神笛と永遠と   作:坂野

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4話
4-1


 今後のコロニーラムダがどうなるかといった不安をノア達も同じく抱いていた。しかしこの数日で彼らはイスルギの指示のもと、キャッスルからの支援がない中で生きていく術を模索し始めていた。

 自分達の介入はもう必要ない。彼らは大丈夫だ。

 イスルギに出発の挨拶をと顔を出すと、彼は笑顔で送り出してくれた。タイオンの表情も晴れやかで、二人が知らずに生み出してしまった溝はもう埋まったようだ。

 別れの際にイスルギはタイオンにコロニーラムダ周辺の地形情報も渡してくれた。ラムダの兵士達が調査した細かく正確な情報は何より頼りになる。

 

 ラムダを後にし、まず次に目指すのはモルクナ大森林だ。かつてラムダに所属し、先ほど地形情報も手に入れたタイオンを先頭に上を目指していく。

 南から上へ伸びる坂がある。そこからぐるりと回るようにして一段上へ。モランの橋からはコンティ大瀑布が一望できる。なかなか圧巻の景色だ。

 途中、インヴィディア坑道へ繋がるマイムの門へは向かわずに通り過ぎる。ラムダにとっての坑道への入り口はここなのだろう。

 道中何度かモンスターと交戦し、ノア達はインタリンクも駆使して倒していく。トワはラムダの鉄巨神戦の時のように、また彼らの声が響いてくるのではないかと身構えたが何も起こらなかった。驚くほど、全く。

 単なるインタリンクの余波かと考えたが違うらしい。それによく考えたらヨランが現れた時はインタリンクの最中でも直後でも無かった。何を条件として彼らの感情や記憶、声が流れ込んできたのか分からない。これも彼らのウロボロスの力なのか、それともまた別の能力なのか。

 トワは一人考えたが、ランツやセナはインタリンクが長引くと聞こえてくる音を気にしていた。警告音のようにピーピーと響いてくるのだという。また長引くと身体が赤くなり強い熱を持ち出すのも一種の警告だと彼らは考えている。その警告を無視したらどうなってしまうのか。碌なことにはならないのは確かだろう。

 

 ちょうどコロニーラムダの真上にあたる第二の滝を泳いでいく。大瀑布の水は透明度が非常に高く、泳ぎながらでも底の岩まではっきりと見える。水の底だけでなく光を受けて青緑色に輝く水面も眩しい。

 休みつつ第二の滝を横切り、巨神獣岩にてその日のキャンプを張る。大瀑布の水は確かに気持ちよかったが、浸かりすぎたのか寒さも確かにあった。焚き火の温かさが身に沁みる。

 

 その翌朝。テントの片付けはタイオンが当番だったが、彼は少し離れた場所で何かを見ている。

「俺とミオが片付けておくよ。トワはタイミングを見計らってタイオンを呼んできてくれるか?」

 ノアの頼みを断るはずもない。頷き、タイオンの元へと向かう。 

 何か考え事をしているのなら、声をかけない方が良いだろうか。ゆっくりと近づき彼を見ると、手元の懐中時計を穏やかそうな瞳で見つめていた。

「……ん? トワか、何かあったのか?」

「ううん。邪魔しちゃったかな、ごめん」

「いや気にしなくていい」

 タイオンは再び懐中時計へと視線を落とした。ナミを想っているのだろう横顔に対して、戻ろうとはさすがに言えない。もう少しだけ黙って待つことにする。

「少し、考えていたんだ」

 沈黙を破ったのはタイオンだった。

 イスルギからナミの懐中時計を託されたのは、想いを繋いだと言えるのだろうか。ナミが紡いできた想いをイスルギ、タイオンへ懐中時計の形で受け継いでいく。そしてその想いを命と言い換えるのであれば、ナミは今もこれを通して生きている。

「君がラムダで聞かせてくれた演奏はとても見事だった。不思議とナミさんの笑顔を思い出したよ。……ありがとう」

 思いがけぬ感謝の言葉にトワの頬が染まる。嬉しく、少しくすぐったい。

「え、あ、う、嬉しい……。ボクこそ、ありがとう……」

「僕だけじゃない。イスルギ軍務長も救われたと言っていた。本人の気の持ちようなのかもしれないが、君の演奏が後押ししたのは事実だろう。

 君があの時生きたいと、僕らについてくる選択をしてくれて良かった」

 渓谷でトワに対して戦闘では役に立てないと厳しくも正しい事実を突きつけてきたタイオンが、あまりにも心の柔らかい部分を包むような言葉をくれた。こんな自分に対して、いてくれて良かったと。

