「ブヒイイイィィィ!!!!」
診察室に患者の薄汚い豚のような声が響き渡る。
「はぁ、はぁ…なんだか、気分が良くなった気がします!」
「フフっ、良かったわ」
「気分を晴らしたくなったらまたいらっしゃい」
患者がこちらに一礼し診察室を去った。しばらく自分の担当の患者が来ないことをリストで確認し、白衣のポケットからセブンスターのタバコを取り出す。
カチッ
「フゥー…」
私は 三上 恭子◾︎歳。田舎の町で個人病院を経営している。一応心療内科だが、それは表向きの顔にすぎない。実際は被虐嗜好の人、所謂"ドM"と呼ばれる人達の治療をしている。患者一人一人の要望に応え、鞭で相手を打ったり、ヒールを履き相手の頭をグリグリしたり。私、やってる時は楽しそうにしてるけど。正直言うと、どいつもこいつも気持ちが悪い。どうしてそんな事をして欲しいのかまるで理解できない。
「ホント、馬鹿みたい」
ま、ストレスの発散になるし丁度いいのだけど。そもそもごく普通の心療内科のはずだったのにどうしてこんなことになったのかしら。今では巷で、『入ったら変な注射を打たれておかしくなる病院』だなんて噂されるヤバい場所になってるなんて、誰が予想できたかしらね。ネットでウチの病院の評判とか見てても酷いものばかり。どうせ私も変な人だって思われてるのよ。もうサイアク。
「三上先生、患者様がお越しです」
「はいはい」
「…要望は?」
「はい─」
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「あっひょーん!そこそこ!あぁっ!」
ベチ、ベチ、ベチ、ベチ、ベチ
「お、お、おおおおおおん!」
ベチ、ベチ、ベチ、ベチ、ベチ、ベチ、ベチ
「ひゃああああああああん!!!」
「はぁはぁはぁはぁ…すっきりしたぁ⤴︎︎︎⤴︎︎⤴︎︎︎」
「いやぁ、せんせのお陰で元気出てきましたァ」
「ふふ、喜んでもらえたみたいでよかった」
「またぶたれたくなったら来なさい」
「ありがとうございましたっ!」
患者がこちらに一礼し、診察室を去る、やっと。
「…」
「……」
「わたし、なんでこんなことしてるんだろう」
患者を鞭でしばいて、しばいて、喜んでもらって、お金もらって。ヒールで踏みにじって、喜んでもらって、お金もらって。被虐嗜好者の喜ぶことをして、お金もらっ、もらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもらもら
「あ、ああああああああああああ!」
ガシャガシャガシャ、バキッ、ドドド…
「…」
「……」
「ははは、"私"ってなんだろうね」
「こんなこと仕事にして、生活して、私…どうかしてるわよ!」
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「三上先生ー、患者様がいらっしゃいましたよー」
「…要望は」
どうせまた気持ち悪いこと要望してくるんだ、私に痛めつけられて気持ちよくなりたいような、吐き気のするような人間が来たんでしょうね。それでまた私はお金を得る。それが私の仕事。それが私の…
「特にないそうです」
「…は?」
「患者様に要望を伺ったところ、特にないと仰っていました」
どういうことなの…変な人ね
「…山下太郎さん、どうぞ」
「…失礼します」
山下太郎さん24歳。症状は、仕事に行こうとすると吐き気がし、体が重くなる。鬱病の類だろうか。…それにしても要望がないだなんて、ウチの病院ではホント珍しい。
「えぇ、では山下さん」
「仕事に行こうとすると吐き気や体が重く感じると言った症状が出るということですが、」
「なにか仕事で嫌なことでしたりそういうことはありましたか?」
「…ありました」
「僕はとあるビジネス会社に2年勤めているのですが、ある日突然、」
「僕ってなんだろう、なんでこんなことしてるんだろう」
「そう思うようになって、その日を境に仕事に行こうと支度し始める度にそのような症状が出始めてきました」
そうか、この人も…
「私と、同じ…(ボソッ」
「え?」
「あ…すみませんなんでもないです」
「診察を続けますね」
その後も山下さんの話を聞いていたけど、どうやら私と同じように裏表がある会社で勤めてて自分を見失ったというか、このままじゃいけないような気がするような、そんな症状があるみたい。
「…診察してくださっているのが先生で、ホント、良かったです」
「いやいや、いいのよ」
私としても久々なまともな仕事ができて少し嬉しいような気がする。
「…先生、」
「…?どうしたの?」
「一緒に逃げませんか?」
「…は?」
「僕と一緒に、こんな変な社会から」
「逃げちゃいませんか?」
そう言って彼はニヘっと笑った。それが私と彼の、逃避行の始まり。私たちの、自分探しの旅の幕開け。
今回はお試し的な意味も込めてかなり短めの話となっております。正直こんな小説書いちゃって大丈夫かなと心配で…批判等が多ければこちらは削除させていただきます。特になければ続き書くかもです。