならもう少し余裕を持てるのだが、今年は色々と忙しくてな…ああ、昨年の原稿を持ってきているからそれを参考にしてくれて構わない」
先生から四百字詰めの原稿用紙を二枚受け取る。
恐らく、今年忙しくなった理由は俺の変身薬のせいだろう。それに申し訳ない気持ちを抱きながら昨年の原稿に目を通す。
内容は至って普通と言えるだろう。気を衒わずに、基本に忠実な文章であった。
だが、この文章で唯一気に食わないのは、この文がヒーローを目指す者として書かれている点だ。
オールマイトを筆頭に、雄英高校出身で活躍しているヒーローに憧れて、それに恥じない様なヒーローを目指すと書かれているが、この文ではヒーロー科以外の人の神経を逆撫でにするだけだろう。
だから俺は、定形文の箇所を参考にしながらも自分の話したい事を盛り込んでいく。語りたい内容は色々あるが、ヒーローを目指す人間として書きたい事を書きつつ、普通科やサポート科の人達を蔑ろにしない様に文章を考える。
集中して書いたお陰で15分程で原稿が完成した。
完成したものをブラドキング先生に渡す。
「出来ました」
「おお、早かったな…どれどれ…ふむ、なるほど…」
俺の書いた原稿をじっくりと見るブラドキング先生。
微妙な居心地の悪さを感じながら待つこと数分、先生が内容を確認し終えた。
「この出来なら大丈夫だろう、俺から見て直すところは無い。校長には後で確認しておくが、この内容で話して貰うことになるだろう」
先生のお墨付きを貰えてほっとした。余り特筆した内容では無いので十中八九大丈夫だとは思っていたが、先生の言葉を聞いて安心した。
「じゃあ今日やってもらいたかった事は全て終わったが、何か質問や言っておきたい事などはあるか?」
「いえ、特にはありません」
「そうか、なら今日は解散にしよう。薬師寺は荷解きなどもあるだろうしな」
「はい、お疲れ様でした」
原稿を持って職員室に戻るブラドキング先生を見送り、残った俺達三人は寮の俺の部屋へと歩いて向かった。
環とミリオに荷解きを手伝って貰い、元々荷物もそれほど多くない事もあり、部屋の整理はすぐに終わった。時間を見ると午後六時を回っており、環とミリオは家へと帰る事になった。
玄関を開け二人を見送る。
「今日はありがとう助かったよ」
「こんぐらいなんてことないって!」
「ミリオの言う通り、これぐらいなんてことないさ」
感謝の言葉を伝えると、二人して手を振って笑顔で応えた。
だから、俺も笑顔で冗談を口にする。
「何かあったら手伝うから、いつでも言ってくれよ先輩」
「おっ、じゃあ環のメンタルトレーニングでもして貰おうかな後輩君!」
「…二人とも勘弁してくれ」
「あっはっはっ!」
三人でひとしきり笑いあってから、その日は解散となった。
引っ越しから一週間が経ち、いよいよ入学式の日になった。
俺は雄英敷地内に住んでいるという事もあり、かなり早く校舎に入り式の準備をしいた。
その後、式の時間までは教室で待機してくれという指示があったので、俺は今自分のクラスである一年B組の教室にいた。
真新しい机と椅子が揃っている教室に一人でいると、今日から高校生という事を実感できる。
そうやって、ヒーローへの第一歩を踏み出せた事に浸っていると、教室の扉がガラリと開き一人の女子が入って来た。
「おっ、私が一番早いと思ったけど…早いね君」
「まぁ家が近いんだよ」
入ってきたのはウェーブがかかった艶のある黒い髪を肩まで伸した女生徒だった。
「私は
「俺は薬師寺マルス、よろしく」
お互いに軽く手を挙げて挨拶を交わす。
「薬師寺君はさ、推薦入試では見なかったけど一般入試組?」
「そうだよ。そう言うって事は取蔭さんは推薦入試で受かったんだ」
「あはは、うんそう。ごめんね、なんか自慢みたいになっちゃって」
推薦入試は一般入試よりも更に厳しい試験だと聞いている。
倍率や合格率もそうだが、そもそも中学での成績や内申が優れていないと入試を受ける事すら出来ない、させて貰えない。
