「とんだ役立たずだったわね」
「本当なんだな。命の火も勿体無いんだな、オイラ達で回収して有効活用してやるんだな」
ピーとオーが手を
役立たずと言い放ち、自分達で命を散らさせておきながら勿体無いと文句を垂れる。更に有効活用してやると上から物を言う態度まで。労いの言葉も無ければ、そんな感情を抱いてすらいない事に
命をどこまで冒涜すれば気が済むのか。そんな奴等に二人の命など何一つ渡したくない。今度こそとトワが旋律を奏でようとする。
「だから、困るって言ってるでしょ」
「させないんだな」
紫の光が見えたかと思った瞬間にはもう目の前にピーとオーが現れていた。更にその場で執政官の姿からメビウスとしての戦闘形態へと変化する。
リクとマナナが武器を構えてくれているが、流石にメビウス二人では無理だ。それをリクとマナナも痛いくらい理解しているのだろう。武器を持つ手が小刻みに震えている。
——殺される。
逃げなきゃ。リクとマナナを抱えて逃げないと。逃げられるわけない。背を見せたらその瞬間に心臓を撃たれて終わりだ。でも、このまま動かずにいても、どうせ、殺されて。それなら最期の一瞬まで足掻いた方が。怖い、怖い怖い、死にたくない、こんなところで終わりたくない。
脚も竦んで動かない。
オーの巨大な両手がリクとマナナに伸びる。ピーが爪をトワに向かって振り上げる。恐怖が許容量を超えると目を瞑ることも出来なくなるのか。何も出来ない。死を目の前にして、こんなのって。
誰か。
——助けて!
「させっかよ!!」
「トワちゃん達から離れろ!!」
頭上にウロボロス・ユーニとウロボロス・セナが飛び出してきた。ウロボロス・ユーニが宙でインタリンクを解除し、ユーニの射撃とタイオンのモンドがピーへと同時に襲いかかる。ウロボロス・セナは落下の勢いそのままにハンマーをオーの脳天に振り下ろした。メビウス達に攻撃が当たる直前、横からウロボロス・ミオが左手にトワを、右手にリクとマナナを抱え上げて一気にピーとオーから引き離す。
「ミオさんっ!?」
「無事!?」
「はい! でもエセルさんとカムナビさんの粒子が……!」
見ればオーとピーの体内に赤い粒子が吸い込まれていく。結局エセルとカムナビの命はメビウス側に渡ってしまった。
「分かってる」
短い言葉だったがミオの怒りが滲み出ていた。ウロボロス体の声はインタリンクする者同士の声が重なったように響いてくる。ミオもそうだが、融合しているノアの想いも合わさり伝わってくる。激しい怒りが二人の中に渦巻いている。
それは皆もきっと同じだ。
ミオの元へセナやユーニたちも合流し、全員がインタリンクを解除した状態でメビウスを見据える。攻撃を受けたメビウスはダメージこそ負ってはいるが、流石の耐久力でまだまだ余裕が見える。
「随分と使いこなしてるみたいなんだな、インタリンク」
「そのインタリンク、自分達だけのものって思ってるでしょ。うっふふ、ざぁんねんでした」
——私達もできるの。
メビウス二人の体が光となり解ける。メビウスのコアと同じ紫をした電撃が走り、ピーとオーの個々の身体より二回りの大きさはある新たな姿のメビウスが生まれる
細身の脚部と
「げっ、気持ち悪……」
正直なところユーニの感想の通りだった。
オーは自分達メビウスの形がインタリンク真の姿だと宣言するが、あまりにもアンバランスなそれはウロボロスとはかけ離れている。人の好みと言えばそれまでかもしれないが、ウロボロスの方が美しく見える。
「半端者のあなた達とは違って完璧な姿よ。"二つの世界が一つになった"姿だもの」
インタリンクして確実に勝てると確信しているのか、ピーもオーも饒舌に語り続ける。役立たずのエセルとカムナビなど最初から頼る必要もなかった。どうせ自分達がウロボロスを処分する事になるのだし、いくら実力のある者と言えど所詮は兵士に過ぎない。メビウスが手を下す方が間違いがない。
「ま、オイラ達の糧にはなったから全くの役立たずではないんだな」
まるで命の粒子を取り込んでやった事に感謝しろと言いたげだ。
「完璧な私達に戦慄なさい。そして悶え苦しんで死——」
ピーの声が途中で不自然に途切れる。思わず自分の耳がおかしくなったのかと感じた。
しかし直後に飛び込んできた光景がそれを否定する。軽々しく吹き飛ばされるメビウスの身体。その直前には見る事も叶わぬ程の速さが全て乗ったミオの拳がメビウスの顔面をぶん殴っていた。
