神笛と永遠と   作:坂野

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 翌朝の朝食も豪華だった。残ったハインドの肉を使ったスープは寝起きの腹でも抵抗無く流し込めた。

 朝食後の後片付けをしている時にミオが突如として武器(ブレイド)を抜いた。誰かが近づいてくる。敵かと全員が警戒するが、葉の陰から現れたのはコロニー4の副官——ボレアリスだった。不適な笑みを浮かべるボレアリスだが、軍服は土と泥で汚れ切り息も絶え絶えだ。左脚も引き摺りながら歩いている。

「まずは座れ! ほら、ラウンドヒーリングすっから!」

 兎に角手当てだ。急ぎユーニの回復アーツで応急処置をする。幸い深い傷ではなく、ボレアリスの表情もすぐに和らいでいく。

 ボレアリスは確かエセルと共にケヴェスキャッスルへ行った筈だ。なのに何故こんな所にいるのか。

「行ったさ。女王にまで会ってきたよ、その結果がこれさ」

 

 ボレアリスはゆっくりと語りだす。

 キャッスルは殲滅兵器(アナイアレイター)という新兵器を開発した。消滅現象を利用した物で射程は無限に等しく、敵がアイオニオンのどこにいようとも確実に消し去れる兵器だ。

 

 それの照準がコロニー4へ向けられた。ウロボロスと接触し、命の火時計から解放された者たちはもう必要ない。

 この世界においての理は戦わざる者生きるべからず。だから戦わない者達はケヴェスにとって、女王にとって不必要だ。

 しかしそれでは余りにも慈悲がない。女王と執政官長が提案したのはウロボロスたちの抹殺。それを果たせればコロニー4に手出しはしない。しかもエセル一人に任せるのではなく、アグヌスのあの紅蓮のカムナビまでもがケヴェスキャッスルに招集された。彼と共にウロボロスを抹殺しろと命令された。

「あとな黄金色の執政官はこうも言った。『ウロボロスと神奏(・・)を抹殺しろ』ってな」

 全員が息を呑んだ。

 今まではインタリンクしウロボロス体になれるノアとミオ、ユーニとタイオン、ランツとセナの六人が互いのキャッスルにとって明確な敵だった。しかしそこにトワが加わった。

 二人には新たな鉄巨神が与えられた。すぐに出撃するのではなく調整に今しばらくかかる。しかし必ずエセルたちはウロボロスの前に現れ、抹殺しにやって来る。

 

 耳を疑いたくなるような話だ。ノアも思わず本当なのかと聞き返した。それでもボレアリスは頷く。だから知らせに来たんだ、と。

 それと同時にボレアリスにキャッスルから脱出し、コロニー4へと戻るよう指示したのはエセルだ。隙を見て入手したキャッスルの図面と殲滅兵器の構造図を彼に託して。

 そしてエセルはノアたちへの伝言もボレアリスに渡していた。

「私は"本気"だ。そしてこの件に一切関わる事なくシティーを目指せ(本懐を遂げろ)

 矛盾している。しかしエセルとはそういう人間なのだとボレアリスが笑った。

 

「ま、伝えたけどよ、お前らは本来の目的を果たせ」

 ボレアリスだって合点がいかないのだ。どうしてエセルがノアたちを殺さねばならない? 何故敵であるカムナビがケヴェスのキャッスルにいる? ウロボロス体になれないトワまで狙われる理由は?

 だからこそコロニー4へと戻る。彼とエセルの大切な仲間を守る為に。

「いいか、お前らはすぐにこのエリアを抜けろ。調整までの時間があれば……」

「聞いてしまった以上、それは無理だな」

 ノアがボレアリスの発言に割り込んだ。ミオもノアに同意した。

 この間見たあの光、インヴィディア山脈の一部を消し飛ばした光が殲滅兵器による攻撃の可能性が高い。もしも自分たちが目的を達成できたとしても、エセルがウロボロスの抹殺を果たせずコロニー4の皆が犠牲になってしまったらどうするのか。命の犠牲を踏み台にして目的を掴み取っても、そんな物に価値など無い。

「そんな命、哀しすぎるよ」

 ミオはきっとミヤビを思い出している。彼女の命はミヤビの犠牲でここに在る。昨晩それを聞いたトワも彼女の気持ちが痛いくらいに分かる。またあんな想いなんてしたくないに決まっている。

 コロニー4の火時計を破壊したのは自分たちなのだから、今回の一件には自分たちにも責任がある。だから殲滅兵器を破壊する。ミオも、他の皆もそれに同意した。

 

 ボレアリスはキャッスルの図面を瞳を通して共有し、そのままコロニー4へと戻っていった。

「さて潜入しなければならないが、相手はキャッスルだ。他のコロニーとは訳が違う。近づけば攻撃される可能性が高いが、どう進む? ケヴェスキャッスル周辺は黒い霧が多いとはいえ……」