そういう入試に通ってここにいる取蔭さんはかなり優秀だろうし、自慢みたいになったと取蔭さんは言うが、実際に自慢出来る事だった。
「いや、俺は気にしてないよ。それだけ取蔭さんが優秀だってことだろ?」
「ありがとう…それでなんだけどさ、一般入試でどんな試験あったのか教えてくれない?推薦で受かったから一般試験の内容知らないんだよね」
「ああ、良いよ。代わりに推薦の話聞かせてくれる?」
「もちろん」
そうやってお互いの試験内容を伝え合う。
一般入試の内容は直接的な戦闘能力を見る試験だったが、推薦入試は機動力を重く見た試験だった様で、具体的な内容としては個性をフル活用しないとクリア出来ない様なマラソンだったらしい。
「あちゃー私が一般入試だったら受かってなかったかもなー」
「そうなのか?」
「うん、私の個性は攻撃力が高い訳じゃ無いからね。危なかったかも」
そう言って謙遜する取蔭さん。
そうやって話が盛り上がっているうちに時間はかなり経過していたからか、次々とクラスメイト達が入って来たので、自己紹介をしていく。
オレンジ髪をサイドテールに纏めている
つり目気味の三白眼が特徴的な
獣の様な体毛と鋭い牙が生えた眼鏡の男子、
髪の毛が茨のツルになっている
などなど、皆優秀そうで真面目な印象を受ける人物が多かった。
そうやって、全てのクラスメイトと挨拶を交わした訳では無いが、クラスメイト達と交流を深めていると、入学式の時間が迫ってきて、ブラドキング先生が教室へと入ってきた。
「全員、自分の席についてくれ」
教室に入って来たブラドキング先生の言葉に従い、全員が自分の席へと座った。
クラスメイト全員の出席を確認した先生が話し出す。
「このクラスの担任のブラドキングだ。これからよろしく頼む」
「「「よろしくお願いします!」」」
俺はほどほどの声の大きさで挨拶したが、一部の生徒はかなり元気な声を出していた。
「まずはみんな入学おめでとう。君達は狭き門を潜り抜け、見事雄英高校ヒーロー科へと入学を果たし、ヒーローになる為のスタート地点に立った。
これから俺達、雄英高校の教員一同は君達に試練を課していく。
それは苦しいかも知れない、厳しいと感じるかも知れない。
だが!優秀な君達なら必ずや試練を乗り越え、立派なヒーローになれると俺は信じている!
この学校の校訓である
ブラドキング先生の短くとも熱い演説にクラスメイト全員で拍手をする。
「じゃあ挨拶も済んだところで、今日の予定を話すぞ」
ブラドキング先生はそう言って予定を話していく。
俺は予め聞いていたが、今日の予定はこれから出る入学式と、その後にあるガイダンスの説明だ。
その説明を終え、入学式に出る為の指示をブラドキング先生が話す。
「それじゃあ、これから入学式に出るので、教室を出て廊下に名前順で二列に並べ」
そう言うブラドキング先生の指示に従い。クラスメイト達が並び出す。
俺は並びの後ろの方へと行き、そこに集まっていくクラスメイト達と自己紹介をしていく。
「俺は薬師寺マルス、よろしく」
「
「
「僕は
中国出身だというが日本語に違和感のない鱗。
少し隈のある左目を灰色の髪で隠している柳。
金髪でキザっぽい仕草をしているので何処かホストみたいに感じる物間。
名前順で並ぶ事により、自然と自己紹介をする事もブラドキング先生の狙いだったのかも知れない。
全員が自己紹介をしながら並び終えた俺達は、ブラドキング先生を先頭にして入学式の会場である体育館へと向かった。
雄英高校の入学式は、流石は国内一のヒーロー科を持つ高校と言うべき格式高い入学式になっていた。
体育館の所々に、雄英高校出身のヒーロー達から送られた大きな花がに飾られている。有名どころで言えばオールマイト、エンデヴァー、ベストジーニスト、エッジショットあたりか。
特にエンデヴァーの贈答花はかなり大きく、メディア露出が少ないのでエンデヴァーの事はよく知らないが、こういうことをする人だとは思っていなかった。