驚きが込められたノアの小さな声がミオの名を呼んだ。ノアだけではない。ミオ以外の全員が驚いていた。
「人の命を弄ぶなァァァァッ!!」
初めて聞く声だった。空気が震え、木々までもが怯えたかのように騒めいている。
ミオが怒りの感情のままに心の内をぶちまける。
エセルとカムナビが一体何をした。二人はただ願いを遂げたかっただけなのに。メビウスに牙を向いた訳でもないのに。それは命を奪われる程の罪なのか。そこに勝手な戦いを無理やり持ち込んで使い捨てて、それなのに役立たずと存在を踏み躙って、死後の命の火すらも奪い取って。
「二人は——私達の命は、お前達の遊び道具じゃない!!」
「……あんた、何言ってんの?」
メビウスがゆっくりと起き上がる。土を落としつつ、関節の動作を確認して酷く面倒臭そうにこちらを見てくる。
「命令を無視したのはあの二人よ? 考えてごらんなさい。軍において命令を遂行出来ない兵士は、役立たず以外の何になるのかしら」
ウロボロス抹殺の命令を放棄して二人だけの戦いを始めた。違反を起こした者には罰を与えて然るべきだ。戦いを止めなければ命を奪い取ると警告までしたのに続けたのだから、エセルとカムナビは明確にキャッスルへ反抗したのと同義になる。
「ウロボロスの抹殺を果たせなければコロニー4を消滅させるとまで言ってあったんだな。仲間も自分の命も捨ててやりたい事を勝手にやるのは、どうぞ殺してくださいって言ってるのと同じなんだな! 大馬鹿なんだな!!」
ピーとオーの汚い笑いがこだまする。ミオは歯を食い縛り眉間に深いシワを刻んでいるが押し黙ってしまった。
悔しいが兵士として命令を受けた時点では、エセルとカムナビはキャッスルに反抗するまでに至っていなかった。その立場を踏まえるのであればメビウスの方が正論だ。
でも分かる。間違っているのは絶対にメビウスだ。
「……お前達は二人の想いに一度でも向き合った?」
トワがミオの左隣に並ぶ。
生きてきた中で、こんなに
「今まで仲間の為に、キャッスルの為に戦ってきた二人への敬意は!? 二人が本当に望んでいたものを考えた事は!? それを考えないで役立たずだって? 大馬鹿なのはお前達じゃないか!!」
だから必死に叫ぶしかない。己の無力さへの苛立ちも含めて、今目の前にいるメビウスを絶対に許してはいけない想いをぶつけるしかできない。
軍の兵士だとして扱うのなら、兵士から信頼を得るだけの労力は割いたのか。上に立つ者として戦場で必死に戦って、生き抜く人の目線に立った事はあったのか。
エセルとカムナビに対して何も考えなかった。強大な力を持つメビウスであると踏ん反り返ったまま、メビウスが絶対だという思考を変えなかった。一人一人が生きていて、それぞれの意志を持つ事実を思考から抜いた。代用品が溢れかえる駒の一つに過ぎないから指の一本で飛ばしても良いのだと、嘲り笑いながら握り潰してもいい存在だと思い続けた。
こいつらは紛れもなくアクヤクだ。悪い奴らだ。
命を"物"として見ている。命として扱わないから人を人とすら感じていない。ミオの言った通りだ。命は遊び道具ではない。
「"物"なんかじゃない、"命"なんだ!!」
「よく言ったぜ、トワ」
ユーニがトワの左肩に手を置く。その手を離して軽く肩を回しガンロッドをメビウスへと向ける。
「まだ後ろの顔殴ってねえからなぁ。トワの分も殴ってくるよ、どれくらいやる?」
「——原型が無くなるくらい」
「いいな、アタシも同じだ! グッチャグチャにしてやるよ!!」
セナも大彗槌を抜き前へと歩み出る。地を揺らすほどに強く叩きつけられた衝撃が彼女の怒りを物語っている。
「あんた達が本当は何者なのか、悔しいけど今の私達には分からない。だけど、一個だけ分かる。
あんた達、すっごくムカつく奴らだ」
感情を表立たせたくないが今は別だとタイオンが術札・主水を顕現させると共にモンドを解放する。身体の周囲のモンドもタイオンの感情が乗せられたかのように強く飛び回っている。
力強く、シールドブレードが地に突き立つ。無茶も無理もしてでも今から自分はメビウスをぶん殴るから絶対に止めるなと、ランツがノアに先手を打った。
そしてノアもそれを止めたりしない。現れたヒドゥンソードの刃が常より大きく振動している。きっと中心の魔剣が声ではない叫びを上げている。
この怒りが、想いが半端な訳がない。消えていったエセルとカムナビの命に懸けて目の前にいるメビウスを許さない。
こいつらだけは絶対に斃してやる。