 これでは救われたのがどちらか分からない。

 その礼としておくりびととして命や想いに向き合い続けなければと強く感じた。何故自分がおくるのか、それは誰の為なのか、何のためにおくるのか。問われた時に迷いなく答えられるように。

「あ、ノアとミオさんがテント片付けてくれてたよ」

「それを先に言ってくれ! 二人に礼を言わなければ。戻るぞ!」

 慌てて戻る彼の背中を追いかける。そんな姿を見せてくれるようにもなったのだと、また嬉しくなった。

 

 キャンプ地でちょうど大瀑布の中間あたりだ。モルクナ大森林へはまだかかる。更に上を目指すが、意外と道が複雑で足場も悪い。登るだけでそこそこ体力を消耗してしまう。それでもタイオンのおかげで最短ルートを効率良く進めている。イスルギからの情報提供がなければ、手探りで進むことになり時間も体力もこれ以上に必要だっただろう。改めて感謝だ。

 第一の滝まで辿り着き、そこからは南へ伸びる岩道へ。景色も少しずつ暗い色が増えてくる。鉄とガラスで出来た塔だろうか、遺跡のようなものもある。寂れていて胸が少し切なくなる。

 

 滝を抜け岩道へ入る。崖になった部分からはケヴェスキャッスルが一望できる。その左手には目的地である大剣も見える。

 流石にこのままキャッスルへは進めない。警備も厳しいし、無用な争いは避けたい。途中の坂を下り森林から大剣の大地へと進むルートしかないだろう。

 森林へ向け歩き出したその直後、どこか遠くに巨大な何かが落ちたような音と衝撃。一瞬視界が白むほどの黄色く強い光に全員が身を強張らせた。雷かと錯覚するが、光も音もその比ではない。決して良い兆候ではないのは肌からも伝わってくる。

 

 警戒をしつつ大森林へ入っていく。 

「ここら辺、苔で滑るから気をつけうおぉあ!」

 ランツが盛大に滑る。それに笑いが起きるも、ノアは心ここに在らずのようだった。しかもその直後、歩いていたミオが急に倒れかける。彼女はランツのように滑ってしまっただけだと言うが、明らかに身体の力が一瞬抜けた。彼女の残された時間は二ヶ月程しかない。それによる影響なのかもしれなかった。

 旅の中で起こる笑えるアクシデントが、少しずつ笑えなくなる。

 断崖の古道で休息を取る。ランツとセナは筋トレ、ユーニとタイオンはお茶を飲みながら談笑、トワは笛の練習、ノアとミオはそれぞれ自分の手元を見ていた。

 いつもの光景だ。なのに、どれだけ長くてもあと二ヶ月もしたらここからミオの姿はなくなる。

 トワは頭を振った。自分から重たいことを考えていては駄目だ。今は二ヶ月の間に何としてもシティーへと辿り着くことを考えなければ。

 

 ノアはさっきの黄色い光が自分達に関係のある事象、メビウスの手によるものではないかと考えていた。それは自分達がメビウスに狙われていることと、執政官にも通ずるものがあるのではないか。

 光は恐らくキャッスル方面から放たれた。ケヴェスとアグヌスの執政官の姿がよく似ていること、執政官がメビウスへと姿を変えたこと。

「私達はもしかしたら、メビウスの意思で戦わされているのかもしれないってことだよね」

 ミオの推論にノアも頷く。ウロボロスは火時計を解放してその戦いの邪魔をする。だから狙われるのではないか。

 しかしタイオンはまだ不明確な点があるという。そもそもとしてアグヌスとケヴェスを戦わせている理由とは何か。自分たちはただ言われるがままに戦い、明日の命を繋ぐ為にそうしてきただけだ。

 ノア曰くその根本的な部分を確かめるのが、ゲルニカの言ったシティーを目指せという言葉の意味だったのではないだろうか。行けば分かるだろうか。違う、分かると信じるしかない。

 

 人が武器を持ち人を殺す。命を奪い取る。それに何の意味があるのだろうか。火時計を解放すれば「生きる為」ではなくなる。

 それのどこがいけないのだろうか。手を取り合い、争い以外の道を選んだって良いじゃないか。

 コロニー4で戦ったメビウスは命を奪い取って笑っていた。笑っているということは、あいつは楽しんでいた。楽しいから争わせているとでもいうのか。そんなの悪趣味でしかない。

 止められるのなら、この争いを止めたい。吹けば飛ぶ程に軽い命なんて、あっていいはずがない。

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