司会の開会宣言で式が始まり、教員の代表として根津校長の挨拶が始まった。
根津校長の割と長い話が終わり、次に静岡県の知事の挨拶が、その次はヒーロー公安委員会の委員の人からの挨拶だった。
話の内容は概ね一緒で、新入生の未来が良くなる事を願い、努力を重ねて欲しいという内容だった。
そこまでは俺を含めて入学式に来ていた人達は全員静かに話を聞いていた。
しかし、司会の次の言葉で静かだった体育館は一気にざわめき立った。
「次は雄英高校OBを代表してオールマイト様のご挨拶をいただきたいと思います。それではオールマイト様、よろしくお願いします」
「私が雄英高校に来たっ!」
呼ばれて直ぐにスーツ姿のオールマイトが、お決まりの挨拶と共に壇上に現れた。
その姿を見た生徒達が次々と騒ぎ立てる。
「本物だ」「すげーマジかよ」「信じられないっ」「画風違いすぎだろ」「ヤバー」
特にヒーロー科以外、普通科や経営科、サポート科の生徒達が騒いでいた。
俺を含めたヒーロー科の生徒達は合格届けでオールマイトのホログラムから言葉を貰った事もあり、騒ぐまではいかなかったが、流石に浮ついた雰囲気は漂っていた。
かく言う俺もかなり驚いていた。
リハーサルの段階ではOB代表の挨拶があるという事だけが知らされていた。まさかそれがオールマイトだとは全然思ってもいなかった。
と言うか、この後に新入生代表挨拶があるのだが、オールマイトの後なんてやり難いにも程があるだろう。何してくれるんだ全く。
俺が驚きと少しの怒りを覚えている中、間を開けて、体育館がある程度静かさを取り戻してからオールマイトの挨拶が始まった。
「OBを代表して、まずはみんな入学おめでとう。ピカピカの制服が似合っててみんな格好良いよ。
君達はこれから雄英高校の生徒として、この素晴らしい学校で生活していく事になる。
勉強に運動、交友や恋愛と様々な経験をしていくと思う。私もこの学校で素晴らしい経験を積むことで、ナンバーワンと呼ばれるヒーローになれた」
オールマイトがNo. 1ヒーローである事に異論はなく、そんな偉大なヒーローの出身高校だからこそ雄英高校がここまで有名な学校になったと言っても過言ではない。
だからこそ、雄英高校に入学したいと思う人は多いのだから。
「私はヒーローになったが、君達がヒーローになるかは分からない。ヒーローだけが仕事じゃないし、ヒーロー以上に社会に貢献している人達は数多くいる。
みんなには職業に関係無く立派な大人になり、社会に貢献してくれることを願っている」
大変良い言葉だが、正直この言葉はオールマイトが言ってもあんまり効果は出ないんじゃないかと思ってしまった。
誰よりもヒーローとして活躍し、ここにいるほぼ全ての生徒が憧れるオールマイトから、ヒーロー以外の仕事があるよと言われても、大体の生徒はヒーローやヒーローに関わる仕事がしたいと思うだろう。
「そんな大人になる為に、この学校はかなり厳しく君達を導こうとするし、人生には大きな壁が幾つも現れる。
だけどプラスウルトラ!君達なら僕らの期待通り、いやそれ以上に素晴らしい人物になると私は確信しているよ」
言い切ったオールマイトを大きな拍手が迎え入れた。
「さて、実は私がこの入学式の挨拶をさせて貰ったのはOBを代表してだけじゃないんだ
この度、私は雄英高校ヒーロー科の一教師として働かせて貰うことになった!」
「「「ええ〜ッ!!?」」」
オールマイトが雄英で働くという大きなサプライズに会場中がどよめく。
騒ぎはオールマイトが壇上に現れた時の比ではなく、ざわめきが体育館を物理的に少し揺らすほどだった。
「だから学校で私を見かけることもあると思う。そういう時は恥ずかしがらずにドンドン話しかけてくれ」
騒めきが治らないまま続けてオールマイトが話した。
「最後に改めて、新入生のみんな入学おめでとう。君達の学校生活が良きものになる様に願い、私も微力ながら手伝うつまりだ」
「はい、雄英高校OB代表のオールマイト様のご挨拶でした」