 タイオンの疑問は最もだ。ノアは慎重に行動すればなんとかなると言うが、あまりにもざっくりしすぎている。

「そういやノアって毎年おくりびとの研修でキャッスル行ってたな。この中じゃ詳しいか」

「ランツ、お前何言ってんだよ! この中で一番キャッスルに詳しいのがいるだろうが!」

 ユーニが右の人差し指を向けた。真っ直ぐ、トワに。

「……あー! そうだ、トワってキャッスル所属だったな!」

「うん……。ボクも最近は自覚なかったけど」

 予想よりも細かく潜入と破壊計画が練られそうだと、タイオンが少し安心した様子で眼鏡のブリッジを軽く押し上げた。

 

 ノアはキャッスルの裏手の湖畔から物資の搬入に紛れて潜入できないかと提案したが、トワはそれを否定した。難しいからではない。

 もっと確実な方法がある。

「まさか秘密の通路があるとか?」

「セナ、当たり」

「本当!?」

 ケヴェスキャッスルには緊急脱出用の通路がある。ドアの開閉も手動で行われる為、キャッスルで管理する情報に一切の履歴が残らない。万が一キャッスルが落とされそうになった時に女王を逃す為のものだ。

 存在を知っているのは女王と極一部の執政官、そしてトワだけだ。強い権力を持つ者が把握しているのは納得できるが、トワがどうしてそんな極秘の通路を知っているのか。

「割と単純な話だよ。ボクは戦えないからこれが無いと万が一の時に死ぬからね。成人の儀奏者を死なす訳にはいかないって理由じゃないかな、建前は」

 もう一つはそんな無力な者が裏切ったところで大した脅威では無いという点だ。無力であるが故にキャッスルから逃げ出したところで行く先はない。敵に情報を売ろうにもその前に衛兵に見つかり殺される方が早いだろう。

 

 次に潜入出来たとして中にいる兵士たちをどうするかだ。黒い霧で索敵範囲が十五メテリ程度に狭まるとはいえ、瞳を使わず肉眼で確認されたら元も子もない。

 しかし緊急脱出用の通路の一つはある場所に直接繋がっている。兵員待機用区画内にあるトワの自室だ。そのすぐ近くには整備用のハッチがありそこから出れば殲滅兵器基部はすぐそこだ。

「はぇ〜専用の部屋あるとかやっぱり神奏って待遇良いんだな。羨ましいなこいつ〜」

「もうユーニ、揶揄わないでよ。それにボクの持ってる予定から変更がなければ、この時期はキャッスルとコロニー11で大きな合同演習があるんだ」

 キャッスル周囲にいるほとんどの兵士がオービルブス要塞に集結し、アグヌスの攻撃を想定して数日間に渡り演習を行う。実質強固な守りが出来上がる為、キャッスル内から兵士がいなくなっても問題がない。そして今はそれが潜入の追い風になっている。

 

 当然注意点もある。トワが通路を把握しているのは女王や上層部には知られている為、通路に待ち伏せされる可能性はどうしても生まれてしまう。兵士が配備されないのを祈るしかない。

 更にトワがキャッスルから姿を消して一ヶ月が経ったことに加え、今回ウロボロスと共に抹殺対象になっている。故にトワの部屋は別の誰かに使用されている可能性がある。

「それか物置にされてるかな……。出る時は人の気配がないか確認してからだね」

 

 作戦を纏める。カゼオイの崖道付近に通路の入り口がある。そこから通路を伝いキャッスルに潜入し、トワの部屋へと出る。そこから殲滅兵器基部へ向かいこれを破壊。

 逃げる際は水路を使いキャッスルの東側、大剣側へと逃げられる。ケヴェスでは成人の儀の後、おくられていた者が身につけていた物を水に乗せて流す流水の儀がある。その時に使用される水路はキャッスルの外の湖まで繋がっている。殲滅兵器の脇にあるハッチを開けて水路の流れに乗り外に出られれば、キャッスル内で兵士や執政官に見つかっても逃げられる可能性は充分にある。

「トワ、僕から頼みがある」

 タイオンが手を挙げた。

「殲滅兵器基部を破壊する際、君には部屋に残ってもらいたい。君を守るリクとマナナもだ」

 いてもいなくても戦力にはならないのは今更だが、今回はトワの身を守る意味合いがある。破壊した際に大きな爆発が起きた場合、六人はウロボロス体となり衝撃を防げるがトワ及びリクとマナナはそれが出来ない。

「無事に破壊できたら僕らから迎えに行こう。本人確認として扉の隙間からモンドを送るから、それまで鍵を閉めて待っていてほしい。黒い霧は索敵されにくい利点はあるが瞳による通信が出来ないからな」

「大丈夫。変に一緒に行って足引っ張っちゃったらボクも嫌だし」

「助かるよ。……何より情報の提供には本当に感謝している。誰の命も落とさずに脱出まで完遂することが、作戦を立てる僕の義務だ」

 

 次に目指すは、ケヴェスキャッスルだ。

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