オールマイトの挨拶が終わり、体育館は再び大きな拍手で包まれた。
「それでは次に、新入生代表挨拶に参ります。
新入生代表、薬師寺マルス」
「はいっ!」
名を呼ばれ、ヤケクソ気味に返事をした。
最早体育館の雰囲気はオールマイト一色だ。俺がどれだけ失敗しても、オールマイトの後だし緊張したと考えてくれるだろう。
そう考えると少しだけ気が楽になる。多分だが、校長達もそれを考えてこの順番にしてくれたんだろう。
壇上へと上がり挨拶台の前に立って、オールマイトにちょうど良いマイクの高さから俺にちょうど良いマイクの高さに変える。
咳を一つして喉の調子を整えてから、マイクのスイッチを入れて話し出す。
「この度、入学する皆様を代表して挨拶させていただきます。
まず始めに、本日は私達の為にこの様な素晴らしい場を設けていただきまことにありがとうございます。また、お忙しい中ご臨席いただきましたご来賓の皆様に厚くお礼を申し上げます」
そこまでを言い切って、来賓の座る席の方へ向けて頭を深く下げる。
ここまでは、所謂定型文であり、ここからが俺の本心からの言葉である。
「さて、私はヒーロー科の一般入試を主席で合格したという結果をもって、ここに新入生代表として立たせていただいていますが、それが全てだとは全く思ってありません」
新入生の顔が変わる。何を言ってるのか分からないと疑問を浮かべている人や、そうだそこを代われと言わんばかりに睨んでいる人もいる。
新入生達は色んな顔を浮かべているが、総じて俺の話に少しは興味が出てくれたらしい。
環達から聞いた話だが、雄英高校のヒーロー科を受けたものの落ちてしまい、しかし諦めきれずに雄英高校の他の科に入る人というのは少なくないらしい。
「この中にはヒーロー科の一般入試にて個性の相性が悪く落ちてしまった人もいるでしょう」
例えばだが、あの試験をミッドナイトが受けたとしても良い結果は出さないだろう。特にヴィランポイントに関しては、俺の記録を抜くことは出来ないだろう。
「また、初めからヒーローではなくヒーローを支える者を目指して入学した人もいるでしょう」
これは主に経営科やサポート科の生徒へ向けての言葉だ。
彼らの多くは、高校卒業後にヒーロー事務所の職員やサポートアイテム職人などのヒーローを支える職に付く。
「私がこの場に、新入生代表という立場で立たせていただいているのは、偏に先達のヒーロー達が今の平和な社会を作り上げたからこそ…今の社会がヒーローを中心とした社会だからこそ、ヒーローを目指す卵としてこの場に立たさせていただいてると思っています」
社会はヒーローを中心に作られている。だが、社会はヒーローだけが作っているものじゃない。
「私達新入生は個性も目標も人によって違います。
同じなのは二つ、今日この場で、雄英高校の新入生としてスタート地点に立ち、新しい一歩を踏み出したという事と、先人達が築き上げた今の平和な社会をより良くしていくという気持ちだと思います」
そう、スタート地点に立っただけ。俺はまだ何も成していない。
「これから新入生、在学生と協力し、研鑽し合う事で、それぞれが初心を忘れずに目標へと向かい、オールマイト先生がおっしゃった立派な大人になる為に努力を重ねていきますので、ご指導ご助言をいただきます先生方、どうぞよろしくお願い致します。
以上を持ちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」
挨拶が終わり、頭を下げて壇上から降りながら考える。
拍手は、まぁオールマイトの話に比べたら少ないとは思うが、ある程度は貰えたと思う。
正直なところ、割と当たり障りのない内容しか話していないから、このぐらいの結果だろうと思っていた。
原稿を書いていた時、この場で個性差別の話をしようかとも思ったが、思い止まった。
「差別はやめましょう」なんて綺麗事なら誰でも言えるのだ。それこそヒーローでなくとも。そして、例えオールマイトほどのヒーローがその台詞を言ったとしても差別は無くならないと思う。
根拠は今の日本の現状だ。平和の象徴と呼ばれるオールマイトほどのヒーローがいて、世界一平和な国と言われる日本でもヴィランは現れる。
だが、確実に少なくする事は出来る。
必要なのは何をするのか、それを継続出来るのかだ。
オールマイトが平和の象徴と呼ばれる様になったのは、平和を脅かす凶悪なヴィラン達を倒し、捕らえる事を何十年と続けてきたからだ。
俺がする事も同じ。変身薬を使い社会に貢献し、社会からの信用を得て、それを維持する。
だから、新入生代表なんて言う、難関ではあるが一試験の結果で得ただけの肩書きしかない状態で「個性差別反対」と叫ぶことはしなかった。
それをする時は、俺が立派な大人になった後のことだ。
しかし、壇上から見て気になったのは、一年A組の奴らが一体どこにいたのかということだった。
あの後、入学式はつつがなく終わった。
入学式が終わった俺達は一年B組の教室に戻り、ブラドキング先生主導でクラスメイト全員が自己紹介を行った後、雄英高校の授業のカリキュラムなどの基本的な説明を受けた。
そして今、放課後になっていた。
ブラドキング先生からは解散の指示が出ていたが、教室にはまだ多くのクラスメイトが残っていた。
俺もまた、家がもの凄く近いという事もあり、クラスメイト達との交流に精を出していた。
その中での話題の種として、主席である俺の話がされていた。
「しっかし、アンタの名前が呼ばれた時はビックリしたよ」
「そうだよね。近くで急に立ち上がられたから凄くびっくりしたよ」
取蔭さんと柳さんからそう話しかけられた。
「悪かったよ。驚かせる気は無かったんだけど」
驚かせた事に対してとりあえず謝っておいた。
「そうだねぇ…悪いと思うならさぁ、君の個性を教えてくれないかい?興味あるなぁ、主席殿の個性ってやつ」
二人を驚かせた事に対して謝った俺に物間が嫌味な言い方で聞いてきたので、ブラドキング先生から聞かされていた話、元々は【薬品開発】だったが作った変身薬の副作用で【変身】の個性に変質してしまった、というカバーストーリーを話した。
「変身薬ってスゲーもん作ってるな」
「個性が変質とかって…そんな事聞いたことないよ…やばぁ」
「ふぅん…変質ねぇ?」
取蔭さんと柳さんは純粋に驚き、物間は何やら訝しんでいる様子であった。
物間は多少怪しんでいるが深く事情を聞かれる前に、すぐ近くにいた男子が大きな声で会話に割り込んで来た。
「お前スゲェ奴なんだな!」
そう言って割り込んで来たのは灰色の髪のがっしりした体格の
急に割り込んだ事を微塵も悪いと考えていないのか、ズカズカと言いたい事を言ってくる。
「個性が変質しちまうぐらいスゲェ薬を作ったってことだろ!マジでスゲェなお前!」
「うん、ありがとう」
これだけ無邪気に褒められて悪い気になる人はいないだろう。鉄晢の裏表の無さそうな人の良さがそうさせていた。
だから、俺も素直にお礼が言えた。
鉄晢の明るい雰囲気のお陰なのか、初日からB組の仲は深まっていった。
このクラスなら上手くやっていけそうな予感が、俺の中には芽生えていた。
前書きで書いた様に、マルス君がB組に決まったメタ的な理由を書いときます。
一つ目は、B組の方が書く内容の自由度が上がりそうだと思ったからです。B組は一部の人間(物間とか)以外の原作での登場シーンがかなり少ないです。自分自身、書いてる時に結構行き当たりばったりで書いているので、突発的に「こういうの書きたい」ってなった時にB組の方が書きやすいと思いました。
二つ目は、作中で書いた通り、薬師寺マルスの担任としてイレイザーよりブラドの方が適任そうだなと思ったからです。
また、B組に薬師寺君が入った影響で黒色支配君が雄英高校から不在になりました。彼が選ばれた理由として、B組の個性の中で一番一般入試と相性が悪そうな個性だと思ったので彼を選びました。
黒色君ファンの方には申し訳ありません。